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  カカシとテン子のど〜でもいいヒトコマ


  a sirial -暗部なテンカカ話-

  あんしゃんて-9話
  二人の出会い

  びとぅぃーん・ざ・しーつ-12話
  二人の“初めて”または物語の始まり
  ぱすてぃす〜前章
-18禁-
  ぱすてぃす
  びとぅーん・ざ・しーつのその後
  ぱすてぃす〜後朝 -18禁-

  猩々   おまけ -18禁-
  モジモジしている二人の一歩
  マラスキーノ 後日談
 ホワイトデー話

  らすてぃ・ねーる-12話
 ※4 に、テンカカ以外の絡みあり
  任務に出た二人
  カカシの過去を垣間見る

  恋女   後顧   おまけ
  ストーカー被害に合うテンゾウと
  嫉妬な先輩


  九夜十日
  イタチ里抜けのとき

  百年の恵み
  長期任務の小隊長を命じられるテン
  百年の孤独-6話
  初めての遠距離恋愛なテンカカ
  たーにんぐ・ぽいんと-8話
    テンゾウの帰還

   香る珈琲、そして恋 -キリリク話-
 四代目とカカシの絆を知って、
 テンゾウは……

 【1部】 だーてぃ・まざー-4話
 【2部】 ぶらっく・るしあん-4話
 【3部】 ぶれいぶ・ぶる7話
 【Epilogue】 そして、恋

  あふろでぃーて-5話 -キリリク話-
 くるみ


  a`la carte
  -暗部なテンカカとヤマカカの間話-

  春霞-4話
  暗部を離れたカカシとテンゾウ
  ちぇい・べっく
 -可愛いお嬢さん-
4話
  ※2,3に、ごく軽くテンゾウ女体変化あり
  久しぶりのカカシとの任務
  聖牛の酒-3話
  波の国任務の少しあと
  てぃままん-3話
  波の国と中忍試験の間

  月読-5話 -キリリク話-
 月読の術に倒れたカカシを心配しつつ、
 イルカ先生の存在が気になるテンゾウ

  月読 後日談


  テキーラサンライズ−19話
 ぎむれっと前日譚


   ぎむれっと-40話 -キリリク話
  かっこいいカカシと、
  惚れ直すテンゾウ
 ※途中、18禁あり
  プロローグ  本編  エピローグ



  La recommandation
 du chef
-ヤマカカな話-

  再会-Reunion-  第二部





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ごはんにメイル


2007年04月19日(木)
春霞 4 *18禁* -完結-

意固地になっているうちに、ベッドに押し倒され、テンゾウにきれいに裸に剥かれてしまった。
テンゾウももちろん裸だ。
すぐにでも繋がって、熱を確かめたいのに、「ゆっくり味わう」の宣言どおり、テンゾウはオレの肌に指を這わせ、掌を滑らせ、キスを落とし、舌先でくすぐり、時に歯を立てる。
ひっきりなしに膨れ上がり、けれどはじけることのない快感に、オレは身悶えしていた。

「いい顔、してますよ。色っぽくて」
なぁにが色っぽいだよ、と言い返したいのに、口を開いたら言葉より先に嬌声が零れ落ちそうで歯を食いしばる。
「目の焦点、合ってませんよ」
クスクスと意地悪く笑いながら、テンゾウはオレの下腹を掌で撫ぜた。
尾骨に響く愛撫に、先走りが溢れるのがわかる。テンゾウの視線がそれを捕らえているのもわかっている。
なんだかもう、頭のなかがぐちゃぐちゃだ。
何も考えられない。
ただ、与えられる刺激に反応している。
テンゾウも興奮しているのに、何、この冷静さ。そう思うと、強請るのも癪な気がしてしまう。
珍しく自分がうっすらと汗をかいているのにも気づいていた。
「ここ、舐めてほしいでしょう?」
脚を開かされ、膝を折られ、腰が少し浮く。
「あ、ほら、いま、動いた」
嬉しそうな声に、オレは泣きたくなる。
恥ずかしいのだか、昂ぶっているのだか、それさえもわからない。
散々、繰り返し、重ねてきた時間と同じはずなのに。こうやってあられもない格好をさらしてきているのに。
ぴちゃ、と濡れた下が敏感な皮膚に触れた途端、食いしばった歯の奥でオレは呻いた。
ここで、声をあげたら、絶対にだめだ。歯止めなく、泣いてしまう、そう思うのに、ノドの奥からあふれ出しそうになっている。

テンゾウが、声を聞かせろ、などと言うから。
滅多に言わないようなことを言うから。
返って意識してしまう。

わざと音を立てて、テンゾウの舌が動く。
ふ、と吐息のような笑い声がした。
「緩んできましたよ」
蹴り上げてやりたいと思うのに、なぜかオレの身体は意志に反して、ひくついて愛撫を強請っている。
「久しぶりですから。急いだら、身体がきついです」
やさしい声と、やらしい舌。どっちもテンゾウなのだと思うと、湧き立つように快感が広がった。
欲しい、いますぐ。いますぐ、欲しいのに。
「あぁ」
突き入れられた指に、とうとう声を抑えられなかった。
腰が浮き上がり、背が反り返る。
「そんなに欲しかったですか?」
少し意外そうにテンゾウが問う。オレは、喘ぎながら頷いた。
「遊んでないんですか?」
焦れてのたうちながら、また頷いた。
そういえば、遊郭にも行かなかった。テンゾウのことばかり考えていて、そんな気にもならなかった。
ふうん、とテンゾウが呟くのに、何がふうんだよ、と思う。
ほぐされ柔らかくなるにつれ、快感が高まって、だんだん意識が霞んでいく。
「はやく…ねえ」
ああ、強請ってるよ、オレ。
「ねえ、テンゾウ」
なんてあまったるい声。太夫もまっさおの甘さだね。
引き抜かれる指に、ああん、などと言う声がこぼれた。
「そんなに煽らないでください」
眉間にわずかにしわを刻んだテンゾウが、オレを抱きしめた。
ああ、テンゾウだ。テンゾウの腕のなかだ。
オレは背に手を回してしがみつく。
思わず目の前にある耳にかじりつき、テンゾウのあげる呻き声に背筋がゾクゾクするのを感じた。

大丈夫かなぁ、と不安そうに呟いて、テンゾウが入ってきた。
きしきしと身体がきしむ。けれど、それが気持ちいい。
ああ、とのけぞるオレにテンゾウが「痛くないですか?」と聞く。その声がかすれているのが嬉しい。
「いい、すごく、いい、ん、もっと、だから、もっと」
自分の声が遠くに聞こえる。
ぎゅっとを抱きしめる腕の力が強くなる。ああ、オレの身体がくねっているから、か。
腰をゆすって、自分から迎え入れる。ん、とテンゾウのノドが鳴った。
「せ……カカシさん、だめ、です、ゆっくり。でないと」
「いいから、はやく、はやくったら」
ああ、とオレは声を上げてテンゾウにしがみつく。
と、ズンと脳天にまで響く衝撃がきて、遅れて下半身が熱くなった。
テンゾウだ、テンゾウだ、テンゾウだ。
また、会えた。会いにきてくれた。こうして、抱き合うことができた。
愉悦の声を上げながら、オレは泣いていた。
どうやらオレは、テンゾウとの関係が終わることに、本気で不安を抱いていたらしい。
暗部という、棲み慣れた巣を離れたことと重なって、食欲をなくすほどに。

「泣かないでください」
少し困惑気味のテンゾウの声が聞こえた。
「泣いて、ないから。ね、動いて、じらさないで、動いて」
腰をゆすって強請ると、テンゾウがゆっくりと動き出した。
擦られる粘膜がもたらす痺れるような心地よさに、オレは酔う。
――こうして、繋がりたいと思うのは、おまえだけ。
そう告白したのは、いつだったか。付き合い始めて少ししたころだったか。
それ以来、口にしたことはない。でもテンゾウは、覚えているだろう。
「いい……すごく、いい」
ボクも、とテンゾウの上ずった声が聞こえる。
彼がこんな声を聞かせるのは、きっとオレだけだ。
そう思うと、嬉しい。
オレがこんなふうに甘えた声をあげるのも、テンゾウにだけだ。
たとえ、ただ欲望を吐き出しているだけの行為だとしても。ほかの相手に、こんな声は出さない。
「すみ、ません、ボク……」
掠れた声とともに、テンゾウの動きが早くなる。
ひきつれるような痛みと快感のないまぜになった感覚に、オレは翻弄され、あられもない声をあげ続けた。
そして、オレのほうが先にいった。
遅れてテンゾウの動きが止まり、吐き出したものの熱に満たされるのを感じて、また声をあげた。

指先にまで満ちていた熱さが引いていくと同時に、身体がほどけていく。
ぐったりとオレに体重をかけているテンゾウの肌も、冷えていく。
「大丈夫?」
言葉のない彼のことが心配になって、そっと背を叩くと、「あ、すみません」とテンゾウが離れた。
そんなの、いいのに、と思いながら、隣にどさりと横たわる身体に、寄り添った。
「満足?」
からかう気持ちもあって聞くと、「ええ、とりあえずは」と真面目な声が返ってきた。
「こうしたい、と思ったことは、一通り実現できたので」
「なに、それ?」
「ですから」と悪びれずにテンゾウは言う。
「今度、会ったら、こうしたいと思いながら、会えない日々を過ごしていましたので」
「会えなくなるとか、思わなかった?」
は? とテンゾウが聞き返す。
「会えなく? まあ、任務がすれ違うこともあるかな、とは思いましたけど」
だから、そうじゃなくて、と言いかけてやめた。
「ああ、カカシさんが浮気するとか?」
せっかくやめたのに、テンゾウは蒸し返す。
「浮気じゃなくて、本気かもしれないじゃない」
「そうですね、カカシさんが本気だったらボクの出番はありませんから。大人しく引き下がります」
「え? そうなの?」
驚いて、思わず起き上がっていた。
「そうですよ。そんなことは、もう何度も。あなたと付き合うようになってから、何度も考えましたから」
オレを見上げたままテンゾウが不適に笑う。
「何年付き合ってると思ってるんですか」
そして、ゆっくりと身体を起こし、窓を開けた。
「いい、夜ですね」
流れ込んでくる冷えた空気は、火照った肌に気持ちいい。
「ああ、でも、少し霞んでますね」
「うん、春だから。湿気が多いんでしょ」
「あ、酒ありましたね。飲みましょうか」
「オレ、腹減った」
ベッドから降りながら、テンゾウが笑った。
「食材、何があります?」
「米? それぐらいしか。あ、あと梅干」
「炊けるまで待てます? 梅むすびでも造りましょう」
「待つ」と答ながら、オレもベッドから降りる。
目の前に、テンゾウの裸の尻がある。引き締まった忍の尻だと思ってから、赤面した。
「ここで、待っていてください。酒、燗つけてきますから」
テンゾウが振り返った。
「ここ? ベッド?」
「ええ。春の夜風を肴に、ベッドで酒っていうのも、いいんじゃないですか?」
そうね、とオレは答えて、窓の外を見る。
春の霞んだ夜空が、広がっていた。


<了>


山廃純米 貴酬春霞
麹の香りがふわりと立つしっかりした味わい。春霞には、大吟醸、吟醸、純米吟醸などもあるが、燗で飲みたいときはこの山廃純米が格別。冷よりも、常温から熱燗にむく。



2007年04月18日(水)
春霞 3


その後、オレたちは余り話すこともなく、酒を飲み、メシを食い、店を後にした。
それでもテンゾウがそばにいることで、オレの気持ちは余程、くつろいでいた。それがまた、何とも言えない敗北感をかきたてる。
そのくせ、敗北感ってなんだよ、と自分に突っ込みを入れている。
恋愛は勝ち負けじゃないだろーが。

そんなオレの心情を知ってか知らずか、あるいは薄々気づいていて知らぬ振りをしてか、店からの帰り道、テンゾウは饒舌だった。
「やばいですよ、あそこのしょうが焼き。ボク、長期任務から帰ったら、アレを食べずにはいられなくなりそうです」
「腹減ってると、毎度、ソレだもんね、おまえ」
「だって、脂身のほとんどないしょうが焼きを、あれだけおいしくつくってくれる店、ないですよ」
真剣な顔で言い募るのがおかしい。
ついでに、脂身苦手なくせにしょうが焼きを食うテンゾウもおかしい。
こんなどうでもいい話題を、真面目な顔で交わしているオレたちもおかしい。
三か月ぶりなのに。それもオレが暗部を離れてから、初めて会うのに。
まるでずっと続いてきた時間をそのまま繋いでいるようなテンゾウの態度に、オレは戸惑っている。
そのテンゾウは、なにやら女主人から買ったらしい紙袋を抱えていた。細長い形態から酒だろうと予想はついたが、酒ならオレの部屋にもあるのに、とオレは首を傾げていた。

「あー、やっぱりカカシ先輩の部屋はいいですね」
部屋に入ったテンゾウが伸びをする。
「いい、って、大して何もない部屋よ? 知ってるでしょ」
インテリアに凝る趣味もない部屋は、最低限、生活できるだけの機能が揃っているというだけのものだ。
枕元におかれたかつてのスリーマンセルの写真とイチャパラが、ささやかなオレのアインデンティティの象徴という、きわめて質素な部屋だ。
その割りに、片付いていない。デスクの上には書類が散乱しているし、巻物が床に転がっていることもある。
「でも、この空間すべてが先輩の気配に満ちていて、ボクはとても安心します」
サラリととんでもなく意味深なセリフを言う。
長い付き合いなのに、まるで付き合い始めのようにドキドキしてしまった。
互いの任務の都合で3か月ぐらい会わずにいることは、今までもあった。会わない間は恋しいとも思ったし、久しぶりに会えると、とても嬉しかった。
でも、そういうのとはまったく異なっている。
一体全体、オレはどうしてしまったというのだろう。
すっかり慣れ親しんだはずのテンゾウなのに、慣れない相手のように……いや違う、慣れない相手なら、むしろそれなりの対処の仕方というものがある。そうではなく、対処なし、というか、なすすべなし、というか、つまりオレはお手上げ状態なのだ。

緊張しているわけでもなく、だからと言って、平常心でもない。
話しかけられれば、いつものように受け答えもできるのに、どこか浮ついている。
オレがひとりで内心おたついていると、後輩は「あ、そうだ」と脇に置いた紙袋を差し出した。
「はい、カカシ先輩。今年はバレンタインデーもホワイトデーも離れていましたから」
受け取った袋の中には、先ほど燗で2合ほど飲んだ「春霞」の一升瓶が入っていた。
「吟醸酒だと冷なんでしょうけれど、こういう気候のときって燗酒が恋しくなりますよね」
「テンゾウも……飲む?」
「ええ。ボク、向こう1週間は完全休暇。その後、1週間は待機なんで」
オレも、3日間は休暇だ。
「燗つけましょうか」
テンゾウは立ち上がって、オレの手から一升瓶を受け取った。
ふっとオレを見下ろす視線に、心臓をわし掴みにされた。急に体温と心拍数が上がる。
――ああ、そうか……。

テンゾウは、変わっていない。変わったのは、オレ。

オレにとってテンゾウはいつも“後輩”だった。
最初は、彼の才を育てたいと思う気持ちもあった。後に、オレと肩を並べる彼を頼もしく思った。
けれど、一貫してテンゾウは後輩で、オレは先輩だった。
今もテンゾウはオレを先輩と呼び、オレも彼を後輩と呼ぶ。でも、違う。
オレにとってテンゾウは後輩でなくなった。暗部を離れたときから。
オレのテンゾウに対する視線は、先輩としてのそれではなく、ただの男としての視線になっていた。
オレのなかで、テンゾウはテンゾウになった。
いや、いつからか、とっくにそうなっていたのだ。それでもオレが暗部にいる限り、オレとテンゾウの時間は、恋人同士の時間よりも暗部の先輩と後輩としての時間のほうがはるかに長かった。
だから、オレは気づけなかった。
テンゾウはこんなにも……。

「カカシ先輩?」
テンゾウが屈み込んで、心配そうにオレと目線を合わせた。
「テンゾウ……酒、ありがとう。オレも明日、休みだから。酒は、あ……明日にしよう」
声が震えてくるのがわかった。きっとテンゾウにも、伝わっている。
「だから……今は……ね」
伸ばした手を、テンゾウが取った。
「先輩……」
「もう、先輩じゃない、よ」
「暗部を離れても、先輩は先輩ですよ」
オレは首を横に振る。どう言えばいいのかわからない。
テンゾウは、情けない顔をしているはずのオレに、表情を和らげた。
「じゃあ、カカシさん」
そう呼ばれた瞬間、テンゾウの腕の中にいた。
「あなたが暗部を離れても、ボクは変わりません。初めて会ったときのまま」
テンゾウの手がオレの後頭部を撫ぜる。
「いえ、初めて会ったときよりも、もっと……」
髪の中にテンゾウの息を感じる。
「好きです」

好き。そのシンプルな言葉だけが、テンゾウとオレを繋いでいる。
好き。それだけ、ほんとうに、それだけなのだ。その心ひとつしか、オレたちにはない。

「欲しい」
言わなくてもわかっていると思うけれど、伝えたくて口にした言葉は、なんの工夫もない、直接的なものだった。
「ずっと、欲しかったよ、会えない間」
テンゾウは、オレの顎の下にすっと指を差し入れると、顔を上向かせた。
「カカシさんのソレとは違うのでしょうけれど、ボクも、同じです」
オレたちはどちらからともなく唇を重ねた。何度も啄ばむようなキスをした。
それだけでのぼせてしまったようで、差し入れた舌を甘噛みされたときは、尾骨から下腹にかけてビリと痺れるような快感が走り、思わず身をよじっていた。
テンゾウが舌を差し入れてきたとき強く吸い付いたら、くぐもった声が聞こえ、それもまた腰に響いた。
なんだか、初めてキスをしたときのようだ。
あのときは途中から無我夢中になってしまったテンゾウに、煽られまくったものだ。
すっかり大人になったテンゾウは、服の中に差し入れた手をオレの素肌に滑らせながら、唇で首筋を愛撫している。
オレの弱いところに軽く歯を立て、そのたびに竦むオレの身体を抱きしめ、時に不意に耳朶を噛んで、オレに声をあげさせる。

「焦らさないでよ」
抗議するつもりの言葉は、なんだか甘えるような口調で、テンゾウのしれっとした
「焦らしてるつもりはありません」
などという反撃を許してしまった。
「なかなか、お目にかかれない可愛いカカシさんを堪能しているだけです」
「か……」
「可愛い、はボクの個人的私見ですから。あしからず」
反論する前に、封じられた。ほんとうに、無駄に優秀だね、おまえは。
すっかり昂ぶって、もうどこに触れられても身体が震えそうなほどなのに、オレは妙なところで感心してしまった。
「今日は、ゆっくり味わいたいので、それについても、あしからず」
「味わうって……んっ」
きゅぅ、と首筋に吸い付かれて、オレは言葉を失くした。テンゾウの背に回した手が、服を掴む。
「脱ぎましょうか」
テンゾウが先に、来ていたニットとシャツを脱ぐ。
出会ったころ、オレより一回り小さかったテンゾウは、1年でほぼオレと同じぐらいになり、その後の1年でオレより一回り大きくなった。
今では、オレより少し分厚い胸板と腹筋の持ち主で、その鍛えられた身体には惚れ惚れしてしまう。
「カカシさんも」
テンゾウがオレのシャツのボタンに指をかけた。器用に動いてボタンを外していくテンゾウの指を見つめる。
「カカシさん?」
袖から腕を引き抜かれた。
なんだか、テンゾウの指を見ているだけで、それだけで、身体が火照ってくる。
「寒くないですか?」
問いながら、テンゾウが指先を肌に這わせた。その刺激に、ゾクとする。
「鳥肌……寒いわけじゃないですよね?」
笑みを浮かべながら、そんなことを言わないでほしい。
つつ、と這っていく指に集中したくて、オレは目を閉じる。
「乳首、勃ってますよ」
押し潰しながら、そんなふうに言わないでほしい。声を堪えるのに、精一杯のオレは返す言葉を持たない。
指で摘まれて走った快感に、思わず下腹に力が入った。すかさずテンゾウの空いていた手が、オレの下腹に当てられる。
「そんなに、我慢しないで、声を聞かせてください」
だれが。聞かせてなんかやるものか。
オレは意固地になって、唇を噛んだ。




2007年04月17日(火)
春霞 2


ほんとうは……不安だった。
暗部を離れたオレと暗部のテンゾウとの接点は、今までに比べると圧倒的に少なくなる。
何年も、それこそテンゾウが暗部配属となってほとんどすぐぐらいのときから一緒だった。
恋人同士になったのは、1年ぐらいたってからだ。それからずっと身近にいた。
後に、あいつは分隊長になって、オレの隊を離れたけれど。それでも、一緒だった。

でも、もしかしたら、たまたま身近にいて、都合のいい相手だから続いていただけかもしれない。
接点が少なくなったら、自然消滅するのではないか。
そもそもテンゾウは、情事の相手をさほど必要とはしていない。
まったく不要というわけでもないのだろうが、自発的に求めるほどの必要性を、彼はもっていない。
ここ数年はオレの相手をしていたから、オレがテンゾウを求めるのに応えてオレを抱いてはいたけれど。
オレと離れれば、そんな機会が頻繁に必要というわけでもない。
“溜まる”という感覚が皆無ではないらしいのだが、かなり曖昧な様子だった。
そんな状態でも、相手の情動に触発されないと明確な欲求は感じないのだとも言っていた。
そういえば、付き合い始めた最初のころも、こんなふうにもどかしい気持ちになったのを思い出す。
結局、あのころからオレは少しも変わっていないということなのだろうか。

「先輩?」
怪訝そうな声でテンゾウがオレを呼ぶ。
そうだ、それでもテンゾウは来てくれたじゃないか。それも長期任務がおわって、すぐ。
「ええと……先にシャワー、浴びますか?」
その言葉に、身内が火照る。何を前提として言われた言葉なのか、深読みしてしまう自分がいまいましい。
「それとも、空腹でしたら何かつくりましょうか?」
オレの様子がおかしいというのは、わかったのだろう。気に留めながら、それでも臆することなくテンゾウは言葉を継ぐ。こういうところが彼らしいところだ。
オレの直属の部下だったときも、そうだった。オレの不機嫌に気づき、でも必要以上に引いたりしない、言うべきことは言う。そんなところが、部下として気に入っていた理由のひとつだ。
でも、いま思えば、そんな後輩にいつもオレは甘えていた、ということだ。
「いい。シャワー浴びて、飲みにいく」
「え?」
「もともと、その予定。冷蔵庫カラだから」
あ、と言ったきりテンゾウはきまり悪げな表情になった。
「すみません。先輩も任務直後だったんですね」
今度は、オレが「あ」と言う番だった。そう、そうだった。三ヶ月里を離れていたテンゾウが、正規部隊のオレの任務を把握しているわけがないのだ。その説明を怠ったのはオレだ。
「うん、そう。さっき帰ってきたところ」
「ああ、だから」
とテンゾウはオレの格好を改めて見た。「裸体」という単語はのみ込んだらしい。ほんとうに優秀な後輩だ。
「立ち飲み屋ですか?」
聞かれて、オレはしばしためらった。ここしばらく、あの店には行ってなかったのだ。
迷った末に、「うん」とだけ答えてオレはバスルームに向かった。
シャワーを浴びて出てくると、テンゾウはオレの家に置きっぱなしになっている着替えを引っ張り出したらしく、すでに私服姿だ。
「おまえ、シャワーは?」
いえ、と首を振る。確かに、そう汚れてはいなかったが。
「暗部棟でシャワー浴びましたから」
「でも、ここに来たとき暗部服のままだったよね?」
テンゾウは彼には珍しく悪戯っぽく笑った。
「暗部服のままだと、屋根伝いに移動できますから」
「だから、着替えなかったの?」
「はい」と上機嫌な後輩は、「さ、行きましょう」とオレの手を引く。大胆な行動に、不覚にもドギマギしてしまった。
「いつの間に、そーゆー悪知恵が働くようになったの?」
「先輩の教育の賜物です」
毎度、ソレ? とむくれるオレをテンゾウが笑う。
だいぶ日の長くなった空は、ようやく暮れ始めたところだ。やはり空気は湿り気を含んでいて、暖かいような、肌寒いような、曖昧模糊とした春の宵特有の肌合いだ。
繋いだ手のオレより少し肉厚な感触が、とても心地よい。
窺うようにテンゾウを見ると、彼は真面目な顔で前を見ていたが、握る力がちょっとだけ強くなった。

「らっしゃい……おや、お久しぶり」
立ち飲み屋の女主人はオレを見、テンゾウを見、笑みを深くする。繋いだ手には、チラとも視線が向かわない。でもきっと気づかれているだろう。
オレは照れくささに、店に入るや否やそそくさとカウンターの端を見た。そこに「今日のおすすめ」が書かれた小さな黒板が立てかけられている。
空腹なのに、がっつり食べたいというほどの食欲がわかないのは、やはり精神的に疲れているからだろう。
「んっと。小あじの唐揚げ、桜海老と大根おろし、卵豆腐のソラマメあんかけ……それと、ん〜、燗つけて」
オレが燗つけて、と言うとき、酒はお任せだ。女主人は心得顔で「はいよ」と答え、テンゾウを見る。
「ボク、焼酎ロックにしょうが焼き」
ご飯をつけますか? という言葉は、もう彼女からは出てこない。テンゾウがそれを頼むときは空腹だと知っているから。
「先輩、それだけですか?」
「うん、オレ、最近、ダイエットしてるの。儚げな雰囲気を出そうと思って……」
「はいはい、で、それだけで足りるんですか?」
「ひっど〜い。何その反応?」
「ダイエットしなくても、先輩は儚げですから! たくさん食べてください」
オレの上滑りした冗談に、テンゾウは心持ち疲れた表情で答えてくれた。
ほんとに、かわいい後輩だよね、おまえは。
「……先輩が相変らずで、嬉しいです。冗談も意味不明だし……」
やっぱり、かわいくない。オレだって滑ったという自覚があるのに、追い討ちかけるように。
「はい、桜海老と大根おろし。と、燗酒。銘柄は、春霞」
まるで今日を象徴するような酒の名だと、オレは思った。
「こちらは焼酎ロック」
徳利と猪口をオレの前に、グラスをテンゾウの前に置く。オレが手にした猪口に自然な動作で徳利から酒を注ぐテンゾウを見て、女主人はまた笑みを浮かべる。なんだか、くすぐったくてならない。
「焼むすび、作りましょうか?」
彼女の言葉に、オレが思わず「いいの?」と返すと、彼女は「もちろん」と頷いてくれた。

実は二月ほど前、この店に珍しく若い女性客が3人で来た。なんでもこういう立ち飲み屋が流行りだとか。
そのとき、たまたまオレは焼むすびを食べていた。それを見た女性客が、同じものを注文した。裏メニュー(メニューにない料理をそう呼ぶそうだ)を頼めるのがステータスだとかなんだとか。
その日は、それで終わったのだが、この裏メニューが口コミで広がり、焼きむすび目当ての女性客が増えたところで、オヤジたちが切れた。
焼むすびは、確かにおいしい。でも、焼き物専用店ではないこの店では、手間がかかる。だから、常連のオヤジたちも普段は我慢しているし、オレも滅多に頼まない。
それを彼女たちは遠慮なく、頼む。おいしいからと、追加注文する。若いお嬢さんが店に来ることに関しては、やぶさかではなかったオヤジたちも、さすがにカチンときたらしい。一度、険悪な雰囲気になりかけ、騒動の原因を作ったような形になったオレは、なんとなく肩身が狭くなった。
その後、ガイと組むことが増え、任務後は引きずられるように一緒に飲んで(というか、飲み比べをして)いるか、任務のないときはガイが言うところの“勝負”に付き合っていたこともあり、しばらく足が遠のいていたのだ。
「最近、立ち飲み屋ブームも一段落したみたいですから」
「そうなの?」
「ええ。そんなもんですよ、ブームなんて」
涼しい顔で言って、女主人は厨房に引っ込んだ。
「ボクが知らない間に世間ではブームが始まって、終わっていたんですね」
テンゾウが感慨深げに呟く。
「まあ……そういいう情報も、必要だったら伝わるんだろうけど」
「つくづく……裏家業だなと思います」
テンゾウはらしくもなく、ため息をついた。
「先輩の状況だって、全然把握できていなかったですし」
「全部把握していたら、それストーカーだから」
オレの軽口は苦笑で流された。
そう……そういう問題ではないのだ。テンゾウはテンゾウで、オレとの接点の少なさを実感したのだ。
もしかしたら、テンゾウも不安だったのかもしれない、と思って、いやいや、それはオレの希望だ、と思いなおす。
オレと離れていることを不安に思ってくれるなら、少しはテンゾウの気持ちを推し量ることもできるという、オレの姑息な希望だ。でも、問いただす勇気はなかった。

「お待たせ」
テンゾウのしょうが焼きとご飯が登場する。もやしやキャベツ、青菜などの炒めたのが大量に添えられている。見ただけで腹がふくれそうなオレの前には、卵豆腐と小あじの唐揚げ。唐揚げには、千切りにした野菜を塩もみしたものが添えられていた。
「お好みでこちらをどうぞ」
くし型のレモンと醤油とごま油が一緒に出される。
……見抜かれちゃってるね、と思いながら、オレは頭を下げた。食欲のないオレが、それでも食べやすいようにと、工夫してくれる、その気持ちが嬉しい。けれど、なんだか情けない。
「らっしゃい」
ガラリと戸が開くのに、女主人が答える
「桜も散るって言うのに、夜はまだ、ちょーっと寒いやね」
常連のオヤジのひとりだ。オレとテンゾウを認めて、やあ、と手をあげる。
「久しぶりじゃないか、兄さん。そっちの兄さんも元気だったか?」
テンゾウは、はいと会釈を返す。
「いや、里外に出張だったって聞いてたけど、こっちの兄さんがしょげちゃっててねえ」
あっはっはっ、と笑う親父の首を絞めてやろうかと思う。
「おまけに、若いお嬢さんたちが兄さんに色目使うし。帰ってきてくれてよかったよ」
テンゾウがチラとオレの横顔を窺う。
これ以上何か言ったら絶対締めてやる、と、決意を固めかけたところで、
「ご注文は?」
と、女主人がやんわりと割って入り、オヤジさんの意識はおすすめの書かれた黒板に向いた。
助かったと思う反面、こんなふうに気遣ってもらうようじゃ半人前だとも思う。
「先輩、一般人相手に殺気振りまかないでください」
テンゾウがオレにだけ聞こえる声で言った。
「殺気なんか振りまいてないじゃない」
「振りまく寸前に思えました」
テンゾウの指摘は正しい。オレは落ち込んで、塩もみ野菜にレモンを絞り、口に運んだ。
「先輩が、女性からモテるのはいつものことですから。つまみ食いしないことも、よく知ってます。だから」
そう言って、テンゾウはグラスを傾ける。
いいなぁ、グラスになりたい、などとぼんやりテンゾウの口元を見ながら思う。
思ってから、オレ、何考えてるの? と自分でびっくりした。
「だから、そんな外野の声にピリピリしないでください」
テンゾウの優しい声が、じんわりと胸の底にしみてきた。



2007年04月16日(月)
春霞 1


雨のなかを走っていた。
きっとこの雨で名残の桜も散ってしまうだろう。
隣を走る男が、枝を蹴る。
中忍以上が着用するベスト姿に、ふと違和を覚えた。

――いつも一緒に走っていたのは……。

オレは頭を振って、同じように枝を蹴る。

「やはり追ってきたか」
奪われた密書を奪い返したオレたちを追ってきたのは、敵国の雇った忍――お約束どおりの展開に笑いが出る。
「俺が囮になる」
こんな状況でも爽やかに言い放つ男とは、かつて暗部の任務帰りに偶然遭遇したのが縁で知り合った。当時は中忍だった彼はすぐに上忍になり、以来、7年余りの間に何回か任務で顔を合わせてもいた。
聞けばオレより少し遅れて下忍となった彼もまた、大戦と九尾の時代を知っている、いわば数少ない文字通りの“同胞”だ。

「敵さん、ふたりよ」
「男が交わした約束だ。カカシ」
雨の中なのに、歯が白くキラリと光った気がしたのは、錯覚か?
――オレ、疲れているのかも。
それはそうだ。面で貌を隠して赴く暗部の任務は過酷だが、オレにとっては馴染んだ場所だった。
暗部を外れ、上忍はたけカカシとして任務につくのは、未だオレにとってイレギュラーな出来事に感じられてならない。そんな状態が、もう4ヶ月余り。
上忍師を命じられ、担当した下忍候補をアカデミーに送り返すこと数回、シビレを切らしたらしい三代目は手っ取り早くオレを暗部から追い出したのだ。
しかし、今年も下忍候補はオレの試験に落ち、オレは上忍師になりそこねた。
「また落としたのか」
と三代目はため息をついたが、オレに言わせれば、落ちるほうが悪い。
なんの覚悟もないヤツを忍にすることはできない。
仲間に背を預けることの意味さえわからないようでは、たとえ合格させても、待っているのは死だけだ。

「いいな、俺が囮になる」
「はいはい。あんたの死体回収はしたくないから、頑張ってね」
軽口で答えてオレは先を急いだ。
マイト・ガイは、オレに向かって笑顔で親指を立てた後、敵に向かって跳躍した。
――ま、大丈夫でしょ? あいつ、強いし。
初めて出会ったとき、オレが同い年で上忍でおまけに暗部所属と言うのを知って、俄然ライバル意識を燃やしたガイは、時折、勝負を挑んできた。
つい最近のそれは、中段蹴りを1分間でどちらが数多くこなせるか、だった。
体術に長けたアイツが考えそうな勝負だ。賭けられたのは、次の任務の囮役だった。
でも僅差でオレが勝ち、約束どおり今、ガイは囮として残ることになった。
もっともあれが、中段蹴りでの破壊力勝負だったら、囮役はオレだっただろう。
暑苦しくて、うっとおしい男だ。でも、嫌いなわけではない。むしろ、好ましく思っている。
あんなふうにまっすぐにオレにぶつかってくる同年輩の忍は彼だけだ。
ただ、彼とのツーマンセルに慣れない。
彼もまた今年の下忍候補生を落として、上忍師になりそこねたのだからしばらく彼と組むのは仕方ない。
そしてガイという男は、存在そのものが自己主張の塊、周囲を気にしないマイペースな性格と思われているが(実際、そのとおりなのだが)、任務に関する限り調和を重んじる。
普段から悪目立ちしているせいか、余計な自己アピールもしないし、変なプライドでヘソを曲げたりもしない。
己の力量もきちんと把握しているから、こちらの采配にも文句をつけないし、余計な気を回すこともない。
オレにとっては、組みやすい相手だ。それでも、まだオレは慣れないでいる。

どうしても、思い出してしまう。
かつては同じ隊の部下で、後に分隊を任されるようになった後輩を。
2個小隊以上で動くときは必ずと言っていいほど彼の隊と一緒だった。
ツーマンセル任務では、ずっと相方だった。

国境を越え、あらかじめ打ち合わせたポイントで、中継役の忍と落ち合った。
彼が直接、密書を火の国の大名に届けるのだ。
合言葉と印で互いを確認し、密書を受け渡せば、オレの仕事は終わる。
ガイを応援すべく再び国境を越えようとしたところで、本人と出会った。多少、薄汚れてはいたが怪我もない。
「そっちはどうだ?」
「終わった」
オレの返答にガイはほっと息をついた。
「こっちも、終わった。一応、処理班と訊問部隊には連絡を送った」
――置いてきたのか。
オレはガイの横顔を見ながら思った。
その場で殺されるか、それとも生きながらえて捕虜となるか、どちらが楽か、それは定かではない。
木の葉の部隊が到着する前に彼らが自死する可能性に目をつむって、そのまま放置したガイの心情をオレは測ってみる。
温情ともとれるが、その熱血ぶりに反してガイは意外とプラグマチストだ。放置したのも、計算のうえなのだろう。
そこで自死を選べる相手なら、たとえ生きていても拷問に耐える。選べない相手なら、さっさと吐く。
敵の応援がかけつける場合もあるが、このようなケースでは下手に生き残ると、返ってスパイと疑われる場合もある。
こういうところで彼が戦場に慣れた忍であることがわかる。その点では、とてもやりやすいと思う。
だから、オレの感じる違和は、ひたすらガイがテンゾウではない、そのことだけなのだ。

帰り着いた里は気持ちよく晴れ、頭上には霞んだような青が広がっていた。
春の空は、この季節特有の湿気の多い空気のせいか、どこか曖昧だ。まるで今のオレの、もやもやとした心境を映しているようにも思える。
けれど強めの南風に、濡れた髪は、あっという間に乾いていく。
任務報告はガイに任せて、オレは部屋に戻った。
習慣で面を外そうとして彷徨う手に、笑ってしまう。面をつけていないのに。
任務が終わると面を外す習慣が長く続いていたから。
暗部所属のまま正規部隊の応援に行っていたときは、そんなことはなかった。
イレギュラーな出来事だということをしっかり認識していたからだ。
今は、その辺が混乱している。

まだ湿り気を残したベストとアンダーを脱ぎ、下に来ていた帷子も脱ぎ捨て、オレはベッドに身体を投げた。
身体の疲労は暗部にいたころよりも軽い。ただ、精神的な疲労が大きい。
どんなに目立っていても、暗部では「匿名」が建前だった。今は違う。何をやっても、上忍はたけカカシなのだ。
暗部からはずされた一因に、それがあるのは言われずともわかっていた。
面をしていても特定される場合は、少なくない。使う術の特殊性、面では隠しきれない外見など、理由はさまざまだ。ただオレの場合、正規部隊の任務も兼ねていたこともあり、名が売れすぎてしまった。
テンゾウは、使う術の特殊性では木の葉の里随一だが、彼の術を認識した相手はまず、死んでいる。
だから、面をしてしまえば外見がそう目立つわけでもない彼は、ビンゴブックに名がない。もちろん、各里の裏情報網には、何かしらひっかかってくるのかもしれないが、表向きにはなっていない。

ずっと同じ仲間とセルを組むことなど、ありえないとわかっていた。
なのに離れてみて初めて、その事実にオレは愕然としている。
――甘いねえ、オレも。
自嘲をこめたため息と同時に、コツコツと窓を叩く音がした。
顔の上に乗せていた腕をあげると、見慣れた猫面が窓に貼り付いている。
「テンゾウ!」
あわてて窓を開けると、面を外した男がため息をついた。
「先輩。その見事に鍛えられた、ボクにとっては目の毒とも言える裸体が、窓から丸見えです」
オレは、思わず笑ってしまった。いきなり弾んでしまう自分の気持ちに内心で苦笑しながら。
「なに? 里内警備?」
「いえ。任務報告を終わって、先輩のご機嫌伺いに……」
「なんで、窓から」
「ですから。先輩が戻っているのかどうか確かめようとしたら、その素晴らしく目の毒な裸体が」
「裸体、裸体って連呼しないでよ。ちゃんとパンツははいてるんだから」
「はい。パンツをはいていて下さってよかったです」
そう言って、テンゾウは姿を消した。律儀に玄関に回ったのがわかったので、オレも玄関に回る。
「はい、どうぞ」
ドアを開けるとテンゾウが「お邪魔します」と入ってきた。数年来変わらない挨拶だ。

「久しぶりだね」
「ボク、この三ヶ月、里を出ていましたから」
腕のプロテクターを外し、面を外したテンゾウの「里外任務」の言葉に、オレにはピンとくることがあったが、口にはしなかった。
もう暗部所属ではないオレの質問に、テンゾウは答えられないから。
「そっか……」
同じ里の忍なのに、急にテンゾウとの距離が離れたような気がしてしまう。
「先輩なら、おそらくお気づきだと思いますが、ソレのせいです」
そんなオレの不安を見透かしたように、テンゾウが言葉を継ぐ。
「暗部が水面下で動いていました」
規則違反すれすれの情報漏えいは、テンゾウの思いやりなのだろうか。
それはそれで、なんかムカツクと思っていると、テンゾウがふっと気配を緩ませた。
「だからボクはヘトヘトで、先輩の顔を見たかったんです」
それもテンゾウの気遣いとわかっていて、オレは嬉しい。顔を見たかったというその一言が、何もかもを、溶かしてくれる。
「うん、お疲れ」
テンゾウは、目元だけで笑った。
いつの間に、こんな笑い方を覚えたのだろう、と改めて思った。



2007年04月11日(水)
桜宵 4 –18禁−


なぜ、こう意地を張ってしまうのだろう。
いつもいいだけわがままを言って、振り回しているのに、こういうときには素直になれない。
そんな自分の心理がカカシは不思議でならない。
なぜ、最後の最後で、正直に求められないのか、乞えないのか。

たぶん……とカカシは思う。
戦いのなかにあって、これで楽になれる、と思うことは敗北に繋がる。
その性根がしみついているのだろう。
結局、ぎりぎりまで堪えたあとに訪れる開放感に浸って、我を忘れるというのに。
そんなときに自分がどんな痴態を晒し、何を口走っているのか。
もちろん記憶にはあるのだが、いつも忘れた振りをする。
まるで、変態だね。
そして、そんな自分を好きだと言う、この後輩も変態だ。

ゆさりゆさりと揺すられ、テンゾウの膝の上で身体が弾むたび、声があがる。
人の来ない、山の奥だからいいようなものの。
まるで獣の遠吠えのような嬌声を、だれかに聞かれでもしたら。

高まる射精感に苛まれ泣き喚くことしかできない、こんな自分をこの後輩は好きだと言う。
「先輩」と呼ぶテンゾウの声も切羽詰っている。
「もう、イきますか?」
ああ、ああ、と声を上げながら、頷く。
子どもが何かを強請ってでもいるように、こくこくと何度も頷く。
「でも……もう、少し」
さっきの意趣返しだろうか、テンゾウはそのままカカシの願いを叶えてくれないらしい。
いや、と思わず声に出していた。
「もう、だめ。すぐ、いく、イきたい」
ふっ、とこぼれる息は、微笑みだ。
「もう……すこし……我慢してください」
こんなときのテンゾウは、駄々っ子を宥めるような根気強さと優しさで、カカシに接してくる。
ああ、とカカシは声をあげた。
自分の声が、甘く媚を含んでいるのを感じる。

テンゾウの掌が下腹から、胸にあがってくる。
乳首を摘まれ、快感が一瞬、分散する。が、すぐにまた集まってくる。
「テンゾ……もう、だめ……」
息も絶え絶えといった風情で、腰を揺すり、強請る。
きっと後で思い出すと、死ぬほど恥ずかしいだろうが、知ったこっちゃない。
「だめ、ですか?」
なんて、嬉しそうな声。
こんなとき、こいつもやっぱり男なんだな、とカカシは思う。
「だめ……お願い」
途端、動きが激しくなり、過ぎる刺激が呼び覚ます苦痛にも似た快感に、カカシはもみくちゃにされた。
翻弄され、泣き喚きながら、カカシは思う。
こんなふうに、何もかも委ねられる相手がいることは、とても幸せ、だと。

*     *     *     *     *

「あ〜あ」
ひとときの嵐が通り過ぎた後。重く花弁を下げている濡れた花たちを見て、カカシはため息をついた。
「桜に怒られちゃうよ」
はは、とごまかすような乾いた笑いは、テンゾウのものだ。
「あとで……チャクラ流し込んでおきますから」
「それ、植物にも効くの?」
「効きますよ。植物でも鉱物でも。動物と流れる時間が異なるだけですから。ただし、相性はありますけれど」
「ふうん……」
「それにしても、飛びま……テッ」
「そういう恥ずかしいこと言わないの!」

春の宵のひととき。
束の間の幸せな時間を、桜はやさしく隠していた。



<了>



2007年04月10日(火)
桜宵 3 -18-禁



テンゾウは、ゆっくりとカカシの下肢の付け根を柔らかく揉むように、撫でた。
あ、と声を出しそうになったのをカカシが彼らしい自制心でのみこんだのがわかり、ひっそりと笑みを浮かべる。
快楽に従順な先輩は、火の点きにくいテンゾウの欲望に、上手に点火する。
いつもいつも、そうやって煽り、受け入れてくれるのは、このひとだけだ、と、テンゾウは思う。

何度も、繰り返し撫でるうちに、次第にカカシの吐息が切羽詰っていく。
その過程が楽しい。
「テンゾウ」
吐息がわずかに言葉の体を成したかのような、輪郭の曖昧な声が自分を呼ぶ。
「なんですか?」
問い返すが、答えはない。ためらっているのはわかったので、テンゾウはカカシの答を待った。
だが返ってきたのは、ため息だけ。
「先輩?」
答を促すと、カカシがわずかに身じろいだ。同時に、ぎゅぅと締め付けられて、呻き声が出そうになる。
「オレ、もう、限界……近い」
訴える声は覚束なく、そのくせ、ひどく生々しい欲望をにじませていた。
「で?」
問い返すと、首の後ろに回されたカカシの腕に力がこもった。
「た、のむ、から……」
言うや、腕と腰を軸に身体がくねる。じれたような動きの合間に、足先が空を蹴る。
次の言葉を継ぐ前に、カカシは喘いだ。
テンゾウは、雫を溢れさせながら震えている肉茎に指を絡ませた。途端、ドクンと脈打つそれが、いとおしい。
あぁ、と今度は細く声をあげたカカシの背が震えた。

「いいですか?」
耳元に問うと、カカシが頷いた。
「このまま、いく?」
「いや、だめ」とカカシが、駄々をこねる子どものように返す。
「もっと……」
その声が、テンゾウの理性のタガを外した。

いつも、そうだ。
そうやって、欲しがってみせながら、タガを外す。
それができるのも、この先輩だけなのだった。

決して、肌を重ねるから特別なわけではない。
それでも、カカシと過ごすこの刹那を、テンゾウはいとしく大切に思う。
言葉にできない、あるいは言葉にしてはならない思いを、胸の底深く沈めてきた男の切なさごと、抱きしめているような、そんな心持になる。

淡い桜花の香りも、これだけ集まればむせ返るようだ。
軽い酩酊にも似た感覚のなか、テンゾウはカカシに問う。
「もっと……の先は?」

カカシがまた、イヤイヤと首を振る。
どうしてこう、この先輩は最後の最後で、強情を張るのか。
そして自分はどうして、こうも最後の最後で、意地悪くなってしまうのか。
「言ってくださらないと……わかりませんよ」
まったく、何という言い草だろうと思いながらも、テンゾウは駄目押しのように耳元に唇を寄せた。
「せんぱい」



2007年04月09日(月)
桜宵 2-18禁-


八分がところ咲いた花に埋もれ、幹近くの枝に座る。
後ろ抱きにテンゾウの膝の上に乗せられて、下腹の底からふつふつと湧いてくる愉悦にひたり、仰ぎ見れば月。
桜の温かみのある白とは異なり、わずかに蒼く見える。
重なる白と白に、カカシは一瞬、気が遠くなりそうだった。
それとも、これはテンゾウがもたらす心地良さのせいだろうか。

「動かないでください、枝が折れたら困ります」
繋がったまま、そんな無茶を言われても、と抗議するが、後輩は
「桜の木は腐りやすいんです。折れたり傷がついたりしたところから、弱っていくんです」
と、噛んで含めるように言った。
ならばじっとしていればいいものを、テンゾウはまるでゆりかごが揺れるかのようにゆっくりと揺れながら、時折指先で身体のあちこちを探ってくる。
そのたびに、鎮まりかけた熱がかき回されて全身に散っていく。

バンザイをするように上げた腕を、テンゾウの首筋の後ろで交差させて身体を支えているために、両手の自由が利かないこの態勢を、彼が好んでいるのは知っていた。

「でも、この辺りの桜は」
わき腹からなで上げてくる手に気をとられていると、テンゾウの声が低く耳に響いた。
音が伝わるかすかな振動にまで反応して、震える身体がいっそ恨めしい。
「掛け合わせではなくて、原種に近い。樹齢も長く、木の葉の里が出来るずっと前からあったのだと思います」
「そぉ?」
ようやく返したカカシの言葉は、掠れていて、ほとんど喘ぎ声に近かった。
「だから、多少なら、大丈夫です」
同時にずんと突き上げられて、息が詰まるほどの快感が指先まで駆け巡る。
思わずあがった声に含まれた甘い色は、さすがにごまかしようがなかった。
「気持ちいいですか?」
唇を探るように動く指に噛み付き、舌を絡ませる。
「うん……気持ちいい」

快感を恥じる気持ちは、カカシにない。
快感を享受することは、そのまま生きていることを享受することに繋がっていると、教えてくれたのはだれだったか。
ずっと昔、任務をともにしたくの一だったか。戦場で戯れにじゃれ合った同性のだれかだったか。
明日をも知れぬ生だから、少しでも実感できるときに味わっておこうとでも言うように。
あるいは、花街の太夫だったかもしれない。
生きながら苦界に身を沈めた彼女らも、どこか忍と似通った諦観を抱いていた。

けれど、この後輩との交わりは、そんな刹那を確かめ合うようなものではなくなっていた。
「ボクも、気持ちいいです」
ひそやかな囁き声に、また身体が震え、下腹が熱くなる。
掌がわき腹から、脚の付け根へと下りてきて、下生えのような和毛を撫でる。
「先輩……脚、もっと開いて」
ねだるというよりは、懇願の口調で言われ、カカシは素直に脚を開いた。
不安定な態勢が、一層傾いて、思わず下肢に力が入る。
「うっ」
締め付けてしまうのに、テンゾウが呻いた。
ドクンと脈打つのを内側に感じて、カカシの吐息はまた震えた。



2007年04月08日(日)
桜宵 1


「ああ、一気に咲いたね〜」
闇夜に白く浮かぶ花を見上げて、カカシが言う。
「そうですね。たった一晩で」
「でも、まだ三分咲きってとこ?」
「あちらの、日当たりのいい場所にある桜は満開と言ってもいいと思いますが」

ギン、とふたりの間で火花が散った。

「テンゾウってば、可愛くない」
「可愛いといわれて、喜ぶ年ではなくなりました、おかげさまで」
「なに、その、おかげさまで、ってのは」
「いえ、別に、そのままの意味です」

むっとカカシがふくれる。
テンゾウはそれを横目で見ながら、ほくそえむ。

相変らず、先輩は可愛い。
拗ねると10倍可愛い。桜など、比じゃない。
拗ねたまま、でも、甘えたくて仕方のない顔をカカシがチラと見せる瞬間、これぞ至福のとき、とテンゾウは思う。

たとえその後に、どんな過酷な任務が待っていようと。

「じゃあ、引き分け。こっちは三分咲き、あっちは八分、でも、あの辺は、まだ蕾じゃない?」
「引き分けでもいいですが、ルールを作ってなかったですね」
「いらない、そんなもの」
「そういうわけにはいきません。これは厳正な賭け、ですから」

タンとカカシが地を蹴って、桜の枝に止まる。

「どこが、厳正な、よ。どうせ、オレを好きにしたいだけなんでしょ?」
「へえ、好きにされるかもという予感があったんですか。それにしては、対策もなし、とは、カカシ先輩とも思えない、失態ですね」
テンゾウの言葉に、見る見るカカシの頬が染まった。
口を開こうとして、思いとどまったらしい。でも、唇が震えている。
「そう、やたらことは言わないほうがいいですよ」
テンゾウはカカシの肩に手を伸ばした。
「でないと、いらぬ言質をとられますよ」
抱き寄せ、すばやく空いている手で顎を捕らえる。
「ね、こんなふうに」
重ねた唇の狭間から、カカシの零す吐息が聞こえた。

ひとしきり唇を味わって離れると、うっすら笑うカカシと目が合う。
ああ、そう。狙っていたわけですか。
最初から、そのつもりだった、と?

ならば。
お望みどおり、押さえつけ翻弄するか。
あるいは、焦らしに焦らして、懇願させるか。

テンゾウは、カカシを見た。
先輩、どちらがお好みですか?

微笑みながらテンゾウを見る、その背後で、カカシの微笑みよりも儚い薄花が、宵闇に揺れていた。



2007年04月07日(土)
春雨 2 *18禁* -完結-

「おなか一杯」
ごちそうさま、と両手を合わせる。
「味、どうでした?」
「おいしかったよ」
味は保障しない、なんて言っていたけれど。
テンゾウの作った塩むすびも、梅握りも、海苔の変わりにトロロ昆布を巻いたのも、おいしかった。
鰆の味噌漬けもいい焼き加減で、ほうれん草のゴマ汚しも、ゴマの香りが利いていた。
オレは、ふぅ、と満足の息をつき、改めてテンゾウの作った借りの宿りを見回す。
密集した常緑の葉が屋根の役目を果たしていて、ほとんど濡れることはない。
春先の空気はほんの少し寒いけれど、テンゾウとひっついていると寒さも感じない。
テンゾウが着ているセータの肩の辺りに頬をひっつけて、オレは雨にけぶる景色を眺める。
と言っても、見えるのはほとんどテンゾウの部屋の窓だけだ。
重箱を脇に避け、テンゾウが身を寄せてきた。
「寒くありませんか?」
オレはわざと答えずに、テンゾウのセータにスリスリと頬を摺り寄せる。
ふっと、笑う気配がして、テンゾウの指先がオレの顎をとらえた。
「誘ってるんですか?」
オレの返答など待たずに、唇が合わさる。
舌先が、唇を割って入り、オレの舌を絡め取る。
と、同時に服の上から、やんわりと股間を掴まれた。
思わずビクンと反応すると、クスッと鼻先でテンゾウが笑う。
やわやわ刺激するテンゾウの手に導かれるように、尾てい骨を中心に、もったりと熱が広がっていった。
すっと服の狭間から手が滑り込んできて、思わずオレは腰を浮かせてしまう。
「なに、がっついてるんですか」
からかうように言いながら、テンゾウは掌で直に肌に触れてきた。
両手をテンゾウの首筋に回し、オレはノドを鳴らす。
「脱いだら、寒いですよ」
「いいから」
「外で、するつもりなんですか?」
「……見えないでしょ?」
「ええ、まぁ」
「ね、早く」
テンゾウがためらえばためらうほど、オレは煽られる。
「早く? 早く、なんですか?」
それを知っているテンゾウは、こうやって意地悪く、焦らしにかかる。
オレはテンゾウの下肢に、手を伸ばした。
「ね? テンゾウだって」
固い感触を確かめて、ねだる。
「ボクだって、なんですか?」
そう言いながら、ギュッとオレのものを包み込む。
またビクンと身体がはねた。
テンゾウのセータに顔を埋めて、吐息を殺す。
ああ、泣いちゃいたい。
子どもみたいに、駄々をこねて、欲しいよ〜と泣いちゃいたい。
「ねぇ、テンゾウ」
「はい、なんですか? カカシ先輩」
口調とは裏腹に、いやらしく動く指。
「早く……」
芸もなく、ねだることしかできないオレ。

雨の匂いのするここで、もどかしさに身悶えしつつ、じゃれ合うのも楽しい。
そんな休日の午後。



2007年04月06日(金)
春雨 1


「あ〜、降ってきちゃった」
外が薄暗くなったかと思うや否や、ポツポツと大粒の雨が落ちてくる。
「どうします?」
忍たるもの、天気に心を左右されるようでは任務は務まらない。
とはいうものの、今日はオフ。何も雨のなか無理に出かけることもない。
「せっかく、テンゾウが作ってくれたのに」
カカシ先輩の視線の先には、以前、当の先輩が手土産にもってきた高級料亭の二段重ねの重箱。
それを、そのまま遊ばせておくのももったいないと握りメシやら焼き魚やらを詰めて、どこか景色のいいところで食べよう、という話になっていたのだ。
「降るかな、とは思ってたんだけどね」
「仕方ないですよ、春の天気は変わりやすいんですから」
「そうだね」
先輩は本降りになったにび色の空を見やる。
無意識なのだろうが、少し唇が尖っているのがおかしい。
「じゃ、先輩、こうしましょう」
ボクはパンと両手を合わせ、窓の外の大木に意識を向ける。
ほんとうは、こんなこと、あまりしてはいけないんだけど。
ちょっとの間だから、ごめんなさい、と心の中で木に詫びる。
「あ、うわ、わぁ〜」
ボクの部屋を訪ねてくるときによく先輩が足がかりにする大木の枝の間に、さらに枝を渡し、上にかぶさる枝の間にも枝を渡し、巣箱のような家を作った。
ボクの部屋の窓以外からは1年中濃く茂っている緑の葉が邪魔をして見えない。
「あそこで、昼飯にしましょう」
先輩は、子どものように目を輝かせている。
「すごーい」
無邪気に喜ぶ先輩は、子ども時代、おそらく遊びらしい遊びを経験していない。
ボクはどうだっただろうか?
まったく記憶はないのだが、でも埋もれた記憶のさらに奥深く、木に登って隠れ家を作り、川に潜っては光る石を見つけ、公園で友達と日が暮れるまで隠れ鬼をした……そんな経験が残っているような気がする。
そうでなければ、こんなこと……教わったこともない、こんな遊びを、思いつかないはずだ。
「多少、濡れるかもしれませんが。まあ、大丈夫でしょう」
先輩はボクを振り向いた。
「ありがとね、テンゾウ」
その笑顔が切なそうで、ボクは少し苦しくなる。
「弁当の出来は保障しませんよ」
「オレの作った野菜の肉巻きときんぴらごぼうは、絶対おいしいから」
「じゃ、ボクはそれだけ食べます」
「なに? 失敗作を先輩に押し付けるつもり?」
「だれが、失敗作と言いましたか。保障しないって言っただけです」
「おんなじことじゃない」
言い合いながら、ボクらは仮の宿りに移動する。
雨の匂いに包まれながら、先輩が重箱の蓋を開けた。
「風情があるねぇ」
「ボクは風情より食い気です」
先輩の作った野菜の肉巻きに手を伸ばす。
「あ、先に食べた」
「いいじゃないですか」
「いただきます、もしなかった」
「……いただいてます!」
「なにそれ」

雨もまた楽しい、休日の午後……。



2007年04月04日(水)
あんしゃんて 9 -完結-


「広範囲にわたって結界が張られている」
面を上げ、右目を閉じた先輩の赤い左目が見つめる先、森のなかにぽっかりと開けた場所があった。
大きな木はなく、下生えの草がところどころで伸び放題になっており、その向こうに、壊れかけた社のようなものがある。ということは、昔は何かを奉っていたのかもしれない。
「結界を解くのは簡単なんだけど。封印に術式が描かれている」
「つまり、結界を解くと同時に、その術が発動する?」
先輩は頷いて、面を下ろした。
「結界を迂回して、向こうを探ってみましょうか?」
「本陣は間違いなく、あの結界のなかにある。あの術式は、中の者を守ると同時に、外から攻撃する者に対して鏡のような役割を果たすんだ」
「鏡?」
「そ。たとえばオレが攻撃すると、それがそのまま跳ね返ってくるわけ」
「ええと……つまり、結界を解除すると当時に、鏡のバリアが張られる、という感じでしょうか?」
「うん、そう。うまい言い方するね、テンゾウ」
「最初から鏡にしないわけは?」
「外に出てる者が戻れないじゃない」
「あ、なるほど」
「内側から解除すれば、鏡にはならないんだ」

さて、と先輩は腕組みする。
「封印を先に無効化することはできないんですか?」
「結界を解くのと同時に、術式の書かれた封印を破壊しないと無理」
「破壊?」
「破くでも、燃やすでも……ただ、剥がしたんじゃダメ」
ボクだったら、もしかしたら……。
「封印は、何箇所ですか?」
「東西南北に4枚、のはず」
「だったら」
ボクの言葉に、先輩が振り向く。
「影分身はだめ。同時にやらなくちゃならないんだけど、この辺りの磁場が狂っていて電波が乱れるから無線が使えない」
「ボクの分身だったら、大丈夫です、無線なしで本体と意志の疎通が図れます。4体とも分身を使えば、同時決行も可能です」
「でも、4体も分身を出すの……チャクラ喰うよ?」
「大丈夫です、それぐらいだったら」
「でもそのあと、間違いなく戦闘に突入よ?」
「大丈夫です」
そう、大丈夫。
ボクは言い聞かせる。
チャクラの潜在量は決して少なくない。
先輩はじっとボクを見た。
「わかった。虎面と鳥面を待つよりも、そのほうが確実そうだね」

トクン、トクンと心臓がうるさい。
初めて戦場で先輩を見かけたときのようだ。
でも、この心臓の高鳴りは、あのときとは少し違う。
どこがどう違うのか、説明は難しい。
でも、違う。

「先輩、ボクはけっこう頼りになる後輩だと思いますよ」
分身を繰り出しながら言う。
「うん。頼りになるな、と思ったから、あの日、テンゾウを貰い受けに行ったんだもの」
「え?」
びっくりしたので、三体目の分身が中途半端に固まった。
「援護しにいった戦場に、おまえがいた。隊長のあいつが慎重派なのは知ってるから、おまえが敵陣の只中に飛び込んでいった格好の配置なのは、おまえの意志だとすぐわかった」
先輩は、あの荒地での任務の話を始めた。
「あいつはね〜、昔、大事な部下を亡くしてるんだ。だから、どうしても慎重になる。それがプラスに働くときもあれば、慎重になりすぎる余り機を逃して、結果、窮地に陥ることもある、そういうヤツだって知ってるから、オレはけっこう焦って援護についたんだ」
最初に見たのは、ボクに襲い掛かる水流に対峙して、水遁を発動させた先輩の姿だ。
「行ってみれば、シビレを切らした部下は飛び出してる、敵さんは攻撃してくる。あちゃ〜、どうするよ、みたいな感じだったのよ、オレ」
決して、焦っているようには見えなかったのだが、焦っていたのだろうか?
「すみません」
思わず謝りつつ、分身が中途だったのを思い出し、術を続ける。
「でもね、おまえ、落ち着いていたよね、敵の水遁に対して」
まずい、とは思ったが、対処はできると思ったのだ。
「戦場で、何が困るってパニックになるヤツなの。怪我するヤツより困る。でも、おまえはそうじゃなかった。だから、オレは安心して援護できた」
こんな緊迫した事態なのに、カカシ先輩は穏やかな声で語る。
「オレが援護さえすれば、おまえには何か策があったみたいだったから、後はなんとかしてくれるだろうって、思ったんだ。だって、オレ、現場についた直後で状況も読めてなかったしね」

あのとき、あの一瞬で、そう判断して、ボクを敵の水流から守ってくれたのか。
ボクを信じて。

「実際、おまえはあのとき、ちゃんと敵をひとりやっつけた。攻撃から防御にまわった次の瞬間、オレが敵の攻撃を防いだとわかってすぐ、また攻撃に転じた、あの判断力」
先輩の手が伸びて、ボクの肩にそっとふれた。
「惚れ惚れしたよ。あの攻守の切り替え。ベテランだって、みんながみんな、そううまいわけじゃないから」
でも、最後のひとりをしとめたのは。
「だからさ、オレもちょっと頑張ったの。後々、オレの隊に勧誘したいって下心のある身としちゃ、先輩らしいとこ、見せたいじゃない」
そう言って笑う先輩は、悪戯っ子のようだった。
「だから。今回も、お前を信じる。お前の策をオレは信じるよ」

ボクは先輩の信頼に応えたい。応えられる自分でありたい。
四体目の分身を繰り出し、ボクは頷いた。
「任せてください」

その後、先輩が結界を解くのと同時に、ボクの分身たちが術を封じ、そのまま突入した敵の頭との戦闘は、意外とあっさりカタがついた。
そして、気がつくと、木遁を繰り出すときの違和感もなくなっていた。
「え? だって分身出すときに、もう、それなかったよ」
カカシ先輩に言われて、初めてボクは気づいた。
確かに……あのときは、失敗の許されない事態に緊張して……いや、でも、それはいつも同じのはずで……。
「だから、ああ、克服したんだって、思ってたんだけど。違ったの?」
違ったの?って……すみません、違っていたんですが。
でも、そんなふうに気に掛けてくださっていたんですね。
「まあ、あのままでも、テンゾウはチャクラ量も少なくないから多少、無駄になってもそう問題はないとは思ったんだけどさ」
それから、らしくもなくもじもじと言いよどんでから先輩は続けた。
「でもさ、印を組む瞬間、ちょっとだけ嫌そうなのが、すごく気になったんだ。自覚はしていないみたいだし、もしかして、本心では嫌いなのに必要だから木遁使っていたり……とか……」
言葉に上らない、カカシ先輩の気持ちがわかるような気がした。
せっかくもらった能力だから、使わないとね、とは、よく言われた言葉だ。
自分が欲しいと思ったのならともかく、意志とは無関係に、しかも後付で与えられた能力など、捨ててしまってもいい、いやいっそ、欲しいというならあなたにあげる、と言いそうになったことが何度もある。
もっているから、使わないと。
確かにそうなのかもしれない。
だが、望んで得た能力でもなければ、身に備わっていたものでもない。
いらないと、そう言うことも出来た。言わなかったのは己の意志だが、でも、恩も義理もあった。
その辺の葛藤は、ずっとついてまわった。

「いえ。少しだけ昔の記憶に引っ張られて、違和感を覚えていただけです。嫌いなんてことはありません。貴重な初代さまの能力ですし」
そんな葛藤も、もうこれ限り。カカシ先輩が、ボクの術を気に入ってくれているみたいだから。
「なら、いいけど」
「ええ。先輩がチャクラ切れを起こして倒れても、搬送できますし」
ボクの言葉に、先輩は憮然として「おまえ、かわいくない」と言った。
ええ、可愛くなくてけっこうです。
ボクは、先輩を守れる後輩になりたいんですから。

こうやってボクは先輩と出会ったのだった。
それは同時に、ボクがボクに与えられた能力と、ほんとうの意味で和解したことを意味していた。


<了>

Enchant’e
フランス語で「はじめまして」の意味をもつ。大槻健二のオリジナルで、ジン、ライチリキュール、レモンジュースと少量の砂糖をシェイクして作られるカクテルはさっぱりした味わい。



2007年04月03日(火)
あんしゃんて 8)


二日後――早朝からボクは任務についた。

「演習の要領を思い出して。ただし、鳥面の援護はないからね」
カカシ先輩の声にボクは頷く。
鳥面は幻術を繰り出す虎面の援護につく。
虎面の幻術に合わせて、物理的な攻撃を仕掛け、幻術を幻術と気づかせない。
そうやって下忍たちを足止めする一方で、先輩とボクがトラップに誘い込まれる格好を装って、敵の本陣を攻める。

まだ、木遁を発動するときの違和感はなくならない。
でも、自覚できるようになったおかげで、チャクラのコントロールは少しよくなった。
無駄に余計なチャクラを練らずにすんでいる。

「オレの右手が上がって、下りたら、スタート」
「はい」
3つの声が重なった。
「スタンバイ、OK?」
「OKです」
「じゃ、いくよ」
すっと、先輩の右手が上がった。
「テンゾウ、よろしくね」
ボクにだけ聞こえる声で、先輩が言う。
「はい」
と答えながら、気持ちが高揚していくのを感じる。
――このひとの背を、ボクが守る。
今まで、感じたことのない高揚感だった。
これから、敵を殺しにいくというのに。
なのに、なんと幸せな気持ちなのだろう。
――忍になって良かった。
ボクは、この瞬間、初めてそう思った。

今まで、忍になることは、ボクにとって2つある選択肢のひとつでしかなかった。
忍としての訓練は受けたものの、下忍として登録される前に、一度だけ確認された。
忍になるか、否か。

他の下忍候補とは異なり、ボクは自由意志に基づいて忍としての訓練を受けたわけではなかった。
いわゆるリハビリの一貫として、それがボクに向いていたと言ったほうが正しい。
だから、選択肢を与えられた。
もし忍にならないなら、記憶を消され市井のひとりとして生涯を終える。
埋め込まれた初代さまの遺伝子に拒絶反応を起こさなかったことで、監視はつく。
ただ、その監視は木の葉の里を離れない限りは、ボクの行動を制限するものではなく、ただ「見る」だけだ。
もし、ボクが結婚して子どもでもできれば、おそらくひそかにその子の遺伝子は調べられる。
でも、それは本人も親のボクも知らない間になされることだ。
その情報のもたらす結果をボクが知ることは決してない。

けれど、忍となれば。
それらのすべては、ボクに対して公開される。
同時に、今後初代さまの遺伝子が、ボクに対してなんらかの作用をもたらした場合、その結果によっては、ボクは否応なく里にデータを提供する立場におかれる。

10代前半の子どもに決断できることではない。でも、その選択を里はボクに求めた。
確かに、木の葉において、忍の成人は“中忍昇格時、もしくは、15歳のどちらか早い時期”と規定されている。
15歳というのは、身体も心も成長途上にある。だからこそ、なのだ。
そして、それがギリギリ、毒や薬物などへの耐性をつけることが可能な年齢だから。
身体がある程度出来上がってからでは、遅いのだ。
たいていは親が望んで、あるいは、受け入れて、子が忍になる。
だから、それは本人の意思でもあるが、必然的に親(もしくは保護者)の同意が背後にはある。

いささかイレギュラーな方法ではあったが、ボクが下忍となったのは14歳だった。
そしてボクの保護者は、三代目火影。
三代目は「お主にとっては酷な選択と言えよう」と言った。
ボクは迷わず、忍として生きることを選んだ。そんなボクに三代目は重ねて告げたのだ。
「忍ではない一般人が成人する20歳のとき、再度、お主の意志を問いたいと思う」
ボクは三代目の申し出に驚いた。
「もし、そのときお主が忍ではなく、一般人として生きたいと願うのであれば、それを叶えよう」
ただし、その場合、ボクの記憶は封印される。
「よいな」
ボクに否やはなかった。

下忍として戦場で功績をあげながら、ボクはいつも考えていた。
20歳になるまで、ボクは生きているのだろうか、と。
だが予想外のことに、初代さまの遺伝子に対する拒絶反応という関門にぶち当たった。
それをかいくぐって、今、ボクは20歳まであと2年という位置にいる。
20歳になっても、ボクは忍でいることを選ぶだろうと思っていた。
それが、ボクに出来るボクなりの恩の返し方だと。

でも、この日、初めて。
ボクは、恩や義理とはまったく無関係に、己の意志に基づいて、忍でいたいと思った。
だって、このひとの背を守りたいじゃないか。
きっと、ボクにしか守れない。
新米の思いあがりと言われてもいい、ボクは直感に近い感情でそう思った。
後に、それを恋と呼ぶのだと知るのだが、このときのボクにはあずかり知らぬことだった。

先輩の右腕が、すっと降りる。
音もなく跳躍する先輩に続いて、ボクも跳躍した。
背後で、虎面が幻術の印を結び、鳥面が援護する気配が伝わってくる。
でも、ボクは先輩の背を見つめながら、仕掛けられたトラップを意図的に起動させる。
クナイや千本が飛ぶすさぶなか、先輩は走る。
ボクもトラップと連動する攻撃を、なんとか止めようとはしている。
けれど、すべてに間に合うというわけではない。
それを、先輩は避けているようには見えないのに、正確に避けている。
なぜ、こんなことが可能なのか。ボクにはわからない。
ボクには、先輩はただ走っているようにしか見えない。

すごい、と改めて思った。
このひとは、ほんとうに戦うために生まれてきたような……。
そう思ってから、そんなはずはないと、否定した。
このひとが息をするのと同じように気配を消し、瞬きするのと同じように敵を屠るのは、子どものころから忍として生き、そのなかで否応なく身に付けた技術力ゆえだ。
その身に襲い掛かる千本を苦もなく払いのけるのも、生への希求からではなく、ただ優秀な忍の反射能力が、そうしているだけだ。
ぶる、と身が震えた。

この戦闘のただなか、先輩は何を思い、何を感じているのだろうか?
それとも、何かを思い感じることを封じているのだろうか?

三段構えの大掛かりなトラップを起動させたとき、まるで豪雨のように降ってくる千本を食い止めようとあがいているうちに、あるまじきことに先輩を見失った。
――まずい。
先輩は、ボクが背後につけていると信じて、ただ前を見て進んでいるはずだ。
そのボクがいないとなったら。

緊張のため体温が下がり、意識もひんやりと冷えていく。
同時に、キン、と神経が研ぎ澄まされる
――大丈夫、落ち着け。落ち着いて、先輩の気配を追え。
自分に言い聞かせながら、気配を探る。
……距離的にはそう離れていないが、かなり高い位置に、先輩を確認した。
先輩はそこに、留まっていた。

ボクを待っているのか。
あるいは、その辺りに別の罠があるのか。

ボクも上方に向かって跳躍した。
とりあえず、先輩が止まったということは、合流したほうがいい。そう判断したのだった。



2007年04月02日(月)
あんしゃんて 7


だが、いくら待っても、嘔吐も全身の激痛もやってはこなかった。
もちろん、出血もしない。

ボクはもう一度、慎重に術を発動する。
一瞬――やはり、一瞬だけ違和を覚える。
そのときチャクラが乱れ、無駄に消滅する。

すばやく印を組むと、違和は自覚しない程度で済んでいる。
が、もうボクには感じることができた。
やはり、チャクラが乱れる、一瞬だけだが。そして消滅する量は、感じた違和に比べてずっと多い。
つまり、ボクは常にこの消滅する分を見越して、多めにチャクラを練っていたのだ。
慣れない場所だったり、何らかの理由で精神状態が不安定になると、消滅する量はもっと増える。

これか……。

先輩は、わかっていたのだろう。
だから、この訓練をボクに課した。
言葉で説明するのではなく、自分で感じろ、という意味で。

ボクは4日目の夕方、病院への道をたどっていた。
何度やっても、どう心を鎮めても、違和感は消えない。
先輩に会って、確かめたかった。
しかし、カカシ先輩は今朝退院した、と病院の受付で告げられた。
先輩が退院したということは、遠からず、任務の命も下るということだ。
こんな中途半端なまま、任務について大丈夫なのだろうか。
いままでこれでやってきたのだから、大丈夫だとは思うが、やはり不安はあった。

でも、先輩がこの結果を見越していたのだとしたら、こういうボクのこともきっと織り込み済みなのだろう。
そう考えてから、ボクは首を傾げた。いや、意外となにも考えてないかもしれない。
割と、こういうことは本人次第、という醒めた部分を持ち合わせているひとだ。
気づいていないようだから、気づくための手伝いはするけれど、あとは自分でなんとかしなさいよ、と。
一人前の忍なんでしょ?
先輩の声が聞こえてきそうで、ボクは頭を抱えた。
「どうしたらいいんですか、ボク」

「あ、おまえ」
「よう、何してんだ?」
顔を上げると、連れ立っているヒガタとイナダがいた。
「カカシさん、退院したって?」
「ああ、ええ。退院しました」
「じゃさ、下っ端同士でお祝いに飲みに行こう」
よくわからない理屈で、ボクはふたりに連行されるような格好で、居酒屋ののれんをくぐった。
ついた席で、まず名前を聞かれた。差し支えなければ、と。
「え? カカシ先輩、ボクの名前教えてなかったんですか?」
「言わないよ。本人の許可なしには。オレたちの名前は、伝えといて、って頼んだから」
ああ、そういうことか、とボクは納得した。
「それより、いいよタメ口で」
「たぶん、タメぐらいだから」
ボクは苦笑しながら、名を告げる。
そのとき、ビールとお通しの独活のキンピラが卓に置かれ、ボクらは乾杯した。
「テンゾウか……なんか、渋いのな」
これも、本名ではない。研究所から助けられたときに、便宜上、与えられた名前だ。
もっとも、気に入ってはいる。カカシ先輩が、「かっこいいよね」と言ったから。
「よその小国に、昔、いたんだって、そういう名前の忍が。その国では小説に登場したりするんだって」
「テンゾウが、ですか?」と聞いたボクに先輩は、首をかしげて考えていた。
「ハンゾウとか、サイゾウとか……そんな名前だったかな? それにちなんだんじゃない? あのころ、三代目、ちょうどその小国の歴史を調べたりしていたから」
意外とあのひと、ミーハーなところあるからね、と笑ったカカシ先輩を思い出す。

そういえば、と、うるいのマヨネーズ和えに箸を伸ばしながら、ヒガタが口を開いた。
「一時、噂になっていたの、テンゾウのことだったのかな?」
「ああ、アレ。そうか、おまえのことか?」
意味がわからず、問い返すと、ヒガタが、「えっと」と言いよどむ。それをイナダが
「隊長の怒り買って隊から放り出されたのを、カカシさんが拾ったって」
とストレートに答えてくれた。バカ、おまえ直接的すぎ、とたしなめるヒガタも、気にせずそのまま告げてくれるイナダも、いいやつだとボクは思った。
「おそらく、ボクのことだ。そうか、噂になっていたんだ」
「そりゃそうだよ。拾ったのが、あのカカシさんだもの」
そこでボクは、カカシ先輩と出会った任務のことを、簡単に説明した。
もちろん詳細は、いくら暗部仲間といえどしゃべるわけにはいかないが、カカシさんが水遁でボクを助け、そのあと、敵を仕留めたのぐらいは話しても差し支えない。
「え? おまえ、じゃあ、雷切見たの?」
フキやかぼちゃの天ぷらの盛り合わせも、次々と目の前から消えていく。
呆然と見つめていて、一瞬反応が遅れた。

「雷切? そう言うんだ」
「本来は、千鳥って術名なんだけどね。雷を切ったって噂があって」
千鳥も雷切も、噂だけは知っていた。
「あれが、そうだったのか……」
「どうだった?」
興味津々に聞いてくるイナダに、ボクは見たままを答えた。
地を走る稲妻のようだった、あの鮮烈な光景は目に焼きついている。
「あれをさ、12,3ぐらいのときに自力で身に付けたんだって」
「凄いよなぁ」
その後、カカシ先輩のことを根掘り葉掘り聞かれるかと思っていたのだが、そんなことはなかった。
「へい、お待ち」の声で、大皿に山盛りの串焼きがドンと置かれるのと同時に、話題はあっさり変わった。
目下、イナダが片想いしている相手の話になり、それから、ヒガタがよく秋道の一族と間違えられる話で笑った。

「ところで、さっき、なにうずくまってたの?」
揚げ出し豆腐をつつくヒガタに聞かれて、ボクはあっさりと事情を話してしまった。
ヒガタの食べっぷりに毒気を抜かれたのもあるが、このふたりに対して、カカシ先輩とはもちろん違うが、でも、似たような心安さを感じたからだったのだろう。
術名などは出さなかったが、ただ、自分が術を発動するとき、ちょっとした違和感を覚えるということを。
「う〜ん、なんだろう? 今までそういうことはなくて、急にってことじゃないんだよね?」
「今までは、感じていなかっただけで、チャクラは乱れていたんだと思う」
「あれかな?」
とヒガタが、残った串焼きにかぶりつきながら言った。
「前に、体調悪いときに、レバ刺し食ったんだよ。まずいかな、って思ったんだけどね。そしたら案の定、気持ち悪くなって。それ以来、しばらくレバ刺し見ただけで、吐き気がした」
「体調悪いときにレバ刺し食うなよ、ナマモノ、厳禁だろうが、ってか、全然、違うだろそれ?」
「いや、だから、体調悪くなくても、前にそういうことがあると身体が覚えているというか、気持ちが覚えているのかな? とにかく、体調は悪くないのに、反射的に気持ち悪くなっちゃうんだよ」
「だから、全然、違うって。だって食い物の話じゃないだろうが」
「え? だって、なんかそれに近い感じじゃない? 話聞いてると」
「どこがだよ」
「だから、違和感、っていうのが」
言い合うふたりの会話を聞いて、ボクは思わず「ああ、似てる」と言っていた。
「だろ? たぶん、前にその術使ったときに、なんかあったんだよ」

何かあったから、ではない。
ボクは本能的に、自分のなかの他人の遺伝子に拒絶反応を起こしていたのだ。
免疫的な意味での拒絶反応はおさまっていたが、ボクは覚えていた。
あの拒絶反応がもたらした死の恐怖、痛み、苦しみ、それらを忘れてはいなかった。
だから、術を発動するとき、少しだけ気持ちが拒絶する。

「それ、どうやって直した?」
鶏の竜田揚げを口に運びながら、ヒガタが「何を?」と聞く。
「吐き気。それとも、まだレバ刺し食べられない?」
「いや、もう食べられる。直したというか、そのうち、体が忘れたのかな」
そう言って、しばらくヒガタは黙った。でも、口はもぐもぐと動き、竜田揚げに添えられていた芋に箸が伸びる。
これだけ健啖家なのだ。きっとそのレバ刺し事件は彼にとって、忘れがたい大事件だったのだろう。
一緒にされるのは、ちょっとアレだが……。
「ああ、そうか。うん、もともとレバ刺しは好きなんだよ。で、しばらく食べられなくて、でもある日、猛然と食べたくなったんだね。また吐くかな、と思ったんだけど、それならそれでもいいやって思って食べたら、大丈夫だった」
なんだよ、おまえそれ、とイナダが卓を叩いて笑う。
「笑うけど、おまえ、ハナマスちゃんに会うたびに吐き気するって考えてもみろよ、笑えないから」
ハマナスちゃんというのが、イナダの思いびとだ。
「ハマナスちゃんと、レバ刺しを一緒にするな〜〜〜〜」
「うるさい、オレにとってのレバ刺しは、おまえにとってのハマナスちゃんなんだ〜〜〜〜」
ボクは、ちょっとだけイナダに同情した。



2007年04月01日(日)
あんしゃんて 6


先輩が閉じていた目を開く。
うちは一族だけがもつはずの焔のような紅の目がボクを見る。
「オレのこれも、他人からのもらいものなんだ。こんな身体の一部、たった一器官でも後付けだったりすると、けっこう大変でね」
先輩の目に関しても、あれこれと噂が飛び交っているのはボクも聞いていた。
「遺伝子なんて身体の設計図みたいなものでしょ? それが後から付け加えられたら、どんなだろう、って思うよ」
遺伝子が適合したとは言っても、それは死ななかっただけのことだと思っていた。
多少はその影響で忍としての才が開花したのだとしても、まさか血継限界まで受け継げるわけではない。
ボクもそう思ったし、医療班もそう結論を下した。
しかし、そうではなかった。
下忍として任務につくようになって1年と半年が過ぎたころ、ボクは発作を起こした。
全身の激痛、嘔吐、時に、臓器や皮膚からの出血。
それはあの研究所で死を迎えた者たちの症状だった。
ボクは死ぬのか、と改めて思った。
死ぬ前に、少しでも役に立ててよかったとも思った。
少しはひとの記憶に残る。そうすれば、あの研究所で死んだ数多くのひとたちのことも、覚えていてもらえる。

ボクの治療のために、放浪中の綱手さまを、その借財を立て替えてまで呼び戻すと三代目が決断したとき、ボクは放っておいてくださいと頼んだ。
そんなことをして、ボクの生が伸びる保証などないし、伸びたとしてもこの先、忍として役に立つかどうかもわからない。ようやく復興し始めた里の財政を無駄にすることはない、と。
後に聞いた話では、実際、上層部の意見も二分していたそうだ。
「三代目もね、あの大蛇丸に関することだから私情入りまくりだったとは思うよ」
まるで当時のボクを知っているかのような口調で、先輩が言う。
「もし、初代さまの能力を受け継ぐ者がいたら、後々、木の葉にとって多大な恩恵となる、そういう計算も確かにあっただろうね。実際、それで上層部も説得されたんだから」
ボクは頷いた。里の長としては、そうでなくてはならない。
「それに、賭けたい、って気持ちもあったと思う」
「賭け?」
「うん。賭け。最悪の過去を、一発逆転する」
先輩の炎が瞼の奥に隠され、もう片方の目が遠くを見た。
「やっぱり大蛇丸も、三代目にとっては弟子なんだよ。その弟子のしでかした最悪を、もしかしたらテンゾウはひっくり返してくれるかもしれない存在でしょ?」
黙っているボクを先輩はチラと見て、また遠くを見る。先輩が見ているのは、きっと過去の記憶だ、とボクは思った。
「大蛇丸は、才能だけは溢れるほどもっていた。彼のやったことは、方法は間違っていたけれど、研究そのものは決して無為なものじゃなくて、実際、彼の残したデータが木の葉の医療に貢献した部分も、たくさんあるんだ」
そして、先輩はボクを見た。
「でもね、そんなこと全部ひっくるめたうえで、オレは思ってるんだ」
先輩の目の光が強くなる。
「たぶん……これは想像でしかないから、たぶん、なんだけどね。たとえテンゾウが初代さまの能力を受け継いでいなくても、そんなことどうでもよかったんじゃないかな、って思うことがある」
むしろ……と小さな声で先輩は言った。
「ただ、テンゾウに生きていてほしい、死なないでほしい、っていうのが、三代目の本音だったんじゃないか、って」

ただ、生きていてほしい?

そう問い返したかったが、声にならなかった。
そんなことを言われたのは初めてで、なぜかわからないが、ボクはひどく動揺していた。

「テンゾウはさ、自分が忍として優れていることに存在価値を見出してるんじゃないかな、って」
言ってから、先輩はボクの様子を探るように、すばやく視線を走らせる。
それが、まるで親の顔色を窺う子どものようで、ボクはつい、笑ってしまった。
笑ったことで、気持ちがほぐれたらしい。先輩の言葉は、まっすぐにボクに届いた。
「確かに……そういうところはあります」
「忍はみんな、多かれ少なかれ、そういう面をもっているけれど。でもね、それだけじゃないんだ。生まれてきた、そして生きている、そのことがまず、大事なんだよ。忍としてどうか、っていうのは、その次」
言ってから、先輩は目を伏せた。
「なんてね、えらそうなこと言ってるけど、コレ全部、先生からの受け売り」
「そうなんですか?」
「そう。オレが先生から言われたこと、そのまんま」
顔を上げて、先輩はいつもの先輩の顔でヘラと笑う。
「こんなだから、コピー忍者って言われるんだね、オレ」

なんだか。
なんだか、むちゃくちゃ……。
苦しいような、熱いような……なんだか。

「え、ちょっと、泣かないでよ」
先輩の手がボクの頬に伸びた。
「はい?」
答えたボクの口に、塩辛い水が入りこむ。
「あ、ボク?」
「ボク? じゃないよ、もう……」
先輩の少し冷たい指先が、頬を撫でた。
「ああ、でも、そうかな。うん、そうだね」
「先輩、意味不明です」
言い返しながら、でもボクにはわかった。
きっと先輩も、ボクと同じような気持ちになったのだ。
そして、何度も何度も、反芻したのだ――生まれてきた、そして生きている、そのことが大事、と。
きっとボクがこの先、何度もそうやって反芻するだろうように。
そうして先輩は生きてきたのだ。

「オレがこんなだから、当分、ウチの隊は待機。で、テンゾウに宿題」
「宿題、ですか?」
なんだか懐かしい言葉を聞いた。
「そう。宿題。チャクラを練って、それを感じるだけの訓練」
え? とボクは先輩を見た。そんな基本の基本、という疑問は顔に出ていたのだろう。
「チャクラ練れるよね、当然」
ええ、と頷く。
「それを、術に還元するんじゃなくて、感じるの。体感するの。わかる?」
普段、無意識にやっていることを意識してやってみろと、そういうことだろうか。
「それがわかったら、印を組む。早くなくてもいいから。ちゃんとチャクラが術に還元されていくのを、自分で掴んでごらん?」
騙されたと思ってさ、ね? そう言って、先輩は笑った。
無意識に行っている行動のひとつひとつに意識を向けるのは、訓練の初歩ではある。
意図はわからないが、意味はあるのだろうと思い、ボクは頷いた。

その日から、ボクはひとり、アカデミー生のようにチャクラを練る訓練を始めた。
忍になりたてのころならともかく、普段、チャクラそのものに意識を向けることはあまりない。
術を発動するときのコントロールも、もう無意識に行っている。
意識を向けるとしたら、戦闘時にチャクラの残量を確認するときぐらいだ。
それでも、以前、カカシ先輩が言っていた「まっすぐでしなやか」だという自分のチャクラを感じようとしてみた。

そして、確かにそうかもしれない、と思う
カカシ先輩のそれには、エネルギーの渦そのままのような強さがある。それでいて、凪いだ海のように静かだ。
ああいうチャクラをもっているから、写輪眼を使いこなせているのかもしれないと、ボクは思った。

2日目には、自分のチャクラの状態がはっきりと感じられるようになった。
そこでボクは印を組んだ。
土遁、水遁……。
必要以上に練られたチャクラは、使われないまま消滅する。
正確に必要な量だけを見極めることも、もう無意識のうちに行っている。
ただ、慣れない土地だと、どの程度のチャクラが必要なのかが、まだ読みきれない。
そこで発動した術がパワー不足になったりする。
その辺は場数を踏むしかない。

3日目に、初めて木遁を使ってみた。
異なる性質の術を、練り込むように合わせていく。
木の葉の里は、水脈も豊かだから問題なく発動する。

ボクは、先輩のことばを思い出し、ゆっくりと術を繰り出すことにした。
土遁……水遁……で、合わせる――。
「あっ」
ぐらりと、わずかに視界が揺れた。
術は発動したが、直前に感じた、言いようのない違和。
一瞬にして、冷たい汗が流れた。
全身の細胞が湧き立つような、けれど決して心地いいのではない、むしろ悪寒に近い感覚、あれは、拒絶反応の発作を起こしたときのものだ。

「どうして? もう拒絶反応はなくなったと」
だからこそ、ボクは忍として復帰し、暗部に配属となったのだ。

再発?

ぶるり、と身体が震えた。

ダメだ、それだけはだめだ。
これから、ボクはあのひとと一緒に、任務をこなすのだ。
たくさんの任務をこなし、一緒に生きていくのだ。
なのに、再発だなんて。

どんなに、生きているだけでいいと言ってもらえても、ボクが自分で思う。
自分で選んだ。
カカシ先輩と一緒に任務をしたいのだ、と。
あのひとの背を守れるようになりたいのだ、と。

なのに、なぜ?