ピッツィカート

その手が星に届いて
慣れた住処すみかを後にするとき


最後の夢はどこでしょう
色と音と孤独のまほろば


海のそば、白い小さなアトリエで
思い思いを描きましょう


夜の階段に腰掛けて
三日月をはじいて遊びましょう


そうして
おしまいの鐘が鳴ったら


かつて夢中になって奏でた
小気味よいリズムを偲んで


薄いコーヒーを飲みながら
昔話をはじめましょう
2007年10月30日(火)

お見舞いに





庭にも出ていないだろうから。


遠慮がちにそう言って
摘んできてくれた花は


いつまでも色あせず
時がたつにつれ
優しい香りを放っています


花が苦手だと知っていて
それでもそうしたかったあなたは


やっぱり
ずうっと母親なのですね
2007年10月28日(日)

言い訳

もう誰もいないのに
頷くことさえできないのに
夜が二人をかばうから
手にとって慈しむしかなかった
床に散らばる
その、あやういひとつひとつを
2007年10月22日(月)

かみさま

愛を与え
愛に生きて
愛の中で消えた


学ばなくとも
気づかなくとも
届かなくとも


愛のために
愛のために
愛のために


純粋と呼ぶには
痛ましいほど
疑いもせずに
2007年10月16日(火)

ハウス

かばんに放られ
車に揺られ はるかとおく


忘れるはずもなく


美しかった
とても 美しかったから


ただそれだけのために


見知らぬ土地で
ガラスのビンのなか


また、つながれて


すこし笑う
すこしだけ 頬にこぼれる


はじめてふれたそれは


まだすこしだけ
暖かかったから
2007年10月08日(月)

杏の木の下で


頼もしく、誇らしく
そしてすこしだけ
疎ましく


つい、
あの子は最後までスマートだったよ
と苦く笑う


鼻先をくすぐる秋風
見慣れた天井の景色


まっ黒な瞳が
さぁて、とつぶやく


僕なりの優しさだったと
ひょっこり首をかしげながら

2007年10月05日(金)
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