2004年06月30日(水)...嗜虐、想像力

 授業中、蝉を握り潰すという内容の文章を読んだ。若草色の透明な液体と、黒い油の滲む途轍も無い不快を思って、少し気持ちが悪い。

2004年06月27日(日)...何も無い

 DVDレコーダーを欲しがっていたらくれたので、試しにファインティング・ニモを借りて見てみた。友人が云った通り巻き戻さなくていいらしい。リモコンをぷちぷちと色々押し変えながら一頻り堪能していると、何故だか面倒になった。頭が痛くて眼の奥がだるい。

2004年06月26日(土)...手の届く距離

 ぐちゃぐちゃに為って凶暴化した感情が淋漓して居た堪れなくなった。何をして居ても付き纏うぬるりとした感触に、引き摺り込まれそうになっているのが解る。人に会いたくない、そう思った。
 こんな日はただじっ、とベッドで丸くなって居るのが1番いい。きっと、此のもやもやに便乗する様誰かに会いに行っても、期待のこびり付いた見っとも無い顔を晒して、他愛無い会話に落胆するだけ。
 そうなるくらいなら最初から何も無くていい、と打ち掛けのメールを消去してぽたり、と床へ放した。

2004年06月25日(金)...罪悪感、悪寒

 ねっとりした暑さを振り切って校舎に入ると、汗ばんだ身体が冷やされて背筋にするすると蛇が走った。

2004年06月24日(木)...湯気に埋もれる

 パジャマのまま1日を過ごすのが当たり前になっていて、久々に履いたスカートは妙に風通しが良過ぎる気がした。相変わらず固形物は駄目で、豆乳プリンばかり食べている。黄粉と黒蜜を掛けると案外美味しい。
 温めのお風呂は肌に安らぎを齎す。半身浴をしながら爪に鑢を掛けていると遠くで着信音がした。大方、偵察とご機嫌伺いを兼ねた形式的な挨拶に違いない、と薄っすら開けた扉を何事も無かった様にそっと閉じた。

2004年06月23日(水)...思い出

 夢を見た。煤汚れたトタン屋根のざらざらした感じが太腿に伝わる。着いた手は真っ黒になっていて少し擦り剥いていた。紋章の入った黒いランドセルが斜め上の柵に引っ掛かって、中身を零している。全身が痛い。中でも右肘と背中が自棄にじんじんしていて、そっと今まで居た7階を仰いだ。

2004年06月22日(火)...甘えに繋がれたまま

 カステラを食べながら考える。何時まで現状を維持し続けるのだろう、何時まで続いて仕舞うのだろう。

2004年06月21日(月)...空気に侵される

 病院独特の匂いは染み付く様に身体に絡み付いて、より一層病人を病人たらしめている。台風の影響で来院が少ないと云っても週始めで、ソファーには何時もと大差なく人が連なって居た。雨は徐々に其の強さを増し、窓硝子をきしきしと云わせている。

2004年06月19日(土)...高速道路の

 夜に浮かび上がる車の走行速度表示、渋滞を告げる電光掲示板。右折、左折の度に点滅する矢印。本当は車酔いをするくせに、何故だか云い出せないまま。

2004年06月18日(金)...発熱、嘔吐

 1昨日辺りからの熱は下がる様子も無く、今朝には38度7分に為った。家に居ても、天井に睨まれながら如何でもいいことに彼是思いを巡らすだけで、持て余す暇と不自由が鬩ぎ合って冷蔵庫へ運ぶ足元のコントラストを奪ってゆく。

2004年06月17日(木)...信号機が揺れる

 真夜中の道路はひんやりとしていてとても好きだと思う。素っ気無い顔をして通り過ぎる車、高速の規則正しいオレンジの光、点灯を繰り返すイルミネーション、ビルの天辺に灯る赤。現実から取り残された様な、何処か切り離された風の空気が漂う。
 いっそ誰にも見えなく為って仕舞えば不安が期待を蝕むことも無いのに、そんな理不尽で子供染みたことさえすっと心に入り込んでくる様な時間帯だった。
 明日になれば忘れて仕舞う様な些細な棘が、静けさの中から露呈して怖い夢に駆り立てられる。ずるずると玄関の前にしゃがみ込んで街を反射する少し明るい空を見上げた。


[ 15:25 ]
 のそのそと動き出して辿り着いた病院では案の定、血圧が上50台/下30台を保っている。低ければ如何なるかなど正確には解らないけれど、途轍も無くだるい。ただ頭を垂直に擡げようとするだけでふらふらする。
 ああ面倒臭いな、と思った。手渡された処方箋に記載された名にすら、親近感をも覚える。遅刻、早退、欠席の所以はもうぼろぼろに使い古されて仕舞ってもう何も残っていない。

2004年06月16日(水)...依存心、弱さ

 どんなに万能な科学も、甘受し続けることでホリックを生む。そう為って仕舞うのは現代に負けることの様に思えて、空になった薬袋を灯りに透かしてみた。

2004年06月15日(火)...睡眠不足に溺れる

 今日も、眠れないまま朝になった。ベッドの無駄な温もりやスプリングが、身体を浸すには冷たい微温湯みたいで多分に憎々しい。それを何かの所為にするのはとても簡単なことだけれど、其の裏に潜むゆらりとした悲観に嫌気が差す。ただ、体内時計の調子がほんの少し、優れないだけ。


[ 13:32 ]
 帰るの、そんな若干の非難と同情を帯びた台詞を背に教室を抜け出した。真っ直ぐ帰宅して仕舞うのも厭で、サボタージュと体調不良の区別が愈々付き難くなった身体に都市風を浴びせる。37階からの情景はきらきらしていて、幸福という言葉に込められた空気を僅かに感じた。

2004年06月14日(月)...引き摺られる

 最近、また、ゆるゆると落ちてゆくのが解る。全身が自棄に痛く、立ち上がっただけで視界が真っ白に染まって如何し様も無い。
 空調の効き過ぎた教室は夏に反して、酷く寒い。長袖のパーカーを羽織ながらだらんと机に寝そべる。エアコンの風を感じる度何処からともなく香る日焼け止めの匂いに、云いようも無い動悸がしてそっと手首を嗅いだ。慣れ親しんだmiracleの香りがすっと体内に融けて、少しの安定を運ぶ。

>どこもいかないで、ひとりにしないで

 誰かのウォークマンから洩れ聞こえたリズム。でも、本当にひとりになりたくないときに傍にいる他人は、何の意味も無い。

2004年06月13日(日)...眠れない、眠りたくない

 最後に確認したディスプレイの右端には、AM 05:08の文字。ロールカーテンの向こうにきらきらした海が見える。起き抜け街がゆっくりと白い波に呑まれて、朝を迎え入れる準備が調ってゆく。


[ 7:48 ]
 だるい、そう呟いた声は掠れていて、頭がぐらぐらした。フローリングの床にへたり込んで、如何し様かと考える。未だ、8時にもなっていない。ぼんやりと除光液の蓋を開けると、甘くつん、とした匂いがした。ピンクのペディキュアがゆっくりと落とされてゆく。少し、毒々しい感じがして、如何にも此の色は好きになれなかったな、と思う。
 素肌に返った爪に空気を含ませる間も無く、SUSIE NY.の02を塗る。ラメの効いたゴールドは夏らしい透明感があって、探究心を満たした。
 ふと、足先に転がる携帯に眼を遣るとメールが届いている。
> 18時にいつもの場所で
 指先を華やいだ空気と、仄かなアルコール、若さが駆け抜けていった。面倒という言葉と、羽目を外したいという疼きが襲い掛かってくる。塗り終えた足に息を吹き掛けながら、LUMINOUSのGD001を手の爪に塗ろうと決めた。


[ 22:13 ]
 薄暗いオレンジ色の電球に照らされて、女ばかり9人、取り留めも無い話題に花を咲かせる。顔を見、現状を確かめ合うことで得る安堵感と、緊張感、そして不安感がぐちゃぐちゃになって、早く終わって仕舞えばいい、と思う度に解散するのがどんどん怖くなってゆく。終わり際の、心臓の奥がきゅん、と音を立てる、まだ立たないでと思わず懇願したくなる様な、もう会えないと思わせる空気が苦手で堪らない。
 久々に浴びた夏夜の風は潮っぽくて、軟らかかった。

2004年06月12日(土)...切欠、或いは衝動

 如何でもいいことを如何でもいいひとが吼えるのを聞いて居て、総てが面倒になった。雨が開け放されたままの窓から吹き込んで、カーテンを濡してゆく。湿っぽい独特の匂いは、埃を吸い込んで吊るされたままのシャツに付着していった。
 毎日がしんどい、そんな発想はむくむくと膨れ上がってまな板の上に血溜まりを造った。否。そうなってしまえば楽かもしれない、と少しの悪戯心が考えてみただけ。
 今日は家から出る気はない。食べる物は冷蔵庫の在り合わせで良い。何もなければ、別に食べないのも良いかもしれない。兎に角、動きたくない気分で居る。

 一覧