ささやかな日々

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2020年11月02日(月) 
息子と玄関を出ると、日が照りながら小雨が斜めに降っており。「あ、狐の嫁入りだ」。私が言うと、息子が「なぁにそれ」と訊ねる。だから、青空が見えていながら小雨が降ることを狐の嫁入りって言うんだよと応える。不思議そうな顔で空を見上げる息子は、「変な天気!狐いないし!」と笑った。だから私も笑って応えた。
今日は一日そんな天気で。小雨降る中自転車を走らせ続けていた。

今朝見ると、アメリカンブルーの葉がほんのり開いており。「見て!アメリカンブルーの葉っぱが復活してるよ!」。ほんの少しだけれど、でも。私は葉をじっと見つめる。「ほんと?すごいー!」息子がベランダに出てきて言う。早速二人で今朝の水やりを為す。息子はトマトと朝顔と挿し木を集めたプランターを、私はラベンダーと竜胆と薔薇とアメリカンブルーとコンボルブルスを。ベビーロマンティカのプランターの中にノースポールが幾つも育っており。春に植えた子たちが種を飛ばしたのだろう。ベビーロマンティカがすっかりノースポールに埋もれている。でも、しばらく新芽を出さなかったベビーロマンティカもここにきて次々新たな葉を萌え出させている。よかった。
何が植わっているのかもう忘れた球根たちにももちろん水を遣る。この子たちは果たして花を咲かせるのだろうか。私は首を傾げる。でも、別に花が咲かなくても、緑がベランダにあるだけで気持ちが穏やかになるというもの。こうして葉を伸ばしてくれるだけでも嬉しい。

日曜にSさんが遊びに来た。何か用事があるわけではなく、ただ、時間を共に過ごす、それだけの為にやってくる。私達は珈琲をちびちび飲みながら、のんべんだらりんと好き勝手な、その時思いついたことを次々話題にする。だから話題はあっちに飛びこっちに飛び、せわしなく入れ替わる。でもそれで、十分私たちは楽しんでいる。
私たちは同じ時期に似通った被害に遭った。その為か、知り合ってからというもの、何だか他人じゃぁないような気がしている。どんなところで生きていても、会えばきっと分かり合えるような、そんな錯覚を覚えさえする。他人同士なのに。
上にいたはずの太陽はあっという間に傾き出し、私たちが座る部屋には西陽が差し込んでくるようになり。そんな橙色の陽光の中、私たちはまるで二十代かそこらの子供みたいに、お互いの暴露話で盛り上がり。そうしてあっという間に陽が落ちる。早めの夕飯を一緒に食べて、彼女はバスに乗る為支度を始める。その最中にも彼女は、息子とアニメの話で盛り上がる。ねぇねぇもう時間だよ、と私が急かす。慌てて玄関を飛び出してゆくS。
二十年ちょっと前。私達は共にどん底にいて。海を挟んでこちらとあちら、生きていたんだ。そうして金もないのに国際電話を四六時中繋いで、一緒に泣いたり笑ったりしてたんだ。彼女の後姿を見送りながら、私はそんなことを思い出す。
お互い、よくここまで生き延びたよね。


浅岡忍 HOMEMAIL

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