川底を流れる小石のように。  〜番外編〜  海老蔵への道!
もくじを見てみるひとつ前現在に近づいてプチ画像日記


2003年12月16日(火) 通しで一日。

 今日は一日中、朝から晩まで歌舞伎座。
 昼の部と夜の部では演目が違うので、
 全部観ようと思ったら、朝の十時に家を出て、夜の十時に帰宅となる。
 あの古びた、不思議な空気の漂う歌舞伎座の中にずうっといると、
 魔法でもかけられたように、時間の感覚がゆがんでしまう。
 それがまた心地よい。

 昼の部は一階の二等席。

 「舞妓の花宴」
 三味線八丁、長唄八枚の豪華な舞台。
 長唄っていいもんだなあ〜とつくづく思う。
 びしっと姿勢を正した裃姿の男性が、それはそれは美しい声で唄うのだ。
 うっとり聞き惚れて、ウォーミングアップ終了。

 「実盛物語」
 先日の三階からは見られなかったアレコレを、今日はきっと見せていただくぜ!と気合充分。

 人気の演目だけに、このお話ってよく出来てるなあと思う。
 しどころいっぱい、見せ所いっぱいで、楽しめる。
 けれどその分、実盛役の役者の持ち味も、ニンも魅力も、足りないところまでも、
 ダイレクトに舞台に表れる気がする。

 「生締めものは初めて」と新がインタビューに答えてるのをみて、
 ナマジメモノって何??と思ったのだが、
 生締めのかつらは、時代物の、分別も情けもある武士の役に用いられるそうで、
 新にとって、1つ階段を上ることになる役なのだなあとしみじみ。

 そうしてたっぷり、思う存分、実盛を観て、
 実盛にぞっこん惚れてしまった。
 実盛が実在の武将だと知り、その気持ちはますます強くなる。
 これは新之助に惚れ惚れするのとは、またちょっと違う。
 もちろん他でもない新が演じたからこその、あの清潔感や爽やかさ、そして色気ではあるのだろうが、
 それだけではない気がする。
 あの乱世に、男としてああいう生き方をした実盛を、かっこいいと思った。
 
 渡辺保「歌舞伎手帳」より
 ドラマとして大きな特徴がある。それは終わりの方で、実盛が何十年後かに北陸篠原の戦場で自分の死を予想するところである。これはきわめて非合理的でバカバカしく思えるが、実はそうではない。浄瑠璃の大きい特色は、歴史の起源を説くというところにあるので、実盛が予言者なのではなくて、ドラマの中で時間が逆行するのである。事実名優の舞台、名人の浄瑠璃では、その瞬間、歴史の時間の一筋の流れ、その流れの中にうかぶ人間の一生が、この芸能の中にうかび上がってくる。その意味で、この作品のテーマは「時間(歴史)」だといえるだろう。

 これを帰宅してから読んだのだけど、そうか!これか!と納得する。
 あの時あの瞬間、新之助を通して、実盛の武将としての一生をかいま見た気がして、
 それでこんなに心が離れないのだ。

 今日も昼の部はここで完全燃焼してしまい、
 その後の踊り「道行き旅路の嫁入り」と「西郷と豚姫」は上の空。
 どうしたもんか。
 けど本当にそれくらい実盛は凄かった。

 この日のランチ 宴弁当(12月限定)
 それぞれが程良いお味で、美味しゅうござった。

 夜の部までの間に気分転換しようと銀座まで歩く。
 山野楽器でCDを買い、
 ランチはちょっと豪華だったので、夜の分はエスプレッソとサンドイッチをテイクアウト。
 
  
 夜の部は一階一等席。
 「太十」の佐藤正清は、加藤清正のことだそう。
 「“荒ぶるもの”を意識しながらつとめます」(新談)とのことで、
 おうおう!凄いわい!
 瞬きもしないくらい、力がみなぎってる。
 加藤清正の末裔が酒作りをしているらしく、飲んでみたい気がする。

 「狐狸狐狸ばなし」を近くでみると、やっぱりなんともいえず色っぽいっす。

 一日通しで見ると、役それぞれの、違った顔の新が一気に観られて、
 盛りだくさん。
 そして、この人の華というか、オーラというか、
 出てきただけで空気を振るわせるような力を確認できて、
 とても嬉しい。

 ずっと歌舞伎から離れていたので、
 以前新の舞台をみた時、彼はまだ十代で、
 ヒヨヒヨと声も定まらないような、少年だった記憶しかない。
 白塗りの新や、時代物の新が、思ったよりも良くなかったら、
 これで私の熱も少しは冷めて、お財布も痛くないし、
 それはそれでいいかも、なんて
 ふとどきなことすら考えていた。
 けれど、それは嬉しい方向に裏切られて、
 これからどうなってゆくのか、本当に楽しみな人だと思う。
 まだまだ私も頑張らねば。

 ○○追記○○
 オマケ?のプチ画像日記を作りました。
 
 
 


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