2004年07月29日(木)...不調和音に呑まれる

 心臓の底が不自然で、規則正しく押し出される緊張が体内にざわざわと共鳴を起こす。僅かに感じた吐き気はどんどん其の色を濃くして、今では中核へとずしりと圧し掛かかった。

2004年07月28日(水)...寒い、少し

 冷房の効き過ぎる部屋で、夢を見た。机の上にはルーズリーフが2枚投げ出されていて、遠くで抑揚の無い声が懸命に何かを伝えて居る。士気を背にして蹲る今は、無性に人が恋しい。

2004年07月26日(月)...適当な愛情を与える

 オフィスビルB2、コーヒーの香り漂う其のセルフカフェでオレンジジュースを飲んだ。流動するスーツ姿からは否応無く規格化、画一化、という言葉が連想させられて少し気が滅入る。ぼんやりと塗り潰す筈だった時間があちら此方で見え隠れする時計の所為で酷く長く感じられた。少しの優しさをメールで垂れ流しながら、愛を思ってみる。

2004年07月23日(金)...羨ましいという負の

 街灯に吸い寄せられる蟲の様に、眼下の瞬きに見惚れていた。此の侭死んで仕舞いたい、そんな言葉を浮かべれば此の景色に似合うのだろうか、と少し思った。届きそうで届かない、掴めそうで掴めない灯は理不尽で、優しさに似ている。
 出来るなら、其の頬に手を延べて一体と為った陰を足下へと剥ぎ落として仕舞いたい。心臓の底が無性にざわざわして、そうしてやっと自分が剥き出しであることに気付く。

2004年07月13日(火)...夕暮れに触れてみた

 ブラインド越しの薄明かりに、微睡んで居た。打ち水のような静けさが身体に染み渡って、瞼に浮かぶオレンジがどんどん暗くなってゆく。

2004年07月11日(日)...夏祭り

 坂の上に在る鳥居まで延々と続く赤堤燈。其処は人通りの少し途絶える裏道で、ある筈のない郷愁がふと胸を過ぎる。途切れ途切れ、ぼんやりと聞こえてくる軽躁に何故だか既視感を憶えた。
 幼い頃。潜ったプールから見上げた水面の様な、きらきらとして騒がしい眩しさ。冷たさに阻まれて、ひとりという空間に閉じ込められる心許無さと、ふやけた身体で戯れ合う内にほんのり温く感じた水。
 幻想的という言葉がぴたりと当て嵌まって、飲んでもいないのに少しふらふらする。右手にぱしゃぱしゃとヨーヨーを遊ばせながら、幸福の眩暈がした。

2004年07月10日(土)...絵画に溶ける様な

 雷が窓を叩いて、眼が覚めた。未だ7時にもなっていない。ブラインドを上げると空が黄色に煌めいていた。薄く鈍く、蒼が実は透明だと解る不思議な色だった。

2004年07月09日(金)...幸福を導く連想

 道路脇に尻尾を揺らめかして猫が落ちて居た。夏の匂いに縁日が恋しくなる。桃色のヨーヨー、塩化ビニルの香るスーパーボール、綿菓子、林檎飴。ピンクの紐から吊り下がるビニール袋に赤い金魚が溺れて居た。

2004年07月07日(水)...何時かの、魔法

>大丈夫、大丈夫

 其の言葉は呪文の様に毎日唱えられていて、気付けばまた口から零れている。大丈夫、大丈夫。

2004年07月04日(日)...其処に居るだけ、の

 午睡の中に倖せを見た。
 凭れている背中からはエクストリームプールオムの匂いがして、雑誌を捲る度に肩甲骨が少し動くのが解る。其処で課せられていた任務はただ、規則正しく刻まれる其の呼吸に合わせるよう息を重ねるだけ。
 のそりと起き上がったベッドに未だ幸福が残っている気がした。

2004年07月03日(土)...思惑

 其の神社はブティックホテルの立ち並ぶ其処へ、堂々と門を構えている。青々とした神木に引き込まれる様足を踏み入れると、祭り太鼓の掛声と芝生と池が在った。
 夏祭りの準備だろうか、ブルーシートが陽射しを遮るように張られている。其の中で空を仰ぐと、レプリカの蒼が煌いてくらくらした。隣に佇む友人は、日焼け止めの所為で少し白っぽくなった肌に其れが反射して、中世の絵画のような青白い美しさを湛えている。それを告げるとどんな顔をするのだろう、そう考えると少し可笑しくなった。
 きっと怪訝そうな顔を此方に向けて笑うだけに、違いない。

2004年07月02日(金)...揺ら揺ら

 ブラインド越しの陽射しにぼんやりと室内が模られてゆくと、暗闇で蠢き犇いていた恐怖がゆっくりと溶け出すのが解る。平穏無事という安堵は、何時もの様に眠気に挿げ替えられた。強張っていた筋肉も寝返りによって徐々に解され、エアコンに手を伸ばす頃にはもう身体の半分は既に眠っている。匙を投げられる前に如何にかしなければと思うよりもずっと早くに、アラームは解除されて仕舞っていた。

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