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  ぱすてぃす〜後朝 -18禁-

  猩々   おまけ -18禁-
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  マラスキーノ 後日談
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 ※4 に、テンカカ以外の絡みあり
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  カカシの過去を垣間見る

  恋女   後顧   おまけ
  ストーカー被害に合うテンゾウと
  嫉妬な先輩


  九夜十日
  イタチ里抜けのとき

  百年の恵み
  長期任務の小隊長を命じられるテン
  百年の孤独-6話
  初めての遠距離恋愛なテンカカ
  たーにんぐ・ぽいんと-8話
    テンゾウの帰還

   香る珈琲、そして恋 -キリリク話-
 四代目とカカシの絆を知って、
 テンゾウは……

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 【2部】 ぶらっく・るしあん-4話
 【3部】 ぶれいぶ・ぶる7話
 【Epilogue】 そして、恋

  あふろでぃーて-5話 -キリリク話-
 くるみ


  a`la carte
  -暗部なテンカカとヤマカカの間話-

  春霞-4話
  暗部を離れたカカシとテンゾウ
  ちぇい・べっく
 -可愛いお嬢さん-
4話
  ※2,3に、ごく軽くテンゾウ女体変化あり
  久しぶりのカカシとの任務
  聖牛の酒-3話
  波の国任務の少しあと
  てぃままん-3話
  波の国と中忍試験の間

  月読-5話 -キリリク話-
 月読の術に倒れたカカシを心配しつつ、
 イルカ先生の存在が気になるテンゾウ

  月読 後日談


  テキーラサンライズ−19話
 ぎむれっと前日譚


   ぎむれっと-40話 -キリリク話
  かっこいいカカシと、
  惚れ直すテンゾウ
 ※途中、18禁あり
  プロローグ  本編  エピローグ



  La recommandation
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-ヤマカカな話-

  再会-Reunion-  第二部





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2007年05月23日(水)
後日談 2)


「この前は、変に勘ぐったりしてすみませんでした」
低い声でテンゾウが言う。
この前? 病院で? と記憶をたどり、ああ、とオレは納得した。
「ねえ、もしかしておまえ、しょっちゅう、そうやって勘ぐってるの?」
妬いてるの?とも言いがたく、テンゾウが使った言葉をそのまま使う。
「疑っているように聞こえたら、すみません。ただの、嫉妬ですから」
オレが避けた言葉を、あっさりと使って、テンゾウはまた恬淡と答える。
「まあ、ねえ。あのひとは、いいひとだよ。オレに対しても、変に構えたりしないし。何より、部下が未だに懐いている」
そう、あのサスケでさえ、彼には「先生」と敬称をつける。オレのことは呼び捨てなのに。
「オレ、アカデミーに通っていたころのこと、余り記憶にないんだ。期間も短かったし、うんと子どもだったし」
はい、と言いながらテンゾウの指は、オレの髪を弄ぶ。
「だから、オレにとって先生って言ったら四代目だけなんだ。でも四代目も、“先生のお手本”にするには、ちょっとぶっ飛びすぎでしょ?」
「部下が部下だったからじゃないですか?」
さりげなく失礼なことを言いながらも、テンゾウの指先はやさしい。グルーミングされている犬のように、くつろいだ気分になる。
「暗部のときの指導をそのまま、下忍のスリーマンセルには当てはめることもできないし、ね」
「それで、あのアカデミー教師ですか」
「あのひと、まさに“先生”じゃない。お手本にするにはちょうどいい、って思ったのよ。でも、子どもに対してだけでなく、オレに対しても、先生なの。普段は遠慮もあるみたいだけど、酔ったりすると『ホラ、しゃんと背筋を伸ばして』なんて言われちゃうわけ」
ふっと、テンゾウの指の動きが止まり、しばらくしてからまた再開する。
「失った子ども時代をやり直してるみたいで、ちょっと楽しかった」
たぶん、テンゾウがひっかかったのは、そこだったんじゃないか。
あの後、いろいろ考えて、ようやくそこまで思い至ったのだ。
「でも、それだけ、だよ」
「それだけ、でも。それはボクには与えることのできない経験ですから」
憮然とした言い方に、オレは理解した。つまりこれは、テンゾウの独占欲なのだ、と。

オレを独占したくて、それはしてはいけないと思っているから自制して、でも、時折こうやって零れ落ちてしまう、テンゾウの本音だ。
出会った頃と変わらない、テンゾウの本心だ。
そう思うと、嬉しかった。
オレだって、思う。いい加減、テンゾウを自由にしなくてはならないんじゃないか、と。
オレのお守りばかりさせていたんじゃ、彼女もつくれやしない、と。
彼女など作ってほしくないのに、そんなことを思う。
なんの約束もない、こんな関係を、いつまで続けるつもりなのだろうか、と。
壊すつもりもないのに、思う。
テンゾウもオレも、同じだ。出会った頃から、何も変わっていない。

「テーンゾ」とオレは抱きついた。おっと、と言いながら、テンゾウがオレを抱きとめる。
「大好きだよ」と言うと、難しい顔をした。その顔がおかしくて、オレは笑う。
こんなふうに、意味もなくじゃれあっている時間が、心地いい。
「ね、しよ」
耳元に囁くと、難しい顔がさらに難しくなる。
「欲情……してませんよね?」
確かめるように、テンゾウの指がオレの頬を撫でる。
「してないけど。しよ」
「えっと……その……したい、ってことですか?」
「うん、したいね」
回復していない1割のせいなのかどうか、正直、さほど性欲は感じていなかった。
ただ、テンゾウといちゃいちゃしたい、それだけだ。
テンゾウはしばらく視線を天上あたりに向けて思案していたが、やがてオレを見て笑った。
「いいでしょう、カカシさんがそう言うなら」
じゃ、決まり、とオレは服を脱ぎ捨て、ベッドにダイブした。テンゾウも苦笑しながら服を脱ぐ。
いい男だよね、と思う。
浮ついたところがなくて、不器用そうに見えるけれど、案外、器用で、無骨そうに見えるけれど、案外、心遣いは細やかで……働き者だし、やさしいし。
オレがいなければ、きっと明日にでも、可愛い嫁さんが見つかるだろう。
でも、だれにもあげない。この場所は、だれにも譲らない。
テンゾウが、追い出さない限り。

裸になったテンゾウが、オレの身体を抱き寄せる。触れ合う肌が気持ちいい。
「どうしたんですか? いったい」
「たまには、いいじゃない。甘えたい気分なんだから」
言いながら、脚を絡ませる。
「しよ、って言ったけど、別にしなくてもいいんだ」
「そうなんですか?」
「こうしてるだけで、なんだかほっとするでしょ」
テンゾウはオレを抱きしめた。
「そう……ですね」
この暖かさと心地よさを分かち合うのは、テンゾウだけだ。
――それだけじゃ、足りない?
でも、この問いは声に出しはしない。オレだってわかっている。足りないのではないのだ、と。ただ、欲張りになっているだけなのだ、と。
そんなふうに欲を張ることも、恋人の特権のひとつだ。決してテンゾウは浮気などしないとわかっていて、オレが「浮気するな」と言うのと同じ。
だから、いい。

テンゾウの指がオレの前髪をかきあげ、こめかみに唇が触れる。
「欲情しなくても……ボクとこうしていたいと、思うんですか?」
「何? そんなこと言われると、オレってテンゾウをただの捌け口にしてるみたいじゃない」
「いえ……そういうつもりではなく……」
「たまにはいいじゃないの。こうやっていちゃいちゃしてるだけっていうのも」
「……ええ、まあ」
どことなく歯切れの悪いテンゾウに、もしや、と思う。
「それとも、おまえ。これだけじゃ、不満?」
「いえ」とあわてて、テンゾウが打ち消す。
「不満などとは、思っていません……ただ」
「ただ、何?」
「……なんでもありません」
「はい! 嘘」
テンゾウは一瞬、目を丸くして、それから噴き出した。ひとしきり笑ってから、オレを抱きしめる。
「言ったじゃないですか。ボクだって、もやもやした気持ちにはなるんです」
「ふうん。いま、そういう気持ちなんだ」
「そういうことです」
「じゃ、オレをその気にさせてよ」
テンゾウは目元だけで微笑んだ。なんとなく……ぞく、っとくる笑みだ。
「そうですね、それが手っ取り早い」
そう言うと、またオレの髪をかきあげ、こめかみから耳、首筋と啄ばむように、唇を落としていく。
くすぐったさと心地よさが相半ばする微妙な感触に、オレは思わず首を竦めた。
「だめですよ、逃げちゃ」
唇を押し当てたまま牽制するように言って、テンゾウは今度は吸い付くようなキスをする。
強く吸われ、くすぐったさは痛みに変わる。それを宥めるように背筋を、テンゾウの掌が撫でている。
「あと、つくじゃない」
「顔の下半分隠しているひとが、今さら」
確かに、今さら、だ。

唇がたどったあとを追うように、指先がたどる。
くすぐるような、何かを確かめるような控えめな接触に、次第に皮膚感覚が研ぎ澄まされていく。
「はっ、あ」
思わず、声がこぼれていた。
わき腹をなで上げられ、さらにつっと爪を軽くたてて刺激され、身体がはねた。
身体の奥から、熱が湧き上がってくる。
いつもなら、嬉しそうに「体温、上がりましたね」なんて言うテンゾウが、今日は何も言わない。
曖昧な、愛撫ともつかない触れ合いを重ねるだけ。
先ほど、身体がはねた箇所を軽く刺激されて、また身体がはねた。
乳首とか性器とか、あからさまな場所ではない、胴回りに近い背中の一点なのに、そこを爪先が掠めるたびにビクンと身体が反応する。
性感帯というのは、意外なところに潜んでいるものだと思う。
「ん、あ」
思わずテンゾウの肩を掴んだ。じれったい、じれったくて仕方がない。
「欲しい、ですか?」
耳元でテンゾウが問う。その密やかな声にまで、反応した。指先まで痺れるような、快感が走る。
「テンゾウ」
なんて声だろう、と思いながら、オレはテンゾウの背に腕を回し、縋った。
「欲しい、ちょうだい」
ほんとうに、なんて声だろう。

「カカシさん」とテンゾウがやさしい声で呼ぶ。
「好きです。今までもこれからも、ずっと。覚えていてください」
うん、とオレは答えた。
知ってるから。テンゾウがずっとオレのことを好きでいてくれるのは、知ってるから。
だから、生きて。できるだけ長く、生き延びて……。
その言葉を、オレは声に載せることはできなかったけれど。きっとテンゾウには届いただろう。
そう、満足して、オレはテンゾウが与えてくれる快楽に溺れこんだ。


<了>




2007年05月22日(火)
後日談 1)


久しぶりの入院生活だった。
起き上がれなくなるほどの幻術を喰らったのも、忍になりたての子どものころ以来だった。
決して油断していたわけではないのだが、才能の違いを見せ付けられた。
持って生まれた天眼の力はやはり、大したものだと言うしかない。
自室に戻ったのは、目が覚めて三日目だった。
チャクラはほぼ戻った。あとは入院生活で衰えた筋力や反射神経を鍛えればいいだけだ。
筋トレから初めて、通常のメニューをこなせるようになるまでに3日かかった。
それでも、まだ軽い倦怠感が残る。

あの術が、身体的苦痛を与えるだけの単純なものでよかった、と思う。
三日三晩、痛苦に責め苛まれるというのは、それはそれできつかったが、あれが内面に働きかけるものだったら、と思うと、ぞっとする。
実際、サスケがくらったのはそちらだったと聞いて、暗澹たる思いになった。

オレも天才ともてはやされたりもしたが、結局、忍として早熟だったに過ぎない。
忍である父に、物心つく前から忍として生きることを教えられたのだから。
と言うと、まるで英才教育を受けてきたような言い草だが、なんのことはない。
父には、それしか教えられなかった、というだけのことだ。そういう生き方しか知らないひとだったのだ。
でも、イタチは違う。ああいうのを、天才と呼ぶのだ。
そして、なまじ才がある故に先が見通せるし、周囲の大人たちの器も見切ってしまえる。
その結果、失望するのだ。失望は、深く静かに潜行して、やがて絶望となる。
彼が暗部にいた時期は短かったし、オレとは同じ任務に就くこともなかったから接触も少なかったが、ひとつだけ印象に残っていることがあった。

単独任務の帰路、偶然、イタチが属する隊と一緒になったことがあった。まだ、イタチが暗部に配属されてすぐのことだ。しんがりを務めていた彼と、追っ手を警戒するもの同士、自然と共闘する形になった。とはいえ、実際には追っ手の気配はなく、比較的のんびりした帰路だった。
だからだろうか、イタチが珍しく話しかけてきたのだ。「眼の具合は、どうですか?」と。
眼、というのが、写輪眼をさしているのはわかった。
オビトの名が慰霊碑に刻まれてからの7年ほど、うちはの誉れを夭逝させた元凶であり、同時に、オビトの眼を一族でもないのに貰い受けたオレは、遺族をはじめとするうちは一族から忌み嫌われてきた。
開眼しない者が「眼を返せ」と詰め寄ってくることも、よくあった。
オビトを落ちこぼれと笑っていたはずの輩が、とオレは冷ややかな気持ちになったものだ。
けれど、暗部に配属になったイタチがオレを見るとき、一族の者にありがちな蔑むような、そして同時に羨むような色はなかった。オレはその理由を、彼自身がすでに写輪眼を開眼しているからだと思っていた。だから、オレに対するイタチ自身の本音がどこにあるのかは、わからなかった。
唐突とも思える問いかけに「ん〜、ボチボチだね」と、オレは適当な回答で濁した。
しかしイタチは、「ひどく痛むことは、ありませんか?」と、重ねて問うてきた。
常と変わらぬ淡々とした口調だったが、どこか心配そうにも聞こえ、それが普段の彼とは少し違っていた。
「移植した当初は痛みもあったけれど、ここ何年かは、ないね〜」
「そうですか……ならば、それはあなたに適合したんですね」
安堵したような声音が意外だった。
「うちはとしては、適合しなかったほうがよかったんじゃない?」
意地悪な問い方だとは思ったが、聞かずにはいられなかった。
「そうですね、うちはとしては、そうでしょう。でも……」
言いかけて、イタチは口をつぐんだ。
「三つ巴になるまで使いこなすのは、大変だったでしょう?」
さりげなく話題を変えたのだとわかった。今思えば、あのころイタチはもう一族の惨殺と里抜けを決意していたのかもしれない。
「そう言われれば、最初は二つだったね。悪戦苦闘しているうちに、三つになっていてびっくりしたよ」
イタチは、珍しいことに少し笑った。後にも先にも、オレがイタチの笑顔らしきものを見たのは、このときと、この少し後、弟がアカデミーに入学すると告げたときだけだ。
「それなら、大丈夫です。完全に適合したということですから」
何が大丈夫なのか、オレにはよくわからなかった。が、イタチの口調には労わるような色があったので、きっと一族の者も使いこなすのには苦労しているのだろうと、オレは考えた。
でも、このときイタチがすでに里抜けを決意していたとしたら。
脳裏を過ぎったのは弟のことだったのかもしれない。

その後、イタチのしでかした所業は憎むべきものだし、木の葉の忍として彼を許せないという気持ちはある。
しかし、それとは別の次元で、オレはイタチを嫌いにはなれなかった。
それは、月読の術を喰らい散々な目にあった今も、不思議なことに変わっていない。
彼だけが、オビトからもらった眼を気遣ってくれた。その事実は変わらない。
それに、いくら才走ったと言ったところで、十三やそこらだった彼が抱えていた苦悩を、どうすることもできずにいたひとりだったのだ、オレもまた。

控えめなノックの音に、立ち上がった。
わざと完全には消されていない気配は、テンゾウのものだ。
果たして、ドアを開けると暗部姿のテンゾウがいた。
「屋根伝いに来たの?」
「はい」と言いながら部屋に入り、面を外す。屋根伝いに来ても、玄関に回る律儀さは変わっていない。
「そのほうが、早いですから」
すばやくオレを一瞥し、「9割、というところですか」と呟いた。オレの回復度を一瞥しただけで見抜けるのは、この無駄に優秀な後輩ぐらいのものだろう。それだけ、苦労をかけてきた、ということだ。
「それでも、並よりは上よ」
「ご冗談を。間違いなく特上でしょう」
「……まるで、寿司の話みたい」
「そうですね」
オレたちは顔を見合わせて笑った。
「空腹なんですか?」
「どうして?」
「いえ、寿司を連想されたので、空腹なのかな、と」
言われてみれば、空腹だった。
「外へ出ますか? 何か作りますか?」
勝手に冷蔵庫の扉を開いて中を確認すると、「食材を仕入れてきます」とテンゾウは再び面を被り、外に出た。
――おまえ、その格好で買い物するの?
残されたオレは、半ば呆れて後姿を見送った。
それにしても、外に出るのは億劫だと思ったオレの内心まで見抜かれたのだろうか?
――オレ、先輩として終わってない?
病み上がりとはいえ、9割は回復しているのに。
ほどなく戻ってきたテンゾウは、リュックを背負っていた。
「今朝方、任務から戻ったら朝市が立っていたんで、買い込んだんですよ。それが家にあったので」
買い物に行ったのではなかったのかと安堵すると、テンゾウが口元を緩めた。
「この格好で、買い物はしませんよ」
オレは返事をしなかった。

テンゾウの作ったメシはうまかった。
ちょうど走りの時期にあたる秋刀魚の塩焼きと茄子の味噌汁。オレの定番メニューだ。
それに、レンコンのきんぴら、青菜と揚げの炒め煮。辛うじてテンゾウらしいといえるメニューは、八宝菜。
「おまえ、こんなので足りるの?」
「昔ほどは食べなくなりましたから」
その答を聞いて、そうかオレはコイツの“昔”を知っているのかと改めて思った。

付き合い始めたころ、こんなに長く続くとは思ってもいなかった。
木の葉崩しが起きたとき、オレはこのまま会えなくなることを覚悟した。
死ぬつもりはないが、己の命よりも優先しなければならないことがあった。
里の外にいたテンゾウも同じだろう。
だから、もう……国境警備につくと知らせにきてくれた、あれが最後になるかもしれない、と。
結局、オレは生き残り、九尾襲来後のように復興に走り回った。単独任務も請け負った。
暗部の消息など掴めようもないから、テンゾウのことはなるべく考えないようにしていた。
唯一、希望が持てるとしたら、もしテンゾウに何かあれば、知らせてくれる者がいるかもしれない、ということだった。
暗部のなかでも古参の連中は、オレたちの関係を知っている。吹聴してまわりはしなかったが、隠してもいなかったのだから当然だ。
たまに二人で連れ立っているときに暗部時代の顔見知りに会うと、まだ続いていたのかと呆れられた。
腐れ縁だな、と苦笑もされた。
そのたびにテンゾウは、「カカシさんに手を出すつもりなら、ボクを倒してからにしてください」と返しては、さらに相手を呆れさせていた。
彼らのうち、だれかは生き残っているだろう。そして、三代目を喪い、直後は混乱していた暗部も落ち着いてきたから、何かあれば、きっと、と。

片づけを終えたテンゾウが、ベッドにもたれて座っているオレの左隣に腰を下ろした。
少し首を傾げるように、オレを横から覗き込み、ふっと表情を綻ばせる。
その顔に自分のなかの何かが決壊し、テンゾウに向かってなだれ込んで行くのがわかった。
テンゾウは正面を向き、背から腕を回すとオレの頭を引き寄せた。
オレは素直に、テンゾウの肩に頭をもたせかける。
テンゾウの指先がオレの髪と戯れている感触を、ぼんやりと追いながら、頬にテンゾウの体温を確かめる。
――生きている。オレもテンゾウも……。
左目が熱くなった。




2007年05月15日(火)
月読 5) -完結-


「笑わないでくださいよ」
ひとこと、断りを入れて言葉を続けた。
「気になるひとがいまして」
「え?」
先輩はガバッと上体を起こした。思わずボクはのけぞってしまった。
余程、驚いたのだろう、写輪眼が回りかけ、あわてて手で押さえている。そして片目でボクを凝視した。
「浮気はだめ、って言ったよね。つまり、本気?」
言葉が足りなかった、と気づいたときには、もう片方の手がボクの胸倉を掴んでいた。
「相手は?」
「いえ。ボクの相手ではなく、カカシさんの相手です」
眉間にしわがよる。頭の上にクエスチョンマークが見えそうな表情だ。
「すみません、ボクの言い方が悪かったです。もしやカカシさんがその方に惹かれているのではないかと、ずっと気になっているひとがいるんです」
「オレが?」
「はい。将来的にボクにとってライバルになるのではないかと」
カカシさんの手が離れた。
「それで、結婚だのなんだの言い出したわけ?」
「少しは繋がっていますが、でも、その方とは結婚は無理でしょう」
「話が見えないんだけどな〜」
「その方も男性ですから、結婚は無理でしょう」
ボクの言葉を頭のなかで反芻するように、先輩は視線を飛ばした。
「つまり、オレはそのひとに惹かれている。将来的にテンゾウのライバルになるかもしれない、ということは、今は何もないと確信しているんだね。で、テンゾウはそのひとが……というより、オレとそのひとの今後の関係が気になっている、そういうことかな?」
「そういうことです」
カカシさんは、う〜ん、とうつむいてしばらく唸っていたが、顔をあげると首を振った。
「思い当たる節はない」
「はい。ですから、ボクは藪を突付いて蛇を出したくないんです。惹かれていると言っても、それが恋愛なのか、友情なのか、また別の感情なのかは、ボクにもわかりませんから」
「そうだよね、オレ自身がわかってないんだから、テンゾウにわかるわけないよね」
うんうん、と頷いてから、でもなぁ、と続けた。
「そう言われると、気になるなぁ」
そう言って、少し上目遣いでボクを見た。
「オレ、そんなに惚れっぽくはないよ?」
その顔が無意識だとしたら天性、意識的だとしたら後天性、いずれにせよ、ソレは必殺技です、と内心で呟いて、ボクは「はい」と答えた。
「つまり、テンゾウはやきもちを焼いてる、と考えていいのかな〜?」
「……そういうことになりますね」

そう、結局、嫉妬なのだ、これは。
任務が入れば否応なく里を離れなくてはならない自分。
それに引き換え、かつてのボクと先輩のような接点をもっている相手。
その立場の違い、そして何より……子ども好きで、子どもに好かれ、明るく、おおらかなその気性と、鋭く本質を見抜く眼……ボクの持ち得ない、ボクにはない魅力。
ああ、もう。何年たっても、何年つきあっても、ボクはカカシさんが好きで、どうしようもなく好きで……結局、ありとあらゆることに嫉妬している、それだけなのだ。
改めて自覚する。これでは十代のころと何も変わらない。
年齢を重ね、部下を率いるようになっても、何も変わっていない。

「テンゾウ?」
黙ってしまったボクを、カカシさんが再び抱き寄せた。
「テンゾウが何を心配しているのか、少しわかった……でもね」
小さな吐息のように、わずかの間。
「それは、お互いさま、だよ? オレだって、いつも思ってるよ。テンゾウはもてるから。まっすぐでしなやかで、いい男だから。いつか、オレは愛想つかされて、もっと健気で一途で性格のいい相手を見つけるんじゃないか、そしたら、オレは捨てられるんじゃないか……」
一気にまくしたて、カカシさんは黙った。
「そんな、ボクは」
カカシさんの腕のなかで抗うと、いっそう強く抱きしめられた。
「それも、わかってる。テンゾウがそんなヤツじゃないことは、よくわかってる。それでも、オレは『浮気するな』って言うでしょ? でも、テンゾウは言わない」
言いたい気持ちはある、ボクにだって。
余所見しないで、ボクだけを見ていてほしい、とも思う。
でも、言葉に出して言うことになんの意味があるのだろうか、とも思う。
たとえ余所見しようと、つまみ食いしようと……あるいは、先輩が本気で惚れる相手が現れようと、ボクの気持ちは変わらない。
笑えるぐらい……変わらない。

「オレはこんなだから、きっとテンゾウを悩ませてきたと思うし、これからも悩ませちゃうんだろうね。不安にさせることも……あるのかもしれない」
出会った頃、ボクより一回り大きかったカカシさんは今、ボクより一回りとは言わないが、天地97%、左右93%ぐらいの縮小版だ。
とはいえ、どちらもガタイのいい男だ。そんな二人が抱き合う様は、傍から見れば滑稽な図だろう、と思う。
でも、久しぶりにカカシさんの腕のなかに――かつてのようには治まりきらないけれど――捕らえられ、体温を感じているのは、とても心地いい。
「でもね、それでもオレはやっぱりテンゾウが好きだ。ずっと変わらずに、好きだよ」
うかつにも涙ぐみそうになって、ボクはあわてた。
「会えて嬉しい、と思う気持ちが変わらないのと同じに、ずっとそれは変わっていない」
そう言ってカカシさんはボクを離した。その表情は子どもみたいだった。
出会ったころの、いま思えばまだ少しとんがったところが残っていたカカシさんの顔だ。
あのころから妙に気の抜けた話し方をするひとではあったけれど、やはり若い分、気負いも意地も垣間見えたものだ。

ボクたちはどちらからともなく顔を寄せた。
視線を絡ませ、そして視界を閉ざす。
柔らかく、少しひんやりした感触。そっと触れ合って、少し角度を変え、離れ、また触れ合って……おずおずと何かを確かめるような、幼いキスを交わした。

しばらくして、ふっと小さな吐息が聞こえた。
「カカシさん?」
起こしていた上体をパタンとベッドに倒し、先輩が今度はため息をつく。
「せっかく会えたのに、な〜んにもできない」
「はい?」
「眠い、すごくねむい」
ああ、まだ体力は回復していないのだ。
「テンゾウの顔見たら、ねむ〜くなってきた」
ふわ、とあくびをする。
「まだ、里にいる?」
半分、眼を閉じてカカシさんが言う。
「はい、しばらくは里に常駐してますから……元気になったら……」
「ん、元気に、なったら……ね」
語尾はほとんど寝息に溶けるようだった。
そっと掛け布団を引き上げると、ん、という声とともに体勢がやや横向きになり、顔が半分布団に埋もれた。
よく見知った寝姿に、安堵する。
「おやすみなさい。いい夢を」

ボクは病室を後にする。

おかしなことに、一歩また一歩と、病室を離れるごとに、生きていてくれてよかった……という喜びが、募ってくる。ずっと里の外でやきもきしながら、それでも訃報が届かないことに縋っていた。
あのひとは強いから、そう自分を説得しながら、不安をなだめていた。
けれど、死ぬときは死ぬ。強くとも、死ぬことはあるのだ。三代目が逝ってしまったように。
そして、イタチと交戦し倒れた、との報に、身が竦んだ。
里に戻り眼の前に先輩を見たとき、頭の中を過ぎったのは、まるで生き人形のようだ、だった。
あまりに不吉な言葉を、ボクはあわてて打ち消した。
生きてはいても、話もしなければ動きもしない、そんな存在になってしまうはずがない。
必死になってそう思った。
けれど、イタチの術がどのようなものなのかわからない以上、どんな予測も立てられないこともわかっていた。
だから、心底安堵したのだ。まだ万全とはいえないまでも、先輩は目覚めた。
――良かった。ほんとうに……よかった。
何に、感謝すればいいのかわからず、ボクは火影岩を見上げる。

三代目が逝ってしまったのは、哀しい。
あの方がいなければ、研究所から助け出された後のボクの人生は、あるいはさらに大きく歪められていたかもしれない。ボクに忍としての資質を見出し、それでも尚、自分で人生を選択する機会を与えてくれた三代目……。
最後に会ったのが、あの国境警備を命じられたときだった。
あの時、あの方は何を思っていたのか、ボクなどには到底、測り知れないが……。
そして、初代さまを見る。
会ったこともないあなたの術を引き継いだボクを、あなたはどう思うのでしょうか?
弟君である二代目さまは……。
そして四代目。いまも先輩の心に棲み続ける師。
みな、里を守り散って行った。
ボクたち忍も、常にその覚悟を胸に生きている。先輩も同じだ。
それでも、生きていてくれたことが嬉しい。こんなにも。
――早く、元気になってください。

束の間の穏やかな時間、ボクは満ち足りた気持ちで、帰宅の途についた。



<了>


月読の雫
胡麻焼酎の長期貯蔵酒と樫樽長期貯蔵酒とのブレンド酒。樫樽熟成による優雅な香りと胡麻焼酎独特の芳醇な香りが調和したまろやかな口あたりと香ばしい風味が特徴。



2007年05月13日(日)
月読 4)

数日後、綱手さまを伴って自来也さまとナルトが里に戻り、カカシさんもサスケも目覚めたと聞いた。
病院に行こうかどうしようか迷いながら、ボクはなかなか暗部棟を離れることができなかった。
なぜなら、綱手さまが五代目火影に就任することが決まったからだ。

暗部は火影直属の部隊だから、代替わりのときは一時、解散するのが建前だ。
年齢的なものや個人的な事情により抜ける者は抜ける。新しい火影によって任を解かれる者もいる。
それ以外の者が、そのまま次の火影の直属となり、そこに当然、新しい顔ぶれも加わる。
前回の火影交替は、四代目から再び三代目に代が戻るという異例の就任だったが、今回もまた、火影不在という異例の事態となった。
次の火影が決まるまでボクたち暗部は、木の葉の弱体化を悟られないためにも、通常通り任務をこなす必要があった。それは上忍も同じだろうが、異なるのはボクたちは火影直属部隊、ということだ。
そのトップが不在なら、本来なら解散すべきところだが、今回に限り解散できない状況だった。
だから、三代目とはスリーマンセル時代から縁の深いご意見番の一時預かりとなったのだ。

綱手さまが五代目火影となるらしいという話に、暗部は揺れていた。
女性がトップだから困惑している、というのではない。
綱手さまを知るだれもが、彼女の情の篤さを知っている。そしてその裏腹な激烈さも知っている。
直接知らない者の間には、伝説めいた噂ばかりが先行している。
それは揺れもするだろう。いかな暗部とはいえ、人間だ。
――自分の身柄を綱手さまに預けていいのだろか? 自分はやっていけるんだろうか?
だれもがそうした不安を抱いている。
加えて、ずっと里を離れ放浪していた者がいきなり火影となることへの抵抗が、上層部にはある。
そうした軋轢を調整するのも、ボクら暗部の仕事となる。
外に、内に、今まで以上に神経を張り巡らせなければならない。

綱手さまが正式に五代目に就任する前に、暗部には召集がかかるだろう。
いずれ、腹を括らなくてはならないのだ。それまでは仕方がない、ボクはそう思いながら、動揺する後輩たちを宥めていた。

ようやくカカシさんを訪ねることができたのは、彼が目覚めた翌日だ。
「綱手さまに、『おまえも人の子だったんだね』なんて言われちゃったよ。今までなんだと思われてたんだろ、オレ」
もともと白い顔色を、さらに白くさせた先輩は苦笑した。
「それにしても、変わらないなぁ、あのひと。オレがほんのガキのころから、ずっと変わってないよ」
あ〜あ、と伸びをして先輩はベッドに転がる。
「人使い荒いからなぁ。ガンガン働かされるよ、きっと」
ボクは少しやせた先輩の姿に胸を痛めながら、
「お互い、覚悟しておきましょう」
としか言えなかった。
イタチの術の話は……聞きたいと思ったけれど、聞けなかった。
うみのイルカのことも、聞けなかった。
まったく違う事柄だけど、とても似通っている。どちらも、踏み込んではならない領域だ。

「テンゾウ」
カカシさんがボクを手招きした。
その気になったわけではないのは、わかる。
ボクは怪訝な思いで、カカシさんのそばに寄った。
と、手が伸びてきてボクは引き倒された。
ぎゅっと背中に腕がまわる。肩口にカカシさんが顔を埋める。
「テンゾウが無事で……よかった」
あ、とボクは思った。
ボクは入院中のカカシさんを見舞っていたが、カカシさんはボクの消息を掴めていなかったのだ。
国境の警備に着くと知らせたまま、木の葉崩しに里がひっくり返ってしまったのだから。

「連絡が……遅れて、すみません」
カカシさんは何も言わなかった。
「ボクはその……知ってました、イタチの術にかかってあなたが倒れたこと」
やはりカカシさんは何も言わない。
「里の外で、知らせを聞きました。もどったのは、つい数日前です」
「……知ってる」
知ってる? ボクはカカシさんの顔を見ようとしたが、カカシさんの2つのつむじが見えただけだった。
「テンゾウ、病院に来てくれたでしょ?」
「はい……」
だれかから、聞いたのだろうか。
「オレは意識をなくしていたけれど、わかったよ。正確には、目覚めてからわかったんだけどね」
「目覚めてから?」
「オレのなかに、テンゾウの“気配”が残っていた。おまえ、チャクラ流しこんでくれたね?」
そんなことがわかるものなのだろうか? あるいは、それも術の後遺症なのか。
「ええ。気休めかとも思いましたが」
「……ありがとう」
小さな声だった。

ボクたちはそのまま何も言わず、身じろぎもせず抱き合っていた。
まるで子どものように、互いの体温と息遣いだけを感じながら。

三代目が亡くなって、新しい火影に綱手さまが就き、里は変わっていくだろう。
ボクたちも変わっていかざるを得ないだろう。
出会って何年が過ぎたのだろうか? カカシさんももう二十代半ばだ。
カカシさんのご尊父は、おそらくその年にはすでに結婚して、カカシさんの父となっていたはずだ。

「テンゾウ?」
呼びかけられて、ボクは抱きしめる腕に力を込めた。
「おまえ、五代目に請われたら暗部に残る?」
「ええ。そのつもりです。ボクももう暗部ではベテランのクチですが。こういうときだからこそ、ボクのような人材が必要かとも思いますし」
「そうだね。それがいい」
「忙しくなるでしょうけど、時間はつくりますから。時々は、会いましょう」
先輩は笑った。
「約束だよ」
「ええ、約束です」
約束があればいい。
たとえカカシさんの気持ちの隙間に、だれかが入り込んでいたとしても。
「なかなか会えないからって、浮気はだめだよ」
「ボクに浮気するほどの甲斐性がないのは、カカシさんが一番ご存知なのでは?」
「それでも、だ〜め」
ボクは苦笑した。そう言いたいのはボクのほうなのにと思うと、苦笑するしかない。

「オレたちは、もう昔みたいに、いつもいつも一緒にいたいと願っていられる立場じゃないし、少し離れただけで相手が恋しくなるほど、子どもでもなくなったけれど」
そう言いながら、ようやく抱擁を解いてボクの顔を見る。
「テンゾウに会えて嬉しいと思う気持ちは、少しも変わってないよ」
そしてボクの眼を覗き込む。
「何か、気になってるんでしょ? 上から、なんか言われた? オレのことで」
不意打ちを食らって、思わず固まってしまったボクを、先輩は笑った。
「おまえ、オレに何か隠してるね」
えーっと、とまるで新米のように眼を泳がせる。
「隠してはいませんが……気になることはいろいろ」
「いろいろ?」
笑いを納めた先輩が問い返す。
「順番に言ってみてよ」
「まず……カカシさんは結婚なさらないのだろうか、と」
「結婚? だれと?」
「いえ、ですからお見合いなどでお相手を探すとか……」
「今のところ、そんな予定も余裕もないよ。里がこの状況じゃあね。上からも何も言われていないしね。なに? おまえには、風当たり強いの?」
「ご意見番からは、遠まわしに……少し」
ふうん、と言って、カカシさんは首を傾げた。
「それオレとおまえのことというより、おまえ自身のことじゃない?」
「ですが、ボクの遺伝子は前にも言ったとおり……」
「そうじゃなくて、おまえに身を固めてもらいたいという、老婆心だよ。三代目もテンゾウのことは気にかけていたから、嫁さんもらって幸せになってもらいたいとか、そんなことなんじゃない? とにかくオレは、何も言われていないよ? 今のところその気もないし。次は?」
強引に話を打ち切って、カカシさんは先を促した。
「えっと、そのイタチの術ってどんなだったのだろうかと」
「術のことは、また改めて話すよ。次」
「その……カカシさんはまた無理をして写輪眼を使った新術を開発しようとするのだろうか、と」
「術を極めるのは、忍として当然のことでしょ?」
次、と言われるまえに、ボクは慌てて付け足した。
「いえ、また無理をするのではないかと心配なだけで……これはもう、ボクの勝手な心配ですから」
「ん〜。そうね。イタチの術からヒントを得たのは確かなんだ。でもこれ以上は言えないよ。たとえテンゾウでもね」
「だから、それはわかってます。でも心配するぐらいいいじゃないですか」
あ〜、まぁね、と先輩は歯切れ悪く相槌を打つと、うつむいた。
「いつも心配ばかりかけてるね」
「いいんですよ好きでやってることですし」

「で? 次は?」
「それで、終わりです」
「はい、嘘」
嘘って……どう切り返すべきか戸惑うボクに、先輩はにんまり笑う。
「オレがね、遅刻して、言い訳するとあいつらが言うんだよ、『はい、嘘』って。そんなときばっかりチームワークよくってね」
「はぁ」
満面の笑みを、ボクはどう解釈すればいいのだろう。
「で、次は?」
やれやれ、とボクは観念した。



2007年05月12日(土)
月読 3)


そうだよ、とボクは心のなかで答える。
君たちにはなかなか伝わらないかもしれないけれど、先輩は君たちをそれはそれは大切に思っている。
だからこそ、身を挺しても守る。

「カカシ先生は、ああ見えて、とてもやさしいひとだからな。さくらたちの成長を考えて厳しくはするが、いつも見守っている」
ボクではない声が、少女の問いに答えた。
「昼寝してるように見えても?」
あはは、と教師は困ったように笑った。
それは、おそらくほんとうに寝ているのだろう。
でも、もし何らかの気配が近づいてくれば、任務に励んでいる下忍のだれよりも早く、それに気づく。
あのひとは、部下を信頼している。
多少の失敗は自分があとでカバーすればいい、だから、任せると決めたことは、とことん任せる、そういうひとだ。
だから命の危険のないDランク任務なら、昼寝していても監督が務まるのだ。
たとえ部下がしくじっても、自分が頭を下げて、穴埋めすればいい。
それより、失敗から何かを学んで成長していくことが大切。
暗部の任務でDランクはありえないが、先輩の基本姿勢は同じだった。
おかげで、ずいぶん鍛えられた。己の未熟さゆえに痛い思いもしたが、同じ失敗は二度としなかった。
そしてほんとうに自力でどうにもできないとき、にっちもさっちもいかなくなったとき、どれだけ先輩に助けられただろう。
自分が部下をもつようになって、先輩のように行動するのがいかに大変か、身をもって知った。
任せたつもりなのに、ついしゃしゃり出てしまって失敗したり、どんと構えているつもりが、実は不安なボクの心情に部下が敏感に反応してしまったり……。
そのたびにボクは思う。
カカシさん、あなたはほんとうに偉大だ、と。
一度任せると決めたからと言って、一切手出しをしない、それがどれほど大変なことか。
あのひとぐらい、突き抜けていないとできないワザだ。
まぁ、無謀とか無鉄砲とか言うひとのほうが多いが、その割には、先輩が関わった任務における死傷者数は圧倒的に少ないのだ。

「イルカ先生、ほんとうは私たちが中忍試験受けるの、反対だったんでしょ?」
しばらくして少女がためらいがちに問いかけた。
そういえば、今回、中忍試験前に、ちょっとしたいざこざがあったということは聞いていた。
カカシさんをよく知るボクらは、「あのひとらしい」と苦笑したものだが……。
「噂……なんだけど。それでカカシ先生とぶつかったって」
「地獄耳だなぁ」
「やっぱり……ほんとうのことだったんだ」
えへへ、と今度は悪戯小僧のような顔になった彼は、少女の肩に両手を置いて少し屈んだ。
「ああ、反対した。まだ早いと思ったんだ。でも、おまえたちは立派に二次試験を通過した。結局、俺の心配は杞憂にすぎなかった」
少女と同じ目線で、彼はさらに言葉を継ぐ。
「俺はアカデミーの教師、つまりまだ忍になる前の子どもたちを預かっている。だから、かな。どうしても事故のないように、安全なように、と考える。でも、カカシ先生は上忍だ。今はおまえたちという部下の上忍師だからDランク任務の監督をやっているが、本来はAやSランク任務という、常に生命の危機と背中合わせの世界で生きている、そういうひとだ。そして、そういう世界で生き延びていける忍を育てるのが、今のカカシ先生の仕事なんだ」
わかるな? という問いかけに、少女は頷く。
「ここで潰れて忍をやめるなら、そのほうが本人のためになる、ということもあるんだ」
自分に言い聞かせてでもいるような言葉に、少女が眼を見開いた。
「この先、ナルトやサスケだけでなく、さくら、おまえも。否応なく命のやりとりが付きまとう世界に身を置くことになる。ただな、そういう世界が本質的に合わないという場合も、もちろんある。ならば別の道に進んだほうがいい。ある意味、厳しいが、別の意味では、とてもやさしい考え方だと思わないか?」

先輩が、この中忍教師に惹かれる気持ちが、ボクにはよくわかった。
たまに一緒に飲みに行くこともあるのかもしれないが、そう長い付き合いとも思えない。
その短い付き合いのなかでこの教師は、誤解されることも多いカカシさんの本質を見抜いている。
噂や風聞を知らないわけでもないだろうに、そんなものにまどわされない眼をもっている。
そうでなくても「先生」というのは、先輩のなかで特別なのだ。
ボクはため息をつく。
彼が、彼でなく彼女であったなら。
ボクは喜んで身を引くのに。

「さ、行こうか。いくら眠っているとはいえ、余り長居したら、カカシ先生も疲れるかもしれないからね」
少女は、再度、先輩を覗き込んだ。
「カカシ先生、目を覚ますよね」
「ああ。大丈夫だ」
「いつも気のぬけたみたいな顔してるけど、強いんだものね」
「ああ」
二人は、並んで病室を出て行った。
扉が閉まる刹那、振り向いた彼の視線がボクを捕らえた。
途中から、わざと気配を断つのをやめたのだ。それに気づくだけの技量はある、ということだ。
彼のほうは余り気にしていないだろう。実際、カカシさんだけでなくサスケの病室にも、密かに暗部の護衛がついているから。

「カカシさん。あのひとが欲しいですか?」
惹かれてはいるが、執着はしていない、というのがボクの得ている感触だ。
もっとも、何事にも何者にも執着しないのが、カカシさんではあるが。
「でも、すみません。譲る気はボクにはないですから」
惹かれている、というのも、どういう意味合いなのかは微妙なところだ。
というか、いつも微妙だ、このひとは。
だからボクは付き合ってしばらくの間、付き合っているとはとても思えなくて、つまみ食いをされただけ、と思っていたほどだ。
そんな先輩が相手だから、先輩同様あまり執着心のないボクでさえ嫉妬の一度や二度……いやその10倍ぐらい……とにかく、何年たってもやきもきさせられている。

ただ、忍として優秀な遺伝子を残すことを里から期待されているカカシさんとの付き合いが、年々、厳しいものになっているのも事実だ。
ボクは最初から、先輩を本気で欲しいと思う女性が現れたら、身を引こうと決めていた。
先輩の流す浮名は……付き合い始めてからもいろいろとあった。そのなかには、ボクの誤解や早とちりもあったし、そうでないものも、まぁ……まったくなかったわけではない。でも、身を引こうというほどのものは、なかった。
だからと言って今の状態がずっと続くと思えるほどボクも甘い見通しを抱いてはいない。
でも、里から強制されるぐらいなら、少しでも先輩が心惹かれる相手と添ってほしいとは思う。それぐらいのわがままはいいだろう、とボクは思っている。

女性だったら喜んで身を引くのに、と思いながら、ボクは彼が彼であったことに、少し安堵もしていた。
相手が男なら、引く必要はない。
それとも、先輩は自分が抱くことのできる相手を求めているのだろうか?
こればかりは、ボクにはよくわからない。

ほんとうに、もう、どうしたものか、とボクは思う。
何年たっても、これだ。
そして、何年たってもボクは……こんなカカシさんを好きだ。
ボクのこと、どう思っているんですか? と問うと、あくびしながら「好きに決まってるじゃない」とはなはだ嘘臭いセリフを吐いてくれるカカシさんを……。
そのセリフに思わずにんまりしてしまい、「なに、テンゾウ気持ち悪い顔して」と言われても傷つかないほど図太い神経になった自分を、こんなボクも悪くないと思えるぐらいには……好きなんだ。
今思えば、最初のころのカカシさんは、当時のボクにはまったくわからなかったが、ほんとうに一途だった。
おそらく、あのころはお互いに夢中だったのだろう。まったくそれがわからなかったのは、いまもってくやしい。
時を渡る術を使えたら、当時の自分に言ってやりたい。
いまこのときを満喫しないでどうする、と。存分に味わえ、と。

「隊長」
密やかな声が、ボクを現実に引き戻す。
「時間です」
ボクは「わかった」と答え、カカシさんを見た。
「召集がかかっているので、失礼します。しばらくは里にいますので、早く目を覚ましてくださいね」



2007年05月11日(金)
月読 2)


「カカシさん」
病院のベッドに眠る先輩を見る。
一見、ぐっすりと眠っているだけに見えた。苦悶の表情も浮かべていない。
けれど、行儀よく天上を向いて横たわる姿から、この眠りが自然なものではないことを感じとってしまう。

いったい、どんな術だったのか。
ボクはそっと先輩の髪に触れた。

通常の幻術ならチャクラを流し込めば解けるが、そう生易しいものでもないのだろう。
だいたい、まだ術にかかったままなのかどうかも、実は定かではないと聞いた。
術そのものは解けているはずなのに、眼を覚まさない――その可能性もあるらしい。
幻術にかかった者特有のチャクラの乱れはないそうなので、むしろその可能性のほうが高いとも聞いた。
イタチと対峙した一瞬、先輩が術にかかったような気配はあったそうだ。
が、すぐ気づいた。その後、倒れたという話だ。
ただ、短時間にそこまで消耗するような打撃を与える幻術で、今回のケースに似たようなものは過去にはない。
だとしたら、それだけのダメージを与えられるだけのまったく新しい術だったか。
医療班にわかるのは、そこまでだった。
だからこそ、綱手さまの帰還が待たれているのだと言えよう。

それでも。
気休めでも。
たとえ無駄かもしれなくても。
少しでもこのひとが安らかになれるようにと、祈るような気持ちでチャクラを流す。

イタチの写輪眼に対抗できるのは自分だけ。
そう思って、ほかの上忍が手を出すことを禁じたのだろう。
もらい物の能力、と笑っていた先輩を思い出す。
「自力で開発するのは、けっこう大変だったのよ〜」
そんなことも言っていた。
「最初のころなんて戦闘が終わった途端、眩暈はする、吐き気はする、で、ぐ〜らぐら。でも、うちは一族はなんにも教えてくれないしね。一族以外の者が写輪眼を持っているなんて、って感じだったから」
実際、眼を返せと言われたこともあると聞く。
呪われた眼だと噂されてもいたのだ。
でも噂とは裏腹に、写輪眼のことを語る先輩は楽しそうだった。
「片目で戦うのには、すぐに慣れたんだけどね、やっぱりもらい物ってのは、馴染むまでが大変だよね〜」
やはりもらい物の能力を持つボクにあけすけに言いながら、笑いかけてくれたのは先輩だけだ。
イタチが里抜けしてしばらくしたころだったろうか?
「この眼の遣い方に、もっと違う道がありそうなんだよね」
と言ったのは。あのころから、先輩の写輪眼に対する姿勢が少し変わってきた。
「もう……里にはだれもいない。だから、オレがやらないと。うちはサスケがいるから。いつか彼が開眼するときのためにも」

いつも、そうだ。
いつも、自分よりも里。自分よりもほかのだれか。
ここがオレの居場所だよ、なんて言っていた暗部を離れ、下忍を担当する上忍師になり、ますます自分よりも里の未来、その未来を支えるはずの部下たち、になった先輩。
すぐ無茶をしたがるこのひとを引き止め、やっとチャクラ切れで倒れることがなくなったと思ったのに。
下忍の部下をもった途端、里外任務でチャクラ切れを起こしたと聞いて、心配より何より、怒りを覚えた。
目の前にあのひとがいたら、「あなたは、また!」と怒鳴りつけていたかもしれない、というほどの怒りだった。
実際、その少しあと先輩を訪ねたとき、ボクは不機嫌を隠し切れなかった。
申し訳なさそうにボクを見て、「ごめんね」と言ったっけ。それでもまた同じことを繰り返すのだろう、このひとは。

飄々としていると言われる先輩の、胸の奥に滾る想いの熱さは、おそらくライバルを自称する、かの上忍にも劣らない。いや、そういう熱さを秘めているから、かの上忍がライバル視しているとも言えよう。
芯はとても熱いひとなのだ、と思う。
だからこそ、忍として生きていくために、その熱さを隠し、飄々とした風を装っている。
忍として生きていくよう育てられたひとだから、子どものころからそうだったのだろう。
それでもひととして歪まず、壊れず、今のカカシさんに到達した、というのは、凄いことだと思う。
まぁ、いろいろ付いて回る噂話から推測するに、やんちゃな時代もあったようだし、壊れかけていたころもあったようだとは思う。
実際、付き合ってからも、このひとの奇態な行動に振り回されること……数え切れない。
それに今も、人前で堂々と18禁本を読む、という所業が果たしてまともなのか、ということにもなる。
ただ、それをふまえたうえで、改めてカカシさんを検証するに、自分の行動が周囲からどう見られるかも理解しているし、それを承知のうえでの今の行動でもあるとわかる。
ボクは思い出す。
一見錆びているように見えても、芯は鋼のまま、決して折れることのない釘でいたいと言った彼を。

「早く元気になってください」
閨でいつもするように、髪に指を絡ませては解き、それから生え際をなぞる。
犬が撫でられているときのように気持ちよさそうに眼を細め、喉の奥を小さく鳴らすのだ、このひとは。
でもいまはただ、静かに横たわっているだけ。
「元気になってください」

――!

このとき部屋に近づいてくる気配がなければ、抱きしめたいという衝動をボクは抑えることができなかったかもしれない。
が、ふたつの気配がこの部屋を目指していた。ボクは気配を断ち、姿を隠した。

「毎日、通っているの?」
扉を開けて入ってきたのはカカシさんの部下のひとりとアカデミー教師だった。
「いや、面会時間に間に合うときだけだよ。さくらこそ、毎日、通っているんだろう?」
「カカシ先生は、ついで、よ。サスケくんのお見舞いの、ついで」
そう言って、少女はそっと眠る顔を覗き込む。
「ねえ、イルカ先生?」
「ん、なんだ?」
「どうして、オトコのひとって無茶ばかりするの?」
「どうした? 急に」
言いよどむ少女に先を促すような相槌をうって、彼――うみのイルカは眼差しを和らげる。
先輩が担当する下忍たちのアカデミー時代の担任だ。
いいひとなんだよ〜、と先輩が言うからには、いいひとなのだろう。
一見凡庸な中忍だが、バランスよく安定しているのがわかる。意外と戦場向きの資質を備えている彼が、戦忍ではなく教師をやっているのは、何か胸に期することがあるからだろう。
「だって、サスケくんだって、ナルトだって、無茶ばかり……。リーさんも、もう忍としてやっていけないかもしれないっていうほどの大怪我なのに、病室、抜け出して鍛錬しようとするし……」
最後のほうは泣くのを堪えてでもいるのだろう、声が小さくなる。
「カカシ先生だってそうよ。チームワークが大事、なんて言いながら、チャクラが切れて倒れるまで……無茶としか思えない」
「そうだなぁ……」
「イルカ先生だって……知ってるのよ、なんでかは知らないけれど、大怪我したんだって?」
あはは、と病室に似合わない快活な笑い声をあげて、彼は頬をかいた。
「どうせ、だれかをかばってとか、そんなんでしょ? アカデミーでもいっつもそうだったもの」
「かなわないなぁ、さくらには」
ポンポンと、名前のとおりの明るい色をした少女の髪を、無骨な手が優しく叩く。
「守りたいものがあると、な、つい、無理してでも頑張ってしまう生き物なんだよ、オトコってのは」
守りたいもの? と少女が呟く。
「そう。俺の場合はアカデミー生。それから、さくらたちアカデミーの卒業生だ。ナルトやサスケだって、同じだろう? 仲間を守りたくて無茶をする」
少女は意志の強そうな目で、教師を見上げる。
「それに、さくら。おまえは男じゃないが、やっぱり同じような無茶をしているはずだよ」
少女は首を傾げた。
「二次予選のあと、どうしてさくらの髪は短くなっていたんだろうな。あんなに大切に手入れしていた、自慢の髪が……」
少女の目が見開かれた。
「同じ、だろ?」
少女は目を伏せ、そしてコクンと頷いた。
「……じゃあ、カカシ先生も?」
私たちを守りたかったのかな……小さな声で独り言のように少女が言った。



2007年05月10日(木)
月読 1)

「交替です」
小隊のリーダーが、ボクのところにやってくる。
「変わりはない」
ボクの言葉に、彼が頷く。
「里からも特に……」
彼の言葉に、今度はボクが頷く。
「便りのないのは無事な証拠」という言葉を噛み締めながら。

大蛇丸による木の葉崩しに里が壊滅の危機に瀕していたときも、ボクはここ、ちょうど雲隠れと草隠れの両里から等距離に位置する国境にいた。

国境警備は、里の草創期から続く火の国との契約に基づいている。
そして平和時のそれは、暗部にとって新人訓練の場となっていた。
街道筋を守る軍隊の目の届かぬ険しい山間は、忍にとって格好の侵入場所となる。
もし自分たちが、ここから他国に侵入するならどうするか。
逆に、他国から火の国に侵入しようと考える者はどうするか。
さまざまなシミュレーションを行い、演習を行う。
が、戦時中ならいざ知らず、実際には退屈きわまりない任務でもある。
だからこそ、訓練となる。いついかなるときも緊張を保ち、瞬時に状況を判断するという、忍にとって最も必要な資質を磨き、鍛え上げるのに相応しい。
しかし、今回に限り、国境警備はいきなり第一級の重要任務に格上げされた。
というのも、大蛇丸が草隠れの忍を装って木の葉の里に侵入し、中忍試験に現れたからだ。
こんな先の読めない、あるいは何通りもの読み方が考えられる不安定な状況のなか、里を離れる任務にはつきたくなかった。
「こういう時期だから、おぬしに頼むのじゃ」
厳しい相貌で三代目に告げられたから、ボクは本音を面に隠した。
今思うと、暗部の手だれを分割し、火の国と他国との国境の守りに当てたのは、リスク分散のためだったのだと思い当たる。
もし、あのとき里にいたら、と思ったのは、ボクだけではないだろう。
しかし、だからこそ、砂の里と音の里からの忍の侵入を多少なりとも食い止めることができたのだ。
里で応戦していた忍たちからすれば、「あれでも?」と言われるのは承知のうえ。どちらも規模こそ、木の葉には及ばないものの、精鋭揃い。しかも、いままで友好関係を保っていた砂の里と、実態の掴みきれない音の里相手だ。今すぐ、里に駆けつけ、自分たちも応戦したい。
けれど、ボクらにできることは、里に常駐している仲間を信じ、与えられた任務をまっとうすることだけだった。
そして、受け取った知らせは……いや、それはもういい。
里は、深い痛手を被ったものの、壊滅はしなかったのだ。それでいいじゃないか。
ボクは自分に、そう言い聞かせた。
そして、あのひとに何かあった、という知らせのないことには、安堵もしていた。
ちょうど中忍試験本戦の最中だったから、里にいたはずだ。
他国から本戦を見に来た要人や一般人、下忍たちを背に先輩が無茶をしていないか、心配だったのだ。

里を発つ直前、うちはサスケの修行を見ていた先輩に会いに行った。
疲れてもいたようだし大蛇丸の出現には珍しく焦燥感さえ抱いていたようだが、部下の成長はそれとは別に、先輩に喜びをもたらしているのが伝わってきた。
「おまえを、オレの隊に譲り受けたときのことを思い出すよ」
必殺技を伝授され四苦八苦している少年の姿に目を細めながら、そんなことを言っていたのを思い出す。
「アカデミーでは成績優秀、けれど無愛想で協調性のない子、って聞いてたけど、可愛いもんだ」
それは、ボクへの当てこすりだろうかと、先輩の弓形の目を見ると案の定、
「おまえ、もっと無愛想でもっと人付きあいが苦手だったものね」
と言われた。
「それがこうやって大人になってるんだもの。サスケは大丈夫。たとえ呪印があっても、ね」
でも、先輩、ボクは十羽一からげの実験体でしたが、あの子はいわば選ばれた者、ボクとは違いますよ、という言葉を、結局は呑み込んだ。
そんなことは先輩が、いちばん分かっている。
「薬師カブトの件では、部下たちが不甲斐なくてすみません」
代わりにボクは謝罪した。サスケの警備についていた暗部が、ことごとく倒された。おそらく油断もあったのだろうが、こんなことではいけないとボクは危機感を募らせてもいた。
「いや、こっちこそ。悪かったね。大事な部下を何人も……」
ああ、先輩は、いつまでたっても先輩だ。ここ数年、上に立つばかりのボクは、先輩の言葉に不覚にも言葉を詰まらせてしまう。が、再び口を開く前に、
「カカシ!」
と、幼い声が先輩を呼んだ。
上司でもある師を呼び捨てにする少年の青さを微笑ましく思いながら、ボクは姿を消した。
彼が振り返ったそこにいるのは先輩だけ。暗部と隠密裏に言葉を交わしている姿など、見せてはいけない。
しばらく国境警備に着くことは告げていた。それがボクの用件で、あとはただ先輩の姿を見ていたかっただけだから。

「里から伝令が!」
走ってきた部下の言葉に、ボクは追憶から引き戻された。
「はたけ上忍が、倒れたそうです」
ボクと小隊のリーダーは、顔を見合わせた。カカシさんを直接知るボクらにとって、先輩が倒れるのはいつものこと、「またチャクラ切れ?」との想いと「そんなことのために伝令が?」の意味をこめて、視線を交わす。
が、交替のために集まってきていた小隊のメンバーはにわかにざわついた。
あの、写輪眼のカカシが? いったい、何が? という声が聞こえる。
伝聞でしか先輩を知らない若手の暗部にとって、はたけカカシというのは一種の幻想――つまり里の安全を象徴する存在なのだろう。
「うちはイタチほか1名の忍と交戦した模様」
……続く言葉に、今度はボクら古株が戦慄した。
うちはイタチによる一族の殺戮は、今回の大蛇丸による木の葉崩しが起こるまで、九尾以後の木の葉における最大の悲劇と呼ばれていた。
そして、若干13歳で暗部の分隊長を務めていた同僚の起こした事件という意味で、当時、暗部に属していた者たちはみな、それぞれ思うものがあった。
なんとかするすべはなかったのか。
いったい、何がまだ年若い彼にそこまでの決断をさせたのか。
あの一族の結束力と閉鎖性がなければ。
変わり者の多い暗部のなかでも異色だった彼のことをもう少し気にかけていれば。
数々の嘆きは、結局、ことが終わってからの詮ない繰言だ。
「イタチほか1名は、暁と名乗っており」
――暁だと! 大蛇丸が一時、属していたという?
思わず気配を尖らせてしまったボクに部下がシンと静まり返る。
「うずまきナルトの拉致を画策するも、はたけ上忍をはじめとする上忍数名および自来也さまの応戦により果たせず。その後、消息を断ったとのことです」
膨れ上がりそうになる殺気をどうにか鎮めて、ボクは口を開いた。
「負傷したのは、はたけ上忍だけか?」
「はい。いえ、はたけ上忍も負傷したのではなく、特殊な術にかかった模様」
あの先輩がかかるほどの術?
いや、でも相手があのうちはイタチなら。暗部配属となったときに既に一族の眼を開眼させていた彼なら。
「どんな術か、わかるか?」
「詳細は不明ですが、一種の精神攻撃のようです」
特殊な幻術だろうが、先輩が解けないほど強力なら、幻術と言うよりも呪に近い術だろう。
「わかった」
それからさらに、イタチほか1名の姿形、特徴などを確認し、警備についている者全員に式を飛ばした。
――万が一見かけた場合は即刻、報告せよ。攻撃、捕獲の必要はなし。
戦って勝てるかどうかは微妙だ。それよりも、ここは情報収集が最優先事項だろう。
「尚、今回の件は里では隠密裏に処理され、表沙汰にはなっていません。上忍と暗部にのみ、情報が伝達されました」

ボクが里に戻ったのは、それからしばらくしてからのことだった。