index about update mail

 ☆ この日記は作者、出版社ともに非公認の二次創作物です。
 ☆ 閲覧される場合は、「about」をご覧ください。また、同好の方以外には、非公開となっております。
   リンクを貼ってくださる場合は、「about」のリンクについてをご参照ください。
 ☆ キリバンは特に定めていませんが、それらしい数字に当たった方で何かリクエストがあれば、上記バーのmailから、お気軽にご連絡ください。


 notice


  ◆更新◆
   イエイガー・マイスター    現在2)


    *拍手返信*
   返信
  

 2015/10/23の拍手の方へ
  4並び踏みのご報告、謝謝
  もし、まだこちらに
  来ていただけているのなら
  キリバンリクエストを
  お待ちしています


 最近の更新

 イエイガーマイスター
 現在 2) 20/10/21 New!
 現在 1) 20/10/21
 過去 4) 20/10/21
 過去 3) 20/10/21
 過去 2) 20/10/4
 過去 1) 20/9/15
 プロローグ 20/9/1

 お婿にいった四+カカのお話
 「ぶる〜む〜ん」は
 「無月の浪」さまサイトで
 公開中。
 「無月の浪」さまはこちら



MENU


  hors-d'oeuvre
 -過去の拍手お礼SS-
  春雨-2話
  桜宵-4話
  テン子シリーズ
  カカシとテン子のど〜でもいいヒトコマ


  a sirial -暗部なテンカカ話-

  あんしゃんて-9話
  二人の出会い

  びとぅぃーん・ざ・しーつ-12話
  二人の“初めて”または物語の始まり
  ぱすてぃす〜前章
-18禁-
  ぱすてぃす
  びとぅーん・ざ・しーつのその後
  ぱすてぃす〜後朝 -18禁-

  猩々   おまけ -18禁-
  モジモジしている二人の一歩
  マラスキーノ 後日談
 ホワイトデー話

  らすてぃ・ねーる-12話
 ※4 に、テンカカ以外の絡みあり
  任務に出た二人
  カカシの過去を垣間見る

  恋女   後顧   おまけ
  ストーカー被害に合うテンゾウと
  嫉妬な先輩


  九夜十日
  イタチ里抜けのとき

  百年の恵み
  長期任務の小隊長を命じられるテン
  百年の孤独-6話
  初めての遠距離恋愛なテンカカ
  たーにんぐ・ぽいんと-8話
    テンゾウの帰還

   香る珈琲、そして恋 -キリリク話-
 四代目とカカシの絆を知って、
 テンゾウは……

 【1部】 だーてぃ・まざー-4話
 【2部】 ぶらっく・るしあん-4話
 【3部】 ぶれいぶ・ぶる7話
 【Epilogue】 そして、恋

  あふろでぃーて-5話 -キリリク話-
 くるみ


  a`la carte
  -暗部なテンカカとヤマカカの間話-

  春霞-4話
  暗部を離れたカカシとテンゾウ
  ちぇい・べっく
 -可愛いお嬢さん-
4話
  ※2,3に、ごく軽くテンゾウ女体変化あり
  久しぶりのカカシとの任務
  聖牛の酒-3話
  波の国任務の少しあと
  てぃままん-3話
  波の国と中忍試験の間

  月読-5話 -キリリク話-
 月読の術に倒れたカカシを心配しつつ、
 イルカ先生の存在が気になるテンゾウ

  月読 後日談


  テキーラサンライズ−19話
 ぎむれっと前日譚


   ぎむれっと-40話 -キリリク話
  かっこいいカカシと、
  惚れ直すテンゾウ
 ※途中、18禁あり
  プロローグ  本編  エピローグ



  La recommandation
 du chef
-ヤマカカな話-

  再会-Reunion-  第二部





拍手お返事は上記返信にて
 
あぺりてぃふ
ごはん

  何かありましたら下記から。
  個別お返事をご希望の場合はアドレス
  を明記ください。


ごはんにメイル


2007年10月28日(日)
てぃままん 3 完結


「7班の様子はどうですか?」
ようやく互いの息も整い、熱も引いてきた頃、テンゾウに尋ねられた。
「……相変らずよ〜」
答えてカカシは寝返りを打ち、腹ばいになると先ほど飲み残したビールに手を伸ばす。
「ぬるくなってるでしょう?」
「ん、いいの」
喉を鳴らしてぬるい液体を嚥下する。
まるで己の苦い思いを飲み下しているようだとカカシは思う。
「まったくあいつら、任務をなんだと思ってるんだか」
どことなく甘いテンゾウの体臭が心地よくて、つい気が緩んでしまうのか、飲み下しきれなかった愚痴がこぼれた。
「Dランク任務では、物足りないんでしょう?」
「やりがいがないとか手ごたえがほしいとか、いろいろ言ってるけど、要は、刺激がほしいってことでしょ」
下忍になるや否や前線に送り込まれた二人には、今の平和な時代の下忍たちの不満や愚痴がわかる反面、苦笑せずにはいられない。
「ま、近いうちにご希望どおり、刺激的な経験をすることになるから」
空になった缶を枕元に置くと、カカシは仰向けに転がった。

「近いうち?」
天井を睨んでいると、隣でテンゾウが呟くのが聞こえた。
「……中忍……試験、ですか?」
さすが、オレの後輩、読みが的確、と思いながら、カカシは「そ」と、あっさり答える。
「まさか」
「そ。その、まさか」
「そんなアカデミーを卒業したばかりの……」
「要件は満たしているよ」
本気なんですか? と問いたげな気配だけが伝わってきた。
本気ですよ、とカカシはほくそえむ。
「高いランクの任務を受けたければ、依頼されるだけの実力を示しなさい、ってこと」
いくら言っても理屈ではねじ伏せることができない、それは仕方がない。ガキとはそうしたものだ。
ならば、実地に経験しろ、と、カカシは思う。
「案外、いいところまでいくんじゃないか、と読んでるんだけどね」
「そこまで、買ってますか」
「まあね」
つい照れたような笑みがこぼれてしまう。
おそらくその意味を、テンゾウはわかってしまうだろう。
どれだけカカシが部下を信頼し、慈しんでいるか。

果たして、テンゾウはほんの少し7班の3人に嫉妬していた。
このひとが上忍師につく、ということがどれほどの意味をもっているのか。彼らが知るのは、きっともっと大人になってからだ。
今は何も知らず、ギャンギャン言っている。まったく子どもというものは……。
「でも、一次試験はともかく、二次試験は生き死にが付きまといますよ」
「だからこそ、なんじゃない」
とカカシはテンゾウの懸念を一蹴した。

中忍試験の二次試験で命を落とした、あるいは命はとりとめたが忍としては再起不能になったという者は、決して少なくない。そして、それを承知の上で、本人たちも試験に臨む。
だが、いくら要件を満たしていると言っても、今年アカデミーを卒業したばかりの者たちを推薦し、もし彼らに何かあったら。まず推薦した上忍師が、非難される。
それ以前に、カカシ自身がどれほどつらい思いをするか。
「ま、見ていてよ」
腹を括ったのが見て取れるカカシの口調に、テンゾウは「楽しみにしています」としか答えられなかった。
「もっとも、ちゃんと試験を受けられるかどうかも、あいつらにかかってるんだけどね」
くすくすと楽しそうに笑うカカシに、テンゾウはため息をついた。
このひとは、こういうひとだった。
上忍師になっても、変わらない。

――とすると。
と、テンゾウは首を傾げる。
カカシの不安は、部下の行く末とは別のところにあるのだろうか。

やはり何か……。
考えを巡らせようとして、やめる。
もしカカシの勘が当たったら、考えてどうにかなるようなものでもないのだろう。
テンゾウは、半身を起こしてカカシを覗き込んだ。
なに? とでも言うように目を細めたカカシを抱きしめる。
応えるようにカカシの腕がテンゾウの背を抱き、緩く下肢が開いた。
まだ熱を残した襞を柔らかく蹂躙しながら、のたうち捩れるカカシの身体をしっかりと捕まえる。

――ボクは、あなたを残して逝ったりしませんから。

言葉にはしないテンゾウの誓いは、実際には叶わないかもしれない願いでもある。
だから、祈る。



「あ〜、のど渇いた」
散々、喘いだ照れ隠しにか、カカシがあてつけがましく言う。
「ああ、そうだ」
テンゾウは立ち上がって、冷蔵庫を開いた。
遠征から戻った仲間から、譲り受けた瓶の封を切り、中身をグラスに注ぐ。

「はい、どうぞ。冷えてます」
暗紫色のあわ立つ液体をたたえたグラスにカカシの手が伸びる。
「カシスのビール?」
匂いだけであてて、カカシが口をつけた。
「甘いですか?」
「ん、でも、おいしい」

目にいいんだそうですよ、という言葉は言わないでおく。
こんなことは気休めにしか過ぎないのだから。
ひとり孤独な道を究めようとするカカシを、見ているしか術のない恋人の自己満足にしか過ぎないのだから。

「そういえば、さ」
ひと息で空になったグラスを弄びながら、カカシが問う。
「テンゾウは、最初、初代さまの技って、どうやって覚えたの?」
言ってから、「今さらな質問で悪いんだけどね」とカカシが笑う。
問われれば、いままでだって答えていただろう。ただ、問われなかっただけで。
いや、そういうやりとりを忍同士は普通、しないものだ。
どうやって術をものにしたか、というのは、その忍の存在理由にも関わってくる機密事項とも言えるからだ。
なかには血継限界とまでは言わずとも、その一家にだけ伝わる秘術などもある。
実際、今年のルーキーにも、そうした家の息女が複数いる。
だから、いま、このタイミングでカカシが尋ねてきたというのは、明らかにサスケを意識してのことだろう。
いかにして、サスケに己が術を伝えるか、カカシはそれを考えているのだろう。

「ボクの場合は……半ば自発的に生じてきたんです」
発作を起こして入院してしばらくしたころ。
テンゾウ自身の意志とはまったく別の次元で、チャクラが動いた。
制御できないそれは、ただの暴走でしかなく、テンゾウは一時、チャクラそのものを抑制する術を施された。
「自分の意志で繰れるようにするために、古い文献を当たりました。あとは、初代さまの術を実際に見たことのある……三代目や綱手さまから話を聞きました」
「ああ、そうか、あのころ綱手さま、里に戻っていたんだっけ? 少しの間」
――そう、ボクの治療のために。三代目が、賭博の負債を支払って綱手さまを呼び戻した。
それも、私財を投げ打ったのだとテンゾウが知ったのは、ずっとあとになってからのことだ。
「プロフェッサーと呼ばれた三代目がいたのも、幸いしたんだろうね」
そうか……呟きながら、カカシは難しい顔をした。
うちは一族の術に関する資料は、アカデミーの書庫にはほとんど収められていない。
おそらくうちは一族の土地のどこかに、隠されているのだろう。
文献がなければ、いかな三代目といえども、手を貸すことは出来ない。

そうやって、いつも部下のことばかり気にするカカシを、テンゾウは見つめる。
かつては自分がその位置にいたこともあるのだろうが、今はもう、カカシを煩わせることはない。
そんな自分が誇らしくもあり、少し寂しくもある。

「ビール、お変わりいかがですか?」
ん? とカカシはテンゾウを見た。
「今はいい」
「そうですか」と半ば、失望しながらテンゾウは答える。

「カシスやブルーベリーに含まれるアントシアニンというポリフェノールの効果は、摂取してから4時間後から発現し24時間後に消失するそうだから、一度にたくさんとるよりは、毎日、摂取したほうがいいらしいね〜」
ひとを食ったような口調に、テンゾウは「うわ!」と内心で声をあげた。
気づいていたんですか。
「だから、明日、また飲むよ。それよりさ〜」
「はい」
「生のブルーベリーが食べたいなぁ」
「はあ、生の……」
木の葉の里では、なかなか手に入らないうえ、その分高価な果物の名を告げられて、テンゾウは困惑する。
これは、いやがらせなのだろうか?
それとも、カカシ特有の甘えという名のわがままなのだろうか?
それとも……ただの天然?

何年付き合っても、やっぱり、このひとはつかみ所がない、とテンゾウはため息をついた。
確かなのは、何年付き合っても頭が上がらないということだけだ。


<了>


ティママン(カシスビール)
オーク製の樽で2年間ほど寝かされた後、ようやく市場に出されるビールは、果実酒のような味わい。ビールというよりはワインを思わせる。



2007年10月27日(土)
てぃままん 2


「なんですか?」
あくまでも冷静な声で答えるテンゾウの眼差しは、冷徹な観察者のままだ。
カカシが、時にこの視線に欲情することをテンゾウは知っている。
戦いの場では決して屈することのない男が、唯一、膝を折り頭を垂れるごとく、従う。
決してカカシを従えたいわけではない。でも、すべてを委ね明け渡してくれることが、テンゾウは嬉しい。

それとは別に――ここしばらくのカカシは少し、おかしい。
もともと快楽には正直な男だが、こんなふうに夜毎求めてくるようなことはなかった。
たまの逢瀬に貪欲になるというのならわかる。
しかし、決して短くはない二人の付き合いのなかでも例の少ない、穏やかな安定した時間を過ごしているのに、だ。

――たぶん、何か……近いうちに何か……。
おそらくカカシ本人にも説明のつかない、言ってみれば予感めいた感覚のせいなのだろう。
だから、自分でも「変」と認め、不安なのかという問いにも答をはぐらかしはしたが、否定しなかった。
実際、このところカカシは下忍指導とその任務監督の合間を縫って、ひそかに写輪眼のさらなる可能性を探っているらしい。
もちろん、部下のうちはサスケが、未熟ながら写輪眼を開眼したことと関係しているのだろう。
だが、それだけがカカシを駆り立てているとは、思えない。

サスケが写輪眼を開眼したのは、戦闘のさなか、うずまきナルトを守ろうとしてのことと聞く。
そしてテンゾウは、思い出した。
己の写輪眼の由来について堅く口を閉ざしているカカシが、以前、ポロリと口にした言葉。
写輪眼などなくてもカカシの能力は頭抜けている。
そんなものに頼らずとも、充分、上忍として通用するのになぜ、と問いかけた、それが答えだった。
「オビトは、オレを守ろうとしたんだ。この眼は、そういう意志を継ぐ眼なんだと思う」

日向一族の白眼と、源流は同じとされるのに開眼の困難な写輪眼の鍵がそこにあるのだとしたら。
カカシは、その鍵を探ろうとしているのかもしれない。
おそらくは、写輪眼の正統なる持ち主たるサスケのために。

そう考えて、テンゾウは再び、首をかしげる。ほんとうに、それだけなのだろうか。
――もしかしたら。

己の不安を打ち消すように、テンゾウはカカシの骨太な身体を抱きこんだ。
不安はある、いつだって。それでも、自分たちは忍だ。覚悟なく、恋に溺れはしない。
――カカシさん……。
肉の堅さとは異なる、これほどしっかしした骨格の堅さを、テンゾウはほかには知らない。
触れただけでは感知できない芯の通った堅さは、カカシの性格そのもののように思える。
だから、腕のなかに抱きこんで、確かめずにはいられないのだ。
どんなに快楽に溺れても、決して溶けてしまうことのない“それ”がテンゾウは好きだった。
“それ”は、カカシの忍としての矜持なのかもしれないし、彼自身の本来の生真面目さなのかもしれない。
あるいは、積み重ねてきた人生がもたらした経験だろうか、と思うこともある。

カカシに言わせると、「ほんと、テンゾウってすくすくとまっすっぐ育った大木みたいだよね」なのだそうだ。
「しっかり大地に根を張って、どんな雨風も受け流して、すくっと立ってる感じがする」
そう言われたのは、まだカカシが暗部にいたころのことだ。
それが自分に相応しいという実感はテンゾウにはないが、カカシが自分をそう見ていてくれることは嬉しいと感じた。そしてカカシの評価は、どうやらいまでも変わっていないらしい。いい加減、すれてきた自分に、それはどうか、と思う。だから、面映くてならないのだが。
こんな自分を、カカシは今でもいとおしんでくれているのは知っている。
決して「好き」とも、ましてや「愛している」とも言わないカカシが、どれほど自分を恋うてくれているのかも。

暗部を離れて久しいカカシと、暗部のなかでもベテランと呼ばれるようになったテンゾウが連れ立っていると、顔見知りは、一瞬、眩しいものでも見たような表情を浮かべる。
それから、「へえ、おまえら、まだ続いているのか」と笑う。
まだ……そう、まだ、続いているのだ。
とっくに切れてもおかしくないのに、まだ続いていることの意味を、彼らは知っている。
だから、笑う。だから、そうやってからかってくる。

玻璃の冷たさと堅さと脆さを残していたかつてのカカシも好きだった。
抜き身の鋭さを内に秘め、陽だまりの猫のように目を細めている今のカカシも好きだ。
そして、そんなカカシの変遷を自分はずっと見てきたのだと思うと、なぜか誇らしい気持ちになった。

「テンゾウ」
焦れたような掠れた声が、再び、名を呼ぶ。
どこか焦点の合わない目がテンゾウを捕らえ、強請るような視線を向けてくる。
その目がテンゾウのオスを刺激する。
「欲しいですか?」
務めて冷静に問うと、カカシがふっと目を細め笑みを浮かべた。
欲しいものが与えられる予感に悦んだのか、あるいは、そんなふうに確かめてみるテンゾウを微笑ましく思ったのか。

「欲しい、ちょーだい」

己を突き入れた瞬間、カカシの身体が反り返った。
強く閉ざされた瞼と、噛み締められた唇は、まるで抵抗してでもいるかのようだ。
なのに、カカシの下肢はテンゾウの背に絡められ、見ようによってはテンゾウのほうが拘束されているとも見える。
初めて会った、乾いた地での戦闘のなか――あのとき、自分は捕まったのだ。
「カカシさん? 気持ちいいですか?」
コクコクと肯定に揺れる頭と一緒に、銀の髪も揺れる。
いつ、何が起こっても、後悔だけはせずにすむように。
テンゾウは、ただカカシの身体を貪るべく、理性を遮断した。



2007年10月21日(日)
てぃままん 1 -18禁-

* 波の国と中忍試験の間のお話です

ふっと目が覚める。まだ夜半。
なぜ、こんな時間に目覚めたのだろうと思い、ああ、そうだった、と思い出す。

テンゾウが、里にいる。
今月は、火影邸の護衛についているのだ。
任務が明けるのが、夜中の2時。だから、カカシの部屋を訪ねてくるのは、たいてい2時半を少しまわったころ。
だから、カカシもその刻限に目覚める。
こちらは、下忍の請け負うDランク任務の監督だ。神経は張り詰めているが、あまり消耗はしない。
おまけに時々舞い込む指名任務も、このところない。

二人の長い付き合いのなかでも、あまりない、穏やかな日々。
静かに満ち足りた逢瀬を重ねるはずが……。
条件反射のように熱くなる身体に、カカシは苦笑する。
なぜか夜毎、恋い求める気持ちは強くなる。
それはカカシばかりではなく、テンゾウも同様らしく、付き合い始めたころのように、いや時を重ね互いを深く知った分、より激しく深く沸き起こってくる情に身を任せていた。

コツと窓を叩く音と同時に面が覗く。
カカシが玄関を指差すと、姿が消えた。
合鍵は渡してあるのだ。どうせ玄関から入ってくるのだから、何も窓から覗いて確認しなくてもいいだろうに。
カカシは寝返りを打って、扉が開くのを待つ。

「起こしてしまいましたか?」
「いや、ちょうど目が覚めたところだよ」
「冷蔵庫にビールがあるよ」
「飲みますか?」
「うん、ちょーだい」
まだマントを羽織ったままのテンゾウが、冷蔵庫を開け、缶ビールを取り出す。
が、そのとき、何か冷蔵庫にしまったのが見えた。
形状から小ぶりのビン、たぶんビールだろう。
でも、きっとカカシが「冷蔵庫にあるよ」と言ったから、そちらを先に飲むことにしたのだろう。
2本を手にベッドに来ると1本を差し出した。
「お疲れさま」
「カカシさんも」
軽く缶を掲げあって、目を見交わす。

カカシの欲情に気づいているはずなのに、涼しい顔をしている恋人に、なぜだかさらに煽られた。

「明日は休みでしょう?」
テキパキと身に付けた物を脱いでいきながらテンゾウが問いかける。
シャワーは暗部棟ででも浴びてきたのだろう。
「そーよ。下忍監督の唯一、いいところ。ちゃんと休みがとれる」
ふっとテンゾウの目元に浮かんだ笑みに、カカシはまた煽られた。
「あー、なんかオレ、いま身の危険を感じたんですけど」
「カカシさん、鼻が効きますからね」
否定せずにゴクゴクと残ったビールを一息に 飲む。さらされた喉仏が動くのに、さらに熱があがった。
「飲まないんですか? それ」
手に持ったままのビールを指摘され、カカシは半分ほどを飲み、「もういらない」とベッドヘッドに置いた。
今すぐむしゃぶりつきたいほど、テンゾウの肌が恋しい。
その視線に頷くように、テンゾウは残った衣服を脱ぎ捨てる。
カカシの欲情を感知して、テンゾウももう充分、興奮していた。

隣に潜り込んだ髪から、わずかに夜気が香る。
「もう、寒くなってきてるからね」
テンゾウの背に腕を回して、カカシは首筋に顔を埋めた。
熱をもった下腹をこすりつけるようにすると、ふっとテンゾウが笑う。
「何、さかってるんですか? らしくもなく」
呆れたような言葉とは反対に、まだ冷たさを残した手が腰を引き寄せる。
「そうね〜、なんかオレ変だよね〜」
「……不安なことでもありますか?」
不安ねぇ、と呟きながら、カカシはテンゾウの唇を塞いだ。
軽く唇を合わせ、それから角度を変え、舌先で唇を舐め、また角度を変え、ようやく舌を差し入れる。
待ち構えてでもいたように強く吸い付かれ、差し入れた舌が絡め取られる。
湿った音に、また熱が上がった。

動物が獲物を食らってでもいるような荒い吐息とピチャという音だけが部屋に響く。
荒い吐息は、カカシの零す快感の証。
喰らいついているのはテンゾウ。
先ほどから、身体中に舌を這わされ、歯を立てられ、それでいて肝心なところは放置され、カカシは身悶えするしか術がない。
――今日は、そういうつもりだったんだね。
緩やかに与えられる愛撫の心地よさ、断続的に襲ってくる強い射精欲とそれを遮られる苦痛、繰り返される飴と鞭に霞み始めた頭で、そんなことを思う。
こういうのもいい、とカカシは思う。
どこかひんやりした視線で、正確に相手の反応を見、翻弄する。
いつも穏やかで安定しているテンゾウの隠れた一面が表れるこうしたとき、カカシはただ欲にまみれた生身の男に成り下がることができる。
――ああもう、そんなとこ舐めないでよ。
羞恥と与えられる快感に引き裂かれる葛藤にさえも、酔ってしまいそうだ。
ふふ、と低くくぐもった声が聞こえる。
何か言われるかと思ったが、言葉をかけられることはなく、熱を持った舌がまた敏感な皮膚を刺激した。
「ああ」と思わず声が出る。
一度、こぼれた嬌声は留めようがなく、断続的に湧き出てはこぼれていく。
「このところずっと」
とテンゾウが、いつもよりもやや低い声で言葉を発した。
「ここ、使ってましたから。相当敏感になってますね」
そう言って、尖らせた舌先を突き入れられて、カカシの身体は大きく跳ねた。
同時に、泣いてでもいるような声があがる。
――早く。
早く欲しいのに、なぜ与えてくれないのか。もうそれだけしか考えられない。
「緩んできた」
まるで報告書を読み上げてでもいるような感情の窺えない声で告げられて、いったいどう反応しろというのだろう。
カカシはわずかに身体を捩って逃れようとしたが、下肢をがっちりとホールドされていた。
「知ってましたか? ここ、ずっと舐めてると、緩んでくるんです」
カッと身内が熱くなる。
混乱と羞恥と、そんな自分を晒してよしとしている自分と、受け入れているテンゾウに対する、激しい感情が渦巻く。
ああ、きっと今襲われたら、死ぬな、確実に、などと自嘲めいた言葉がチラと過ぎる。

「テンゾウ」
訴えるようなカカシの声に、テンゾウは「はい」と冷静に返した。
腕を伸ばすと、テンゾウの表情が和らいで、カカシは身体ごと抱きこまれた。
「そんな顔しても、ダメです」
肩に顔を埋め、表情を隠す。
がっしりした腕に背を抱かれ、たくましい大腿に下肢を割られた。
たいがいカカシも大柄で、実はけっこう骨太なのに、筋肉の付きにくい身体をしているためか華奢に見られがちだ。
そのせいで、自分とは異なる体質の相手に抱き込まれると、どことなくコンプレックスを刺激される。

ゆるゆると背筋を愛撫していた手が降りてきた。
カカシは声をあげまいと、歯をくいしばる。
しかし、身内に入り込んできた恋人の指は、たやすく快感のありかを探り当て、それでも刺激するかしないかの曖昧な強度でかき回す。
腰から波状に広がってくる感覚に、身体が戦いた。

「テンゾウ」
カカシがたまらず声をかけると、やはり「はい」と感情を抑制した声が返ってきた。
はぁ、とついた吐息に、埋められた指がさらに深く、身内を探る。
「まだ、ダメです。まだ……」
そして耳朶を噛まれた。
予想外の感覚に、またカカシの身体は跳ね、呻き声をあげていた。
「つらいですか?」
問われ、思わず首を横に振っていた。
つらい、ことはつらいのだ。でも、むしろ……
「いい、気持ちいい、どうにかなりそう」

このままずっといたぶられていたい。
のたうちまわって、求め、泣き叫んで、乞い願いたい。

「ねえ、テンゾウ」
まるで自分の声ではないような、甘え媚びた声だと思いながら、カカシはテンゾウの背に回した腕に力をこめた。



2007年10月06日(土)
 聖牛の酒 3) 完結


「凍ってるんですか?」
女主人が手にしている霜のついた小ぶりな瓶を見て、テンゾウが問う。
「アルコール度数が高いんで冷凍庫に入れたぐらいじゃ、凍りゃしません。でも、独特の風味が生まれるんです」
手ぬぐいで霜を拭いて、カウンターに置く。
ラベルには牛だろうか? 動物の絵が描かれている。中身はうっすら緑がかって見える透明な酒だ。
同じように霜のついた小さなグラスが並ぶ。
「あれ? 草?」
瓶のなかに細い草の茎のようなものが見えた。
「はい」と女主人は微笑みながら、瓶の蓋を開け、グラスに注いでくれた。
「あ?」
「はい?」
思わず声をあげてしまったオレは、あわてて首を振った。
トクンと心臓が高鳴る。テンゾウがチラとオレを見て怪訝そうな顔をしたが、何も聞いてはこなかった。
トロリとした液体でグラスが満たされる。
「乾杯」
オレたちはグラスをかかげて、口をつけた。
濃厚で、ほんのり甘く、けれど身体の芯が熱くなるような――
「ああ、ほんとうだ。“きゅぅーっとくるような、強い酒”ですね、まさに」
言葉の出ないオレに替わって、テンゾウが頷く。
「これ、蒸留酒ですか? でも、独特の甘い香りがありますね」
女主人は、はいと答えた。
「牧草を漬け込んで作るそうです、が、この香りには好き好きが分かれるところですね」
「そうですね、少しクセがありますから……でも、ボクは嫌いじゃないですね」
「そりゃ、よござんした。なんでも、特別な森に生息する聖なる牛が食べる草だそうで。その牛は力強さ、威厳、稀少性を象徴するのだとか」
――力強さ、威厳、稀少性……。
女主人の言葉をオレは心の内で反芻した。
――威厳は……ないな。でも、それ、オレの前だからかな? 力強さと稀少性なら……そのとおりじゃないか。
「何をブツブツ言ってるんですか?」
テンゾウの声に、オレはニッと笑う。
「おしえてやんな〜い」
はぁ、と呆れた顔をしながら、オレの機嫌のいいことを察知した後輩は、まぁ、いいですけど、と呟いた。

「ねえ」
混んで来たのを機に、立ち飲み屋を出て、部屋に戻る。
まだ寝るには少し早い。テーブルの上には、先ほどの酒。オレが部屋で飲むと言ったら、彼女はわざわざ冷凍庫に入れていた1本を譲ってくれた。
「飲みます?」
テンゾウがボトルを指さす。
「一杯だけ」
はいはい、と言いながら、自ら立ち上がってグラスを洗い、冷凍庫にしまう。
それからストッカーを覗いて、ナッツの袋を取り出した。封を切って皿に空ける音。
「あまり、つまみのいらない酒ですけど」
そういいながら、先にナッツの皿をテーブルに置く。ほんと、マメなやつだ。
このナッツだって、前に会ったときテンゾウが買ってきたものの余りだ。
それから冷凍庫にしまったグラスを取り出す。
申し訳程度に霜の付いたソレを、テーブルにトントンと並べ、封を切る。
ちょっと薬草にも似た甘い香りが漂った。甘いけれど、フローラルな甘さではなく乾草独特のグリーンノート……。
――テンゾウの匂いだ。

そう……さっき、店で気づいた。
もともとオレは体臭が薄いほうで、テンゾウも同様だが、それでもまったくゼロではない。
テンゾウの薄い体臭を感知すると、オレはほっとする。
ここが戦場ではない、という証拠でもあるし、いとしいテンゾウの匂いだ、というのもある。
すっかり馴染んだその匂いは、いつもオレにとっての安らぎと幸せとともにあるから、かもしれない。
とにかく彼女が封を切ったとき、不意に香ってきた匂いに、びっくりしてしまった。
もちろんまったく同一ではないし、普段のテンゾウの体臭がそれほど強く香るわけでもない。
それでも、とてもよく似た、独特の香りだった。
「はい、乾杯」
とグラスを掲げるオレに、テンゾウは目元を和らげる。
「そんなに気に入ったんですか?」
オレはふふ、と笑う。笑いながら、グラスを一息であける。
トロリと喉を滑り降りていく酒には、焼けるほどの熱はなく、けれど胃の腑におさまるとじんわりと熱を持つ。
そんなところもテンゾウと同じだと思う。

――いい男になったね。
グラス半分を開け、ナッツを口に放り込むテンゾウを見る。
――ほんと。いい男になった。
改めて、思った。
日常接するのが、ひよっこたちだから、余計、感じるのかもしれない。
ヘラヘラしているオレを気にすることなく、テンゾウは茫洋とした表情を浮かべ、時折、思い出したようにナッツを摘む。
オレがかまってほしいのか、放っておいても大丈夫なのか、コイツはちゃんとわかっている。
そして、オレのことを無視するでもなくオレの隣でくつろいでいてくれる。
ここは、とても重要なポイントだ。
お互い気を使うことも必要だけど、互いの前でくつろげない相手も難しい。
付き合いはじめのころは、見栄もあるからどうしても格好をつけてしまう。それはそれで悪いことではないけれど、長く続くのはくつろげる相手かもしれないと、オレは最近思うようになった。
長く続いたのは、テンゾウだけだから、言い切ることはできないのだが。
――おまえだけでいい。おまえがいればいい。
言葉にはしない、オレの思い。
オレは、隣に座るテンゾウの唇に、唇を重ねた。ごく、軽く。挨拶代わりのようなキスだ。
テンゾウは、オレを見てオレの好きな表情でほんの少し笑う。
昔は、こんなふうにキスをすると、戸惑ったり慌てたりしていた。
少し慣れてくると、「欲しいんですか?」なんて聞いてくるようになった。
最近では……オレがじゃれつくと、それがその先を期待してのことなのか、かまってほしいという合図なのか、ただじゃれてみただけなのか、読み違えることもなくなった。
そしてオレも……テンゾウが言葉にしない鬱屈をわかるようになった。

暗部随一の使い手と言われ、大きな任務の際には決まって隊長を務めるテンゾウには、たとえ相手がオレと言えども、口にできないことがたくさんあるはずだ。
かつて、オレがそうだったように。
だから、オレは何も聞かない。
ただ、テンゾウがオレの側で居心地よくくつろいでいればいいなと、それだけを思う。
だからといって、かいがいしく世話などやいたりしない。
テンゾウは、オレにそんなことを期待していない。そうでなければ、とっくにオレは捨てられている。
オレだって、テンゾウにかいがいしく世話をやいてもらいたいなどと思っていない。
ただ、オレよりは日常生活に関することで気が回って、オレよりは多少、料理の腕があるから、必然的にテンゾウがアレコレと動くことが多いというだけだ。
オレだって、たまにはフライパンを振るし、気が向けば気合を入れて食事の支度を調えたりする。
そんなとき、テンゾウは素直に感激するけれど、次も、と期待はしない。
結局、オレたちは自立している一人前の忍なのだ。
基本的に、他人の手を必要とはしない。
それでも、だれかとよりそっていたいとき、というのは、あるのだ、オレたちにも。

「先輩」
テンゾウの腕がオレの肩を抱き寄せる。
オレは素直にその腕に従い、テンゾウの肩に頭をもたせかける。
「無茶なお願いかもしれませんが」
肩にかかるテンゾウの手に、力がこもる。
「長生きしてください」
「ん。一応、努力はする」
オレの答にテンゾウは、ふっと笑った。
きっと……仲間をなくしたのだろう。
暗部に限らず忍に死はつきものだ。
いちいち傷ついていたら、それこそココロが傷だらけになってしまう。
それでも傷つかずにはすまないのだ、忍も人間である以上、ヒトとしてココロは痛む。
それを捨て去ってしまったら、その忍は終わりだ。ただの……傀儡になってしまう。

だれが死んだのか、オレは問わない。
ただ、テンゾウがこれだけ消沈しているのだ。
直属で目をかけていた部下か、あるいは仲の良かった同僚か。
オレは、テンゾウに近い左手を伸ばして、身体越しに右手を探った。
オレの手の動きに気づいたテンゾウの手が、オレの手を掴んだ。
指を絡ませ、強く、握る。決して離すまいと、強く。
「テンゾウも、長生きしないとダメだよ」
ふっと、気配が強張った。
「テンゾウのクセにオレより先に死んだら、オレ、葬式なんて出ないで遊郭で豪遊しよっかな〜」
オレの軽口に、テンゾウがクスと笑いをこぼす。大丈夫、笑えるんだったら、とオレは安堵する。
「豪遊ですか」
「そうだよ。店、貸切にして、100人切りしちゃうから」
「いえ、どんな大きな見世でも、100人も抱えてませんから」
「だったら、5軒10軒、貸し切ればいいじゃない〜」
「確かに」
ほぅ、とテンゾウが息をつく。
「死んでも死に切れませんね、それは」
「でしょ? だから、おまえも長生きしてちょーだいよ」
「はいはい」
傷心の後輩は、ぎゅっとオレを抱き寄せ、チュッと可愛いキスをしてくれた。
「寝ましょうか」
「寝よっか」
今夜は、ただ静かによりそって。
明日のことは、また明日考えよう――。



<了>

ズブロッカ
ポーランド生まれのライ麦を原料としたウォッカ。ズブロッカの"Zubr (ズブ)"は、ポーランドの世界遺産"ビアウォヴィエジャの森"に生息するわずか600頭の聖牛を意味する。牛たちが好んで食べるバイソングラスを漬け込んだ酒は、古くから滋養強壮や精力増強に効果があると言われている。実は、この匂い、桜餅の葉の匂いと同じ成分だとか。



2007年10月04日(木)
 聖牛の酒 2


テンゾウに言われて、思い出した。
そういえば、常とは勝手の違う下忍監督任務に振り回され、すっかり失念していたが……いろいろな意味で、久しぶりなのだ。
テンゾウと会うのも、下忍選抜の直前が最後だったか?
その後、テンゾウは里外の任務に借り出された。
オレが、波の国から予定通り戻って来られれば、彼の帰還と同じぐらいのタイミングだったはずなのだ。
ところが、こちらが尋常ではなく、長引いた。
「無事だったお祝いも兼ねて」
「お祝い、エッチ?」
オレの軽口にテンゾウが口元をゆるめ、そのまま顔を近づける。
なんとなく笑みを残した表情のまま、オレたちは軽く唇を重ねた。
お久しぶり、の挨拶代わりのキス。
ドキドキしたり、かけひきめいた探りあいをしたり、そんな時期はとうに過ぎた。
それでも、オレはテンゾウの手を掴むこの瞬間、心臓をわしづかみにされるような、そんな気持ちになる。
おずおずとためらいながらオレに手を伸ばしていた大人になりかけの少年など、もうどこにもいない。

「たまってるんでしょう?」
意地悪くテンゾウが言う。
椅子から立ち上がったテンゾウに繋いだ手を引き寄せられ、オレは倒れこむ。
オレより肩幅も広く、胸板も厚い。腕も脚もオレより少しだけ太く、少しだけしっかりした筋肉に覆われている。
強くて、でも、やはりどこかに少年らしい繊細さを残していたテンゾウは、いまや、何があってもぴくりとも動じない、鋼のような男になった。
彼の声に応えて欲情するオレを、当たり前のように受け止める成熟した男――なんだか、くやしい。
勝ち負けではないのに、負けたような気分になる。
もちろん、そんな本音を気取られるような真似はしないし、今でも対峙すれば、負けるとは思わない。
それでも――なんだか、くやしい。
「せめて、ベッドに移動してよ」
くやしまぎれにクレームをつけると、「もちろん」と余裕の答が返ってきて、オレはさらにむかついた。
「カカシさん」
すねているオレを、テンゾウが呼ぶ。これだけは、昔と変わらないやさしい口調だ。
[ああ、ほら……もう体温も心拍数もあがっている]
「いちいち、指摘するんじゃな〜いよ」
「いいじゃないですか。だって、そのほうが興奮するんでしょう?」
「なんだか、すけべったらしい言い方」
ふふ、と笑ったテンゾウの手が、服の下に潜り込んでくる。
いつも乾いていて、きもちのいい手だ。触れられると、それだけで、声が出そうになる。
何度もこの手に助けられた。それよりももっとたくさん、この手に鳴かされた。
それはきっと、幸せなことだ。
「気持ち、いいですか?」
オレは応えず、テンゾウの手の感触に集中する。
「まだ、傷が残っていますね」
「それはワザとだから、いいの」
「まったく。いくら忍犬たちの目印だからと言って、やたらと自分を傷つけないでください」
仕方ないじゃない、オレはこんなふうにしか戦えないんだから。

テンゾウの手が、ヘソから下に下りてくる。
「半勃ちってところですか?」
やんわりともみしだかれて、思わず呻いてしまう。
なんだかな〜、と思う。
こんなオレが偉そうにセンセイやっていいんだろうか、とふと思う。
いや、こんなオレであってもなくても。
サスケのことがなければ、上忍師についていたのはテンゾウだったかもしれない。
九尾の力をコントロールできるのは、今の木の葉の里では彼だけなのだから。
でも、まだナルトに施されている封印は、充分にその役目を果たしていると思われていた。
まさか、こんなに早く……それが予想されていたら、局面は違っていただろう。
それでも、いまはオレが抑えなくてはならない。
封印されている九尾の力の使い方は、オレには教えられない。
それは、たとえていえば血継限界の術を伝えるようなものだからだ。
ただ、オレは多少なりとも封印術について知識があり、ナルトの状態について正確に把握できる目をもっている。
そして上層部の一部は、いざとなったらオレにナルトの処分役を果たさせようと目論んでいる。
だれが、そんなことをさせるか。
そんなことをしたら、先生の、四代目の、配慮がすべて無になってしまう。
そのうえ、サスケだ。
そもそも写輪眼の使い方もオレは自己流で身に付けてきたというのに。

「どうしました?」
感のいいテンゾウが、オレの目を覗き込んだ。
「ん、なんでもない」
視界を遮断して、オレはテンゾウの気配と与えられる感触に意識を集中する。
「カカシさんでも……てこずることがあるんですか?」
「オレにだって、できることとできないことはあるよ」
珍しく本音が口をついて出る。
テンゾウは愛撫の手は緩めずに、反対の手で俺の背を抱き寄せた。
「だったら、しばしそれは棚上げして、溜まったものを吐き出してしまったほうがいいですよ」
「溜まったものって」
思わず笑ってしまう。
「久しぶりに会えた恋人に身を任せるってのも、悪くないと思うんですが」
「そうだね」
オレは、テンゾウの肩に顔を埋める。ごくかすかに、汗の匂いがした。
テンゾウの匂いだ、と思った。思った途端、ざわと血が湧き立つ。
この匂いに、オレは欲情するのか、と、改めて思う。
草葉の匂いとも木樹の匂いとも異なる、けれど草原を渡る風のような乾いた、甘い匂い。
ああ、これは間違いなくテンゾウの匂いだ。
「テンゾウ」
「はい」
すりすりと肩になつくオレの頭を、背から移動してきたテンゾウの手が宥めるように撫でる。
昔は、こんなことをされたら「テンゾウのクセに、生意気!」なんて思ったのになぁ、と思う。
「カカシさん? 気持ちいいですか?」
「ん、気持ち……いいよ」
ふっとテンゾウが微笑んだらしい。気配だけが伝わってくる。
「昔は……」
あやすような愛撫のリズムに合わせて、テンゾウは言葉を継ぐ。
「チャクラ切れを起こすまでツッぱらかるあなたが、愛しくてなりませんでした、今は」
「……今は?」
「たまにはこうやって、ボクに素直に甘えてくれるようになって……」
照れたように、瞬時、言葉が途切れる。ためらいがちな間の後、テンゾウは言葉を継ぐ。
「嬉しいです、それに」
「それに?」
「出会った頃よりもずっと……愛しいと思います」
珍しく、オレよりもテンゾウのほうが先に熱くなったらしい。
こいつも……任務でなんかあったのかもしれない。こちらも生憎、里に戻ったばかりで、なんの情報もないことが悔やまれた。
「ね、キスして、エッチして、サッパリしたら、飲みに行こう?」
オレの言葉に、テンゾウが吹き出した。
「そういう即物的なところ、好きですよ」
言葉とともに、濃厚な口付けが降ってきた。

ねえ、だって。
余計な言い訳や説明なんか必要ないじゃない? オレたちの間に。
会えば嬉しい、会えば欲しい、そうやって互いの無事を確認して、それ以上、何を望む?
傍目にはドライに見えるかもしれないけれど、オレたちはそうやって繋がっていると思っている。
いつか、どちらかが死ぬ、その日まで、繋がっていられればいいなとオレは思う。
おまえも、そう思っていてくれてるよね。

その一刻ほど後、サッパリしたオレたちはいつもの立ち飲み屋に足を運んだ。
「らっしゃい」と、女主人が迎えてくれる。
「おや、おそろいで」
どうやら、オレたちが口開けの客だったらしい。
「なんかねー、こう、きゅぅーっとくるような、強い酒を飲みたい」
そう言ったオレに、テンゾウが「なんですか、それ」と呆れたように突っ込む。
確かにオレのリクエストは意味不明だ、しかし女主人は笑顔で問い返してきた。
「カッと燃え上がるようなのがいいですが、それとも、じんわりと熱がしみてくるようなのがいいですか?」
「……じんわり」
「ほんのり甘いのと、シャープで辛いのは?」
「ほんのり……?」
首を傾げたオレに、彼女はさらに問いを重ねた。
「じゃ、トロリと濃厚なのと、サラリと苛烈なのでは?」
「濃厚」
ニッコリ。
笑みをたたえたまま、女主人が奥に引っ込んだ。
毎度のことならが、ほんとうにこのひとはナゾだ。どこから、どんなツテを使って、こんな酒を? と思う。
テンゾウも、怪訝そうな顔をしている。
「はい、おまたせしました、そちらの兄さんも一緒で良いですか?」
テンゾウは、「あ、はい」と、暗部の新人のような返事をした。



2007年10月03日(水)
 聖牛の酒 1

 *カカシ波の国より帰還直後のお話です

「あ、お帰りテンゾウ」
開け放した窓から、暗部面が覗く。
「カカシさんも、ご無事で」
――ああ、口調にトゲがあるよ。
そう思いながら、「ま、ね」と軽く答えた途端、テンゾウの姿が消えた。
玄関に回ったのだ。屋根伝いに移動できるからと、暗部服のまま動き回ったりしているくせに、妙なところで律儀なヤツ……。
ドアを開けると「お邪魔します」と入ってくる。
オレのことをチラとも見ずに、面を外しプロテクターや鉤爪を外していく。
――やっぱり。怒ってるよ。
オレはそっとため息をついた。

暗部を離れてからも、毎度、下忍候補をアカデミーに送り返してきたオレが、とうとう今年、年貢を納めた――と、数ヶ月前、周囲が騒いだ。

今年、オレ個人にとっても里にとっても、因縁の深いうずまきナルトとうちはサスケが揃って卒業した。
そしてオレは彼ら二人を含むスリーマンセルの試験官をおおせつかった。
もちろん、試験に私情を挟むつもりはなかった。見込みがなければ、いつもどおり送り返してやるだけだ。
そう三代目にも宣言していた。
その試験に彼らは合格し、結果としてオレは上忍師となった。
それだけのこと、だ。それだけのことが、どうして大騒ぎになるのだろうとも思う。
ただオレ自身が少なからず驚いていたから、周囲の喧騒も仕方ないのかもしれない。

そしてめでたく(かどうかはわからないが)、上忍師としてのオレの日常が始まった。
まだ半人前のひよっこ相手に戸惑うことも多かった。
しかし、オレも遠い昔ひよっこだった時代があったのだ。確かに技術的には、さくらやナルトはもちろん、才能のあるサスケよりも、オレのほうがずっと忍らしいガキだったとは思う。
ただ、忍としての優劣は技だけによって決まるわけではない。
オレが受け持つ7班は、よく言えば個性的で破天荒、まあ、およそ忍らしからぬ3人だったが、別の見方をすれば、オレよりもずっと優れた潜在能力を備えているとも言えた。
正直、わくわくした。
オレの言葉、行動にまっすぐに反応を返す素直さ、互いに反発しながらも歩みよることも知っている柔軟さ、そして何よりも、きらきらと光に満ちたその瞳。
こいつらが経験を積み、技を極め、どんどん強くなっていったら……。
地平線の彼方をまっすぐ見ているような、そんな清清しさと高揚感を覚えた。そして、彼らとともに過ごす一日が煌いていればいるほど、オレを置いて逝ったひとたちのことが思い出された。

そんな7班の“らしさ”が、良くも悪くも表に出て、まあ、とんでもない事態に遭遇してしまったのだ。
任務内容に関わる依頼人の嘘、そして、受けて立ったひよっこどもの心意気。
半人前のくせに、いっちょまえの漢気(さくらの場合は、女気と書いて、オトコギとルビを振るか?)を見せる彼らに、「はーい、規則ですから、里に戻りましょうね、依頼人も依頼のやり直しねー」とは言えなかった。
そんなことを言ったら、上忍師の名がすたるってもんじゃないか、と思ってしまったのは、オレも少なからず、ひよっこどもに影響されていたのかもしれない。
あげく、ナルトの九尾の力は溢れそうになるわ、サスケは死にかけるわ。
想定内ではあったが、最悪といえる事態に遭遇した。
そして、改めて実感した。
――こいつらは、優秀なようでも下忍なんだ。
つまりそれは、戦闘の場で己を保つことが難しい、ということだ。
冷静であれ、とか、熱くなるな、とか、そういうことではない。暗部のベテランだって熱くもなれば、キレもする。
ただ、彼らはそういう状態でも周囲が見えているし、自分が見えている。
捨て身になるときには、捨て身になるだけの計算やヨミが働いた上でのことだ。
だが、彼らはそうではない。
その一瞬の感情のままに、動く。一番冷静に見えたサスケでさえ、そうだった。
オレは、わかっていたはずだ。オビトを失ったとき、それを思い知ったはずだった。
なのに長い暗部生活と、その後の、単独か同じぐらいの力量の持ち主と組んでのツーマンセル任務がほとんどという生活のなかで失念していた――忍にもまた感情があり、時に感情は何よりも激しくひとを突き動かすのだ、という、当たり前のことを。

それでも、すべては想定内でおさまり、今回の任務を通して彼らが通常ではありえないほどの成長を遂げたことも感じていた。
ランクの低い任務をコツコツとやり遂げることも、もちろん鍛錬になる。
けれど、己の才を持て余しているような(ナルトの場合は才というよりは溢れんばかりのエネルギーだろうが)若造には、ギリギリの試練を与えたほうがいい、というのは、オレの持論だ。
ただ、そうは思っても、なかなかその機会を与えられないのが、昨今の下忍任務だ。
おまえら、あとちょっと早く生まれてきたら、否応なく前線で生きるの死ぬのとやれたのにねぇと、思ったものだ。
良いか悪いかは別として、それぐらいでないと我が身の才と力を持て余す者もいるのだ。
あの……イタチがそうだったように。
だから、今回のことはいい経験になった、とオレは思っている。思っているが……。
「カカシさん」
かつてその成長する姿が、日々、わくわく感を与えてくれていた有能な後輩は、腕組みしたまま憮然としていた。
「上忍師になったら、無茶はしない、と言いましたね」
ずい、と一歩を踏み出され、オレは思わずのけぞりそうになる。
「まだ、一人前の忍ともいえない子どもを預かるのだから、と」
「んー、そうね」
「援護する者もいないのだから、と」
返す言葉もなく、オレは肩をすくめた。
「無茶は、しなかったですか?」
うわあ、怒ってるよ、怒ってる。
「無茶……少しだけ、したかなぁ」
腕組みをしたまま、テンゾウが「はぁ」とため息をついた。
「チャクラ切れで、寝込んだそうですね」
「……つい」
「自分のチャクラの残量への配慮も欠くほどの事態だった、と?」
答えようがなくて、オレは黙った。
正直、敵と依頼主と下忍で、手一杯だった。自分のことは二の次だった。それは認めよう。
敵がビンゴブッククラスの抜け忍だったことは、さほどのことではない。
むしろ、意外性ナンバーワンのドタバタ忍者に、優秀ではあっても協調性に欠けた唯我独尊忍者に、知識ばかりが先行して実力の伴わないくの一――己の部下こそが、あるときは獅子身中の虫のごとき存在となり、しかし、別の局面では、行き詰まりを打開するきっかけとなった。
裏の裏を読めとはいうものの、読む前に崩されるがごとき混乱に振り回されたのはオレ――。
上忍師を務めることが、己の鍛錬につながる意味を、思い知った。

内心忸怩たる思いがあるのだ、あまり責めないでほしいと思っていると、テンゾウの呆れたような声が聞こえた。
「いくらあなたがついていても、チャクラ切れを起こしたんじゃ、下忍を守れないじゃないですか」
あ、怒るところ、そこ? とオレはテンゾウを見た。
「最低限、戦闘の意味を知っていて、覚悟もできている暗部の新米とは違うんですよ。わかってますか?」
テンゾウは、ほっと息をついて腕組みを解いた。
「まあ、いくら言っても、カカシさんはそうなんでしょうけれど」
そして、オレを見て笑った。
「とりあえず、ご無事で何より、です。改めて、お帰りなさい、“カカシ先生”」
うわあ、とオレは頭を抱えた。
「やめろ、それ。おまえに先生と呼ばれると、びみょ〜」
テンゾウは、はは、と笑った。
「うちは……サスケは、どんなです?」
こいつとの付き合いも長い。
そういえば酒を飲みながらだったか、イタチの弟がアカデミーにあがるなんて話をしたっけ。ナルトのことも話題になった。
そうか、あれは付き合い始めた最初のころだ。
そして、その少し後、テンゾウも一緒の任務から帰還する途中に、うちは一族の惨事を聞いた。
オレも若かったねぇ、と思わず赤面しそうだ。
そう、あのころ――オレは、テンゾウに夢中だった。
そう認めることが、まるで自分の負けを認めるようで、とても嫌だったのだが。
でも、夢中だった。
思い出してしまった。自分では一人前のつもりなのに、まだ、青くて一途だったオレを。

暗部を離れてから、テンゾウとはやはりというか、必然的にというか、多少、疎遠になった。
それまでは、当たり前のように互いの動向をつかめていたのが、そうはいかなくなる。
テンゾウにとっては、潮時なのかも、と思ったこともあった。
でも、結局、切れずに繋がっている。
切れそうな糸を繋いだのはオレだったり、テンゾウだったり。
結局、そういうことだ。オレもテンゾウも、これっぽっちも切れるつもりはなかったのだ。
こんな自分のこともいつか、「あのころは、若かったねぇ」などと思い出したりするのだろうか。
そう考えると、おかしい。
「明日の任務は?」
やっと声を和らげたテンゾウが、椅子に座る。
「ん〜、たぶん、子守か、失せ物探しか、倉庫整理か」
オレも向かい合って座る。
「平和ですね」
「そうだね」
オレもテンゾウも、下忍時代を過ごした時期が悪かった。忍界大戦の真っ只中と、九尾襲撃直後の人手のない時代。いずれ、下忍でも資質が認められれば前線に投入される、そんな時代だった。
「ボクは、明日待機なんで」
そう言って、テンゾウが腕を伸ばす。
「久しぶりに、どうです?」
反射的にテンゾウの手を掴んでしまった。