2020年07月14日(火) |
雨だというのに律義に朝顔が咲く。陽光の欠片もないような空の下。その朝顔をいたぶるかのように容赦なく風が吹きつける。この風のせいで薔薇の葉たちはすっかり傷だらけになってしまった。自らの棘で傷つく薔薇の葉を見ていると何とも切ない気持ちにさせられる。 リカバリープログラムに一被害者として参加。今回も新たな発見があった。こういう発見があるから、対話はやめられない。 帰り道、Sさんの様子がおかしいことに気づき、彼女の住まいの最寄り駅に降り立つ。珈琲屋で彼女と向き合う。 もうぎりぎり、限界ぎりぎりだったんだろう。ひとりで耐えられる限界ぎりぎり。ぼろぼろと涙をこぼす彼女を見るのは二度目だ。一度目は展示の時。展示に寄せた私の言葉を読んでいろんなことが思い出されてしまったと彼女は泣いた。今回は、次々襲い掛かる重責にもうどうしていいのかわからないという彼女だった。 私や彼女のような体験を一度でも経ると、人間に対する信頼感が失われてしまう。自分に対する信頼感はもちろん、世界に対する信頼感、そして今言った人間に対する信頼感が、木端微塵になってしまう。彼女も私も被害から二十五年と長い年月をすでに経ているが、これら不信感は、もはや私たちの細胞レベルにまでこびりついていて、拭うことなんてできない。 男性全員私を騙しに来るって思えてしまう。どうしてもそこから離れられない。彼女は泣く。 私は、うんうん、と頷く。 それでも。歩き出さなきゃならない。歩き続けなきゃならない、私たちは生きている限り。だから、ねえSちゃん、一歩踏み出してみようよ。 珈琲をちびちび飲みながら、私たちいい歳こいて今こんな話してるなんてね、笑っちゃうね、と、彼女が泣きながら笑う。 年齢なんて関係ないわな。辛いものは辛いししんどいものはしんどい。でも、生きて在る限り歩き続けなきゃならない。だったら笑おうよ。いろんなことひっくるめて、丸ごとひっくるめて、笑ってしまおう。笑いながら、ここを越えてゆこう。ね!
こんなになる前にSOS出してくれればよかったのに。 それが出せないんだよ私、いまだに。 気づいてよかった。 気づいてくれてありがとう。
店を出る頃には外は雷雨になっており。雷がぴかぴか美しく。手を振って別れ、彼女は家に、私は電車に飛び乗った。 帰り道、Sちゃんと知り合ってもう二十五年以上が経つのか、と改めてしみじみ感じ入る。あの当時、国際電話でこちらとむこうと必死に命を繋いだ。まさか今日のような日が来るなんて、当時は思ってもみなかった。そもそもここまで生き延びる予定は、私もそしておそらく彼女も、なかったに違いない。 でも。 しぶといのだ。私達は。人間の尊厳を木端微塵にされたことがある私たちは、だからこそしぶといのだ。這いつくばってでも、今日を越えるのだ。
Sちゃんが今夜、少しでも眠れますように。 車窓の向こう流れる夜景に、私はじっと、祈る。 |
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