なべて世はこともなし
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|アイルランド真実紀行へ
2002年09月09日(月) |
ひでかす洪水のチェコを逝く(その5) |
ひでかす大先生、土日に続きを書いてくださいました。ま、どぞお読みください。
ひできすがゆく--プラハ途中まで一人旅(5)--
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――ひできす洪水対策本部――
…ドレスデン中央駅、床上浸水で全滅。
恐れていた事が起こった。ドレスデンはチェコに国境が近いドイツの古都。ほとんどの国際列車がここを通る。これが全滅。僕の予定は陸路でSとドイツへ向かい、数日そこで過ごした後Dublinへ飛ぶというもの。Sがべそをかき始めた。 「パーティーに帰れない」 「いや、道は開ける。ドイツへ帰る道はある。心配するな。」 僕はそう余り説得力の無い事を行ってみる。
この時点で、僕の脳みそは“ひできす洪水対策本部”と化し、活発な活動をし始めていた。もし列車が動かなかったら…。
対策1:もう一つの国際列車ルートを使う。これはチェコ南西部のピルゼンを経由して、ドイツはニュルンベルグへ入るルート。しかし、ニュルンベルグから僕らの向かうベルリンは遠く、運賃がかなり高くなるので出来れば避けたい。
対策2:鉄道がだめでも高速道路は大丈夫だろう。プラハにはベルリンから国際特急バスが確か二社運行している。バスは普通は列車よりかなり運賃が安い。列車の方が旅は面白いと思うけど、この状態では最も現実的対策。
対策3:線路は続くよどこまでも。チェコ―ドイツの国境がだめなら山を越えてポーランドに入り、そこからドイツに入る路線がある。列車代が高いのはドイツに入ってからなのでポーランドの国境から近いベルリンへは、経済的には問題なさそう。けれども、こんなに回り道してその日のうちにドイツに着けるのかは疑問。
夜9時頃になって僕らは街に飲みに出た。いつものように地下鉄に乗ると、途中の駅には止まらずに、なんと街までノンストップ。途中の駅は洪水で閉鎖されたそうだ。開いてるんだかよく分からない薄暗いビルの入口の奥にひなびたバーがあって、客が結構いる。おいしいチェコのビール(チェコビールは多分世界一でしょう)を飲みながら明日の対策を練る。
「朝イチで、国際バスが出るバスセンターに行ってみよう」
それと、インターネットで情報を得ようと思ったが、どこも10時には閉まってしまうので、この夜は他には何もせず飲んだだけ。
さて、僕らは12時すぎの最終電車に間に合うように駅に向かう事にした。すると、
(ガガーン)全線閉鎖。
恐れていた事(その2)が起こった。おいおい、どうやって帰るんだよ。
このピンチにひできすの頭に浮かんだのは“タクシー”、でSは“路面電車”。はいはい、乗りますよ路面電車。プラハはそこらじゅうに路面電車が走っていて便利。しかしこの夜、僕らは走っている路面電車を一度も見ていない。それどころか、街は明かりのついているビルも無く気味が悪ければ、タクシーなんか一台も走っていない。異様に暗く静かな通りを行くと、数人の人影が。こっ、この人達は、…やはりボランティアの人達でした。黙々と土嚢を積んでいる。表情は暗く、会話も無い。これを過ぎて橋のたもと(カレル橋より一つ下流の橋)へ行くと橋は閉まっていて、警官が立っている。
「あの、路面電車は走っていますか。」と聞くと、 「街は9時以降停電。交通機関は全てストップ。」
ひえー。こいつは歩くしかなさそうだ。足、まだ痛いのに。
歩くにしても、僕らはどうしても橋を渡って向こう側に行かなければならない。 「次の橋なら渡れるよ」 警官氏がもう一つ下流の橋を指差してくれた。
その橋の上では、テレビカメラを持ったおっさん達がうろうろしている。暗闇の中で、洪水中のモルダウ川はざあざあと気味の悪い音を立てている。対岸へ着いて左へ。ここからは地図を見ながら行かないといけない。が、
…真っ暗。
想像してもらいたい。一国の首都中心部が、まるっきり地図も見えないくらいに真っ暗になってしまうんです。
ライターで照らしながら、「うん、ここを多分左だ」…ありゃ、通行止め。その向こうは水。うーん、これはまるでゲームだ。“ひできす、奇跡の首都脱出!”あほなこと言ってないで、そこのガード氏に道を聞いてみよう。
「あのう、Dejvickaにはどうやって行けば良いですか。」と英語で聞くと、ガード氏、ろこつにいやそうな顔をした。はいはい、どうせ僕らは洪水のモルダウ川の橋の上でシャンペンを飲んでいた阿呆な観光客ですよ。しかしガード氏、つたない英語で懸命に説明を始めたではないか。
「ここらへんの道は、んと全て、えー(洪水ってなんて言うんだっけ)…フルート、フルート。ようするに、Close、Close。」
ひできすもSもピンときた。要するにこの人は英語で説明するのがおっくうだったらしい。Sが「ドイツ語を話されますか?」と聞くと、ガード氏急に元気になった。地図を持っていたひできす、蘇生したこのガード氏にドイツ語で
「ここをこう行くと帰れませんかね」と聞くと、 「ああ、そこなら通れますよ。それ、そこの道です。」
と、指差した。なんでい、全てClose,Closeなのじゃあなかったのかい、え?と、あごを人差し指でしゃくってやりたい気持ちをおさえて、指差した方向を見る。
道は広いが、真っ暗な上り坂がうぞぞーんと口をあけて僕らを待っている感じ。道は一つしかない。急に親切になったガード氏にお礼を言って対策本部長ひできすは「よしS、行くぞ」…ってあれ、Sは?「あ、ちょっと、待って、おいてかないでー」。
道は急な上り坂で、暗くて長い。足取りも重くひたすら登る、登る。カーブを曲がりきると、 「おい、S。見ろ、明かりだ。」
視界の先に、信号機が懐かしく青色に輝いている。その周りには、ビルの明かりが見える。そこはまるで砂漠のオアシス、宇宙の大銀河、浅草花やしきのお化け屋敷の出口。走り出したい気持ちを押さえて坂を登りきる。二人とももうホテルに着いたような感覚。地図を見る。ここからはあと10分ほど。ひできすはもうそこのバーで一杯引っかけていく気分になっている。しかし明日は早い。ここで飲んでは本部長の名が廃る。緩やかな下り坂を下りきるとホテルに着いた。長い一日だった。
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しっかしまあ、よくもここまで告ぐ次と事件が起こるもんだ。というか、こういう時期にプラハを訪れる羽目になるひでかすの人生っていったい...。
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