カゼノトオリミチ
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雨は小休止 グレイの雲の隙間から
古い記憶のひだが 湿った風にほどかれて
息を吸うこの瞬間に
懐かしいどこの時代にも
身軽になって移り行けそうで もういちど
深く息を吸い込むと 梅雨空に小さく飛ぶ 黒い粒が
アァ アァ アァ
先程までの しとしと雨に濡れたのか カラス
鈍く光る羽 木炭のよう
信号機の上から王様のようにあたり見回し
国道をまっすぐ吹く風にまた 高く舞い上がり
再び泣き出しそうな この夕方を
ナナメにゆっくり切って行った
時は戻らない
覚えてる記憶も 懐かしい雨のニオイも
みんなやりなおせない と
嫌われ者の黒いカラスが鳴く アァ アァ アァ
だけど今日 その姿は力強く
いっそ 私も黒く染めて欲しくて
グレイの雲の間
飛び去るカラスを追いかけた
ドアをノックをすれば
部屋の中に 静かにでもすばやく
硬く緊張した空気が走る
その電流を流したのは この手 このノックの音
足が凍る
わかっている 立ち去るわけには行かない
引き戸に手をかける
カラカラと乾いた音 乾いてゆく舌
部屋の中は
微笑むヒト よそを見ているヒト
そこには 柔らかな時の流れ
断ち切られたことなど一度でもなかったと言いたげに
私もそこで 宇宙服を着ています
みな息を潜めている
なのに
部屋の窓から見える若葉は眩しく
きらめく風に揺れたりして
ビル越しの光が 窓際のヒトの髪を茶色に染めてたり
誰かが淹れるふくよかなコーヒーの香り
時は眠たげに 帰社時間に向けて針を動かし
ティータイムのおしゃべりは 目の端だけで笑い
居心地の悪さとかは 誰もが宇宙服のせいにする
目が覚めたら
部屋の中まで夕暮れ色で
泣きたくなった
眠りの国から帰り道
何か失くして来たようで
羽衣ふうわり
寝ている間に身体中から
剥がれ落ちてしまったようで
窓の外は アカネ空
庭の隅っこのアジサイの小さな暗がりから
生まれて吹く風が キンコンと
5時の教会の鐘の音を運び
ほてった頬をなでてゆく
さあて戻ろう
私は天女なんかじゃない
髪ひっつめて はやいとこ
おかいもの いこいこ
natu
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