2022年07月27日(水) |
先日の加害者プログラム。被害者が被害後失ったもの、について語ってほしいと。思いつくまま箇条書きにし始めて気づいた。失っていないものがないんじゃないのか?と。 たとえば、一番最初に私が書き出した、ロングスカートとハイヒールとストッキング。私はかつてスカートが大好きだった。ロングの、フレアスカートなんて最高、と思っていた。ロングのフレアスカートを履いてストッキングにハイヒール。それは私にとって私が思うおしゃれだった。そこに口紅と香水をつければできあがり、ってなもので、デートの時は私なりに一生懸命おしゃれしたものだった。 でもそれらは一切合切、被害に遭うことによって失われた。 たとえば味覚と嗅覚。私は被害に遭ってしばらくして、味覚と嗅覚を失った。大好きなシナモンの香りが分からなくなっていることに気づいた時愕然とした。ご飯も、生きるために何とか口にするが味が分からないまま、砂を食んでいるかのような毎日だった。 たとえば横になること、眠ること、安心といったものを失った。24時間365日警報機が鳴り響く、そういう毎日を過ごすようになった。 人間関係がどんどん壊れ、仕事を追われ、日常が壊れてゆくのを、私は呆然と見送るしかなかった。 失ったもの、を挙げ出すとあまりにきりがなくて唖然とした。じゃあ失わなかったものは何だろう? 改めて考える。ない。失わなかったものを考えると、要するに、ないのだ。じゃあ得たものは何だろう。 たとえば幻聴、幻覚、眩暈、フラッシュバック、パニック、身体痛、麻痺や過覚醒、自分は汚物という感覚…。書き出していて、げんなりした。あらゆるものがマイナスを向いているようで、げんなりする以外に術がなかった。
失ったもの。それは、私のすべてなんだ、ということに改めて気づく。それまで生きて得てきたもの築いてきたものすべて。すべてが崩壊するのが性被害なのだなぁということを、改めてしみじみ感じ入る。
でもそれをプログラムに参加するひとたちにそのまま伝えてもまず伝わらない。「私のすべてが失われました」なんて言っても、「そうなんだ…」としか恐らく反応は返ってこない。 だから、ひとつひとつ、できるだけ具体的に、彼らに伝える。例を挙げて、ひとつひとつ。彼らが肌で感じられるよう、できるかぎり具体的に。 でも、何処まで伝わっていることか。どんどん能面のように固くなってゆく姿、一方で一生懸命頷いてみせる姿、加害者それぞれの反応の仕方があって、私はそれらをひとつひとつ感じ取ってゆく。できるかぎり感じ取ろうと努力する。
何度だって繰り返し伝えよう。必要なら何度だって私は語ろう。きっとすぐには結果なんて出ないから。彼らの中でそれらが芽吹くには、何年も何年もかかるんだろうから。加害者の彼ら、だけの話じゃぁないんだ、これは。当事者以外のすべての人間が、鈍感になっている。当事者以外のすべての人間が、だ。 私は被害者になんてならない、加害者になんてならない、なるわけがない、と笑っているひとたちに言いたい。何処にそんな保証があるのか、と。明日あなたにその悲劇が降りかかるかもしれないのに。降りかかってからでは遅いのに。 誰もが生きやすい社会。私の子どもや孫たちが年頃になる頃には少しはマシな社会になっていてほしい。せめてほんの少しでも、彼らが生きやすい、何度失敗してもやり直ししやすい社会になっていてほしい。だから。 何度だって繰り返し伝えよう。必要なら何度だって私は語ろう。すぐに結果なんて出なくても、信じて語ろう。伝えよう。いつか、いつの日か、と。 |
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