てくてくミーハー道場

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2010年01月27日(水) 『初春花形歌舞伎』夜の部(新橋演舞場)

(行ったのは26日なのですが、エンピツ日記さんは同じ日に2つの日記をアップできないので、翌日の日付にしております)









さてコレ(←?)

「慙紅葉汗顔見勢」、通称「伊達の十役」でございますが。

大入りおめでとうございますねぇほんとに(皮肉っぽく聞こえたらゴメンナサイ。決してそんなつもりはありません)



でも、正直全て観終わって心から感じたことは、

「猿之助って、なんてスゴい人なんだろう」(一応現在形)

ということだった(エ? 海老蔵無視?)

だってスゴすぎるんだ、猿之助。

そりゃあ、海老蔵は未だ三十そこそこの若造、ぼくがこの狂言を観て圧倒された当時の猿之助は五十代半ば(今のなかむら屋と同じくらい)という大充実期。比べるのも可哀相だけども。

実際早替わりをウリにした狂言は猿之助の専売特許じゃなく、玉さんやフクが得意にしている『お染の七役』や、実川延若丈直伝によるなかむら屋の『怪談乳房榎』なんてのもある。

それらを観てて分かるのは、観客が「あまりにも早く(衣裳が)変わる」というイリュージョンじみた演出に感嘆し喜ぶのは結局最初のうちだけで、観終わって満足するのは、一人の役者が何度も何度も「(演技力によって)一瞬にして別人になる」ガラスの仮面的達人技を目の当たりにできるからなんである。

そういった意味で、今回の海老蔵の挑戦は、挑戦したこと自体は偉いと思うが、観客を心底感心させたかといえば、残念ながら「そうではなかった」と言わざるを得ない。

十役のうち、彼の得意な役どころである仁木弾正や、その父親である赤松満祐なんか抜群に良くて(なので、最初はすごーく期待した)、荒獅子男之助なんかも全身エネルギーに溢れてて良かったのだが、その他の役になると、残念な状態になっていた。

細川勝元あたりは、がんばっていたのだが、得意だろうなと思ってた(何でよ?)土手の道哲なんか、意外や愛嬌も凄味も全然足らなくダメダメで(法界坊は、当分できないな・・・演りたいと思ってるかどうかは知らんが)、いわんや完全に“加役”の女方三役は手も足も出ない感じ(猿之助なんて、アラフィフのおじさんにも拘わらず、すごいキレイだったぞ!)

あ、でも政岡は、早替わりのないじっくりと原本(『先代萩』)のとおりに演じる場面だったので、

「ちゃんと勉強したんだね、えらいね」

程度の出来ではあった(←例によって上から目線)

一番ヒドかったのが絹川与右衛門で、前髪でもないのになぜか異常になよなよした役づくり。

これはおそらく、二枚目で演じると勝元と演じ分けできなかったからじゃないだろうか。演技のキャパのなさがここで出てしまったと考える。もし、これを演出の猿之助が「よし」としていたならば、かなり疑問である(『四の切』の時も、「これでいいのですかっ?! 猿之助せんせえっ!」と思った記憶があるので、ちょっと納得できないんだよな・・・)



とまぁ、海老蔵オンリーの感想で申し訳ない(そりゃしょうがないでしょ、ほとんどの重要な役を海老蔵が一人で演じてるんだから)

共演者では、やはり右近が良かったです。本役の八汐よか、猿弥さんの代役の鬼貫が良かった。迫力があって。

あとは、笑也の赤姫が18年前に観た時と全然変化なし(良い意味でも悪い意味でも)なのが驚異だった。

ぼくの贔屓の笑三郎は、三浦屋女房みたいな世話っぽい役は完璧なのだが、栄御前が意外といまいちだった。セリフ回しに「権謀」が出すぎてる。あの役はもっと「鷹揚」に演らなきゃいけない役じゃないだろうか? まぁ、ぼくの方が間違ってる可能性大だけれども。

渡辺父子は、市蔵さんは老けも充分で憐れさ実直さがあり、心から応援したくなる国家老。

息子のシドちゃんは、若さ二枚目さは充分だったけど、もっと正義感をぐいぐい出せてればなと思った。若干したたかに見える(ワイドショーに毒されているのだろうか?)

弘太郎、澤潟屋一門らしく器用です。顔がまんまるなのが、ちょっち残念(^^ゞ



こんなとこでしょうか。

大喜利の所作事は今回初めて観たんだけども(これを演ると、休憩入れて5時間半になるのよね。めっちゃしんどいのよね。観てる方も)、これがあると「終わったーっ!」って感じになってお話が締まるのが分かった。

海老蔵クン、歌舞伎座のお父様と同じコスチューム(押戻し)で幕となりました。

なんかこういうの、楽しい。

千穐楽だったので、カーテンコールがあるかと思ったら(お客はいつまでも拍手してたし)、定式が閉まった後に緞帳が下りて、あっさり追い出し。

ま、これも良し(*^^*)ぼくはこういうの、結構好きです



猿之助十八番は右近が全部引き継ぐのかと思っていたところに、こうやって海老蔵の横槍(←言語不適当)が入ったので、観る方はステキに楽しみが増えて結構なことです(本心)

ライバルがいるってとても良いことだからね。

・・・ところで、これは書くとやばいことなのか分らず困っているのだが、なぜ今回段治郎は出てないのかしらん?

彼もめっちゃ有望な後継ぎ候補のはずなのに。ねぇ?

まあいいや。四月の『四谷怪談忠臣蔵』を楽しみにしよう。


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