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  百年の孤独-6話
  初めての遠距離恋愛なテンカカ
  たーにんぐ・ぽいんと-8話
    テンゾウの帰還

   香る珈琲、そして恋 -キリリク話-
 四代目とカカシの絆を知って、
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 【2部】 ぶらっく・るしあん-4話
 【3部】 ぶれいぶ・ぶる7話
 【Epilogue】 そして、恋

  あふろでぃーて-5話 -キリリク話-
 くるみ


  a`la carte
  -暗部なテンカカとヤマカカの間話-

  春霞-4話
  暗部を離れたカカシとテンゾウ
  ちぇい・べっく
 -可愛いお嬢さん-
4話
  ※2,3に、ごく軽くテンゾウ女体変化あり
  久しぶりのカカシとの任務
  聖牛の酒-3話
  波の国任務の少しあと
  てぃままん-3話
  波の国と中忍試験の間

  月読-5話 -キリリク話-
 月読の術に倒れたカカシを心配しつつ、
 イルカ先生の存在が気になるテンゾウ

  月読 後日談


  テキーラサンライズ−19話
 ぎむれっと前日譚


   ぎむれっと-40話 -キリリク話
  かっこいいカカシと、
  惚れ直すテンゾウ
 ※途中、18禁あり
  プロローグ  本編  エピローグ



  La recommandation
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-ヤマカカな話-

  再会-Reunion-  第二部





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2007年09月06日(木)
たーにんぐ・ぽいんと 8)-18禁- 完結


「テンゾウのすけべ」
そう言いながらも、先輩は素直にうつ伏せた。
「ボクだけですか? 先輩だって、コレ好きでしょう?」
うるさい、とくぐもった声が聞こえる。
でも、誘うように腰を突き出してくる。
獣じみた体位で背後から繋がるとき、ボクはいつも胸が熱くなる。
こんなことを許してくれる先輩に。
我慢してつきあってくれるのではなくて、ともに欲望の渕に落ちてくれる先輩に。
快楽のときが過ぎてしまえば、あっさりと消えてしまう幻想でも、先輩がこのひとときボクのものになってくれる、そのことに歓喜する。
そして、ボクにも征服欲なんてものがあったんだなぁ、と、実感する。
もっともこんなことで先輩が征服されてくれるはずもなく、かりそめの、戯言めいた時間だということは承知のうえ。
でも、この瞬間、ボクは先輩がたまらなくいとしくて、ほかには何もいらないと思えるのだ。

身体を繋げたまま、その押し開かれた渕に触れると先輩の身体が跳ね上がり、ぎゅうと締め付けられた。
下腹に直接響くような衝撃をなんとかやりすごし、息を整える。
「これ、感じます?」
もう一度、つぅとなぞると、のけぞった先輩の銀の髪が白い首筋を隠す。
しなる背筋に浮き出る肩甲骨、そして、くぅと小さく呻く声。
こうやって、先輩の感じるところをひとつひとつ見つけていくのが、楽しい。
いちいち反応する先輩が、可愛くて仕方ない。
あとで、すけべ、だの、エロテンゾウ、だのと罵られてもかまうものか。
先輩にだけなのだから。

先輩にふられたら、きっとボクは、修行僧のように清らかな生活を送るだろう。
こんなふうにだれかを求めることなど、きっとこの先ない。
若気の至りだと言われるかもしれない。でも、だからこそわかる。
この狂気のような思慕の念は、いまこの年齢だから、なのだとしたら余計に。
この先、こんなふうにだれかを思うことなど、あるはずがない。
尊敬や情愛は持ちえても、ここまで強く希求することはないだろう。
幸いなことに先輩との関係がずっと続いたとしても、きっとボクらのありようは少しずつ変わっていくだろう。
それでも、こんなふうに求めたときがあったという記憶は、先輩とボクを強く繋いでくれるはずだ。

ポタリと汗が先輩の背に落ちた。
普段、ほとんど汗をかかない先輩の肌も、うっすらと汗ばんでいる。
しきりに首を振り、身体をくねらせているのは、限界が近い証拠だ。
痛いほどに張り詰めているだろう器官に触れただけで、解放されてしまうほどに。
少し重心を移動させれば、先輩ほどの筋力があれば片手で上体を支えて自分の手で触れることもできるのに、そうしない。
「テンゾ……」
掠れた声で、ねだる。
「もう、やだ」
甘い声で、訴える。
「もう少し……まって……」
言った途端締め付けられた。刺激に神経が焼ききれそうだ。
「ね、せんぱい……もうすこし」
ボクの動きに呼応して、先輩の動きも激しくなる。

なんて浅ましいんだろう、ボクらは。
自分の荒い息が、動物の唸り声に聞こえる。
「ああ」
こらえきれずあがった先輩の声も、獣の咆哮のようだ。
二匹の獣が番うように、ボクらは本能の声をあげ、しばらくのち果てた。

「もう、テンゾウのすけべ、エロじじい」
罵倒のセリフは、予想とはほんの少し違っていた。
「じじいじゃないですよ」
抗議すると、「じじいなみのエロさだから、いいんだもん」と返された。
「緊急事態にでもなったら、間違いなくオレはお陀仏だね」
「お陀仏って……イマドキの若者は使いません」
ふん、と言うと、先輩は向こうを向いて薄い夏がけをかぶった。
夜風が気持ちいいとはいえ、まだ暑いだろうに。
「先輩?」
声をかける。
「怒ってます?」
「……怒ってない」
「布団、かぶってると暑いですよ」
「……暑くない」
「ビール、ありますよ。キンキンに冷えたのが」
「……」
「喉、かわいたでしょう?」
あれだけ叫べば、とは言わなかった。これ以上、拗ねられても困る。
というか、何を拗ねているのだろう?
ボクがすけべだから? 毎度のことなのに。
「ビール、持ってきますね」
ベッドから降りて冷蔵庫に向かう。
缶を2本、手に戻ると、先輩はいつの間にか起き上がって、ベッドヘッドにもたれ窓の外を見ていた。
手渡すと、目は逸らせたまま、乾杯と缶を掲げる。
そう機嫌が悪いわけでもないらしい。照れているだけなのかな、と思いながら、ボクは「乾杯」と言った。
互いに、ひと口で半分ほどを飲み、同時に「ふぅ」と吐息をつき、思わず吹き出す。
「テンゾウのオヤジ度がうつったよ」
ボクを見て笑った先輩の目が、三日月みたいな形になる。

「そういえば菊香姐さんについていた禿のひとりが、テンゾウのファンになったって」
「ボクの?」
「テンゾウのことを根掘り葉掘り聞かれて、困ったよ。でね」
そう言うと、先輩は意味深な笑みを浮かべた。
「『あたしが菊香姐さんみたいに一人前になったら、ぜひ、遊びに来てください』ってさ。テンゾウが菊香姐さんに見惚れてたの、ちゃんと見てたよ」
「みと……」
「れていたでしょ?」
「はあ、まあ、そうですね」
ボクは強いて否定しなかった。
「一応、審美眼は持ち合わせているので。美しいひとを見れば、美しいと思います」
ふうん、と言いながら、先輩はグビとビールを飲む。
「でも、先輩に勝るひとは、いません」
ぶッ、と吹き出すのはやめてほしい。正直な気持ちを言ってるのだから。
「あのねぇ、そういう恥ずかしいこと言わないの」
「恥ずかしくないです」
「オレが恥ずかしいでしょ」
「そうですか」
「そうですか……って、あのねぇ……あ、そう言えば」
わざとらしく話題を変える先輩は、可愛い。
ついでに言ってやろうか、これほど可愛いひとも知りません、と。
「あのとき、あのウナギの出前持ちが、刺客だって、どうしてわかったの?」
「出前……ああ、刺客とはわかりませんでしたが」
「それにしちゃ、反応早かったじゃない」
「ああいう店は、普通、座敷まで出前持ちに運ばせませんから」
「あ、そういうのは知ってたんだ」
「ええ。潜入したこともあるんで、ひととおりの作法は叩き込まれました」
ふうん、と言って、先輩の目が探るようにボクを見る。
「ついでに言えば、先輩と出会う前、遊びで連れて行かれたことはあります」
「やったの?」
「その時は、できました」
ふうん、とまた先輩の相槌。
「でも、たぶん、次に行ったときはだめでしょうね」
「そんなのわからないじゃない」
口を尖らせる先輩に、言ってやりたい。
浮気するなと散々、釘を刺したのは、どこのだれだ?
ボクにとって、それは何よりも強い呪縛となるのがわかっているのだろうか。

「ボクは浮気しません。できれば先輩にも浮気してほしくないですけど」
先輩が、じっとボクを見る。
「先輩も男ですから。最大限譲歩して、こっちの」
そう言って、先輩に覆いかぶさり、夏がけの上から股間を掴んだ。
「浮気は許しましょう。でも」
ビクンと身体をすくませた先輩は、満月みたいなまん丸の目でボクを見る。
「……ボクの言いたいこと、わかりますね」
先輩はなぜか、素直にコクコクと頷いた。

ずいぶん後、戦地で敵の捕虜の尋問を任されたとき。
しみじみと先輩に言われた。
「あのとき、オレはテンゾウの本性を知ったね」
ボク自身が、先輩言うところの“本性”を自覚するのは、もう少し先のこと――。


<了>



Turning point
リキュールグラスにマカデミアナッツ・リキュールを注ぎ、生クリームを浮かべ、ピンに刺したグリーンゼリーを飾る。
爽やかな甘みとナッツの豊潤な香りが絶妙のバランスをかもし出す。



2007年09月05日(水)
たーにんぐ・ぽいんと 7)-18禁-


「よかった、テンゾウが信じてくれて」
泣きそうになった顔を隠すように、ボクにしがみつく。
少し、いやかなり先輩のことを疑っていたボクは、返答に詰まる。
「信じてもらえなかったら、きっと終わりだって思って」
「え?」と思わず叫んでいた。
「え? て、何よ」
先輩がボクから少し離れた。遠のく体温が、寂しくて、ボクはそんな先輩を抱き寄せる。
「え、いや。そんな浮気ごときで」
絶対離れるつもりはないのだ、ボクは。浮気されるのはもちろん歓迎しない。大いに遠慮したい。
でも……仕方ないじゃないか。
ボクの目の前で、先輩がほかの男を慰めるのを見たとき――それは任務上必要だったからで、身体までつなげはしなかったが――思い知った。
ガタガタ言うぐらいなら、最初から手をだすべきではなかったのだ、と。
そう、手を出したのはボクだ。
誘われてもいたのかもしれないが、ならば、それに乗ったのは、ボクだ。
先輩の数々の浮名を知っていて、それでも先輩が好きだったから、ボクは手を出した。
当然、ボクにも独占欲はある。あるが……そちらを優先したら、先輩との関係は成立しない。

「浮気ごときって……」
ガバと先輩はボクを突き放して起き上がった。
「おまえ、まさか任務先で」
ギッと強い視線がボクを捕える。ああ、写輪眼、回そうとしてますね。
先輩もボクに嫉妬してくれるんだ。
そう思うと、思わず笑みが浮かんだ。
「何、笑ってるの? どこのだれ? まさか、男じゃないよね」
ああ、可愛い。
あの、写輪眼のカカシが、恋人のありもしない浮気にあたふたするなんて。
「いいですか、先輩。ボクの体質知っていて、そういうことを言いますか?」
「だって、それでも相手が欲情したら、お前だって欲情するじゃない」
「そういう場合もある、です」
「そういう場合かもしれないじゃない、今回が」
先輩の声がだんだん小さくなる。少し理性を取り戻したのだろう。
「体質がそうなんですから、そこにボクの意志が加わったら、まず……ありえないじゃないですか、浮気なんて」
先輩がバツの悪そうな顔をした。
「ですから。浮気ごときでガタガタ言っていたら、先輩の恋人なんて務まりません、ってことです」
ぷい、と背けた顔を、顎に手をかけこちらに向ける。
思い知れ、ボクの気持ちを。
ゆっくりと、舌で口腔を嬲っていく。それだけで、先輩の心拍数と体温が上がるような濃厚なキス。
ほら、もう感じてきた。
こうやって、キスされるの好きですものね、先輩。
くふ、と仔犬のような息をつく先輩の髪を撫でながら、角度を変えてもう一度、口付ける。
「てんぞぉ」
甘え声と一緒に押し付けられた下半身には、既に熱く滾る証があった。
コリコリとボクの大腿にこすりつけるようにしながら、喉を鳴らす。
まるで禁欲でもしていたみたいだ、と一昨夜、思ったのは正しかったのだ。
ボクは先輩のハーフパンツのなかに手を滑り込ませた。
「あ」
ボクの指先が触れるや否や、身体を震わせて先輩が小さく鳴く。
下着にしみがつくほどしとどに濡れた先端は、指をすべらせるだけで、また溢れさせる。
こんなに正直で、こんなに節操ないのに。
ずっと我慢していたのだろう、何しろ「遊郭に居続け=極秘任務」だったのだから。
「明日の予定は?」
一応、確かめる。
「ん、ない……待機」
「じゃあ、遠慮しなくていいですね」
掌に包み込み、しごき上げると、先輩がのけぞる。
「だめ、もう出そう」
「いいですよ。とりあえず、一回、抜いておきましょう」
んん、と先輩がじれったそうに足を突っぱねた。
「むか、つく」
吐息にまぎれた悪態も、可愛いだけだ。
「おまえ、なんで、冷静なの」
「いいええ、ボクだっていっぱいいっぱいです」
早く突っ込みたくてしょうがないんです、とは言わず、手の動きを早める。
あ、と小さく叫んで、先輩の身体が硬直した。
どくんと手のなかのものが脈うち、熱が溢れ出す。
ぎゅっとボクの腕を掴んで、先輩は泣きそうな顔をした。

「しばらく会わない間に、オヤジ臭くなったねぇ」
服を脱がせ、ソファからベッドに移動した途端、先輩が憎まれ口を叩く。
「あ〜、主にオヤジ相手に情報収集してましたんで」
「やだなぁ、オヤジなテンゾウなんて」
そう言いながら、先輩はボクの背に手を回す。
「あれ? また少し肉ついた?」
「ああ、ええ。普段は監視と情報収集で、体がなまるのも怖かったですし、暇潰しも兼ねて鍛錬だけはみっちりと」
「お前、鍛えれば鍛えただけ、筋肉つくタイプだよねぇ。チャクラもあるし」
なんかフクザツと言いながら、先輩はボクの広背筋や僧帽筋をすりすりと撫でる。
「きっと、そのうちオレの背も越して、身体ももっとがっちりしちゃうんだ」
「そうありたいです。先輩を難なく押し倒せるように……」
首筋に唇を落とすと、うわ、やっぱりオヤジくさいセリフ、と言いながら、それでも先輩は喉下をのけぞらせた。
「気持ちいいですか?」
「ん、気持ちいい。テンゾウの唇、気持ちいいよね」
こうやって相手に身を任せることが、忍のボクらにとってどれほどの意味を持つか。
ボクの前ではいつも無防備でいてください、何があってもボクがあなたを守ります、と言い切れるほど、強くなりたい。
鎖骨に歯を当てると、はぁと甘く掠れた声が上がった。
そのまま腰を抱き寄せて緩く立ち上がった肉茎をボクの大腿に押し付け、背に回した手で腰椎をたどる。
ビクンと先輩の身体がはね、ねだるようにわずかに両脚が開いた。
用意していた軟膏を指にすくい、突き入れる。
熱い襞に包まれた指は、すぐに締め付けられた。
大腿部に当たる先輩の先端が、また濡れた。
「ああ、いい」とうわ言のようにこぼれる言葉が、ボクの胸を締め付けた。
やっぱり……いやだ。
先輩がほかの男に抱かれ、ほかの男の腕のなかで、こんなふうに声をあげるなんて、いやだ。
指先を動かすと、くちゅと湿った音がした。
「ん、もっと、おく、おくがいい」
いつになく素直な先輩は、わずかに身体をくねらせて言葉でねだる。
「ダメです、もう少し我慢してください」
この狭い器官を無理やり広げれば、間違いなく傷が付く。
ゆっくり、慣れさせていかなくては。
「つ」
先輩が、ボクの肩口に吸い付いた。
「てんぞ、うわき、なんかしないで」
「しません」
なんでそんなことを気にするのか、このひとは。
ゆっくりと身体を開き指を進めながら、思う。
ぐり、とわずかなしこりを見つけ指の腹で押すと、ヒッと先輩が息を呑んだ。
そのまま、押し潰すように力を加える。
「あぁ、んん」
ぎゅっとボクの指を締め付けながら、先輩が腰を揺すった。
「はやく」
「欲しい、ですか?」
「ん、ほし……い」
でも、まだ先輩のそこは狭い。
一度、引き抜いて指を増やす。
時折、噛み締めた唇から堪えきれない嬌声を零す先輩に、ボクのほうがあおられる。
くそ!
「早く」はこっちだ、と思いながら、昂ぶる熱をやり過ごす。

まったく、ボクって、我ながら、我慢強い。
こんなに献身的なのに、何が足りたいと言うのだろう。
何が足りなくて、浮気するなとか言うか、このひとは。

「先輩、そろそろいきますよ」
コクコクと頷くたびに揺れる銀の髪を一度、胸に抱きこみ、それからボクは先輩の身体を裏返した。



2007年09月04日(火)
たーにんぐ・ぽいんと 6)


「ほんに、もう、こういうところは、子どものころからかわらなくて」
朱緋さんの言葉に、ボクはどう答えていいかわからず「はぁ」とだけ返す。
「わちきは、カカシさんのお師匠さんに、情けを頂いていたのです」
ボクは朱緋さんを見た。
「村がひどい飢饉で……いろいろあって路頭に迷っているところを拾われました。ここで身過ぎの立つように、と望んだのはわちきなんです」
「え? じゃ、先輩は?」
「この方には……初めて会ったき、村で餓死した一番下の弟みたいな……そんな痛々しさを感じました。わちきは歳もずっと上ですし、あとわずかで年季も明けまする。そうしたら里の片隅で甘味処でも開かせていただこうかと考えております」
先輩より、ずっと上? とボクは朱緋さんを見た。いまはなき四代目と関わりがあったのなら、そう若いはずもないのだろうが。どう見ても、ボクらより上には見えない。
女は化け物だ、と密かにボクは確信した。

「よその店でのことは、存じませぬ。でも、桜花楼では、一度も太夫に床の相手はさせませなんだ。むしろ、夫のほうが望んで座に着くほどで……」
じゃ、先輩はここで何をしていたというのだろう。
遊郭に居続けていると噂がたつほど、ずっとここにいて……。
「寂しいお方です。父ごもお師匠さんも班のお仲間も、慕い心をゆるした方たちはみな亡くなって、名声ばかりがあがっていくと、醒めた顔でおっしゃっておいででした」
そんな。そんなことって……。
「でも。ここ1年ほどは、ずいぶんと明るくおなりでした。無為にここへ足を運ぶ回数も、ずいぶんと減っておりました」
朱緋さんは、先輩の髪に触れた。
細い指先に爪紅を施した手は、無骨なボクの手とは違っている。でも、その触れ方は、同じだった。
ああ、このひとも、同じ思いを指先にこめて、そっと触れるのだ。
「お仕事では違ってもいましょうが、生来が不器用な方」
そうだ、先輩はあっちもこっちもと気楽につまみ食いなどできるタイプではない。
飄々とした見かけとおちゃらけた言動に惑わされて、みな先輩を、気の向くままに女から女へとふらふらしていると誤解するけれど、決してそんなひとではない。
「お師匠さんは捌けたところのある粋なお方でしたが、こちらはお子様でしたから、むしろ無粋が当たり前。多少はお変わりになられましたが、生来はそうそう変えられるものでもありませぬ」
それはボクが一番よくわかっていることじゃないか。
ボクと付き合い始めて、ボクはまだ先輩と付き合っているということがよくわかっていなかったころから、先輩はずっとボクを、ボクだけを想ってくれた。
ボクのとんちんかんな思い込みでプレゼントしたホワイトデーのリキュールも、その意味に気がついた途端、ボクのところにすっ飛んできた。
誇張でもなんでもなく、ほんとうにつむじ風にしか見えないほどの早駆けだったらしい。
おかげで、あんなふうに街中を疾走するのなら、ひと目につかないように屋根を移動する規則違反は大目に見よう、という暗黙の了解が成立したほどだ。
それぐらい先輩はいつも一生懸命、ボクを想っていてくれたのに……噂になど惑わされて。
「ボクは……バカだ」
「ほんに」と答えた朱緋さんの笑顔は、ボクを奈落に突き落としてくれた。
さすが先輩の古馴染み。根性も先輩並みだと、ボクはガックリしおれたのだった。

*       *       *       *       *

「どうしたの、テンゾウ。気持ち悪い顔して」
翌朝、目立たないよう別々に桜花楼から里に戻り、三代目への報告をすませた先輩が、窓からボクの部屋に来たのは昼ごろ。
開口いちばんがコレだ。
「いいえ。ボクとしては最大限の歓迎を表現したつもりなんですが」
「慣れないことは、やめよ〜よ」
窓枠に張り付いたまま器用にサンダルを脱ぎ、ヒラリと室内に飛び降りる。
「先輩、腹は」
「減ってないよ〜」
ひらひらと手を振りながら、サンダルを玄関に持っていく。だったら最初からちゃんと正規の入り口から来ればいいものを。
「あー、やっと終わった」
ごろんとソファに転がる。
「ながかったー」
「……大丈夫でしょうか?」
「大丈夫でしょ? オレが居続けなければ刺客も来ない、オレがついているとわかれば小菊ちゃん……じゃなかったか、菊香姐さんをはした金で襲う物好きもいない。ま、しばらくは警備を厳しくしてもらうけれどね」
オレはお役ご免〜、と変な節回しで謡うように先輩が呟く。
相当、神経を使ったのだと、ボクは改めて知る。
桜花楼のだれも、大きな怪我もなく命を落とすことなく、終わってよかった。
ボクはだれよりも先輩のために、そう思った。

「ところで先輩」
ソファになついている先輩に覆いかぶさる。
「ボクの報酬は、先輩から取り立てていいんでしょうか?」
先輩が、目を真ん丸くしてボクを見た。
「なに? オレに支払わせるつもり? そりゃ、取りはぐれたお前の任務代ぐらい、払えるけど……」
唇を尖らせる。ああ、くそ、やっぱり、可愛いじゃないか。
「テンゾウって、そんなに守銭奴だった?」
「いえ、ボランティアのつもりでいましたよ、もちろん」
「いました? じゃ、気が変わったの?」
ボクはそれには答えずに、まだ少し尖ったままの先輩の唇を啄ばんだ。
「はい、気が変わりました」
答えて、今度は深く口付ける。
ん、と甘い息を吐いた先輩の腕がボクの背に回った。
途端に、下腹が疼き始める。
欲情する先輩に触発されて、ボクのオスが目覚める。
「そーゆーこと?」
「はい、そーゆーこと、です」
背に回った先輩の腕がボクを抱き寄せる。
そして、先輩から深く口付けられる。
「取引、成立ですね」
間近で目を覗き込む。欲に濡れ、焦点のずれた目許に、ボクは煽られる。
テンゾウ、と囁くような声がボクを呼んだ。
「何も説明しないで……ごめんね」
いいえ、ボクは首を振る。
いいんです。

もし事前に説明されていたら、こんな形ではなく、もっと違ったやり方がないかと、先輩に詰め寄っていただろう。
何が正解かは、わからない。別の図面も引けたかもしれないが、一昨日の昨日という短時間では図面の書き換えそのものが難しい。
桜花楼は長い緊張を強いられて、だれもが疲弊していたはずだ。
なるべく早く、一日も早く。それが最優先事項だった。
そして、チャンスは一度。たった一度で、確実に、刺客をしとめなければならなかった。
里に戻ったタイミングでボクを巻き込む、というのは、不確定要素が多くて危険ではあるが、その分、確実でもあったのだ。
不確定要素の多くは、一般的な判断に基づいて導き出された結果だ。ことが、先輩とボクの間に関わるのであれば、不確定要素の大半は、予測可能な確定要素となる。
でもそれを確信できるのは、先輩しかいない。だからこそ、敵には効果的なのだ。
「たまたま」ボクが居合わせたことは抜け落ち、刺客が写輪眼のカカシに返り討ちにされた事実だけが残る。
あの刺客が、ただの賞金稼ぎだったのか、背後に何かあったのかまでは、ボクはわからない。
しかし、彼は捉えられ、尋問部隊に引き渡された。となれば……。

「先輩、長の任務、おつかれさまでした」
途端、ふにゃ、と先輩の顔が歪んだ。



2007年09月03日(月)
た〜にんぐ・ぽいんと 5)


「だいじょーぶ?」
「ええ、はい。ちょっと対応が遅れまして、軽くやけどしただけなので」
座敷を変えた桜花楼の一室で、先輩はボクの左手の掌に包帯を巻いてくれている。
「それにしても」とボクは先ほどまでいた部屋のほうを振り返った。
「相手をはめるならはめるで、事前にそうと言ってくださいよ」
ごめ〜んね、と言いながら、先輩はヘラヘラしている。
「向こうが、ウナギ屋に潜んでいるという情報は掴んだんだけど、どう動くかは読めなかったし」
「それにしても……」
「だから、ごめん、って言ってるでしょ。好んで火薬を使うのはわかっていたから、オレとシンさんの二人じゃ心もとなかったんだよ」
「だったら、それなりに警備を増員すれば」
先輩は、口を尖らせて「そうできない事情があったから、テンゾウに賭けたんだよ」と、まるで文句でも言っているかのように訴えた。
「申し訳ございません」
軽いかすり傷を負って席を退いた菊香さんの替わりに、と、あでやかな太夫が禿を従えて、座敷に入ってきた。
「ぬしさんの、その言いようでは、伝わりませぬよ」
ニッコリ微笑んで先輩の口を封じ、おそらくこの遊里でも最上級に位置するだろう太夫が、ボクを見た。
やや釣り目気味の目元の艶といい、上品な口元ににじむわずかの色気といい、思わずみとれてしまいそうだ。
「朱緋と申します」
綺麗な所作で頭をさげ、朱緋さんは再び、どことなく拗ねたふうであさってのほうを眺めている先輩を見た。それから、ひたとボクに視線を合わせる。
「説明させていただきましょう」

朱緋さんの話では、先ほどの菊香さんの水揚げに関して、旦那となるひととその親戚の間に軋轢が生じ、一事は菊香さんが命を狙われる事態にまでなったのが、二ヶ月ほど前のこと、つまり、ボクが長期任務に出立したころのことだ。
その時点で、先輩に警備を頼み、なんとか無事、水揚げはすんだものの、今度は、写輪眼のカカシが居続けている店だという情報がどこぞの抜け忍に伝わり、一時は治まっていたはずの刺客が、また暗躍し始めた。
結局、こういうことはイタチごっこなのだ。ならば、暗殺を目論んでも無駄だということを相手に悟らせるためにも、迎え打ちしたほうがいいのではないか、ということになった。
先輩は反対したそうだ。
どういう状況になるかわからない以上、だれかが怪我をしたり、最悪、命を落とす可能性もある。
だから、それは得策ではない、と。
そこで強硬に主張したのが、菊香さんだったそうだ。
「木の葉の里の写輪眼のカカシがついている、とわかったから、あたしを狙った刺客も矛を収めたんです。親戚は、いまでも隙あらばと思っているようですが、依頼の受け手がいないのが現状なんです」
つまり、先輩の威光が通用しないとなると、菊香さんはまた狙われることになる。
「どうせ、狙われる命です。もし失敗して命を落としたとしても、それはそうなるべくしてのこと。あたしが囮役になりましょう」
菊香さんにそう言われては、先輩も反対はできなかったそうだ。
それでも、相手の情報は極力、収集する、それも忍の情報網ではなく、遊里の情報網を使って。
そのうえで作戦を立てる、ただし、応援は期待できない。
もともと四代目火影の人脈に基づいた、極秘裏の依頼、増員は難しかった。
そこで先輩が一計を案じた。
曰く「後輩でね〜、優秀なのがいるの。あいつがいれば、切り抜けられる」
ただ、ボクが長期の任務についていたので帰還を待って、なんとか遊里に自然に足を運ばせ(つまり応援の人員だと敵にさとられないように)、否応なく巻き込んでしまおう、という図面を引いたのは、間違いなく先輩だった。

「本来ならば、ちゃんと依頼をし、それなりの報酬もお支払いすべきところを、かような形でうやむやするのは、ほんに心苦しいのです」
そう言って、朱緋さんはまだあさってのほうを向いている先輩を見た。
「ですから、これはほんのお礼の印」
そう言って、膳の上の杯を手にするよう促す。仕方なくボクも応じた。さらりと薫り高い極上の酒が喉を通り過ぎていく。
「あなたさまが、この」
と、朱緋さんは、相変らずあさってのほうを向いている先輩に視線を送り、ボクを見た。
「カカシさんの思い人でなかったなら」
二杯目の酒を、ボクはもったいなくも吹き出してしまった。禿が濡れた膳や畳を拭く。
そんなボクの様子を朱緋さんは苦笑しつつ、眺めている。
「いくらでもおもてなしの仕様があるのですが……」
「テンゾウに手を出しちゃダメって言ったでしょ」
先輩がくるりと振り返って朱緋さんを睨む。
「こういった次第で」と、朱緋さんはクスクスと笑っている。
「えっと」ボクは朱緋さんと先輩を交互に見て言った。
「ボクは無粋ですから。先輩が心配するようなことはありません。それより、ほんとに腹減ってるんですが」

別のウナギ屋――どういうわけか、またウナギだった――から出前が届いたのはそれから間もなく。
重箱の蓋からはみ出すほどのそれを、ボクはありがたく頂戴した。
禿たちには、ひつまぶしが振舞われ、先輩は酢の物に仕立てた白焼きを突付きながら酒を飲む。
「報告……は、いいんですか?」
「シンさんが行ってくれたから、いい」
いくら忍とはいえ、依頼した側の人間が報告? どうせ先輩がぐずったのだろう、とボクは心の中でシンさんに手を合わせた。
しかし……今夜はどうするのだろう?
ここに泊まることになるのだろうか、とボクはぼぉ〜っと、朱緋さんの三味線に合わせた唄を聞いているらしい先輩の様子を窺う。
居続けが任務がらみだということはわかったのだが。
噂では、ごく最近のような話だったが、それは敵をおびき寄せるため、わざと噂が流れるように仕組んだからだ。
実際にはこの二ヶ月ほどの間、ずっと……ここにいたことになる。
さきほどの菊香さんは、最近水揚げがすんだばかりで後ろ盾となっている旦那もいることだから、先輩の床の相手をすることもないのかもしれない。
でも、この朱緋さんは先輩とは古い馴染みのようだし……と考えて、いきなり跳ね上がる心拍にあわてた。
気づいてしまった。
今回がどう、ということではなく、過去、先輩はきっとなんどもこの美しいひとを……。
うわ、どうしよう。
床のなかでくねる先輩の身体や、のけぞる喉元、ボクに絡みつく腕や足の感触が思い出された。
ボクのなかでは、その相手は先輩だけど、先輩のなかではそうやって身を預けてくるのは、たとえばこの朱緋さん……。
「テンゾウ?」
「は、は、はいぃ!!」
先輩が怪訝そうな顔でボクを見ている。
「どうしたの? 難しい顔していたかと思うと、急にそわそわして」
「あ、いえ、なんでも」
うわあ、びっくりした。
「今日は念のため、ここに泊まるんだから、少し落ち着きな、ね」
ああ、やっぱり泊まり、ですか。
ということは、今日は先輩とは添い寝もできないんですね。
「何? そのパックンみたいな、タレ目。あれは、パックンだから可愛いんであって、テンゾウじゃ可愛くないの」
え? タレ目になってましたか?
思わず頬骨をゴシゴシと擦るボクに、先輩は呆れ顔になった。
「だいたいさぁ、オレ、今日、腰いたいの」
ふん、と言うと膳を押しやって、横になる。
腰? あ? 夕べの?
え? そんなにハードなことしたっけ、と思わず記憶を遡る。
体位は普通だったよな。
ああ、でも。
反り返った背にくっきり浮かぶ肩甲骨、弾みながらのけぞらせた喉元に浮かぶくっきりした喉仏、しがみつくように背に回された腕……体位を変えて、3回……。
「テンゾウ!!」
まるで鞭がしなるような先輩の鋭い声に、思わず身体が竦んだ。
「なに、想像した?」
「あ、いえ」
「いえ、じゃない」
「その」
ギロリと睨まれ、ボクは借りてきた猫のように小さくなる。
「ほんっと、おまえときたら」
先輩はくるりとボクに背を向け、
「オレ、もう寝る」
と丸まった。
禿のひとりが枕を手に現れると、そっと先輩の頭の下に差し入れ、もうひとりが薄布のような上掛けをふわりとかぶせる。なんだか、慣れている。このひと、いつもこの調子だったのだろうか。

すぅすぅと聞こえ始めた寝息にため息をつくと、くすりと朱緋さんが笑った。



2007年09月02日(日)
た〜にんぐ・ぽいんと 4)



まさか昼間から遊里に足を運ぶわけにもいかず、ボクは夜まで待った。
やるべきことが決まったおかげで、有効に時間を使えた。

とりあえず、日課たる基礎鍛錬を終え、食料品の買い出しに行った。
先輩がいつ来ても大丈夫なように、酒も買う。
それから、切れかけていた洗剤も買った。
帰宅してからは、部屋の掃除だ。
布団を干し、昨日、ドロドロになったシーツは洗濯する。
それらの作業は夕方には終わり、暮れるまでボクは窓から外をぼんやり眺めた。

任務かもしれない。任務ではないかもしれない。
どちらでもいい。
先輩がボクと別れない限り、ボクたちの間に「終わり」はない。
だれかと先輩を共有するのは耐え難い。
けれど、先輩を失うのはもっと耐え難い。
ならば、答えは決まっている。
耐え難きだって、耐えてみせるさ。
ふん、とボクは鼻息も荒く決心して、暮れなずむ街に出た。

遊郭には、任務がらみで潜入したこともあるし、カカシ先輩の隊に配属になる前、隊の先輩たちに連れられて来た事もある。
だから一通りの作法は知っている。
しかし、居続けている先輩を訪ねる、というのは、いかがなものか、と思う。
桜花楼と店の名も知っていて、もちろん場所も確認したのだが、どうにも気後れする。
特にその店が、メインの通りに面した格式高い大店だと知っては、敷居も高くなろうというもの。
勢いでここまで来てしまったものの、遠くに桜花楼を確かめて、ボクはしばらく逡巡した。
どう言えばいいのだろう?
先輩がしらばっくれたら?
いや、任務がらみだとしたら、先輩は確実にしらばっくれるだろう。
任務がらみでないとしても、しらばっくれるかもしれない。
それにボクは、どの面さげて、先輩の前に出ればいいのか?
いや、そもそも先輩のところに到達できるのだろうか。
来たのは失敗だったか?
予想していたよりも余程地味なつくりの店構えを遠めに見て、ボクは己の行動を決めかねていた。

「もし」と声をかけられたのは、腕組みして桜花楼を睨んでいる、まさにそのときだ。
おそらく眉間にしわでもよっていたのだろう、振り向いたボクに声をかけた相手は、「おっと」と両手のひらを見せた。
「なんぞ、ウチに御用でも?」
こざっぱりした着流し姿だが、その男が忍なのはわかった。
「ウチの? ということは桜花楼の?」
「はい、用心棒を務めさせていただいております、シンと申します」
ああ、遊里に忍んで情報収集やら繋ぎやらをする……と納得して、ボクは頭を下げた。
「用があるわけではありません。ただ」
言いかけて、言葉を失う。先輩を探しに来た、だなんて、どの面下げて言えるだろう。
結局、ボクは先輩に会いたいだけなのだから。これじゃ、ストーカーみたいなものじゃないか。
「こんな大店で遊ぶのは、どんな方たちなのかなと……大店に上がれない者のひがみです」
なんとかこれでごまかされてくれ、と願うボクを、彼は一瞥した。
「もしやお手前は、カカシさんの隊の方では?」
咄嗟に殺気を放ったボクを、彼は再び「おっと」と制した。
「暗部の方相手に、ぶ躾な質問でしたか」
ギラ、と強い視線がボクを捕らえる。
なるほど、一般人の間に忍んでいる者の凄みとは、こういうことかとボクは納得した。
ここぞ、という、その一瞬で己の力量を相手に悟らせる。
もちろん戦いの場で対峙すれば、勝つ自身はある。しかし、ここはそうではない。
生身の人間のあしらいに関しては、ボクなどまだまだひよっこだ、と素直に思えた。
「まだ経験も浅いもので、こちらこそ失礼しました」
ここは、おそらく年下であろうボクが引くのが常道だ、と判断し、頭を下げる。
「なるほど、カカシさんの教育が行き届いている」
にっ、と笑った彼は、ボクを手招きした。
「カカシさんがお待ちです」

きらきらと夜目にもまばゆい灯りの下、無粋な正規部隊のベスト姿でボクはシンさんとやらの後を付いて歩いた。
「この格好で……大丈夫ですか?」
「ご心配には及びません。任務に出られたそのままの格好でいらっしゃる方も」
そう言われても、暮れて間もない街で同輩をみかけることはなかった。
むせかえりそうな脂粉の匂いが、通りにまで流れてくる。
纏わりつくような視線に、落ち着かなくなってきたころ、ようやくシンさんの足が止まった。
引き戸を開けると、下働きの者がすすぎを持って、すっとんでくる。
先ほど、「お待ちです」とシンさんは言った。ということは、先輩はボクが来ると予測していたのだろうか。
「こちらです」と導かれたのは、けっこうな部屋だった。ボクを案内するとシンさんはすぐに下がった。
部屋には、まだ初々しさの残る、涼しげな顔だちの太夫。彼女が三味線を弾く傍らで、脇息にもたれてカカシ先輩はくつろいでいた。
ボクを見ると「よ」と手を挙げ、「ね、オレの勝ち」と太夫に言う。
「ほんに……昨日の今日で、いらっしゃるとは」
クスクスと笑いながら、「菊香の負けです」と言うと、パンパンと手を叩く。
顔を出した下男に、禿が何事かを告げていた。
「テンゾウ、晩飯まだでしょ? 今、菊香姐さんが、うなぎをご馳走してくれるからね〜」
「うなぎ?」
「そう、精がつくよ〜」
「いや、別に疲れてませんが」
「まあ、そういわずに」
「賭けをされていたんです」と、杯を手にした先輩に酒を注ぎながら、もうひとりの禿が言う。
「賭け、ですか?」
「そ。テンゾウがいつ来るか。で、負けたほうがうなぎをご馳走するって約束」
なぜ、うなぎなのか、よくわからないのだが、これも趣向のひとつか?
首をかしげながら、ふと自分の立場を思い出した。
任務だったとしても、この菊香さんとやらと比べると、ボクは……。
最初から勝負にならないのではないか?

先輩やボクより若いだろうに、しっとりとした艶がある。
手遊びに爪弾いている三味線も、なかなかどうして、見事な腕前だ。
それにおっとりして見えるけれど、頭の回転は悪くない。
目線で二人の禿に、指示を出し――先ほどのうなぎの注文も、賭けのことを説明したのも、彼女の指示だ――、禿もそれに従えるだけの呼吸を飲み込んでいる、つまり、そう躾けられている、ということは、それだけ彼女の配慮が行き届いているということだ。バカでは、こうはいかない。
「なあに、テンゾウ。惚れちゃった?」
「バ……なに、言ってるんですか」
「あ、いま、バカって言おうとしたね。先輩に向かって」
ふん、いいもんね、どうせオレはバカだよ〜、とわざとらしく、向こうを向く。
先輩は、妙にハイテンションだ。
そう、妙に……。

「お待たせしました」
うなぎが入っているらしい重箱を掲げた男を案内してきたのは、シンさんだった。
オヤ、とボクは首を傾げる。
「あ、お茶、用意して来てくれる?」
シンさんの言葉に、禿二人は「あい」と可愛らしい声で返事をして、部屋を出て行く。
「三人前でございましたね」
出前持ちがそう言って、重箱を差し出した。
鼻先を掠める、うなぎの匂い……と。

「危ない!!」

とっさに木遁を発動していた。
まだ重ねられたままの重箱を出前持ちの手元からかっさらい、窓を破って、外へ。
そして空高くへ。

シンさんが菊香さんを抱きかかえ、ふすまを倒して隣室へ転がり、出前持ちは、あっけにとられる暇もなく先輩が拘束する。

高く、高く、とにかく被害が花街に及ばないように。
ボクはチャクラの限りに、枝を伸ばした。

数秒の後、はるか上空で爆音が響く。
まるで二尺玉でも打ち上げたかのような、腹の底に響く音、とともに、ボクから派生した一部が砕けた。



2007年09月01日(土)
たーにんぐ・ぽいんと 3) 

一糸纏わぬ姿で抱き合う、それだけで先輩の身体はさらに熱を帯びた。
指先を肌に滑らせるだけで、息が上がる。
敏感な個所を確かめるように唇で触れ、歯を立てると身体ごと跳ね上がった。
はぁ、と鼻に抜けるような甘い吐息は、快感の証だ。
けれど、そこにわずかな違和を感じる。これではまるで、禁欲していた男のようじゃないか……。
――あの遊郭の噂は、いったい?
いぶかしく思いながらも、先輩の熱が高まっていくのが嬉しくて、ボクは余計な思考は捨てた。
ヤボな詮索は後回し、ただ、恋しくてならなかった肌を堪能し、ボクだけが知っているはずの痴態に陶酔し、もっと、とねだる先輩の、いつになく甘える声に恍惚となり、一夜を過ごした。

そして、翌朝、目覚めると先輩の姿はすでになく、ボクはただひとり残された事実に呆然する。

長期任務明けのボクには、10日間の待機という名の休暇が与えられていた。
しかし先輩には任務の予定があったのかもしれない。
当たり前のようにボクの部屋を訪ねて来て、そのうえねだるような視線を寄越したから、確認しなかったのだが。
それとも、あれはボクの思い込みだったのだろうか。
「わからんひとだ」
声に出してみても、何の解決にもならない。けれど、少しだけ気持ちが落ち着く。
「ほんっと、わからんひとだ」
もう一度、声に出してみる。
何を今さら、という気がした。
そんな相手に惚れてしまったのは自分なのだ。
ボクは先輩を真似て、後ろ頭をカシカシとかいてみた。
昨夜の様子だと、先輩のほうもボクに見切りをつけたというわけではなさそうだった。
惚れた相手を誰かと共有するという趣味はないが、もし先輩がボクひとりでは満足できないと言うなら……。
さて、とボクは腕組みをしてしまった。
やはり、先輩も男なのだ、毎度突っ込まれてばかりに飽いたのかもしれない。
とはいえ、配慮が足りませんでした、と自分を差し出して、果たしてそれで先輩が喜ぶのか?
というか、ボクにそれができるのか?
いやそれ以前に、先輩はそんなことを望んでいるのか。
「はぁ……」
あれこれ考えてもラチがあかない。ボクは先輩のことを棚上げした。
このまま「さようなら」という事態にだけはなってほしくなかったが、それは考えても仕方のないことだ。
「メシ」
ボクは立ち上がるとシャワーを浴びて、着替え、外に出た。

「久しぶり」
遅い朝の定食をかっこんでいると、ヒガタに声をかけられた。
口が塞がっているので、ボクは片手をあげた。
「いい?」と聞いて向かいに座ったヒガタが、「焼き魚定食、大盛りでね」と注文する。
「いま、朝飯?」
「ううん、おやつ」
聞いたボクがバカだった。
「任務は?」
「今月は、詰め番」
ああ、とボクは返事をする。何ヶ月かに一回、回ってくる詰め番はもとは詰め所での待機任務だったそうだが、いまでは火影の警備を指す。
正規部隊の上忍が常時、「人生色々」に待機しているのに、暗部までが待機では効率が悪い。草創期、まだ里が不安定だったころはそうした必要もあったのだろうが、いつの頃からか、人材の無駄遣いだということで暗部の待機任務は廃止された。
ただ、里内警備担当の者は、見回りと詰め所での待機をツーマンセル2組――単独という変則もあるが――で交替しながら行うので、詰め所が空になることはない。
それにボクが暗部に配属となってから知っている限りでは、詰め所は暇な暗部の休憩室のような使われ方もしている。まぁ、「人生色々」も似たような状況らしい。
結局、休暇だからと言って、せいぜいやることは飲む打つ買う、あるいは鍛錬する、そんなものだ。
歌舞、音曲、絵画、生け花、裁縫、料理、といった趣味を持つ忍もいるにはいるが、たいていは任務絡みで必要があって覚えたのがきっかけだ、と言う。潜入任務の多いくの一などに、その手合いが多い。
また先輩のような忍犬遣いをはじめ、使役動物をもっている忍には彼らの世話もある。この辺になると、義務というよりは趣味に近いようにも思える。もっとも、あくまでも先輩を見ての感想だが。
「休みなんでしょ?」
イナダにでも聞いたのか、ヒガタが問う。
「うん、まあね」
「暇なんだ」
「まあ……」
そして、趣味もなく使役動物ももたないボクは、10日間をどう過ごそうか、頭を抱えてしまうわけだ。
飲む、はともかく、打つ買うには縁がない。
基礎鍛錬はするが、これは日課だから、一日が潰せるわけではない。
集中した鍛錬をするには、今日はまだ任務の疲れが残っているので、適切ではない。
先輩も休みだったら、一緒に過ごせたのになぁと思う。
ここ数ヶ月、ボクの休みの大半は先輩と過ごす時間か、先輩と過ごす時間のための準備――つまり部屋の掃除や洗濯、食材の買出し、先輩の好きそうな映画や本を探し買うか借りるかの算段をつける、稀に先輩の部屋の掃除や洗濯――に費やされていた。
おかげで、それ以前の自分がいったいどうやって休みを過ごしていたのか、すっかり忘れてしまった。

「たまにはさ、花街にでも行ったら?」
きれいに魚の骨だけを残したヒガタが、真面目な顔で言った。
こういうのを猫またぎと言うんだろうな、これだけ見事に骨だけだと、さすがの猫もまたいで通るよな、うんうん、と思いつつ、皿を見ていたボクは一瞬、彼が何を言ったのか理解できなかった。
「花街? なんで?」
「なんとなく。なんか煮詰まってるみたいだから、そういうのもアリかなって」
確かにボクは煮詰まっているが、それはそういう類のものではなく……いや、そういう類ではあるのだろうが、花街に行ったところで解消されるものでもなく、と考えて、閃いた。
「そういえば、ウチの隊長の噂、知ってる?」
「ああ、居続けってやつ?」
あ、やっぱりと思いつつも、グサと何かが胃の腑にささったような痛みを覚える。
「そうだね、ちょうどテンゾウが里を出てから少ししたころから、かな? 何? それがどうかしたの?」
あ、いや、とボクは言葉を濁す。
「そういえば、最近、その手の噂、ピッタリと途絶えていたね」
「先輩を狙う刺客が送り込まれて、太夫が巻き添えになりかけたから自粛していたらしい」
「あ、そうなの」
ヒガタは大振りの湯飲みを傾け、茶を飲む。
「てっきり里に恋人ができたんだと思ってた、っていうか、そういう噂もチラッと聞いた」
そう言って、ヒガタはボクを見た。
な? なんだ? その視線。
「噂?」
「でも、チラッとだけで立ち消えたから。で、カカシさんの遊里での噂がどうかしたの?」
「ああ、いや。居続けできるようになった、ってことは、刺客はもう送り込まれてないのかなと思ってさ」
「どうだろう? 待ち伏せして迎え撃つってこともあるんじゃない?」
「いや、それはないよ。だって、下手したら太夫とか巻き添えになるから。だから自粛してたわけだから」
ああ、そうかとヒガタは呟いて、首を傾げた。
「じゃあ、落ち着いたんじゃない?そっちは。何? 気になるの?」
ドックンと跳ね上がりそうになる心拍を、抑える。
「そりゃ、気にはなるよ。自分とこの隊長が狙われている、ってことなんだから」
「ああ、そっちね」
「そっち、って……そっちじゃないほうって、なんだよ」
はぁ、とため息をつき、ボクも茶を飲んだ。
この定食屋、値段の割りに素材はいい。ボクの頼んだ鶏のテリヤキもうまかったし、イナダが猫またぎ状態になるほどきれいに食べたということは魚もイケル、ということだ。
何より、朝定食とは思えないボリュームなのが、24時間戦えますか、なボクたち向きだ。
加えて、茶もおいしい。
今度、先輩と来よう、と考えて、そういう機会があったら、と付け加え、そんな自分に落ち込む。
「いや、居続けのほうは気にならないの?」
「それは、もともとそういう噂の絶えなかったひとだから」
「今さら?」
「うん、今さら、かな?」
ああ、自分で言っていて、ココロが痛い。
「う〜ん」とヒガタが唸った。
「これはさぁ、噂とは違うし、任務がらみっていえば、そうなんだけど」
ブツブツと呟くようなヒガタの言に、ボクは戸惑う。
「でも、任務内容はボクも知らないわけだし、ま、機密漏洩にはならないか。同じ暗部だしな」
うん、と頷いてヒガタはボクを見た。
「カカシさんが花街ってか、桜花楼って店に居続けてるらしいのは、ほんと。まあ、任務も入るから、実際には、ずっと、ってわけじゃないんだろうけどね。でも、それ以外はほとんどずっとらしい、とも聞いている。ただね」
ヒガタはまっすぐにボクを見た。
「ほんとうは、ずっと居続けてはいないんだ」
言っている意味がわからなくて、ボクは「は?」と問い返す。
「少なくとも2日に1度は、三代目のところに来ているんだよ、カカシさん」
え? と言ったボクに、ヒガタは頷いた。
「たいていは、昼ごろ。きれーに気配消しているから、だれも気づかないだけで」
ああ、そうか。ヒガタは火影の警備をしているのだった。
「話の内容までは、警備しているボクらにも聞こえない。でもね」
「任務?」
「おそらくは」
任務がらみ?
思いもしなかった。
だとしたら……。
「うん、たまには花街に行ってみるのもいい経験かもしれない」
ボクの言葉に、ヒガタはニッと笑った。