ささやかな日々

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2020年08月20日(木) 
時々、眠りたくない夜がある。今夜もそんな夜だ。眠りたくなくて、でも別にこれといってやることもなくて、ぼんやりしている。
ぼんやりしているくらいなら横になって身体だけでも休ませたらいいのに、と思う。でもだめなのだ。こんな夜は。横になることを全身が拒絶してしまう。
作業部屋にクーラーはない。だから気づけばぐっしょり汗をかいている。熱中症にならないように水をこまめに飲む。何やってんだか、と思う。でも、眠ろうとは思わない。

今と違い、昔は眠れなかった。眠れない夜がほとんどだった。横になることが怖くて、横になるつまり無防備な状態になることが怖くて、何度も何度も横になろうと試みるのに、そのたび飛び起きてしまう。そんな具合だった。
疲れ果ててうとうとすると決まって悪夢を見た。その悪夢に魘されて結局目が覚めた。悪循環だった。自分が背負った病がどういうものだか、思い知るばかりだった。

今音楽をかけながら、ぼんやり闇を見やっている。丘の上に立つ我が家のこの窓からは、家々の屋根が見える。窓の明かりはもうほとんど消えている。埋立地に立つビル群の、存在を知らせるための赤いランプがちっかちっかと点滅している。静かだ。私が流す音楽と虫の音以外何もない。
そういえば明日は通院日だ。正確にはもう今日だけれども。先週何を話したのか思い出せない私の脳味噌。困った。またカウンセラーに、「先週何を話してましたっけ」と尋ねるところから始めなければいけない。
そういえば、と、息子の来週の漢字テストのプリントを、スキャンし、何枚かプリントアウトする。明日の朝から練習させなくちゃ、なんて思う。

カブトムシの雄が、雌の体をぐわっしと抱きかかえて離さない姿を先日息子と見つけた。でもその雌はもう息がなく、死んでいた。雄はそれが分かっていないのか、それとも分かっていても離さないのか、それはどちらなのか私たちには分からなかった。私は何だか切なくなって、手を伸ばせずにいた。息子が一生懸命雄から雌を引きはがした。雌の体はぴくりともしなかった。雄は、途方に暮れたかのようにしばらく虫かごの壁をがしがし叩いていたけれど、やがて静かになり、餌の方へ方向転換した。それもまた、私から見ると切なかった。
土を調べると、死んだ雌が産んだ卵が幾つも幾つも見つかった。家人と息子はその卵をスプーンの先で拾い上げ、個別の容器に入れてゆく。私はその作業をただじっと見守っていた。家人がぽつり言った。「死んじゃうくらい一生懸命産んだ卵なんだから、ひとつも無駄にできないね」。
そんな家人を私はその時黙って見ていたけれども。本当は。ちょっとだけ思った。カブトムシだけじゃないよ、私だって生きるか死ぬかのところで妊娠出産したんだよ、分かってる?と。
たぶん、彼は、死んだ雌のカブトムシのことなら分かっても、生き残ってる私のその気持ちは、きっと生涯分からない。


浅岡忍 HOMEMAIL

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