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  ぱすてぃす〜後朝 -18禁-

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  マラスキーノ 後日談
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  らすてぃ・ねーる-12話
 ※4 に、テンカカ以外の絡みあり
  任務に出た二人
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  恋女   後顧   おまけ
  ストーカー被害に合うテンゾウと
  嫉妬な先輩


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  イタチ里抜けのとき

  百年の恵み
  長期任務の小隊長を命じられるテン
  百年の孤独-6話
  初めての遠距離恋愛なテンカカ
  たーにんぐ・ぽいんと-8話
    テンゾウの帰還

   香る珈琲、そして恋 -キリリク話-
 四代目とカカシの絆を知って、
 テンゾウは……

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 【2部】 ぶらっく・るしあん-4話
 【3部】 ぶれいぶ・ぶる7話
 【Epilogue】 そして、恋

  あふろでぃーて-5話 -キリリク話-
 くるみ


  a`la carte
  -暗部なテンカカとヤマカカの間話-

  春霞-4話
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  ちぇい・べっく
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4話
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  久しぶりのカカシとの任務
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  波の国任務の少しあと
  てぃままん-3話
  波の国と中忍試験の間

  月読-5話 -キリリク話-
 月読の術に倒れたカカシを心配しつつ、
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  月読 後日談


  テキーラサンライズ−19話
 ぎむれっと前日譚


   ぎむれっと-40話 -キリリク話
  かっこいいカカシと、
  惚れ直すテンゾウ
 ※途中、18禁あり
  プロローグ  本編  エピローグ



  La recommandation
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-ヤマカカな話-

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2009年02月22日(日)
カカシとテン子のバレンタインデイ 3)


「あ! ミスター・フィールド」
甲高い声にギクリとする。

そう、騒動は今回の依頼主の部下とともにやってきた。
先ほど、伝言を頼んだ部下と、もう一人年嵩らしいのと二人。
二人とも柔らかそうな金髪を七三に分けている。まるで双子のようだ。
「晩餐の席を用意していますので」
「え〜」とカカシさんが言う。
いくらなんでも、え〜、はないだろうと思うが、今度は若い方が言葉を続ける。
「あぁ、よかった。あのままお帰しして、散々怒られてしまいました。どうぞ、招待をお受けください」
そしてボクを見て目を丸くした後、また赤面する。

「君たちは?」
「あ。申し遅れました」
年嵩のほうが、服の胸元からなにやら取り出し、そこから小さな紙っぺらを一枚引き抜く。
「私、秘書室の」
うやうやしく差し出された紙っぺらを、先輩は座ったまま、それでも姿勢を正して両手で受け取った。
「すみませんね。自分、ネームカードを持つ習慣がないもので」
「あ、いえ、お構いなく」
「でもね。見ての通り、妻は着替えてしまいましたし、ご招待いただくほどのことは何も」
「お召し物のことでしたら、お気遣いなく。レストランではなく、部屋のダイニングルームに料理を運ばせますので」
ふうん、そんな部屋もあるのか、とボクはぼんやりと想像する。
ボクらの部屋もかなり広いが、そこにさらにダイニングルームの付いた部屋があるのだろう。
「お連れしなければ、私が怒られてしまいます」
若い方の秘書くんは、涙目になっている
「ま、じゃ、仕方ないですか」
先輩がボクを見る。ボクはどっちみち「テン子」だ。先輩とレストランディナーをとろうと、社長殿のプライベートダイニングルームでディナーをとろうと、そう変わりはない。頷くと、先輩が立ち上がった。
「君が怒られるんじゃ、仕方がないね」
「はい! ありがとうございます」
「じゃ、案内してくれるかな?」
と、名前を確かめようとネームカードを取り出そうとした先輩に、
「自分のことは、アーと読んでください。こちらはハー」
「アーさんとハーさん?」
「はい。社長専属の秘書は、アーからツェットまで26名おります。ツェー以降の24名は私設秘書で、私アーと、ベーが公式、つまり秘書室所属となっております」
えーっと、とボクは事前調査の資料を脳内でめくった。
そういえば、そんな記述があった。今回の任務には余り関係がないと思ったので、失念していたが。
なぜ、アーからツェットなのか、その理由も書かれていた。なんでも、優秀な26人の部下を持つ偉大な軍人の生涯を描いた名作があるのだそうだ。それに、ちなんだとか。
しかし、軍隊ならフォーマンセルで6小隊に中隊長2人と考えれば普通の編隊だが、いくらなんでも秘書にするには多すぎないか? とボクは思ったものだ。
「こちらです」

案内されたのは、最上階にあるプレミアムスイートルーム。
ボクらの部屋のあるフロアもそうだったが、特別なキーがないとエレベータから降りられない仕組みになっている。
30畳はあろうかというダイニングルームというよりは、体育館ですか? みたいな部屋の壁際には、ズラリと秘書殿が並んでいた。
髪の色は黒から茶、金髪、カカシさんのような銀髪までさまざまだが、みなきっちりと七三に分けていて、一見すると別人には見えない。
これじゃ○ロイカじゃなくて、パ○リロだ……とくすくす笑いながらカカシさんが呟いたのだが、よく聞き取れなかった。

「ようこそ」
ラフなシャツとパンツ姿ながら、素材の高級さがしっかりと感じられる服装の依頼主が、手を差し出す。
エスコートしてくれようとしているのだろうが、あいにく、こちらは慣れていない。救いを求めてカカシさんを見ると、笑みを返された。
「ご招待、ありがとうございます」
カカシさんは一歩踏み出すと、依頼主の手をとり握手をする。やんわりした拒絶を察したのか、依頼主もあっさりときびすを返すと、テーブルに向かった。
豪奢なダイニングテープルには、しかし三名分のセットがあるだけだ。
秘書君たちは、ただここにはべっているだけなのか? と思うまもなく、3人が椅子を引く。
そして、着席するや、また別の3人がうやうやしくドリンクメニューを掲げてくる。
「いえ、お任せします。いたって無粋なもので、こんなものを見せられても目が眩むばかりで」
傍らに立つアー君に、依頼主が何やら告げる。「かしこまりました」と答えたアー君が部下に指示を出す。
食前酒が運ばれ、オードブルが運ばれ、そのたびごとに3人がワンセットで動く。
そして、たとえば着慣れぬワンピース姿のボクがナフキンを膝からすべり落としてしまうと、サッと横から手が伸びて拾い上げられ、別の手が新しいナフキンを手渡してくれる。
なるほどこれなら、26名ぐらい秘書が必要かもしれないとボクは思った。

フルコースは、確かに吟味された食材を丁寧に調理したことが感じられおいしかった。
ワインも、料理に合わせて選ばれたのだろう。
交わされる会話は、最初こそ新社屋のデザインがどうの、というそれらしいものだったが、やがて経済全般に移り、依頼主の趣味だという読書の話になり、なぜかイチャパラの話題で盛り上がった。
茶番は茶番なりに、和やかで贅沢な晩餐だ。それだけに、疑問だった。
養父急死の報は、入っていないのだろうか?

食後のブランデーを飲みながら、なんとなく居心地の悪さを覚えていると、部屋の電話のベルが鳴った。
アー君が動く。
「今、大事な商談中なので、くれぐれも取り次がないようにと……は? 緊急事態? わかりました」
失礼しますとアー君はダイニングルームから消えた。別室で電話をとったのだろう。
だが、その声はボクらにはつつぬけだ。
「は? 専務が? 急死?! はい。はい、わかりました。何人かそちらに向かわせます」
別室からもどったアー君が依頼主に耳打ちする。
「わかった。手配を」
アー君は壁際でかしこまっていた中から、5人ほどを選ぶと別室に消えた。
「何か?」
カカシ先輩が尋ねる。
「いえ。身内のことですので。お気になさらず」
そして、ニッコリと微笑む。あ〜、このひと、人を呪わば穴二つ掘れ、って言葉知ってるかな、となんとなく思った。

「お取り込みのようですから、我々も失礼したほうが」
「まだ、グラスが空いていないではないですか。それに、偉大なるミスター・ジライヤの三作目がいつ出版になるか、そのお話が残っています」
なんてやっていると、リンゴンリンゴンと呼び鈴が鳴った。
アー君の指示で、一人がダイニングルームを出た。
何やら押し問答をしている様子が伝わってくる。大事なお客様と会食中です、という秘書君の声と、どけ、だの、この非常時に、とか、若造はどこだ、といった声が重なって聞こえる。
それは、忍ではない依頼主の耳にも届くほどの罵声だった。

依頼主は、カカシさんを見て頷くと、立ち上がった。

「何事だ」と言いながら、ダイニングルームを出る。
廊下で訪問者たちが、わめいている。
「我々からの電話まで取り次がないようにホテルに指示するとは、どういうことだ」
「社長になったからと言って、増長するには早すぎないか?」
どうやら、アー君の指示で専務宅に応援に向かう予定でロビーに降りた部下を脅すかして、ここまで上がってきたらしい、と考え、「え?」と思う。
この階で降りるためのエレベータの鍵を、部下のだれかはもっていたのだろうか?
降りるだけなら、鍵はいらないのだ。上がってくるときは、アー君に連絡するとか、それなり顔を覚えているホテルのフロントに依頼すればいい話だ。
どうやら、この騒動、依頼主が仕組んだことのようだ、とボクは考える。
そういえば、先ほどの意味深な頷き……。

「どうせ、商談などいうのは嘘っぱち」
依頼主を押しのけてダイニングルームに入ってきたのは、3人。
先ほど、ターゲットに従っていたなかに見た顔だ。
思わずボクは立ち上がり、それから自分の格好に思い至り、あわてて腰を下ろした。
そんなボクを見て3人が「あ」と立ちすくむ。
「失礼。ミセス・フィールド。びっくりされましたよね」
“ミセス・フィールド”が自分をさすと言う事に一瞬気づかなかったボクの反応が遅れる。まあ、きっと怯えているように映ったことだろう。
「ご存知かと思いますが、新社屋のデザインを依頼しているミスター・フィールドと、その奥様です。前向きに検討してくださるというお言葉をいただいたので、ゆっくりと今後のことをお話していたところを……あなたたちは」
深くため息をつく依頼主に同調するように、カカシさんはブランデーグラスを置くとゆっくりと立ち上がった。
「何やらお取り込みのようですので、これで失礼いたします」
そう言って差し出された手に、なぜかボクは自然に自分の手を委ねていた。
「詳細は、また追って」
あくまでもにこやかに、しかし、明らかに気分を害している風を演出しつつ、カカシさんが動く。
いきり立っていた男たちが、通路を譲る。
「失礼します」
冷たい笑顔で慇懃に礼をしたカカシさんに手をひかれるように、ボクも部屋を後にした。



2009年02月20日(金)
カカシとテン子のバレンタインデイ 2)


ここからが、本来の仕事だ。

依頼主とターゲットの水面下での確執は、実は身近な人間には知られている。
だから、万が一にも依頼主が疑われるような状況で任務を遂行殺するわけにはいかないのだ。
そしてターゲットが、最近、原因不明の眩暈に悩まされていたことも事実だ。アルコールとの関係はわからないが、己の養子が社長の席に付いためでたいお披露目の席、多少、飲みすぎて倒れても「ああ、また」と思われる。
同時に、そういう席だからこそ、あまり事を荒立てたくない、という心理も働く。
その隙を、ボクらは突く。
とまあ、こういったダンドリだった。

依頼主の意向とは少々異なるが、最終的につじつまが合えばよし。

いくら極悪非道の輩であっても、ひと一人を葬るのになんのためらいも痛痒も覚えない、というわけでは実はない。
それに今回は、依頼主にとっては憎悪すべき相手だったろうが、それなり彼を尊敬し慕っている部下もいるのだ。
だから、できれば周囲の嘆きは少ないほうがいい。
明らかに殺されたとわかる方法ではなく、病死に見える方法を選んだ。
具体的な策は……まあ、そこまで詳細を明かす必要もないだろう。

屋敷に運び込まれたターゲットは二階の寝室に寝かされた。
執事らしい老齢の男が側についていたが、医師の到着の報に部屋を離れた。
ボクらは窓から侵入し、無事、事を成し、すぐに退去する。
木分身のボクが、庭木と一体化して様子を伺っていると、かかりつけの医者が部屋に入ってきた。
ターゲットに声をかけ、そこはさすが医者だ、すぐに異変に気づく。
脈をとり、瞳孔を確かめ、そして腕時計を見た、らしい。
「残念ながら」
一瞬の沈黙の後、ざわつきが大きくなる。
そんな、急に、といった声がそこここであがっているようだ。
うめくような「ご主人さま」という声は、先ほどの執事のものだろう。
「このところ血圧が、かなりあがっておいででしたから」
医師の言葉に、ボクらは顔を見合わせ頷いた。
とりあえず、会場にもどり分身と入れ替わり、依頼主に報告をしなくてはならない。
ボクらは来た道を、ホテルへと戻った。

当然のことながら、依頼主はおおぜいの招待客と挨拶を交わし、談笑し、合間に部下からの報告に頷き、と忙しくしていた。
部下と思われる男に、「失礼ながら、予定があるので中途退席する」旨を伝言した。
「ご依頼の件について、前向きに検討させていただきます、と必ずお伝えください」
これが任務完了の合言葉だった。
下っ端らしい部下は、生真面目な様子で「かしこまりました」と答え、しばしカカシさんに見蕩れ、それからボクを見て赤面し、礼をした。

「さて、と。仕事も終わったし、デートしようね〜」

実はボクら、というかカカシさんは、このホテルに部屋を取っていた。
ご丁寧に、予約名はカーク・フェルド、ちなみにファミリー・ネームのほうは畑を意味する異国語だそうだ。
パーティで名乗ったフィールドも、同様に畑を意味する別の異国語らしい。
よくそんなことを知っているものだと関心する。
そして、なぜか同宿者の性別が女性になっていて、ボクはげんなりしたのだ。
「だって、テン子になってもらわなくちゃならないんだから」
とカカシさんは言ったが、部屋の出入りをいちいちチェックされているわけではないのだから、何も女性でなくても、と思った。思ったが、言えなかった。
これは任務上、必要なことだから。そしてツーマンセルとはいえ、指揮権はカカシさんにある。

そして、ボクらは部屋――ベッドルームとリビングルームが分かれていて、トイレもベッドルーム側とリビングルーム側に2つあるような、はっきり言って、カカシさんやボクが寝起きする木の葉の里の住まいよりもはるかに広いスイートルームに、戻った。

とりあえず、カカシさんはご機嫌だ。おそらくボクは、テンゾウにはもどれない……ため息が出そうだ。
「この服は着替えたいんですが」
おそるおそる訴えると、あっさりと「そうだね〜。窮屈だもんね、こういう服」とカカシさんが答える。
ほっとして、まずは動きにくいことこのうえなし、の高いヒールの靴を脱いだ。
はぁ、やれやれだ。そして、首の後ろの止め具を外そうと格闘している目の前に、ピランと……。
「はい、コレ」
ふわふわしたシフォン地のワンピースだ。青みがかったグリーンで、裾にプリーツが入っている。
「また、買ったんですか」
「上品なデザインでしょ?」
ボクの質問をはぐらかし、カカシさんが胸元のリボンを指先でなぞる。
「これがポイントなんだよね」
ボクは、とうとうため息をついた。チラとカカシさんが上目遣いにボクを見る。
手を伸ばすと「へ?」と目を丸くした。
「着替えますから」
「どうしちゃったの? テン」
「どうもしてません、カカシさんと言い合っても無駄なだけと学びましたから」

不本意ではあるが、カカシさんが喜んでくれるならかまわない。
気のめいる任務の後の、お遊びにだって、喜んで付き合います、はい。

「そしたらね、これ」
差し出されたのは、ブーツ。ただし、靴底はペッタンとしていて、歩き安そうだ。
「このほうが楽だと思うんだ」

で、ボクはふわふわしたワンピースに、毛足の長い動物の皮を使ったらしいショートブーツ姿だ。膝の辺りはスースーするが足元が暖かいので、寒くはなかった。
もしかして、気を遣ってくれたのかな、なんて思う。
もっとも「かっわいい」なんて笑う先輩の審美眼は、絶対におかしいと断言したい。
だが、今日のボクはひと味違っていた。
さっきまで着ていたスーツを、もっさりした忍服のアンダーにきがえようとした先輩を阻止するのに成功したのだ。
「ね? 先輩、可愛い女性につりあうのは、ステキな男性ですよね? それが、もっさい任服姿じゃ、女性の相手には俺がふさわしい、なんて勘違いやろうがハイエナのように寄ってきますよ」
そのひとことで、先輩は脱ぎかけたスーツに再び袖を通した。

そしてボクらは、ホテルのティールームに赴いた。
中途半端な時間だったから、レストランはランチタイムとディナータイムの狭間で閉まっていたのだ。
今日のお勧めというティータイムセットを頼むと、ポットいっぱいの紅茶に、スコーンや一口で食べられるように切り分けられたサンドイッチが付いてきた。
そして、小皿にはサイコロみたいな、しかしサイコロよりはよほど大きい、茶色い塊が4つほど。
「チョコレート?」
ボクの言葉に先輩が「バレンタインデイだ」と呟いた。
そういえば、やたらとカップルが目に付くと思ったのだ。
甘いもの嫌いのカカシさんは、チョコレートを好まない。だから、両方が里にいるときのこの日は飲みに行く、というのが定番だったのだが。今回の任務でドタバタしていて、うっかりしていた。
「そう言えば、付き合い始めたのって、今ぐらいの時期だったんだよね」
ゆったりと沈む身体を受け止めてくれるすわり心地のいいソファに埋もれるようにして、カカシさんが視線を飛ばした。
「そうでしたね」
目を伏せると視界に自分の膝小僧が見えたので、ボクはあわてて視線を上げた。
暮れていく窓の外、ホテルの中庭にイルミネーションが灯る。綺麗だ。
そこそこ長い付き合いだから、いろいろなことがあった。きっと、これからもいろいろなことがあるのだろうな、とボクはぼんやり思う。

「これからも、よろしくね」
カカシさんが笑った。ほれぼれするほど男前な笑顔だ。
「こちらこそ」
大好きですよ、先輩。ずっと変わらずに。

この平和なひとときのあとに待ち受けていた騒動を、だれが予感できただろうか。
何も知らず、ボクらは視線を絡ませ、微笑みあったのだった。



2009年02月15日(日)
カカシとテン子のバレンタインデイ 1)


「おまたせ!」
銀色の前髪で左目を隠したカカシさんがボクの前に立つ。
いつもの任務服ではなく、私服。それも「デザイナーズブランドのスーツ」と呼ばれる異国風の姿だ。
細身に仕立てられたシルバーグレーのそれは、光の加減で時々青みがかった光沢を見せる。
かっこいい……思わずため息をつくボクに、差し出された手。
「ホラ。オレたちはカップルなんだから」
睨まれて、ボクは差し出された手に仕方なく自分の手を重ねる。
「さ、テン子。行くよ」
ついでにボクの服装は、チャコールグレーのシルクのドレス。背中が大きくあいているが、前は胸元から喉までレースがあしらわれている。カカシさん曰く、そのレース越しに透けて見える肌が色っぽい、んだそうだ。
そんなこと、知るか、と思う。思うが言えない。

ここは火の国のとある街の、とあるホテルのロビー。
本日、この由緒正しいホテルの宴会場、欅の間において、世界規模で事業展開する「とある大企業」の新社長就任のパーティーが開かれることになっている。
そしてボクたちは、そこに参加する要人の暗殺を依頼された。
いや正確には依頼されたのはカカシさんで、このパーティには夫婦での出席が義務づけられているため、相方に選ばれたのがボク。
絶対、カカシさんが女性役のほうがいいと思うのに、そして依頼主もそれを期待してカカシさんを指名したのだろうに、なにゆえ、ボクがテン子なのだろうか?
ついでに説明すると、以前、任務の必要上、ボクがカカシさんの恋人役の女性に変化したときの名前がテン子だ。もちろん名付け親はカカシさん。
なぜだかテン子を気に入ったカカシさんは、その後、プライベートでもちょくちょくボクをテン子に変化させて遊んでいる。
だからと言って、ボクが喜んでそのお遊びに付き合っているとは思わないでもらいたい。
仕方なく、時には嵌められて、ボクは心ならずもテン子役を務めているのだ。
だが、今日は任務だ。仕方なく、などと言っている場合ではない。

何しろ、おめでたい席での血なまぐさい任務。
そして依頼主こそが、新しく就任する社長なのだ。そしてターゲットは彼の養父にして、この会社の役員でもある。
「その場では、死んだとはわからないようにしてほしい」
つまり、持病かなにかで倒れたふうを装って、会場から外に連れ出せ、と。
彼とターゲットの因縁を聞けば、まあ、無理も無いと思うが、その辺は虐待も絡んだ、相当、えげつない話になるので省略する。

会場はきらびやかに着飾った男女と、接待役に駆り出された社員たちで、かなり混雑していた。
前社長からの挨拶に、新社長の挨拶、そして乾杯。
ボクらもシャンパングラスを掲げて乾杯する。
ひじまであるシルクの手袋をはめているボクは、細いグラスの脚がうまく摘めずひっくり返しそうになったが、まずは滞りなく、会は進行していた。
しばし歓談の時間となり、ボクらも適当に皿にオードブルを取り分ける。食べはしないが。
「やあ、これはこれは」
新社長自らがボクらのところにやってくる。
かれを囲む人の輪も、いっしょについてくる。
「来て下さった、ということは、今回の依頼を受けてくださると?」
カカシさんは、新社長が計画している新社屋建設に際して、デザインを依頼された建築士、ということになっているのだ。
「いえ、まだ検討中です」
これだけを聞けば、カカシさんがデザインを請け負うかどうか、まだ検討していると聞こえるが、これは符丁だ。
まだ、準備は整っていません、つまりターゲットとはまだ直接、接触はしていません、という意味だ。
ターゲットは少し離れたところ、前社長を囲む輪のなかにいるのは確認済み。
ボクらがそちらを見ると、ちょうどこちらを見たターゲットと目があった。
「ああ。専務。専務からもぜひ、お願いしてください」
依頼主はさりげなく、養父を呼ぶ。
年齢の割りに細身で鍛えられた身体をしているのがわかった。若い頃はかなりの剣の遣い手だったと、調査資料にはあった。
「おお。建築士のえっと……」
「ミスター・フィールドですよ、専務」
「そうだそうだ。異国の方のお名前はなかなか覚えられなくて」
で、? とその目がボクを見た。爬虫類に皮膚を舐められたみたいな悪寒が一瞬走る。
あの三忍のひとりと、似通ったタイプなんだ、と思う。
「妻のテッンッ……ゲホ」
ボクは、ヒールでカカシさんの足を踏む。
「ティエン? おお、東洋のお方か?」
勝手に勘違いしてくれて助かった。
「ご主人も、大層、見目麗しいが、奥方も、若き日のジーン・セバーグを彷彿とさせる美しさだ」
どうも、とボクは愛想よく微笑む。
「グラスが空ではないですか」
専務はトレーをかかげているボーイを呼び、ボクらに新しい飲み物を手渡す。
「では、改めてお近づきのしるしに」
和やかにグラスをかかげるボクら。
「あのデザイン画はすばらしかった。引き受けてもらえないのは、何か、金銭的な点で問題が?」
「いえ。そうではなく、建設予定地の地盤が当初、お聞きしていたのと多少、様相が異なっておりまして」
などと、会話しながらボクらはさりげなく彼を誘導して、人の視線から外れる、けれど決して物陰などではない一角で立ち止まった。
「地盤が?」
「地盤の問題は、強度に関わりますので」
いいながら、カカシさんが前髪をかきあげ写輪眼を露にする。
ぎゅんとそれが回り、ターゲットがよろめいた。
「専務? いかがされました?」
グラスを落としガックリ膝を付く彼に、しかし、意外とひとは気づかない。
先ほど飲み物をサーブしてくれたのとは別のボーイが、「大丈夫ですか?」と寄ってきた。
「めまいでも起こしたようです。外のソファーで休ませてもらってよろしいでしょうか?」
ボクらの関係など知らぬ彼は、身内とでも思ったのだろう。
「それはけっこうですが」と言ってから「医者を呼びましょうか?」と言った。
「いえ。妻は医療の心得がありますので」
口からでまかせもいいところだ。いや、嘘は言っていないか。忍はみな、ひととおりの心得はあるのだから。
「ただ、その。社長に一時、退席する旨をお伝えいただけますか?」
「かしこまりました」
ボクらは、宴会で酔っ払った親戚の伯父さんを介抱する親族よろしく、両脇からターゲットを抱えて宴会場を出た。
「大丈夫ですか?」
などと言いながら、カカシさんはターゲットをソファに座らせる。
ほどなくして、専務の側近らしき男性ひとりと、その部下らしいのが数人やってきた。
「もうしわけございません。専務もお年を召して、めっきりお酒に弱くなられたもので」
「楽しくお話されていたのですが」
そこでボクがしかつめらしい顔で付け加える。
「ただの貧血だとは思いますが、念のためかかりつけのお医者様に見ていただいたほうが」
「ありがとうございます」
言って「おい」と部下を振り返る。
倒れた上司を抱えて立ち去る彼らを見送って、カカシ先輩は影分身、ボクは木分身を置いてあとを追った。