僕らが旅に出る理由
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2004年06月01日(火) |
My Only London - blank⇔blanc |
ちょうどロンドンにいたある時期、年下の男の人ばかり好きになった。 それも9歳下とか、12歳下とか、大幅な年下。 とても落ち込んで、自分に自信が持てずにいた時期だった。
18歳のときの自分が今の自分を見たら、どう思うだろうか。 それを考えることで、今の自分がいい状態か悪い状態か分かる、という。 20代半ばにそれを考えた頃、私は得意だった。 18歳の私が今を見たら、きっと喜ぶだろう、と思った。 そのくらい何もかもうまく行っていた。
それが30代に入ってから、まったくそう思えなくなった。 18の私に、「どうしてこんなことになったの?」と聞かれても答えられないだろうと思うくらい、混乱していた。 将来に何の希望も持てなかったし、あまりに多くのものをもう失ってしまった、と思った。
年下の男の人ばかり気になるようになったのは、その頃だ。 20歳とか、25歳とかの彼らは、まだ真っ白な画用紙を持っているのと同じだった。 これから、好きなものを好きなように書き込める。 その余白が羨ましかった。 私はその余白を、あまりに無意識に、無為に、無分別に塗りつぶしてしまったように思ったから。
私は私なりに必死で生きていたんだけど、他人から見れば多分みっともなかっただろう。20歳そこらの男の子をいい大人が本気で好きになってみても、うまく行くわけがない。 特に日本でそれをやったら、きっと周りからバカにされていたことだろう。 その点はイギリスの場合、年齢差があるというだけでそこまで批判はしないから(そりゃ言うけど)、助かったのかも知れない。
最初に好きになった19歳のスイス人はとても頭がよくてちょっと変わり者で、女の子と付き合った経験がなく、まして私なんて駄目で、ほとんど相手にされなかった。 でもその後、セクシーバディな17歳のイタリア人の女の子が現れてすごい勢いで彼に迫った時も、付き合うのかと見せかけて手ひどく振っていたので、私は溜飲を下げたのだ(注:アホです)
次に好きになった24歳の中国人にはびっくりするほど振り回された。 この人も変わり者で、高校しか出ていないと言っていたしいかにも不良っぽかったけど、頭の回転の速い人だった。裕福な家の子供だったようでフルハムのフラットを一人で借りていた。
私はどちらの人もほんとに好きで、スイス人の時はスイスに移り住んでハイジのおじいさんのようになってる彼と山の上の小屋に住んでる自分を想像したし、中国人の時は自分が大連に行って代々続く金持ちの豪邸でラストエンペラーみたいになってる彼と自分を想像した(再注:アホです)
スイス人の子にはただ避けられただけで、避けられたという事実は傷ついたけど、つまりそれだけだった。が、中国人には振り回された。
その人はいつもイライラしていた。 自分の言い分が通らないからだが、それは言葉の壁と言い分そのものが受け入れられないことの両方で、イライラしてるのだった。 一つには中国特有?の自己中心的発想があったと思う。 もう一つは、彼はうわべだけで何か言うということがなく、いつもダイレクトすぎるくらいダイレクトに話すので、ある種の人々から誤解されることがあった。
私はなんとなく、そのイライラを私なら解消できそうでもっと近づきたいと思ったんだけど、彼はそういう考え方はしなかった。 たぶん、彼も女性とマジメに付き合ったことはなかったんだろうと思う(スイス人とはだいぶ違う意味で)。男と女が付き合うのは、その目的のためだけだと思っていた。そのために世の中の男女はデートだの映画だのに無駄な時間を使うが、自分はそういうのは省略するんだという態度だった。それで言いなりになるような相手しか知らなかったんだろう。
当時は、彼のそういう態度がただ不思議で、ただただ、???の連発だった。というか、これって対等に扱われていないよね、とはおぼろげに分かるんだけど、いまいち、腑に落ちなかった。 ほんとは素直でまっすぐな人だと思ったし、一見仲良くしたそうに見えるのに、近づこうとすると突き放されるような気がした。 もう一歩近づいたら打ち解けてくれるんだろうか?駄目。じゃあもう二歩近づいてみたら?三歩なら? そんな事を繰り返したが、彼はどこまで近づいても結局、心を許してくれることはなかった。もし彼が、心を許すということがどういうことかを知っていたら、だが。
でも、それが分かるまでに、半年くらいかかった。 彼は彼で近づこうとしてくれているようにも見えたから。 でも、あまりに支離滅裂だった。 彼と会う約束をして、彼の住むオクスフォードへ電車ではるばる出かけたのに、結局約束をすっぽかされたこともある。 そうかと思うと、私の携帯が何かの具合で繋がらなかっただけで、慌てふためいてオクスフォードからロンドンまで車をとばしてやって来たこともあった。
若い人たちが白い画用紙を持っているのは、確かだ。 だけど、それは、ただの空白だ。 それはやがて美しく彩られるのかも知れないし、そうでないかも知れないが、真っ白な空白は何も語らない。 いくらそこを探ってみても、ないものはないのだ。
私がようやく諦めて、彼に連絡しなくなり、あれは終わったんだなと思う頃、また電話がかかってきた。 私は取り込み中だった。そう言うと、 「誰かといるんだ」 と、彼は冷やかすように笑いながら言った。 「うん、まあ」 「男か?」 「うん、まあ」 すると彼は急に慌てだした。 「そ、そうか、そうか!楽しめよ!ハハ」 としらじらしく笑い、すぐに電話を切った。
数日後、また電話してきた。 「俺にまだ興味ある?」 相変わらずの直球で、そう聞いた。 私が、たぶんないと思う、と答えると笑い出し、 「君は強いな」 と、言った。 強い、の意味がよく分からなかった。でも、もう問いただすほどの値打ちもないと思った。どうせ、同じことに繰り返しになるだけだ。
それが最後のセリフで、彼はその後二度と電話をかけてこなかった。
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