2006年03月26日(日)...奈落

 少し開いた窓に、ブラインドがかたんかたん、と音をたてている。緩やかで優しい絶望が降り注いで、冷ややかな春の期待が世界に満たされていた。たぷんたぷん、と揺らぐ水面を見上げて、煌く陽の光に意思を奪われている。眠気が次々と押し寄せてきて、後はもう、如何でも良かった。
 此の由の無い哀しみに身を任せて、安穏をたゆたう。自分が何処までも拡散してゆく様な感覚に囚われて、此の侭総てを愛せたならひとつになって消滅してしまえるのだろうか、と少しだけ思った。

2006年03月20日(月)...彼岸の入り

 日常に潜む厄介が次々と露呈して、自我が蹂躙される。利益と面倒のバランスが崩れて、膨らみ切った苛立ちの遣り場に困っていた。

2006年03月14日(火)...ホットチョコレィト

 眼の前のカップルは何時の間にかいなくなっていて、代わりに雪が降っていた。カップを口元に運ぶと、縁に付着した泡が唇に当たって、ざらりとした感触を残す。喉を厭な冷たさとぬるりとした甘さが伝って、気持悪い、とひとりごちた。
 テーブルに出来た水滴の輪を指でつつ、となぞりながら、混み始めた店内の会話に呑まれてゆく。今、世界は酷くざわついていて、溢れる言葉には総て宛てがあるのに、ただひとつとしてこの手元に届くものはないのだと、そう、唐突に思った。

2006年03月05日(日)...少なくとも

 崇高な目的も理由もなく衝動の根源は逃避で、何時も、今を終えることに意識を集中している。

2006年03月01日(水)...カウンター

 人々が足早に通り過ぎて、其の平行な流れに少しだけ心臓の底がきゅん、となった。硝子を伝う水滴を指でそっと追いかけてみる。信号が赤になって、立ち止まる横顔に揺れる苛立ちと寒苦に、背筋がひやり、とした。
 19時になるにはまだまだ時間があって、有り余った未定を埋める手立てに、窮策さえ思い付かずぼんやりと携帯電話を持て余している。
 死んでくれればいいのに、そう話す先に眼を向けると、美しく装飾された指がグラスの縁をくるくるとなぞり、グロスでとろとろと光る唇が、言葉を続けていた。
 自動ドアが開く度に聞こえる雨脚が耳に残って、吐き出した溜息を飲み込んでゆく。

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