なべて世はこともなし
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2003年10月13日(月) 郵便屋さんの感動エッセイ...を書くのは無理だった

(今日はシャレで作風を変えております。別に自分よりさらに下手なゴーストライターさんに執筆を依頼したわけじゃありません。)


友人宅でお茶を飲んでいたときのことだった。時刻は夕方5時を少しまわった頃だったろうか。ノックの音がした。


すぐに玄関ホールに向かう友人。ダブリンの狭い賃貸物件のこと。玄関と言ってもリビングルームからドア一枚隔てただけでほとんど離れていない。友人がドアを開けるとそこには濃紺の制服を着た郵便局員が立っていた。


彼は30代半ばと言ったところだろうか。制服のくたびれたしわが彼の一日が長かったことを物語っている。少し離れたソファーに座る私ですがすぐに気がついた。彼の左目の下に大きなアザがあることを。


彼は申し訳なさそうに言った。


「郵便事故のため、お客様の郵便の封が開けられてしまいました。申し訳ありません。万が一なくなっているものがありましたらこちらの番号までご連絡ください」


私の友人は言った。


「もしかして、昨日近所にパトカーが来て、郵便局員さんが何か聞かれていたようですが、それと関係があるのですか」


彼は少し照れたように笑うと


「そうです。それは私です。昨日の配達中に強盗に襲われまして、お客様の郵便が盗まれてしまいました。犯人は近所で郵便の封を開けて金目のものを盗んでそれ以外は放置していったようです」


郵便強盗。彼の左目の下にあるアザが昨日できたことは想像に難くない。それでいて彼はそのことには自分から触れずにまずは「申し訳ない」と謝る潔さに私は大いに心打たれたのだった。


…と書けば故・三浦綾子さんふうの感動エッセーで話は終わるのですが、書きながら私は疲れ果ててしまったのでここからフツーどおりに書きます。


で、まあ、こう書けば美談で終わるのですが、まあこの郵便局員さんがこのあと強盗の話を始めて止まらない止まらない。挙げ句には隣の家に配達する某インターネットブックストアの封筒を見せながら


「この封筒にも本2冊入ってたんだよね。1冊盗まれちゃったよ。ハハハ」(訳し方一つで印象ががらっと変わりますね)


で、私も興味があったので聞いてみた。


私:「ねえねえ郵便強盗って割が合うの」


…考えてみるとすごいことを聞くよなあ。自分。


すると彼は別に私のぶしつけな質問に腹を立てるわけでなく


彼:「いやー、たいがいの犯人はヤクをやってるジャンキーだね。彼らは切羽詰まってるから郵便の中に金でも入ってるんじゃないかと期待すんじゃないかなあ。入ってやしないのに」


…私もそう思います。その罪の重さに比例せず郵便強盗は誰がどう考えても割の合わない仕事だと思います。


ただ、私、彼が自分が被害者であるにもかかわらず友人宛ての郵便が開けられたことを素直に謝る姿はいいなあと思いましたよ。確かに友人は被害者ですが同時に配達途中に襲われた郵便局員さんも立派な被害者なわけで。これって日本的に言えば立派な「労災」だよね。


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