なべて世はこともなし
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2001年12月11日(火) 時給1400円に魂を売った悲しい男の物語(その3)

何だかんだで某大手カメラショップに勤めて数週間が経過。片道一時間の通勤・家畜のような扱いにも人間は順応度があるもので慣れていきました。で、慣れるにしたがって、今まで見えなかったものが見えてきます。


まず驚いたのが、 店員同士の中が驚くほど険悪なこと。今まで勤めていた店は、「みんなで仲良くやっていこうね」という和気あいあい、悪く言えば馴れ合いの雰囲気があったのですが、その雰囲気がありません。 むしろ店員同士は敵同士です。その理由はすぐに分かりました。


「個人別売上用紙」


なるものがあり、これが店員同士の中を険悪なものにしているのです。個人別売上用紙…読んで字のごとく店員ひとりひとりが一日に何を売ったか、これを閉店後の終礼のあと上司に提出します。仮に売上が悪くても、給料に響いたり、クビになったりはしないのですが、それでも自分の立場は悪くなります。ゆえに、「お客を取った取らない」などの騒ぎになるわけです。


こんなことがありました。


客:「すいませーん、これ、28000円になりますか?」
私:(わざとらしく)「え?それは困ったなあ。(何だかんだで)じゃあ、特別ですよ」



というわけで商談成立。で、しばらくして先輩社員が、


先輩:「おまえ、ちょっと裏に来い!」


なんて言ってきます。人気のない非常階段に行くと


先輩:「お前!さっきの客は俺の客だ!俺が案内してたんだよ」


なんて怒鳴ってきます。私はお客さんに呼ばれたから答えただけなのですがそんな理由はここでは通用しません。売上は取り上げられてしまいました。ちなみに、全く同じ状況で、流血沙汰になった販売員もいました。


この事件以来、「やばいな」と思った時は、最初からカメラを売った時に作る「保証書」「店控え」をこっそり他の人に渡すことにしました。これを渡すことで、「さっきの売上はあなたのものですよ」という意思表示をするわけです。


で、売上は高ければ高い方がいいかというとそうではありません。売るものの「質」が問われてくるわけです。数週間に1回くらいのペースで「拡販商品」というもののリストが出ます。


これはお客の立場でもすぐに分かります。「おすすめ品」とか書いてあったり、やたらと目立つところに置いてあるやつがそうです。売りたい商品なんですから。なぜ売りたいのか。理由は簡単。メーカーから特に安く仕入れたなどの理由で利益が取れる商品だからです。ゆえに店員は少しくらいの無理な値引きをしてでもこのような商品を売ろうとします。


で、「拡販商品」にお客さんが興味を持ってくれない場合に店員が売ろうとするのは、「権力のある販売員が属している会社の商品」です。前にも書いた通り、私が働いていた店の約8割の店員は各メーカーからの派遣社員です。派遣社員の中でも、勤務年数が長かったりすると自然とその店での実力者になります。下手をすると、その店の正社員よりも影の力が強かったりします。そういう人に媚を売っておけば、売場内での立場もよくなりますし、慣れた販売員ですから、売るのも上手です。ですから自分のメーカーの商品を売ってくれることも期待できるわけです。


で、売上の商品以外でも「個人別売上用紙」の重要な要素がもう一つあります。それは「保険」。何か高額の商品を買った時にこんなことを聞かれた経験はないですか。

「全損・修理不能になった時なんかに一年間新品に交換できる保険を500円でお付けできますがお付けしますか?」

実は、これ、とんでもない詐欺まがい商法でして。一年以内にもし、修理不能になるほど壊れてしまった時、新品と交換する…これ自体ウソでもごまかしでもなくホントです。が、「修理不能」というのがミソでして。修理が可能だったら保証対象外なんです。一年という期間はご存知の通り、メーカーの保証の対象内です。ですから修理ができる場合は、メーカーの費用持ちで修理がされるわけです。こう説明した時点でもうすでにクレームものです。

「え、何かあったら新品に交換してくれるんじゃなかったの?」

…そうは言ってませんよ。ということになるわけです。

一番最悪の自体なのが、たとえばお客の不注意で落としてしまって修理。ただ全損ではなく修理可能な場合。

メーカー保証の適用範囲は、あくまで自然故障、つまり、落とした濡らしたなどお客の過失の場合は対象外です。困ったことには、たいがいの場合、修理可能なんです。つまり保証の対象外。これでいつも大モメします。お客は「何かあったら新品交換してくれるニュアンスだっただろ」といい、店員は「私はそんなこと言ってません」という堂々巡り。結局、説明をよく聞かずに契約したお客が悪いということになります。

なぜそこまでして保険を勧めたいからかといえば単純な話で保険の売上500円がまるまる純利益になるからです。まあ、体よく500円の寄付を強要しているわけです。そんな訳なんで、何個保険を付加価値としてつけたかも個人別売上用紙の重要な要素になるのです。




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