2022年06月30日(木) |
空というキャンバスに、幅広の刷毛でさっと描いたかのような白い雲が幾筋にも伸びて、その根元から太陽が昇って来た。朝だ。今日もきっと暑くなるのだろう。午前4時すでに暑い。 ベランダの植物たちに水を遣りながら、黄色く変色してしまった葉を一枚一枚取り除いてゆく。この間から続く強風ですっかり姿が崩れてしまった薔薇や宿根菫たち。アメリカンブルーはまったく動じる様子がなく。この間病気で瀕死の状態だったことが嘘のような姿を今見せてくれている。花の数こそ少ないけれど、それでもこの暑い中花を咲かせてくれる。ありがたいことだ。ミモザはちょっと枝葉が重たそうなので少し長さを詰めてみた。名無しの権兵衛たちはわしゃわしゃと集まって、まるでその姿は寄り合い所のおじいさんおばあさんみたいだ。
薬飲んでも効かないんです。被害者仲間のAちゃんが繰り返しそう言う。ああ、あるあるだなぁと私は思う。マックス量処方してもらっても効かないって、どうしろっていうんでしょうか、Aちゃんが言う。いや、どうしようもないんだよ、と私は心の中、ぼそり呟く。 何の救いにもならないのだが、私が一番PTSDの症状が酷かった時期は、薬はほぼ効果なかった。マックス量飲んでも効いてるのか効いてないのか分からないことが殆どだった。薬の効き目を感じられるようになったのは、PTSDの症状がだいぶ緩やかになってから、だった。 薬が効かないからと最大量飲んでも効き目が見られないとしたら、それは、薬の効果なんかよりもあなたのPTSDの症状が上回っているんだと思う。そういう時何度も薬に手を出しても、空回りするばかりだ。それならいっそ猫や犬の背中を撫でたり空や海や植物を愛でる方がずっと、落ち着いたりする。 私は一人暮らしをし始めてすぐ猫と暮らした。被害に遭ったのはその後で、PTSDの症状のきつい時期その猫が常に寄り添ってくれた。私の命を繋いでくれた一人がこの、猫だと思う。猫にご飯を食べさせなくちゃと思うことが、私を何とか生に向かわせていた。 もし彼(猫)がいなかったら、私は娘を産むところまで至らず死んでいたかもしれないなぁとだからいつも思う。彼がいて、娘がいて、そうして私が今ここにいる。いくら感謝してもし尽せない。彼らの体温、鼓動、呼吸、それらすべてが私の命を支えた。薬が救ってくれたわけじゃ、ない。 薬は。ある程度薬がコントロールできる程度に症状が落ち着いてはじめて、効果が出てくる。私などは、薬って効くんだな!と思い始められるようになったのは、ここ十年くらいのものだ。いまだって、パニックになったりフラッシュバックしたりするとき薬は効かない。そもそも、解離に効く薬はないらしいし、PTSDに特化した薬もほぼないそうだ。鬱状態や不安状態を何とかする薬はあるけれども、それが全員に効果があるわけじゃぁない。要するに、効果がないひとだってたぶんにいる。それが現実だったりする。 因みに、私はいまも睡眠薬があまり効かない。飲んで辛うじて寝入ることができても二、三時間で目が覚める。薬を飲んでも飲まなくてもそうだから、もう最低限の量の処方に変えた。被害から二十何年、それでもまぁ、そんなところだ。でも私は今生きてるし、笑ったり泣いたりしている。それで、いい。 じゃぁ効かない間どうすりゃいいんだ、という話になる。正直分からない。いまもってしても私には分からない。だから、ぼそっと、言ってみる。隣にいるよ、ちゃんといるよ、と。君は、ひとりじゃない。 |
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