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■ 無題3-3
「マヒロちゃんー?」
ややこしそうな作りの紐靴を脱ごうとしていたハルちゃんが振り返り、それに釣られたようにしてシュウスケがあたしを見る。 その顔は笑っても怒ってもいなくて、それがシュウスケの普段の表情だって知っていても不機嫌なんじゃないかって強張ってしまう。
「なにやってんの、早く入れば」
シュウスケがほんの少し、目元を緩めた。
「あ、うん」
玄関で手招きするハルちゃんに促されて、靴を脱いだ。
「今日はねー、麻婆豆腐なんだよねー」
「俺、辛いの嫌い」
「シュウのだけ甘くしてみる?」
悪戯ぽくハルちゃんが笑う。 シュウスケはそれに、溜息を落とした。 いつもの、この家の風景に何だかほっとする。 それはきっと、ハルちゃんがそうできるように、してくれているからだと思うけど。
「何か気持ち悪そう」
「じゃあ麻婆春雨」
「根本的解決になってなくない?」
「文句言わないの」
「わかってるよ」
最近、ハルちゃんとシュウスケはよく話すようになった。 元々話さないわけじゃなかったけど、こういうどうでもいい話はしなかったように思う。 必要な用件じゃなければ、シュウスケが避けていたように思うのに、いつのまにかそういう壁がなくなった感じがする。
二人の後ろについて、一緒に二階へと上がった。 階段を上る間中何となく、シュウスケのさらさらした真っ黒い髪をじっと見ていた。
「なに」
ふと、シュウスケが振り向いた。
「え?」
「お前、また止まってる」
階段の途中で立ち止まっていたことに気付いて、慌てて追いかける。
「ぼーっとし過ぎ」
呆れたように言う台詞に、笑って誤魔化した。
あたしの毛は生まれつき赤っぽくて、小さい頃はよくからかわれていた。 思えば幼稚園に行きたくないと泣き喚いた元々の理由も、そういうコンプレックスを友達に口にされたからだと思う。
子供時分特有の、太陽の光を通しても透けない、純度の高い黒。 シュウスケと遊ぶたび、羨ましいと言っていたような気がする。
いつも、あたしはシュウスケを追いかけてた。 いいな、と思うことが増えるたび、同じようになりたいって思ってた。
すごく芯が強くて、人に左右されなくて。 何言われても涼しい顔してるなんて、泣き虫のあたしには出来ない芸当だったし今でもそうだ。
学校でも近所でも評判だって、すごくいい。 頭も良くて何でも出来る優等生。 昔から変わらない、周囲の評価は高くなるばかりであたしは追いつけない。 追いかけてばかりいる。
でも。
本当はちょっと知ってる。
シュウスケは周りが思う程、強くはないんだってこと。
2008年02月29日(金)
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