2020年12月16日(水) |
大気が凛と張り詰めている。北の街では大雪だと天気予報が告げてくる。私はその降りしきる雪の映像をぼんやり眺める。 小川洋子さんの小説に確か、季節が冬で止まってしまった町、というのがあった。ひとつまたひとつ忘れてゆく街に取り残された人々の物語だったような。もうほとんど覚えていないのだけれど、あの、ひとつずつ忘れ去って、いや、奪われて、そうしてそれに慣れて、奪われたことさえ忘れてゆく人間というもののサガというか、そういうものに胸をぎゅうとされたことだけは、くっきり覚えている。 もし今季節が変わって行くことが失われたら。私はどうなってしまうんだろう。少し怖い気がする。気持ちもそこで止まってしまって、変わってゆけないままになってしまうような。
ベランダでは、クリサンセマムがせっせと花を咲かせる冬。私はどうしてこんなに疲れているんだろう。せっかく食した夕飯も、嘔吐してしまった。せりあがって来るものを抑えて抑えて、我慢したのだけれど、無理だった。それならもういっそ全部吐いてしまえと白い便器にすべてを吐いた。 でも。虚しかった。
虚しくて。 悲しくて。 すべてを放ってしまいたい。
踏ん張っていることに疲れた。
そんな夜も、ある。 |
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