てくてくミーハー道場

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2017年03月27日(月) 音楽劇『マリウス』(日生劇場)(26日観劇)

幕が開いて客席(2階席)から舞台が目に入ったとたん、「さすが山田洋次」と感服。

まるでルノワールの絵のように美しいマルセーユの街がそこにありました。

板(舞台の床のこと)に石畳まで描かれている!

『レ・ミゼラブル』でも板が石畳になったりしていますが(『レミゼ』は劇中で場所がコロコロ変わるので、板に描いたり敷物を置いたりせず、場面ごとに照明で変えている)、こんなに舞台装置が“一幅の絵”のようだと、役者たちは嬉しいだろうなあ。

観客であるこちらも幸せな気分になりました。



さて、お話の内容としては、ついさっき観てきた『キューティー・ブロンド』と180度というか前方伸身宙返り3回ひねり(シライ/グエン)ぐらい違ってて(例によってたとえが解りにくい!)、ほぼ大事件が起こらない。

いや、一応事件らしきことは起こる。

でも、それは予見されていた事件。

マンガみたいなスカッと胸のすく展開とかにはならず、じんわりと沁みてくる展開。

言ってみれば、


ザ・松竹


という舞台であった。


まあ確かに、製作は松竹株式会社であり、演出は山田洋次監督である。

だが、主演は今井翼であり(といっても、このところ何だかつばっちゃは“松竹俳優”気味である)、「音楽劇」とかいう不穏な(コラ)カンムリまで付いている。

この「音楽劇」部分に対するぼくのスタンスに関しては、先週土曜日の『私はだれでしょう』の感想を参考にしていただきたい。

正直、なんか奇妙な雰囲気であった。

ま、歌の部分はさらっと流すとして(流すなよ!)、もういっこ「うー、松竹っぽい」とぼくが感じたところがあって、筋書きの中に無理やり(違います! by山田監督)主人公マリウス(これがつばっちゃの役どころ)がフラメンコが得意という部分が入れ込んであり、劇中突然(でもないが)踊り出すのである。

可愛い幼馴染と会話しながら、はたまた自分の行く末について悩みながら、突然フラメンコを踊り出す主人公。

リアルに考えればケーサツを呼ばれかねない事態であるが、そこはやはりマルセーユというラテン系の人々が住むヨーロッパの街であるってことで(いや・・・マルセーユでも、やっぱケーサツ呼ばれ・・・ないかなあ?よく知らんが)

つうか、これ“芝居”だし。←ぶちこわし


くだらないツッコミ()はさておき、つばっちゃのフラメンコは、ダンス素人のぼくが見てもはっきりと理解できるほどメキメキと上手くなっている。

なんつーか、(タカ○ヅカとかでよくある←コラ)スパニッシュっぽいダンスではなく、ちゃんと「フラメンコ」なのである。

まじめに勉強してるのがわかる、見た目のかっこ良さよりも、そのスピリットを表現している踊り方だった。

実はつばっちゃの生フラメンコは今回初めて観たわけじゃなく、去年10月の新橋演舞場で観た『GOEMON』でも堪能させてもらったので、さほど驚きというのはなかったのだが、今回改めて観て、さらに上手になっていたように思った。

すばらしいことです。

そして、もっとびっくりというか感心したのが、タッキーこと(嘘)瀧本美織ちゃんもちょっと踊ったのだが、これがまた上手かったこと!

この芝居には、フラメンコを路上で披露してお金を稼ぐロマ族が出てきて、その踊り子を演じていた工藤朋子さん(プロのフラメンコダンサー)が普通に一番上手かったのだが、タッキー(←)のダンスセンスも瞠目ものだった。

歌も上手だし、お芝居も素直だし(ぼく、彼女の声がとても好きで。何気なくテレビ視てて彼女が出てるCMが流れると、つい注目してしまうの)、実力があるわあタッキー(←だから、紛らわしいから/汗)



さて、お芝居のあらすじですが、どうしても夢を捨てきれない主人公が、ずっと好き合ってるのに互いにその先へ踏み込めない幼なじみとついに一夜を共にした翌日に、ふるさとを捨てて旅立ってしまう・・・と、たった2行で済む内容を、あーでもない、こーでもないと1時間半にわたって見せるのが一幕目(おいこら何をディスってるんだ!)

いや、その「あーでもない、こーでもない」を退屈させないところがまたすごい。

そして、「たった一夜」で(運命的に)子供ができちゃって、男はそんなことも知らないでどっか行っちゃって、仕方ないんで女は周りのお膳立てもあって、元々自分を好いててくれた気のいい年寄りと一緒になって子供を育ててたら男が帰ってきちゃって、ひと悶着あったけど登場人物はみんな善人ばっかなもんだから、無責任男の烙印を押された(えっ?)男は再び遠い旅に出る、というのが二幕目の流れ。

観終わってこうして振り返ってみると、「そういや、結局何が起こったんだ?」くらいな感じのお話なんですが、言ってみれば「これこそが、人生(C'est la vie.)」

実は原作にはまだ続きがあるらしいんだけど。

途中、女が気の良い年寄りと結婚するところ、「あれ? 超有名フランス映画に似たようなシチュエーションがあったなあ?」と思った客は多いのでは。

成立したのは明らかにこちらの方が先なので、ジャック・ドゥミ(バラしたな?)の頭の片隅に、フランスの古典的有名芝居であるこの『マリウス』三部作の設定があったのかもね。

あの映画ではぼくはヒロインの苦渋の結婚に若干もやっとしてるんですが、今回の芝居では、身重のファニーと結婚してあげる(っていうのは言いすぎか。本人は元々自分の娘レベル以上に歳の離れたファニーを娶りたがってたんだし)パニス(as 林家正蔵)がとてもとてもいいやつに思えてならない。

正蔵は(これが彼の個性でもあるんだが)滑舌があやしく、そこがまたパニスのドンくささにマッチしてたのだが、ときどき、「セリフです」って感じのしゃべりかたになってた。ほぼ千穐楽だったのに、残念。

ほかの出演者の皆さんは、手練手管のスペシャリストばっかって感じで、セリフが実に自然。あの大きな日生劇場で、普通のトーンで話してるのに、2階席後方のぼくにまでしっかりととどいた(舞台マイクはあったと思うが、各自のマイクは、なし。歌のときだけ音量上げてたけど)のがすばらしかった。



そして、事前にすっかりネタばれしていた「このお話は、山田監督にとって『男はつらいよ』の原型になっているお話である」という件を証明するかのように、ラストシーン、ファニーに「パニスとは別れられない」と言われ失意のマリウスが旅立つときに持つ革のトランク、ファニーが着せ掛けたジャケットの袖をわざと通さず、肩にひっかけたスタイルで去ってゆくその姿、ま、まさに、


寅さん(@_@。)


今にも「お〜れがいたんーじゃお嫁ーにゆけ〜ぬ♪」と歌い出しかねない姿であった。





話があっちこっち飛んですみません。とりあえず、実に松竹らしい舞台でした(結局それか)

松竹らしいといえば、舞台につばっちゃが登場したシーンだけ拍手が起きたのが、これまた松竹っぽかった。っていうか、主役が登場したときだけ(まだ何もしてないのに)拍手するっていう流儀、歌舞伎とか、新派とか、松竹とか、(ミュージカルじゃない)東宝とかの古典的な商業演劇でよくあるんだけど、あれにはぼくは何か慣れない。

宝塚のトップ拍手は、「昔からこういうもんだからね」みたいに刷り込まれたので、すでに不自然さを感じないのだが。

偏見かしら?



まあ、そんなぼく個人の違和感はともかく、カーテンコール(再びフラメンコ!なのに、バンドが奏でたイントロは「男はつらいよ」/笑)も素敵でしたし、「良質舞台」のお手本のような作品でした。

つばっちゃ、良い俳優道を邁進してください。安心して追いかけさせてもらいます。

ラーメンの食べすぎで○○らないように。それだけは頼みます(コラ)

■蛇足■

だってね。最近つばっちゃ、よく食レポしてるのをテレビで見かけるのよ。「ブンブブーン」でもやってたが、これがまた上手で!(←)

新しい道を見つけたのはいいが、くれぐれも第二の彦(ヤメて!/汗)・・・フラメンコフラメンコ!←


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