2006年05月30日(火)...試験時間

 ひと通りプリントに眼を通した後は、諦めをするすると引き出して解答を放棄した。意味を持たなくなった文字が紙の上で丸くなってゆくのをぼんやり眺めて居ると、ぐらぐらと煮立っていた頭がすう、と冷静になってゆくのが解る。動で満たされた教室のざわついた静けさがひたひたと迫って、自分の不出来が事実として、すとん、と理解された。

2006年05月28日(日)...学習

 尊厳を守る為に、必死に闘っている気がした。存在の虚ろを紛らわす為だけに、テキストに向かっている。

2006年05月26日(金)...自意識過剰

 抱く世界が矮小過ぎて、自我が肥大して仕舞うのだとも思った。全てが主観で埋め尽されて、予見や展望、責務などが見えない。

2006年05月25日(木)...矛盾

 還りたい、と願う度に帰着する其の先が無いことに気付く。もし、総ての事象を其処に在るもの、として寛容出来たなら、此れ以上何も奪い去られることは無いのだろうか。

2006年05月24日(水)...救い

 受け取る許容が心地良くて、気付けば、其の部屋に居付いてしまっていた。正義感に近しい義務感から派生する簡略な優しさとコーヒーの香るラグジュアリに今は少し、足留めされている。

2006年05月23日(火)...手助け

 見返りを期待された人情に僅かな億劫を憶える。

2006年05月22日(月)...授業時間

 息をする度に細胞がまたひとつ眠りに侵された気がした。そよそよと何処からか芝が芳って、脳味噌を穏やかに殺してゆく。世界がノイズを含んだまま揺ら揺らと続いて、滲む視野に幸福を落とした。

2006年05月21日(日)...引き戻される

 読み返す度に空気が蘇って、不都合だな、と思った。文字がずるずると今を奪い去って、感情を過去に落とし込んでゆく。

2006年05月20日(土)...気後れ、気紛れ

 高速道路の、オレンジに映し出された壁や標識に眼を遣りながら、ぽつぽつと喋る。クーペのツーシータは広々と心地よくて、でも、疾走感に時折心臓の底がぎゅ、と痛んだ。
 何度もあやすように告げられる、大丈夫、に安堵がふわふわと溶け込んで、頑張って、さえ今ならすんなりと飲み込める気がした。

2006年05月18日(木)...揺らぐ

 眼の前を音を上げて通過してゆく列車に、先刻の躊躇いを少し憎んだ。風圧に揺れる前髪に、握り締めていた手を開くと、掌の皮が三日月に捲れていた。くっきりと付いた爪の痕に滲む紫が戸惑いと安堵を運ぶ。

2006年05月17日(水)...会合

 関わりから生じる消化不良の猜疑が胸に巣食っている。誓いをちらつかせる指に挟まれた煙草からは、懐かしい匂いがした。

2006年05月16日(火)...体温

 愛してる、が助けて、に聞こえた。

2006年05月15日(月)...立て篭もる

 ipodから流れる音楽に、何処までも世界を引き摺っている気がした。じわじわと膜が堅くなって、社会の中に違和感を形成してゆく。

2006年05月13日(土)...理想郷

 何処か、遠くに行きたいな、と思った。知らない街でひっそりと息を詰めて暮らせば今度こそ、誰にも見付からずに幸せになれるかもしれない。そう考えて、視界がぐらぐらと波打ちながらちかちかと点滅を続けていることに気付く。
 拡散された意識と集中するざわめきの中で、ただじっと渦が許容量を越える瞬間を待った。押し寄せる情報に自我を明け渡して、存在が空ろに変わるこの時間を、誰の手にも捕らえられない場所へ行けばきっと、幸福と名付けられるだろう。規定とは違う尺度で測れば、世界は充分過ぎるほどに綺麗に違いない。

2006年05月12日(金)...学校

 何処にいても、学生の匂い立つ若気から放たれる陰りの無い自己愛や信念、活力の様なものに殺されてしまいそうになる。

2006年05月10日(水)...質量、存在

 問いかける瞳が、真っ直ぐに此方を見ていた。其れは紛れもなく、此の存在が認識されていることに違いなくて、希薄になった自我が安堵を取り戻してゆくのが解る。とぐろを巻いた緊迫が少しだけその力を弱めた気がした。

2006年05月09日(火)...救済措置

 助けを乞うことが、生に対する意欲を表している様な気がして、少しだけ嬉しい。今は、伸べられた手を掴むくらいは出来ているのかもしれないな、と思った。

2006年05月08日(月)...対話

 其の部屋はひんやりと静かで、ソファーのゆるりとした反発が酷く心地良かった。声の遣り取りが続くことに少しだけ感動して、多分、会話に餓えていたのだと気付く。

2006年05月07日(日)...今も昔も

 時間の裾をただ握り締めることしか出来ずに、しゃがみ込んだまま引き摺られて居るだけ。

2006年05月06日(土)...虚ろ

 ビジネス街に程近い享楽街のスターバックスは閑散としていて、異国のカップルが1組細やかな日常を送っているだけだった。ウィンドウのすぐ傍を車が足早に通り過ぎてゆく。
 興奮が過ぎ去った後のがらんとした空気に、住み分け、という言葉が浮かんだ。其処には持ち場に戻った男女の、劣情を白々しく見遣るような否定と繕いが伺えて、少しだけ可笑しい。この降り注ぐ陽射しを窖で遣り過ごすひゅうひゅう、とした気持ちが其処彼処に漂って、ぐらぐらと引き込まれていた。

2006年05月05日(金)...反作用

 世界がノイズと粒子に見えた。紫や緑、赤や黄に彩られた発光体がぐにゃぐにゃと其の形を変え、拡散しながら往来を行き交っている。

2006年05月04日(木)...国民の休日

 世間が浮き足立っていて、厭だな、と少し思った。

2006年05月01日(月)...初夏

 潮の匂いがした。風が温く、穏やかに肌を撫で上げてゆく。街を行く人々の、露出された手足や胸元から発せられたエネルギーの、或いはメッセージの、其の強烈さに少しの億劫と後ろめたさを感じて眼を逸らした。何時も、季節だけが先走って、置き去りにされる様な、周りの艶やかさに僅かな隔たりを憶えたまま。

 一覧