ささやかな日々

DiaryINDEXpastwill HOME


2021年03月13日(土) 
土砂降り、というのはこういう雨のことを言うんだったな、と、窓の外を見やりながら思い出す。見事な雨。息子は遊びに行った先で傘を飛ばされたとかで、全身ぐしょ濡れになって帰ってきた。途中何度か雷鳴も響き渡る。でも、何故だろう、とても静かに感じられる。

昨晩は、久しぶりにカッターに手を伸ばしかけた。その衝動を何度も何度も窘めては、煙草を吸った。そんな私と重なるように、知人が「今年一番の衝動が…」と。なのでふたりして「朝が早く来ないかなー、朝が遠いなー」と言い合いながら夜を越えた。過ぎてみればあっという間なのだけれど、その最中は本当に長くて、もうこのまま雨に閉じ込められるんじゃないかと思えた。出口のない雨の中、ずっとずっとずっと、このままなんじゃないか、って。
そんなことあるはずないじゃないか、と嘲笑する人の方がきっと普通なんだろう。でも、越え難い夜を必死の思いで越えてきた経験を何度もしていると、永遠に朝は来ないんじゃなかろうかと思えたりするし、このままここに閉じ込められてしまうんじゃなかろうかとぞっとしたりもする。サバイバーというのは、そういうものだ。

そして今日、とても久しぶりに娘と孫娘がこの雨の中遊びにやってきた。ズボンの裾をぐっしょり濡らして、でもにこにこ顔の孫娘。髪の毛を結び直してやりながら、あれこれふたりおしゃべりをする。しゃべりがずいぶんしっかりと、達者になったな、すっかりおしゃまになっちゃって、と、彼女の後ろでこっそり笑む。
娘はたぶん、初だろう、ショートカットになっていた。「似合うでしょ」と言われ、素直に「うん」と応える。予想外に似合うな、と。私は彼女が幼かった頃、彼女の髪を結うのが好きだった。その時だけ、何も考えず一心に彼女の髪の毛と向き合っていた。懐かしい記憶。

息子を寝かしつけてからもせっせとマスクを作り続ける。手を動かし続けていると、大丈夫な気がする。余計な思いに呑み込まれずに済む気がする。だからせっせせっせとマスクを縫う。

そうして気づけば雨は止み、風も止み。塵芥がすっかり流されたからだろうか、今夜の闇はとても深い。深海の如く。埋立地の灯がすぐ近くに感じられるくらいに大気が澄んでいる。そして星も燦々と輝いている。
美しく、静かな夜。


浅岡忍 HOMEMAIL

My追加