雑記目録
高良真常



 亜州黄龍伝奇 (本)

亜州黄龍伝奇
   狩野あざみ
  徳間書店ノベルズ / 全6巻(番外編一巻)




亜州黄龍伝奇 / 爆風摩天楼  /  西蔵大脱走(上下)
乾坤大戦記(上下) /  (番外編)隋唐陽炎賦



中国人の祖母の血を引く日本人大学生・工藤秋生(くどうあきお)は、曽祖父に会うために香港へ訪れる。遠縁の親戚だという美少女・セシリアに出迎えられ、胸をときめかせるもつかの間、来た早々に災難に合い、何故かその後もゴタゴタが尽きない。
そんな折に、秋生はホテルで偶然知り合った美女に結婚を強要されるハメに。逃げ出すもまた騒動が持ち上がる。
味方だと名乗る黒社会の男、高名な青年実業家、そして彼らと対等に付き合うセシリアに救われる秋生だが、次第に彼らにも不信感を抱く。
戸惑うばかりの秋生を尻目に、世界を手にする事が出来るという“黄龍”の争奪戦は更に激化していくが……。


香港映画好きなら見て損はなし、の人気シリーズ。とにかく登場人物が個性的で、むしろ個性大暴走で楽しいです(笑)。
勝気で口も喧嘩も強いセシリア、黒社会の人間だが大らかで派手なアクションと料理が得意のヘンリー(ちなみに厳つい顔)、いつでも冷静沈着・金と力にモノ言わせたる、な美青年のビンセント、船上生活者で、いつも飄々としている老人のユンミン。間に挟まれ主人公である秋生がやけに地味に見えるほど(笑) だけど埋もれる所かかえって存在が際立っている秋生もまた凄い(笑)
この秋生がね、主人公の癖に何でこいつは…と思うほど、普通の性格してるんですよ。人が良くて、美人に弱くて、喧嘩があまり得意でない。好奇心旺盛で実はバイク好き? しかし結構頑固な一面も。
この秋生に対する、セシリアやヘンリーの『どうしようもねえな(でもつい世話を焼いてしまう)』っていう態度も面白いですが、秋生・命な態度を隠そうともしないビンセントがまた素敵です(笑)
風水や四聖に興味のある方も、読んでみたら面白いかも。








2004年08月14日(土)



 悲しみの時計少女 (本)

悲しみの時計少女
    谷山浩子
  サンリオ / ¥1400



カチカチカチカチカチ。私は日に何度でも時間を確かめてしまう時計中毒者。しかし、今日に限って腕時計を忘れてきてしまった。こんな日に。今日は、浩司――付き合っていた、でも別れを告げられた彼――の新しい彼女を見せてもらう日。
落ち着かない気持ちで待つ私。しかし、待ち合わせ場所に来たのは、見知らぬ男だった。男は自分を浩司だと言い、彼女を紹介する。が、その少女は、顔がなく、顔のあるべき所に、時計がある…時計少女だったのだ。
少女の住んでいるという時計屋敷に招待され、私たちは歩きだした。
途中で様々な時計たちに会いながら――…



“時計”が一種のキーポイントになっている長編小説。内容はやはり谷山さんらしく、不思議少女さと一種不気味な暗さが混ざりあっている。またこの話は、綾辻行人さんの『時計館の殺人』という本と兄妹作に当たるらしく、共通点が多々存在します。読み比べてみるのも面白いかも。ちなみにこの本と同じタイトルの曲もあり、アルバム『歪んだ王国』に収録されています。(同CDには『時計館の殺人』という曲も。)







2004年08月15日(日)



 異形博覧会 (本)

異形博覧会
    井上雅彦
   角川ホラー文庫  /  ¥800



(収録作)
脱ぎ捨てる場所 / エイプリル・グール / 
潮招く祭 / 四角い魔術師 / よけいなものが / 
天井桟敷 / ロマンチスト / 俺たちを消すな! /
魔女の巣箱 / 使者の待つ公園 / 消防車が遅れて / 
舞台恐怖症 / レッドキングの復讐 / シネマハウスで逢おう /
残されていた文字 / 死霊見物 / 象のいる夜会 / 
傀儡座 / カフェ・ド・メトロ / おどろ湯の事件 / 
十月の動物園 / とうにハロウィーンを過ぎて / 海魔の吼える夜

ホラーものの短編・中篇を集めた作品集。
収録された作品は、どれも恐ろしいながら何処か哀しい。『よけいなものが』や『残されていた文字』のように後から背筋に寒気が走ってくる、他では見られない実験的な話もあって、とっても読みごたえがあります。
短編・中篇集ですので、長いのが苦手な方などはどうぞ。ただし、グロやエロの表現も多々に含んでおりますので、苦手な方は注意。

私は『脱ぎ捨てる場所』と『よけいなものが』と『象のいる夜会』が好きです。特に『よけいなものが』では本当、舌を巻いたですよ…。



ちなみに、第二集や第三集も出てます。
           ⇒『恐怖感主人』 『怪物晩餐会』








2004年08月16日(月)



 オイディプスの刃 (本)

オイディプスの刃
      赤江瀑
 (旧)角川文庫 /¥420(昭和54年当時) / (新)ハルキ文庫/¥760



彼は、少し苦しいと言い、苦しいことはおれは好きだ、と言った――
ある晴れた日、大迫家の庭で。刀研師の秋浜泰邦が、赤いハンモックの上で名刀「次吉」に貫かれ、息絶えていた。
続く母の自殺。父は全ての罪を被るため、割腹自殺をして果てた。
ひとりの死が引き起こした惨劇は、残る三人の異母兄弟の運命を大きく変えることとなる。
そして、それから十二年後。散り散りになってしまった兄弟の道が再び交わる時、刻は動き出した――



映画化もされた、赤江文学の代表でもあります。カバー文には『名刀次吉に魅入られた者たちの行き着く果てを描く、――』とありますが、どうも私はこの話、ただ次吉だけが引き起こしたものだけではないのだと思います。次吉にも確かに毒はあるのですが、もっと他に、何か。
例えばラベンダーの香りに。母の香子に。それに向けられる思慕に。人の知り得ぬ運命の指に。
話は兄弟の中でひとり異端の位置にある、次男・駿平を軸に進んで行きます。逸れてしまった兄弟の、現在。行方不明だった弟が不意に姿を表す。そして、ただひとつの過去の、空白……。
ラストの駿平の微笑みは安らかで、安らかだからこそ、あの夏の日が遠い。
残されたものを守ろうと、身を穿って全ての罪を被った父の覚悟が、ただひどく哀しさを覚えるのです…









2004年08月17日(火)



 銀河鉄道の夜 (ア)

銀河鉄道の夜
   宮沢賢治
  販売元: PIASM /¥4,935



病気の母と暮らし、帰らない父を待つ少年ジョバンニ。星祭りの夜、丘の上で一人空を見上げていたジョバンニのもとへ、鉄道が到着する。乗り込むとそこには親友カムパネルラがいた。2人は永遠の友情を確認するかのように旅立つが、やがて別れのときが訪れる。
友情、自己犠牲、そして、ほんとうの幸せとは何か……。

美しさに満ち、優しさと哀しみに溢れる至高の長編アニメーション。



私が、世界でいちばん綺麗だと思っているアニメです。力では辿りつけない世界。そこを垣間見せてくれる、そんな話。
どちらかというと、DVDで見ることをお勧めします。何故かというと、このアニメは全体的に「夜と硝子の硬質」な雰囲気のアニメなので、テープが少し古かったりすると黒につぶれてしまう可能性があるのです;
ストーリーは、原作に少し手を加えて、不思議さと深さをより映像化した、そんな話に出来上がっています。原案・キャラクターデザインはますむらひろし。監督に杉井ギサブロー、劇作家の別役実脚本、そして音楽が細野晴臣。
この音楽がまた素晴らしく、テイチクエンタテインメントさんより発売のサントラも必聴です。








2004年08月18日(水)



 暗闇の囁き (本)

暗闇の囁き
  綾辻行人
 祥伝社ノンポシェット / ¥560



十年ぶりに伯父の持つ烏裂野の別荘に来た悠木拓也は、そこで円城寺実矢と麻堵という幼いが美しい兄弟と知り合う。ひとつ違いの兄弟だが双子のように似ている二人に懐かれた拓也は、彼らの家庭教師が黒髪を切り取られ変死する事件を知り、更には兄弟の兄、「あっちゃん」と呼ばれる少年が、家の者からその存在を隠されているらしい事実を知って興味を抱く。だが、拓也が独自に調べていくうちに、事件は思わぬ方へ進んでいき…。


ミステリ・ホラーの大家である綾辻さんの手掛けるこの『囁き』シリーズは、他作品より耽美色の強いものとなっている。美しいホラー、という通りに幻想的かつ奇妙に展開する今作ですが、それでも話は素晴らしい完成度でできてます。
それと…この話を読む前後に、同作家の『殺人鬼』という小説を読んでおくのがオススメです。この作中では語られなかった謎が解けますヨ。








2004年08月19日(木)



 野ばら (本)

野ばら
  長野まゆみ
   河出書房新社




水の音で、月彦は眠りから覚める。
かすかなミシンの音。中庭の夜合樹。静かな講堂。名前の思い出せない級友たち。無機質な理科教師。赤い紅い石榴と、野ばらの匂い……。
目覚めるたびにまた深く落ちる月彦の夢と現。
目的の解らない二人の少年、黒蜜糖と銀色。同じ名前の2匹の猫。
野ばらのつるに絡み取られた操り人形のように、何も見えないままに深淵に沈む夢。

「僕は野ばらの垣の外へ出たいんだ」……



長野まゆみ作品の中でも1・2を争うほどの質の高い話だと思います。心地よい悪夢のような、不思議な世界にひたれる1冊。








2004年08月20日(金)
初日 最新 目次 MAIL HOME