なべて世はこともなし
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2002年09月21日(土) ひでかす洪水のチェコを逝く(その7)

ひでかすはヒコーキオタクのみならず、鉄道オタクではないか...そういう疑念がわかずにはおれないその7です。

ひできすがゆく--プラハ途中まで一人旅(7)--




―――さよならプラハ―――

 駅の2階でひできすはカプチーノを、Sはコーヒーフロートを飲む。この駅は古く、ドーム状になったコンコースは2階まで吹き抜けになっていて、その円状になった壁に沿って昔の切符売り場窓口が今も残っている。ここは一見の価値ありなのに写真を撮らなかったのが悔やまれる。


 土産物屋で時間をつぶし、出発20分前にプラットホームへ。ドレスデン、ベルリン経由、ハンブルグ行きの国際特急( Euro City )は今日は国境までしか行かないのに、食堂車付きのフル編成で乗客を待っている。この路線はチェコの列車とドイツの列車が交代で運行していて、僕らの列車はチェコ製のそれ(たしかPorta Bohemica号)。チェコ製の方がドイツ製のよりゆったりしていて、豪華に見える。


ところで、ドイツではいろんな国の列車が入ってくるので面白いですが、ドイツの友人が言うにはクロアチアの列車が一番良いそうです。興味のある方は、ザグレブ発ミュンヘン経由ベルリン行きの国際特急Mimara号というのがそれです。


 プラットホームで乗客と車掌の会話が聞こえてきた。
「…線路が浸水していて、列車は国境の手前のDeci(デッチン)までしか行きません。そこから先はいつ再開するか分かりません。」


ゑえええ?ぞんなあ、話がちが―う。(タイトルに‘さよならプラハ’と書いてしまったぞ。)


 こんな時皆さんはどうしますか?ひできすはもちろんタバコをぷかーっとやって考えます。そしてポケットをまさぐる僕の目の前にはしかし、でかでかとNo Smokingのサインが。悲しい、あんまりだ。イギリスでは最近禁煙の駅が増えました。しかしドイツではどこの駅でも地上なら吸えます(Snigel謹告。それはウソだと思う。たぶん地上でも指定されたエリア以外吸えない。ツッコミ求む)。ドイツで吸えるのならチェコでも同じだろうと思っていました。あ、ちなみにダブリンでは市内バスの中でも吸っている阿呆がいっぱいいますが。


 ひできすが悲しみにむせび泣いている間に、Sはさっき車掌と話していたカップルのところへ行って何やら話し込んでいる。どうやら彼等はドイツ人のようです。Sが戻ってきて言う。


「隣りにとまっているローカル列車で北に向かうと別の国境まで行けるそうよ。どうする?」
列車は5分後に出発。チケットはBad Schandau行きだが、知るか。わし等の知った事じゃない。「よし、乗っちまえ」。


 さよならプラハ、ひできすはまた来る。きっと来る、洪水でない時にまた来るぞ。こう心に誓ったひできすとSを乗せた列車はプラットホームを滑り出した。


 乗った列車は3両編成のTurnov(トゥルノフ)行き。ボロくて恐ろしくのろい列車だが、洪水と関係の無い北部高地を確実に国境に向けて走っていく。検札に来た車掌にチケットについて説明するがいまいちわかってない感じ。隣りにいたチェコ人が親切に翻訳してくれた。すると車掌のおばさんは「ああ、このままでいいですよ」と言って行ってしまった。隣りのチェコ人も肩をすくめるばかり。「ま、いっか。」


 列車はのどかな草原地帯をとことこ走る。交差する踏み切り一つ一つに赤い帽子を被った係員がいて、列車に合図を送っている。こういう景色、たしかポルトガルのローカル線で見たことがある。時々交差する小さめの川も所々であふれている。二時間ほどの旅で列車は終点に到着。ここで国境近くのLiberec(リバレッチ)行きに乗りかえる。


 駅は線路が10本くらいだーっとあるだけで、プラットホームが無い。そのど真ん中に止まった列車から降りた僕らは向こーの方にある駅舎まで線路を何本もまたいで歩いていく。駅舎から列車の方を振りかえる。しかしこれじゃどの列車がどこへ行くのかさっぱり分からないねえ。…と思っていると、あっ、列車から車掌が降りてきてプラハと書かれた黄色い看板を列車の横に置いている。なるほどね、そう言う事ですか。



 ところで次のLiberec行きの列車はすぐ発車するはずなのに姿が見えない。駅員に聞くと、こちらへ来いと言う。駅長室らしきところに案内された僕らに駅員は時刻表を見ながら、「ああ、その列車はこわれました」。


 「こわれたああ?」
こわれたって、壊れちゃったの?


 「壊れた」はドイツ語で「カプート」。駅員は口をすぼめてこの「カプート」を繰り返すので、何かおもちゃを壊してしまった子供のようでかわいかった。いや、そんなこと言っている場合ではない。みんなが時刻表とにらめっこしている間ひできすは、駅の外に出てバスの時刻を調べてみる。Liberec行き、あったあった。…一日一本。うーん、使えん。


 駅舎へ戻るとSが次の列車は30分後に出ると言う。何だ、大騒ぎする事無かった。


 出発まで時間がある。僕はみんなを残してさっき駅前にみつけたスーパーマーケットへ行く。車内で食べる果物と、お土産用のビスケットとウォッカを買って駅へ戻ると列車はもう入線していて、Liberec行きの看板が立っている。この列車はドイツ国境近くへ向けて山をぐんぐん登っていく。


 僕はひと寝入りしたようだ。目がさめると列車は終点の駅に入ろうとしていた。Liberec駅は大きい。ちゃんとプラットホームもあり、線路をまたいで歩くこともない。街も大きく、駅前には路面電車が走っている。ちょっとした観光地という感じ。冬はスキーリゾートにでもなるのだろう。ここでホットドッグとチェコビールを買いこんで、チェコで最後になる列車、Zittau行きに乗りこむ。最後であってほしい。

(次回、最終回に続く)


あれ?最終回じゃあなかったの?どうやら、次回こそが最終回です。




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