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■ 無題3-8
「ねえ、」
回した手に力を込める。呼びかけても返事はなくて、ただ俯いたままのシュウスケとあたし。腕に顔を埋めれば、懐かしい匂いがした。
「ねえってば」 「…なんだよ」
何度か目の呼びかけで、掠れた声が返される。 その声をもう一度聞きたくて、「ねえ」と繰り返した。
「うるせえな」
今度ははっきりとした声音。ほんの少し羞恥を含む、そんな響きにあたしは笑ってしまった。
「なに、笑ってんだよ」
「だって」
「さっきまで泣いてたくせに」
反論の言葉はあっさりと遮られる。だけど、まだ顔を上げない幼馴染が、やけに幼く見えて浮かぶ笑みは止められなかった。 あたしのこの気持ちは、少しは伝わったのかもしれないと思った。
「あたしだけじゃないもん」
「――っ、」
そう口にすれば、微かに息を吸い込む気配がして、それから「うるさい」とシュウスケが顔を上げた。
同時に腕を引いて、距離をとった。少し高い位置にある、顔は手で押さえていたせいか、少し赤みを差していた。 困ったように眉を寄せて、でもそれはどこか優しく見えて、あたしの気持ちも落ち着いていく。
「ねえ、シュウスケ。あたしね、あたしシュウスケのこと、好きでいていい? 諦めようとか、離れようとか、色々考えたんだけど、あたしやっぱりそういうの、無理なの。だから好きでいるくらい、許して欲しいの」
シュウスケの唇が僅かに揺れる。何かを言おうとして、でもそれはすぐに閉ざされ切れ長の瞳が、あたしをただ見つめた。
「だめ、かな」
「良いも悪いも、俺が決めることじゃないだろ」
遠慮がちに言えば、苦笑され目を逸らされる。
「そうかもしれないけど。だって、そのせいでナミコ先輩と上手くいかなくなったりしたら困るでしょ。嫌われたりしたくないよ、あたし」
「…お前、勘違いしてる」
「え?」
髪をくしゃくしゃと掻いて、小さく息を吐く。
「先輩とは、もう終わった。これからももう戻る事とか、ないと思う」
どこか寂しそうにシュウスケがそう言った時、一階の玄関で扉の開く音が聞こえた。
2008年03月18日(火)
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