歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年10月31日(金) 直筆手紙にこだわりたい

先週末のことでした。僕が何気なく台所へ行くとお袋が何やら書き物をしていました。何か下書きをした物をみながら、書き直している様子でした。一体何を書いているんだろう?と思いながらも、他の用事のことで頭が一杯だった僕はお袋に聞かず仕舞いでした。

後日、僕はお袋と話をしていたのですが、ふと先週末のことを思い出し、お袋に尋ねてみました。お袋曰く

「あれはね、手紙を書いていたのよ。先週末、○○ちゃん(僕の上のチビのことです)の学校で全生徒がクラスごとに総合発表会という催しものをしていたでしょ。あなたは仕事が忙しかったから行けなかったけど、私は見に行ってきたのよ。最初はたかが子供の催しものだと高をくくっていたんだけど、実際に見てみるとね、感動したよ。○○ちゃんが出演していた催し物だけでなく、6年生のクラスで合奏を披露していたけど、これがね凄かった。発表を前に相当練習したと思うけど、実際に見てみたら感動して思わず目頭が熱くなっちゃった。その感動を胸にしまっておくのはもったいないと思って、校長先生宛に手紙を書いていたのよ。純粋に感動したこと、練習に頑張った生徒や指導をした先生たちに有難うと言いたいという内容のことを文にしたためていたわけ。」

お袋の気持ち、非常に理解できます。僕もお袋の血を受け継いでいるわけでもないでしょうが、何か感動したり、感謝の気持ちを現したい時、世話になった人にお礼の気持ちを伝えたい時には直筆で手紙を書く主義です。
ここ数年は、この手のことは“歯医者さんの一服”日記のネタとして書いたものをネット上に公開していますが、コンピューター上に書くことと、直筆で書くこととは意味合いが違います。直筆で書くことはより自分の思いを熱く込められるように思えてなりません。

言霊という言葉があります。言霊とは辞書を紐解けば“ことばの不思議な働き”という意味ですが、手紙を直筆でかくことは、自分の思いが文字だけでなく、何か言葉の不思議な力によって相手に伝わるのではないかと思うのです。
僕自身、今まで何度か直筆の手紙を受け取ったことがありますが、どの手紙も書いた人の気持ちが直に伝わり、読んでいて感極まったことも少なくありません。直筆の手紙の力を思い知らされたものです。
それ故、僕も何か自分の思いを特定の人に伝えたい場合には、必ず直筆で手紙を書くようにしています。デジタルな時代に逆行するかもしれませんが、僕は直筆というアナログにはこれからもこだわり続けたいと考えています。



2008年10月30日(木) 原稿依頼

歯医者を長年やっていると、僕が歯医者であることがいろんな所で知れ渡ります。患者さんやご近所のみならず、地元の医療関係者、学校関係、嫁さんのママ友つながり、お袋や親父の付き合い先、弟の病院関連等々、思わぬ所で僕が歯医者をやっていることが知れ渡り、僕自身、驚くことが度々です。そのせいでしょうか、時々、僕のもとに歯や口に関する問い合わせや依頼が来るようになりました。歯医者として光栄なことではありますが、同時に責任の重さを感じます。

先日も、僕のところへ嫁さんを通じ、ある依頼がありました。それは、某団体からの原稿依頼です。某団体では定期的に会員向けに会報を発行しているのだとか。定期的に健康に関する特集を組んでいるそうで、これまで様々な医療関係の特集を取り上げてきたとのこと。来る11月8日は“いい歯の日”ということで、11月には是非歯や口の健康について取り上げたい。そのために原稿を書いて欲しいという依頼でした。

僕としては、この依頼を拒む理由は何もありません。いつまでも明るく、健康な生活を過ごすためには、毎日の食事が欠かせません。食事を取る際、必ず通る場所が口であり、歯です。食べ物をきちんと噛み、咀嚼し、胃腸で消化しやすいようにすることが健康につながります。一人でも多くの方に歯や口の健康の大切さを理解し、日々の歯や口の管理をすることが全身の健康につながる。歯医者として絶えず訴えていきたいことです。

僕は個人的に“歯医者さんの一服”日記でこのことを訴えてきましたが、インターネットのみならず、様々な媒体で訴えていく必要性は認識しているつもりです。
幸い、今回依頼を受けた某団体はいかがわしい団体ではなく、長年の地道な活動が評価され、多くの人に信頼されている地元の団体です。そのような団体から指名を受けて、原稿を書くというのは非常に有難いことです。

如何に歯や口の健康についてわかりやすく、理解しやすいように書くか?難しいです。先日も書いたことですが、医療業界人はついつい業界用語を駆使して話したり、書いたりする癖があります。自分では充分に情報を伝えているつもりでも、一般の方にとってはちんぷんかんぷんということが起こりがちです。平易な言葉を用い、一般の方と同じ目線、視点で原稿を書くようにする。試行錯誤しながら何とか書いていきたいと考えている、歯医者そうさんです。



2008年10月29日(水) おやつは食べない主義

今まで何度か書いてきたことですが、僕にはいくつかのこだわりがあります。今日はそのこだわりの一つを書こうと思います。それはおやつを食べないこと。

僕は余程のことが無い限り、一日三度の食事は食べることにしています。三度の食事が一回でも抜けると、体に力が入らず、思考力も低下するように思えてなりません。そのため、朝食、昼食、夕食はしっかりと食べるようにします。
この三度の食事の間ですが、僕は何も食べないようにしています。何も胃の中に入れないというわけではありません。仕事の合間には水分を補給するように心がけていますが、何かお菓子やパンといった間食は絶対にしません。三度の食事の合間に胃の中に何か食べ物を入れると、胃の中がもたれるような気がしてならないのです。そうすると、肝心の仕事にも支障が出てくるように思えてなりません。

これは休みの日でも同様です。嫁さんや子供たちは午後3時にはおやつを食べていることが多いのですが、僕は絶対におやつは口にしません。何か飲み物を飲んだりはしますが、食べ物は口にしません。
夕食を取ってからも水分以外は口にしません。家で夜食を取ったことはほとんどないくらいです。理由は間食を取らない理由と同様、寝る前に胃の中に食べ物が入っていると落ち着かない、もたれるような感覚になり、翌朝の食欲に悪影響が出るからです。

ところで、僕が甘い物が嫌いかというとそうではありません。甘いものは食べますが、食べるのはいつも三度の食事の終わりです。食後のデザートという感じで甘いもの、菓子類や果物を口にするのです。
これを実践するようになってからあることに気がつきました。それは、体重が増えないことです。かつて、僕は間食をしていたことがありましたが、いつの間にか体重計の数字が増え、お腹周りが大きくなってきたことがあったのです。これはいかん!と思い、間食を避けるようにしました。
ただ、甘い物を食べないということはできませんでした。僕は生まれながらの甘党です。そこで、三度の食事が終わった後に食べるようにしてみると、意外と体重が増えないことに気がつきました。どうもだらだらと食べていると体重が増え、一日三度のペースで食事を取っている限り、体重が増えないようなのです。

ということで、僕はおやつは全く食べない主義です。これが良いかどうかはわかりませんが、少なくともこれまで体調が大きく崩れることはなく、仕事に支障が出るようなこともないようです。おやつを食べないことは僕の生活リズムに適しているように思います。



2008年10月28日(火) 謎の入れ歯名人!?について

関東方面の方はあまりご存じない方も多いとは思いますが、関西方面では知らない人はいないというくらいの人気長寿番組があります。探偵ナイトスクープという番組で、既に20年以上続いている人気番組です。
この番組は視聴者から寄せられたユニークな依頼に基づき、番組が芸人の探偵を派遣し、視聴者とともに謎や疑問を解明していくというコンセプトの番組で、試行錯誤を重ねながら笑いあり、涙ありの番組です。

それはともかく、先週の番組のある依頼には笑ってしまいました。その依頼とは、入れ歯に関する依頼だったのです。

依頼者の職場は公民館で、管理人のおじいちゃんのことで調べて欲しいとのこと。おじいちゃんは春ごろまで、前歯が1本無かったが、歯医者に行った形跡がないのに、ある日突然立派な歯が入っていた。本人に聞くと、自分で作って入れたらしい。どうやって作ったか、詳しく話してくれないが、そのうち入れ歯は2本になってしまった。本当に自分で作っているのか、職員全員が気になって仕方がないので調べて欲しい。できれば、実際に作る様子を見学したいというものでした。

実際に番組をみていると、管理人のおじいちゃんは上顎が総入れ歯で、総入れ歯の人工歯が2本脱落していたのです。この人工歯を歯ブラシの白い柄を切り取り、自らグラインダーを駆使して加工し、それを入れ歯に瞬間接着剤で接着していたということが放送されていました。

実際に映像を見てみると、素人としてはかなり念入りに人工歯を加工していたように思います。特に、取り扱いが難しいグラインダーを器用に使い、歯ブラシの柄の一部から歯の形に削っていく様子はなかなかのものでした。出来上がった歯の色は他の歯の色とはことなりかなり白い色調ではありましたが、歯のなかった入れ歯に取り付ければ、一般の人からみれば急に歯が生えてきたように見えるかもしれません。

ただ、歯医者として注文をつけさせてもらえれば、実際の入れ歯に使用する人工歯とは全然違います。まず、形態そのものが非常に雑でした。もっと湾曲して欲しい所、隣の歯とバランスを取らないといけない場所、かみ合わせとの関係などを見ていると、入れ歯の人工歯としては不十分としかいいようがありません。色も妙に白く他の人工歯と比べ浮き上がっているのは如何なものかと思います。
また、作った歯を入れ歯本体に瞬間接着剤でくっつけていますが、この接着力も長続きしません。
歯医者も入れ歯の修理に瞬間接着剤を使用することはあります。しかしながら、これはあくまでも一時的なもので、きちんとした修理は専用材料で行わないともちません。人工歯も同様です。専用の材料できちんと歯を入れ歯にくっつけないと直ぐに取れてしまう可能性が高いものです。
やはり餅は餅屋。専門的な知識、技術、経験を持った専門家でないと入れ歯にふさわしい人工歯は作れません。

番組では、管理人のおじいちゃんの器用さを称えていましたが、僕自身、危険なグラインダーを用いて人工歯を入れ歯にくっつける暇があれば、歯医者に行って入れ歯に合った人工歯をつけてもらった方がはるかに質の良い入れ歯になるのではないかと感じた次第。



2008年10月27日(月) 不愉快なガム噛み

昨日のことでした。僕は専門書を買うために某大手書籍店を訪れるため、近くの駅から電車に乗りこみました。日曜日とはいえ、昼過ぎの電車の中は比較的空いており、僕はある座席に腰掛けることができました。持っていたバッグの中から文庫本を取り出し、読みながら目的の終点駅まで行こうとしていたのです。

途中、某駅に電車が停車した際、僕の隣にある男性の方が乗ってこられ、僕の隣に座りました。この男性、かなりの恰幅のある方でした。今風に言えば、典型的なメタボ体型だったのです。それだけなら僕はさほど気にならなかったのですが、この男性、席に座るなり股を広げて座られました。足の一部が僕の方に接触してきたのです。
“一体何をするんだ!”と思いましたが、あまり事を荒立てることをよしとしない歯医者そうさん。じっと我慢をしながら、手にしていた文庫本を読むことに専念するつもりでした。

ところがです。事はそれだけでは収まりませんでした。この男性、持っていたバッグの中から何やら取り出したのです。それはボトル入りのガムでした。ボトルの蓋を開け、数粒のガムを手に取るや否や直ぐに口の中に放り込んだのです。
“豪快にガムを口の中に入れるよな”と思っていると、この男性、当然のことながらガムを噛みだしたのです。単にガムを噛むだけならよかったのですが、

「ピチャ、ピチャ、ピチャ・・・・」
と大きな音を立てながら噛まれるのです。これには僕ばかりでなく、僕の周囲に座っていた乗客の人も思わず鋭い視線をこの男性に投げかけました。それはそうでしょう。この手の音を立てながらのガム噛みというのはエチケットに反します。特に、電車の中という公衆の面前では周囲の人に非常に不快を与える行為です。僕自身、幼少の頃には親に躾けられたものです。

「ガムを噛む時、“ピチャ、ピチャ”と音を立てながら食べるのは行儀良くないし、みっともないから止めなさい。」

ところが、この男性、周囲の目を気にするどころか全く意に介せず、噛み続けます。数分程度経った頃でしょうか、おそらくガムの中の甘味が無くなった頃です。この男性は再び、ボトルの中から数粒のガムを取り出し、口の中に入れ、

「ピチャ、ピチャ、ピチャ・・・・」
と大きな音を立てながら噛む始末。

このメタボの体型の方、顎の方も二重顎でした。このような方の場合、睡眠時にはいびきが凄い場合が多く、鼻で呼吸することが困難な口呼吸である場合が多いのです。そのため、ガムを噛みながら鼻で呼吸をすることができず、口を開けて呼吸をする。そのため、どうしてもガムを噛むと“ピチャ、ピチャ、ピチャ・・・・”と音を立てざるをえないのだろうかと、自問自答しましたが、それにしても、側で“ピチャ、ピチャ、ピチャ・・・・”と絶えず聞かされるのは精神衛生上、よくありません。非常に不快でした。

結局、終点駅につくまでほぼ20分間、僕はこの男性の“ピチャ、ピチャ、ピチャ・・・・”音に付き合わざるをえませんでした。終点に着くや否や、僕は急いでこの男性から離れました。
“ピチャ、ピチャ、ピチャ・・・・”音からホッとした次第。

皆さん、ガムを噛む時はきちんと口を閉じて音を立てないように噛みたいものです。もし、それができないような体質の場合、公衆の面前でガムを噛むのは控えましょう。



2008年10月24日(金) 専門用語を言い換えるより大切なこと

先日、僕の恩師の一人と電話で話す機会がありました。最近の近況を話し合っていたのですが、その恩師が僕にこんなことを尋ねてきました。

「インフォームド コンセントのコンセントって電気のコンセントのこと?」

恩師は僕も尊敬するくらい幅広い知識、教養を持っている方で、医学知識もかなりお持ちの方です。歯科に関することもよくご存知で、僕の患者でもあるのですが、僕と話をする時は、「右上の4番が痛くてねえ・・・」
なんて言われるくらいの方なのです。
(右上4番とは右上の第一小臼歯のことを指します)。
そのような方がコンセントの意味をご存知無かったとは僕は意外でした。

インフォームドコンセントとは英語のinformed consentのことで、治療を行う前に患者さんの病状や検査結果、今後の治療方針やその予後といった医療情報を事前に患者さんに伝え、治療を行う同意を得ることを差します。コンセントとは同意という意味なのです。参考までに、電気のコンセントのことは英語ではelectrical outletというようです。

歯医者さんの一服日記では歯科で用いる専門用語はなるべく使用せず、一般の方にもわかりやすい言葉で書くように心がけています。
例えば、義歯のことは入れ歯、齲蝕はむし歯、クラウンのことは被せ歯、歯髄のことは神経といった具合です。一般の方にも浸透してきたと思われる専門用語も言い換えたりしています。例えば、ブラッシングは歯磨き、歯周病は歯槽膿漏、メインテナンスは定期検診といった具合です。

それぞれの業界には業界用語や専門用語で満ち溢れているものですが、これらが身内意識を高める効果があるのは否定できません。医療業界でもそうで、業界内でしか使われない用語というのが数多く存在します。これはこれで役立っているものですが、医療は患者さんがあって初めて成り立つもの。多くの患者さんは医療に関する正確な情報を持ち合わせていないのが現状です。そうした人に対し、わかりやすく、専門用語を言い変える作業というのは医療業界人にとって必要不可欠なことだと思うのですが、ついつい専門用語で言ってしまうことがあるものです。僕もそんな失敗をやらかしたことがあります。

ただ、専門用語を言った後、患者さんの反応を見てみるとどこかよそよそしい、おかしな雰囲気があるものです。これを感じ取るか感じ取らないかが大切ではないかと僕は思います。患者さんが醸し出す微妙な空気の変化を汲み取り、説明を繰り返したり、わかり難いことを聞き出したりする。そんな意識、努力を医療業界人は常に持つ必要があると思います。

確かに専門用語よりも一般にわかりやすい言葉で話すことは大切だと思いますが、医療で大切なのは患者さんとのコミュニケーションです。たとえ患者さんにわかりやすい言葉で言っても、言葉の裏に誠意がなければ何も言わなかったのと一緒ではないか?そのようなことを強く感じる、歯医者そうさんでした。



2008年10月23日(木) 小学生パン咽喉詰め窒息死に思う

既に皆さんもご存知のことと思いますが、千葉県で小学校6年生の生徒が給食中、パンを咽喉に詰まらせ、死亡するという痛ましい事件がありました。

以下、朝日新聞からの引用です。

千葉県船橋市立峰台小学校(末永啓二校長)で、6年生の男児が給食のパンをのどに詰まらせ死亡していたことが21日わかった。窒息死とみられる。
 同校によると、男児は17日午後0時45分ごろ、給食に出た直径10センチ余りの丸いパンを一口ちぎって食べ、残りを二つに割ってほおばり、のどに詰まらせた。気づいた担任が注意し、男児は友だちに促されてスープを飲み、廊下の手洗い場ではいた。いったん教室に戻り担任らが背中をさすったり、たたいたりしたが苦しいと訴え、再び廊下に出て横になった。男児の意識が薄らぎ、救急車で病院に運ばれたが同日夕に亡くなった。
 末永校長は「軟らかいパンでこんな結果になるとは予想できず、驚いている。友だちとも仲良くする優しい子で残念だ」と話している。
 同校は20日朝臨時の全校集会を開き、児童に事故を伝えたが、泣いている児童もいたという。「児童のショックが大きい」として校内にスクールカウンセラーを待機させている。


大切なお子さんを亡くした親御さんの気持ちは如何ばかりのことでしょう?朝まで元気だった子供が昼食を食べて亡くなるなんて想像もしていなかったと思います。本当にお気の毒であるとしかいいようがありません。

以前にも書いたことですが、食べ物の咽喉詰め事故で多いのがパンなのです。ゼリーや餅などが咽喉詰め事故で多いという印象が強いですが、実際多いのがパンを食べる際の咽喉詰め事故なのです。

パンというと誰もが気軽に食べることができる食べ物ですし、朝食を中心に毎日食べられている人も多いことでしょう。何回も充分に噛んで食べる分に関しては問題なく飲み込むことができます。ところが、問題なのは噛まずに飲み込むような場合です。

よく高齢の方がパンを食べる際、水分や汁気をパンにつけて食べることがあります。こうすると、何度も噛まずに飲み込むことができると思いがちですが、これは非常に危険な行為なのです。充分に噛みこまず水分を含んだパンを飲み込もうとすると、咽喉に詰まるのです。これは水分によって表面張力が高まり、飲み込もうと咽喉を通る際、咽喉の粘膜にくっついてしまうからだと推測されます。
また、高齢者の場合、体力的な衰えから飲み込む反射、専門的には嚥下反射といいますが、この嚥下反射が鈍くなっている側面があります。嚥下反射の衰えと水分を含んだ大きな塊のパン。これは咽喉の窒息を起こして下さいといわんばかりの状況なのです。

食事の際、食べ物による窒息事故を防ぐためには、充分に噛むこと、咀嚼することが大切です。口の中で歯で何度も食べ物を噛み、細かく砕いてから飲み込むことです。子供や歯が少なくなった高齢者の場合、あらかじめ食べ物を小さくしてから食べる配慮が必要でしょう。

今回の事故ですが、別のマスコミ報道では、友達同士競い合うかのように早食い競争でパンを塊で飲み込もうとしていた時に起こった事故だという報道もありました。実際のところは不明ですが、どうして、このような死に至る可能性のある食べ方をしていたのか?このようなことが起こる前に何とか止めさせる手立てはなかったのかと思わざるをえません。
教育現場では、事前にパンを含めた全ての食べ物に関し、飲み込むような行為を慎むよう指導を徹底し、生徒たちに浸透させなければ、今回のような事故を繰り返すかもしれません。

今、小学校では食育といって食べ物に関する教育が見直されていますが、食べ物だけでなく、美味しく食べる食べ方も教える時期に来ているのではないか?そのような思いを強くした、歯医者そうさんでした。



2008年10月22日(水) 大変失礼な通りすがり

昨夜は診療が終わってから地元歯科医師会の会合へ出かけました。日頃の診療だけではなく、地元歯科医師会の仕事をしている関係上、会合があるのは夜遅くになるのは仕方がないことですが、それにしても一日の診療で疲れた体を何とかごまかし、再度気合を入れなおして会合にでかけるのは結構つらいです。ここ1〜2週間、地元歯科医師会関係の会合が立て続けにありましたから、余計にそう感じるのかもしれません。

まあ、個人的な愚痴はこれくらいとしまして、昨夜の会合の合間、地元歯科医師会の某先生から聞いた話は、思わず開いた口が開かない話でした。

「実はね、先日うちの歯科医院にある高齢の患者さんが来院したんだよ。初診の患者さんだったんだけど、最初から妙に落ち着きがないんだよね。患者さんに落ち着きがない場合って、体調が優れない場合も否定できないから慎重に診ながら問診を取っていたんだよ。そうしたら、僕の質問を遮るように問いかけてきたんだ。」

「『最近、新しい歯科医院が開業したからって聞いたものでこちらへ来たのですけど、どう見てもここは建物が新しくないし、器械も最新式のものじゃないですな。』って。“こいつ一体何を言い出すんだ!”と思ったんだけど、何とかこらえて、言ったんだね。『うちは開業して20年以上経過していますからね。数年前に改装はしたんですけど、残念ながら最新というわけではありませんね。』」

「そうしたら、その患者何と言ってきたと思う?『先生は○○先生じゃないんですか?』って。明らかに私の名前ではなかったので、否定したら、その患者さんはこんなこと言ったんだよ。『私、間違えていましたわ。本当に行きたかったのは○○歯科医院だったんですけどね。地図を見てここだと思い込んでやってきたのですけど。何か診療所に入ってから雰囲気が古くさいし、スタッフの人も年配。おまけに先生も若くないので変だなあと思っていたんですよ。』」
「大変失礼な奴ですね。いくら間違えたからと言っても礼儀があるはずなのに。」
「まあね、世の中にはいろんな患者がいるからね。まあ、他の歯科医院と勘違いしてやってくる患者もいるだろうと思い、何とか我慢しながら聞いていたんだけどね。ただ、さすがにその患者が次に言った言葉には堪忍袋の尾が切れたよ。」
「一体どんなことを言ったのですか?」
「その患者が言うには、『ここにいても埒があきませんので、失礼しますわ。ところで、先生、○○歯科医院ってどこにあるか知りませんか?』ってね。うちの歯科医院を勘違いしたくらいだったら笑って済ませられるけど、さんざんうちの歯科医院のことを酷く言った上に、○○歯科医院の場所を訊いてくるとはね。さすがの私もつい感情的になってしまった。『そんな歯医者知りません!』」
「その患者の反応はどうでしたか?」
「捨て台詞を残して出て行ったよ。『役にたたない先生やな』って。私も20年以上歯医者をしているけど、これほど大胆で失礼な患者に遭遇したのは初めてだったよ。患者というよりは失礼な通りすがりみたいだけどね。何だかテレビで放送しているコントみたいだけど、本当の話なんだよ。事実は小説より奇なりって言うけど、まさしくそのとおりのことが起こったよ。ああ、今思い出しても腹立たしい・・・。」



2008年10月21日(火) 冥土の土産を作りましょう!

「月末までに何とか入れ歯を作ることはできないでしょうか?」

このようなことを言われた来院された患者さんはSさん。正確にはSさんに付き添っていた娘さんが言われたのですが、これには理由がありました。

高齢のSさんはもともと九州の某所に住んでいたのですが、事情があって当地近くのSさんの娘さんの家に滞在していました。Sさんの娘さんはずっとお母さんの面倒をみるつもりでいたのだとか。ところが、Sさんは日に日に田舎のことが懐かしくなり、残り短い人生を田舎で過ごしたいと思うようになったのだとか。田舎では基本的には一人暮らしになるのだそうですが、近所には懇意にしている仲間が何人もいて、何か思わぬことが生じても直ぐに駆けつけてくれるような間柄なのだそうで、生活には困らないのだそうです。
当初、Sさんの娘さんはSさんが田舎に帰られることには難色を示していたそうですが、自分の親が田舎を思う気持ちを尊重し、最終的にはSさんに同意されたのだそうです。

そこで、田舎に帰るまでに口元だけはしっかりとして欲しいというSさんの娘さんの要望で、Sさんをうちの歯科医院に連れてきたというわけです。これが先月末のことでした。

実際に口の中を診てみると、残っている歯は少数でした。Sさん本人に確認してみると、
「今まで生きてきて一度も入れ歯を使ったことがない。」

残っている歯が少ないのに入れ歯を使用したことがない。一体どうやって食べ物を食べてきたのだろう?と思ったのですが、どうも軟らかいものを中心に飲み込むように食べてきたようです。
一度田舎に帰ってしまうと、なかなか歯医者に通うのは難しい。しかも、人生初めての入れ歯ということで、僕はSさんの満足のいく入れ歯をつくることができるかどうか自信がありませんでしたが、Sさんの娘さん曰く

「冥土の土産に入れ歯を作って下さいな!」

Sさんも僕も思わず笑ってしまいました。
「冥土の土産を作りましょう!」ということで入れ歯作りを作ることにしたのです。

月末に田舎に戻るということで、かなりの突貫工事的な忙しさで入れ歯を作りました。果たして入れ歯の出来はどんなものか?不安と心配で一杯でしたが、幸いなことに入れ歯の出来上がりはSさんの満足のいくものでした。

「何だか、10歳くらい若返りましたなあ。調子いいですよぅ。」
間髪を入れず、Sさんの娘さんが突っ込みます。

「冥土の土産には充分過ぎる入れ歯ですなあ、ハッハッハ・・・。」

まあまあ、冥土の土産と言わず、まだまだ当地の土産物として日常生活に使って欲しい。そのようなことを強く感じた、歯医者そうさんでした。



2008年10月20日(月) 差し歯、入れ歯はメイド・イン・ジャパン

昨日、インターネットのニュースを見ていると気になるニュースがありました。

朝日新聞10月18日付け 
歯の治療で使われる「補てつ物」に、中国や東南アジアからの輸入品が増えている。補てつ物の使用には規制がなく、外国製の輸入状況も不明で、歯科医らの間では材料の安全性や品質に対する不安の声が広がっている。厚生労働省は6千人を超える全国の歯科医に近くアンケートし、使用実態を調べる。
補てつ物は、金属やセラミックが原料の、歯にかぶせる冠や入れ歯。歯科医や歯科技工士が製作してきた。だが、全国保険医団体連合会によると、近年は外国製が目立って増えてきた。 外国製は国内製の半値ほどで、歯科医が個人的に輸入したり、歯科技工所が中国などの技工所に製作を委託したりするようになったという。
こうした実情を把握するため、厚労省は近くアンケートを始めることになった。日本歯科医師会の約6万5千人の会員から、約1割の歯科医を無作為に抽出し、アンケートを配布。年末までの回収を目指す。 調査項目は(1)海外に補てつ物を委託した数(2)委託した内容(3)委託して不都合はあったか――など。専門家6人を加えて、アンケート結果を検討する。
歯科医が補てつ物を輸入し使用することは治療の一環とされ、法的な規制はない。また、「世界的に問題が生じたという報告はない」(厚労省歯科保健課)という。 それでも、多くの歯科医が「健康被害が出てからでは遅い」と、外国製の補てつ物調査を求めてきた。
厚労省が調査に取り組むのは、現場の不安の声に押されたためだ。それでも補てつ物の中身の分析に踏み込まない調査のため、どこまで実態が解明できるか不透明だ。 歯科医でもある同連合会の成田博之理事は「中国製だから問題というのではなく、今のままでは安全性を確保できないことが問題だ。製作者の資格、材料や施設の基準、輸入時の安全検査が必要だ」と話している。


歯医者が差し歯、被せ歯、入れ歯を自ら作っていた時代もありましたが、今では完全に分業態勢になっています。すなわち、歯医者が患者さんの歯型を取り、模型を作ると、その模型を基に歯科技工士が差し歯、被せ歯、入れ歯を作るようになっています。
うちの歯科医院でもその例に漏れず、僕が歯型を取り、模型を作ったものを懇意にしている歯科技工士に製作を委託し、作ってもらっています。

海外へ被せ歯、差し歯、入れ歯といった補綴物の製作を委託するにはそれなりの事情があります。ほとんどの歯科医院では保険診療をしているはずですが、そこで認められた診療報酬は実態とは掛け離れた報酬となっています。実際にかかる費用に対して診療報酬が低く抑えられているのです。本来ならこの低く抑えられている診療報酬をもっと上げてほしいのですが、医療費を含めた社会保障費が抑制されている国の政策では困難なのが実情。そこで残された道は如何に補綴物を安くあげるかということになってきます。

しわ寄せは歯科医院の仕事を引き受ける歯科技工士にくるのです。少しでも安く、経費をかけずに作って欲しいという要望が歯科技工士に対して迫ります。下請け的な立場上、どうしても歯科技工士は安く作らざるをえなくなるのですが、歯科技工士も生活があります。コストを下げる努力はしていますが、それも限界に達し、結果として歯科技工士を廃業する人が増えてきたのです。そのため、歯科技工士を目指そうとする若い世代も少なく、歯科業界では歯科技工士不足の深刻化が進んでいるのです。

経費を少しでも安く上げたい、歯科技工士不足といった事情などからどうしても注目されるのが補綴物の海外委託です。実際のところ、大手の歯科技工所と呼ばれるところでは、海外に補綴物を委託し、製作させ、コストを下げているとのこと。そのことを察知した、厚生労働省は安全性の面を調査するということから実態調査をするようになったようです。

僕は今回のニュースを見て非常に複雑な気持ちになりました。青息吐息の経営状況の歯科医院が多い中、多くの歯科医院がコストを節減するために少しでも経費が掛からずに補綴物の製作依頼をすることは理解できます。

その一方、補綴物は誰のためにあるか?ということを考えると、補綴物の海外委託を僕は考え直すべきではないかと思うのです。本来なら、補綴物は患者さんの身近で治療をする歯科医師が作るべきものです。ところが、一日何人もの患者さんの治療をしながら補綴物作ることは時間的にも肉体的にも精神的にもできません。そのため、歯科医師に代わり補綴物を作るのが歯科技工士です。歯科技工士は単に補綴物を作るだけでなく、患者さんとともにあるべき存在です。

本来なら、各歯科医院で歯科技工士がいることが理想で、そのような態勢を取っている歯科医院もあります。ところが、経費的な面でどうしても自分の歯科医院で歯科技工士を雇うことができない歯科医院も数多くあります。我が歯科医院もそんな弱小歯科医院の一つです。そこで、歯科医院外にある歯科技工所に委託して、補綴物を作ってもらっています。

ただし、僕は歯科医院外の歯科技工所に委託しても必ず心がけていることがあります。それは、自分が持っている患者さんの情報をなるべく、できるだけそのまま担当の歯科技工士に伝えることです。補綴物を作る際、歯型をもとにつくった模型だけでなく、技工指示書と呼ばれる紙に詳細を書いて依頼しますが、実際に補綴物を作ってもらう歯科技工士にも顔を合わせて直接説明します。場合によっては、直接患者さんを見てもらい、意見交換をしながらより良い補綴物を作ってもらうようにします。
そうした意思伝達を重ねることがより良い補綴物を作ることになりますし、患者さんの利益にもなるはずです。実際にかかる補綴物製作料は決して安いものではありませんが、これは必要経費ではないかと僕は思います。

海外に補綴物の製作を委託すれば、言葉の問題がありますし、細かな歯科医師の要望が充分に伝わる可能性は低くなることでしょう。果たしてこれが患者さんのためになることでしょうか?

僕は補綴物はメイド・イン・ジャパンにこだわりたいと思います。日本で暮らす人の口の中を守るのは日本の歯科医師であることは明白なことですが、歯科医師の代わりとなって補綴物を作る歯科技工士も日本の歯科技工士でなければならないのではないかと考えます。厚生労働省では安全面から補綴物の海外委託を調べるといっていますが、日本の医療は日本で守るのが筋です。日本で暮らす人の口の中にセットする大切な補綴物も日本国内で作ること。これも筋ではないかと考えます。



2008年10月17日(金) 双子兄弟入れ替わりの顛末

僕の出身大学の同級生に双子がいます。双子というだけあって外見上はほとんど違いがありません。実際の性格は兄の方が活動的で、弟の方が内向的ではありますが、それも実際に付き合わないとわかりません。僕は最初のうちはどちらか兄で、どちらが弟か区別がつきませんでしたが、顔や表情の微妙な差と性格の違いから双子を見分けることができるようになりました。おそらく、初対面の人や普段付き合いの無い人であれば、どちらが兄でどちらが弟が区別がつかないでしょう。

この双子の兄弟、大学時代には周囲からけしかけられてある悪戯をしたことがありました。僕の出身大学では、教養の講義カリキュラムの際、講義が選択制のものがありました。中学、高校のように全ての科目を受講するというのではなく、いくつかの科目から自分が興味ある科目を何科目か選択し、受講するカリキュラムだったのです。
双子の兄弟のうち、兄の方がAという科目を、弟の方がBという科目を取っていたのですが、周囲の友達の提案、というよりもけしかけられたと言った方が正しいかもしれませんが、ある時を境に兄と弟が入れ替わったのです。すなわち、弟がA科目を、兄がB科目を受けるようになったのです。それぞれの科目の講師は、双子が入れ替わったことは全く気がつかなかったのだとか。これは面白い!ということで、それ以降、双子はそれぞれが本来受けるべき講義とは違う講義を受け続けたのです。結局、講義カリキュラム終了までそれぞれの講師は双子が入れ替わっていたことに気がつかずいました。

ところが、その後問題がおきました。それは講義終了後の試験でした。兄と弟、どちらがどの科目の試験を受けるかということで一悶着起こりました。本来なら兄がAを弟がBを受けるはずだったのですが、実際はほとんどの講義で入れ替わっていたために、兄弟同士の話し合いで兄がBを弟がAの試験を受けることになったのです。そこまではよかったのですが、問題は試験終了後起こりました。兄はB科目を合格したのですが、弟はA科目を不合格だったのです。

双子とはいっても兄弟の性格の違いが現れているとは思うのですが、兄貴の方はきちんと講義を受け、ノートも真面目に取っていたのですが、弟の方は講義中、まともに聴かず、時には転寝を繰り返していたのです。結果は、兄が合格、弟は不合格。
実際の試験結果が張り出されました。その結果は、A科目には兄の名前の欄には不合格の文字が、B科目の弟の名前の欄には合格の文字が躍っていたのです。

どうして俺が不合格なんだ!

兄が怒ったのは無理もありません。実際に自分は真面目に講義を受けて合格しているのに、入れ替わっていた弟の不始末のために不合格にだったわけですから。

後で聞いた話では、双子の兄弟はかなり激しくケンカをしてしまったそうです。結局、兄の方がまさり、弟がA科目を再受験したことで一件落着したのだとか。

兄弟同士の入れ替わりも時には災いを生むもの。そのことを身を持って知った双子の兄弟の話でした。冗談も行き過ぎはだめだということですね。



2008年10月16日(木) 拝啓 主治医様

患者さんを診る際、最初に必ず行うことは患者さんの問診です。患者さんの主訴を聞き、実際に口の中や顔面、頭部、場合によっては全身の状態を探っていくわけですが、過去においてどんな病気や怪我になったかという既往歴や現在何らかの病気に罹っているか、どこか他の病院、診療所に通院しているかどうかも確認します。特に、ある程度以上の年齢の方は高血圧症、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病に罹っている場合が多く、通院治療しているケースがあるからです。

基本的には患者さんから話を聞きますが、中には患者さん自身の記憶があやふやであったり、誤解していたり、実際の症状と患者さんの認識が異なるケースもあります。患者さんを信頼しないわけではありませんが、歯医者として知っておきたいことは正確な医学情報です。患者さんから正確な医学情報が得られないような場合、僕は患者さんの了承を得てから、通院している主治医の先生がいる病院、診療所へ手紙を書きます。現在の患者さんの病状、病歴、検査データ、出している薬の内容等の医療情報を教えてもらうのです。

手紙のやり取りには多少時間がかかりますし、患者さんの症状次第では、主治医の先生からの情報を得る前に治療をしてしまうこともあります。しかしながら、主治医の先生から頂いた返事には正確な医療情報が添えられています。これは歯科治療を行う上で大変有用な情報となるのです。

患者さんの主治医に手紙を送る際、僕は必ず診療所の名前と主治医の先生の名前を書いて手紙を出します。ところが、場合によっては主治医の先生の名前がわからない場合があります。
また、患者さんを他の病院へ紹介するような場合、患者さんが指定された病院へ行く場合であれば問題ないのですが、時としてどこの病院へ行くか不確定な場合があります。このような場合、宛名には病院や診療所の名前をかかずに

主治医先生 御侍史

とか

担当医先生 御机下

といったような宛名を書きます。

僕はこの宛名の書き方は今もって好きになれません。そもそも、手紙というのは特定の相手に対して出すもの。宛名も特定の人の名前を書くのが当然ではあるのですが、先に書いた事情のように紹介先が決められないような場合、やむを得ず

主治医先生 御侍史

担当医先生 御机下

と書いてしまいます。非常に心苦しく感じますし、何だか無責任なことをしてしまい申し訳なく感じるのですが、何も書かないよりはいいと割り切って書いています。
できれば、このような書き方はしたくないのですけども。



2008年10月15日(水) 口臭予防に意味が無いガム

歯科医院に来院する患者さんの中には口臭が気になると言って来院される患者さんが少なくありません。また、歯科医院へ行っていないものの、自分の口の臭さを他人から指摘され、気になっている人はかなりいるはずです。

口臭の原因はいくつかあるのですが、大半が口の中に何らかのトラブルを抱えているケースです。むし歯であったり歯周病が進行しているような場合、口臭が生じることが多いのです。ということは、口臭を解決するためにはむし歯や歯周病の治療を行わないといけないことは自明の理です。

ところで、口臭を気にしている人の中にはガムを噛み続けることで口臭を消そうとされている方がいます。うちの歯科医院に来院する患者さんの中にも、来院する直前までガムを噛んでいたなあと思われる患者さんがいます。
ガムを噛むこと自体、僕はそれほど悪いことであるとは思いません。最近のガム、特に、むし歯になりにくいとされているキシリトールなどの代替甘味料を用いているものは、むし歯の予防効果があるとされています。また、ガムを噛むことである程度唾液も出てきます。常に噛み続けるという行為はマナー上はよくないとは思いますが、人に迷惑をかけない程度にキシリトールなどのむし歯になりにくい代替甘味料を用いたガムを噛むことは悪いことではないでしょう。

ところがです。ガムを噛んでも歯周病の進行を抑えることはできません。また、一度歯に穴が開いてしまったようなむし歯を治すことはできません。歯周病の場合は、適切な歯磨きを歯科医院で指導してもらい、定期的にチェックを受け、時には歯石を除去したり、手術を受けた方が良い場合もあるのです。むし歯の場合は、きちんとむし歯で侵された歯質を取り除き、詰め物や被せ歯を被せなければなりません。むし歯が進行して神経にまで達しているような場合には、神経の処置も必要でしょう。
上記のような処置を歯科医院で行うことにより、初めて口臭を絶つことができるのです。

ところが、周囲から“口が臭い”と言われ何も歯の処置をせずガムだけを噛んでいても根本的な解決には至りません。一時的にガムのにおいが口臭に勝り口臭を取り除いたように思えるかもしれません。これは例えるなら、生ゴミに何らかの強烈な香りがする香水をかけるようなものです。一時的に香水の香りが生ゴミの臭さに勝り、臭いがしないように思えるかもしれませんが、時間とともに生ゴミの臭いがきつくなる。これと同じことが口臭を抱える方のガム噛みにも言えるのです。ガムを噛むことは対症療法にはなりえても、根本的な治療にはなりえません。
口臭をきちんと治すには、必ず口の専門家である歯医者の下を尋ね、何が原因であるかを調べてもらうこと。そして、原因を見つければその原因に対する治療を受けることです。

僕も口臭で悩んでいた時期がありますからわかるのですが、口臭を周囲から指摘されると何だか人格を否定されたように感じることがあるものです。一人で悩まず、お近くのかかりつけ歯科医院を受診し、口臭の治療を受けることが大切なのです。



2008年10月14日(火) あまりにも滑稽な目標

最近、読んだ資料の中に思わず、“それはないだろう!”と突っ込みたくなるようなことがありました。その資料とは、健康日本21の79の目標です。

健康日本21とは21世紀における国民健康づくり運動の一環として厚生労働省がイニシアチブを取っている運動のことです。
世界でも有数の長寿国となったわが国ですが、実際のところは、長寿とは言っても寝たきりになってしまったり、認知症が進み、自分の身の回りのことを自分ですることができない、介護を必要とする高齢者が多く存在します。何でも、国全体での介護保険給付料は、6兆円余りが必要なのだそうです。また、高齢者の医療費も増加し続けています。これら高齢者の社会保障費の伸びを少しでも抑えるためには、若い時代からの健康づくりが欠かせません。そこで、厚生労働省では2000年に今後10年間の健康づくりのための目標を定めたのが健康日本21なのです。

栄養・食生活、身体活動・運動、休養・こころの健康づくり、がん、糖尿病、循環器病、たばこ、アルコール歯の健康という9つの領域に79の目標を設定しているのです。地方公共団体等は、国の定めたこれら目標を参考に、それぞれ実情に応じて目標を定め、一人でも多くの人が健康を長期間維持できるように心がけることが求められているのです。

この健康日本21の目標ですが、見てみると、中にはとんでもない滑稽な目標があることに気がつきます。
例えば、栄養・食生活の領域での目標の一つに朝食を欠食する人の減少という項目があります。この中で、中学、高校生の欠食率の目標を2010年までに0%するというのです。現状は、2000年当初は6.0%、2005年では6.2%とわずかながら上昇しています。

僕はこの目標は実現不可能な目標設定ではなかったのかと思います。朝食を欠食することは栄養学的に絶対に良くないことはわかっています。ところが、中学、高校生といった思春期の子供たちは様々な理由で朝食を取らないことが多いもの。わずか10年の間で朝食の欠食率を0%にするということは、彼ら彼女らの実態を考えると非常に無謀な目標ではないかと言わざるをえません。

同様の目標が別の箇所にあります。たばこの領域での未成年の喫煙をなくすという目標です。中学、高校の男女の喫煙率の目標が0%なのです。現状はといいますと、中学1年生男子で喫煙率は3.2%、高校3年生男子では喫煙率は21.7%です。一方、中学1年生女子では喫煙率2.4%、高校3年生女子では喫煙率は9.7%。これを2010年にはゼロにするというのです。

賢明な読者の方ならイメージがわくと思いますが、思春期の時代には大人に突っ張るというのか、憧れというべきなのか、たばこを吸ってしまう人が後を絶ちません。健康を考えるならば良くないでしょうし、決して許されることではありませんが、思春期の彼ら、彼女らがたばこを吸ってしまうというのは仕方がないところもあるもの。中学生、高校生の喫煙率が高いのには驚きますが、それ以上に2010年に喫煙率の目標をゼロに設定している目標にも開いた口が塞がりません。本当に思春期の学生の生活を考え、実現可能な目標設定をしているのか、疑問を感じざるをえないのです。何だか理想を掲げているだけで、実際に思春期の学生たちのことを思いやって目標を設定しているのでしょうか?

全く同じことがアルコールにも言えます。2010年における中学3年、高校3年の飲酒率の目標がゼロなのです。現状は中学1年生男子では16.7%、高校3年生男子では38.4%です。中学3年生女子では14.7%、高校3年生女子では32.0%。たばこ以上に実現不可能なことは目に見えています。

それ以外にも実現不可能な目標がいくつもあります。実際に健康日本21の目標を設定した担当者は一体何を基準に、何を目的としてこれら79の目標を設定したのでしょう。担当者の思い込み、理想だけが一人歩きし、現実に即した目標が設定されていないように思えてなりません。

健康長寿を目指すことは非常に大切なことで、誰でも死ぬまで健康でありたいと願うものです。そのためには若い頃からの健康に対する意識、健康な長寿に結びつく生活習慣が欠かせません。ところが、健康長寿を国の政策として推し進め、誰よりも専門家であるはずの厚生労働省そのものが現実からは掛け離れた目標を立て、政策をしようとしている現実。
この滑稽な健康日本21の目標は、大いに批判されるべきことではないかと考えます



2008年10月10日(金) ノーベル化学賞のおこぼれ

昨日、ノーベル化学賞の発表があり、前日のノーベル物理学賞に続き、日本人の下村脩さんが受賞されました。(南部さんは国籍が既に米国籍になっていますが、一応、出身が明らかに日本なのでここでは日本人ということにさせてもらいます。)
今回のように日本人が同時に4人受賞するようなことはノーベル賞が制定されて以来、初めてのことだと思いますが、ノーベル賞に4人の日本人が同時に受賞されることに、純粋に日本人としてうれしく、誇りに思います。

さて、今回のノーベル化学賞ですが、僕にとって非常に印象深いものとなりそうです。それは、僕が歯医者をする前に某大学大学院研究室に在籍していた時に行っていた仕事の一部が今回のノーベル化学賞の受賞理由になっていたからです。
今回のノーベル化学賞の受賞者は3人います。受賞者一覧はこちら。中でも、受賞者の一人であるロジャー・Y.ツェンが考案した実験装置は、まさに僕が研究室で用いていた装置のオリジナルになっていたものだったからです。
今回のノーベル化学賞では、目に見えない分子にクラゲ由来の蛍光物質を結合させ、可視化することでカルシウムイオンの動きを捉えられるようになったことを評価しています。下村さんは、このクラゲ由来物質であるGFPの発見者として、ロジャー・Y.ツェンはこの物質を用いて様々な目に見えない分子を測定する技術の確立者として評価されたのです。

僕が研究室に在籍していたのは今から10数年前の話ですが、ツェンの仕事は既に研究仲間の間ではノーベル賞級の仕事だという評価が一般的でした。それくらい画期的な仕事だったわけですが、ノーベル賞が今頃になってから与えられるというのは、正直言ってかなり時間がかかったなあというのが正直なところです。
しかも、この仕事はどちらかというと化学の仕事というよりも、医学生理学分野の仕事に近い仕事です。下村さんは、今回の受賞のインタビューの中でノーベル医学生理学賞の受賞ではなく、化学賞での受賞が以外だったことを述べておられましたが、僕も同感です。
ただ、ノーベル賞の選定委員会は時間をかけ、物理学、化学、医学生理学での実績を綿密に検討することで有名です。今回の選考も慎重に慎重を重ねた結果のことでしょう。

それはともかく、今回のノーベル化学賞について、僕は密かにうれしく感じます。僕の仕事の評価ではありませんが、ノーベル賞の価値のある仕事に少しでも関係していた仕事をしていたことに、僕は密かな喜びを感じます。ノーベル賞の仕事のおこぼれに預かったわけですね。研究室での仕事はつらいことばかりでしたが、何だかその時の仕事がほんの少し認められたような気がしてなりません。今回のノーベル化学賞の受賞者を、他人事ではなく自分のことのように称えたいと思います。



2008年10月09日(木) 残された貴重な歯を守るために

患者さんの治療をする際、患者さんに自身の口や歯の現状を説明し、どういった治療方針で今後治療をするか事前に説明するのは、歯医者として当然のことです。ただ、時には患者さんに対して思い切って言いにくいことを敢えて言うこともあります。

その一つが入れ歯です。不幸にして何らかの事情で多数の歯を失った人に対し、ブリッジが難しく入れ歯を勧めなければいけない場合があります。保険治療であれば特にそうなのですが、入れ歯を初めて作る場合、患者さんは多かれ少なかれショックを受けるようです。

「何とか差し歯でできないものか?」
「ブリッジはだめなのか?」
「インプラントはどうなのか?」
などなど質問を受けることがあるのですが、僕は何度も入れ歯をしなければいけない理由を説明し、患者さんに納得してもらうようにしています。

入れ歯を説明する際、よく感じることに患者さんが入れ歯について誤解していることがあります。それは、入れ歯は歯を失った場所に入れるものだという認識です。確かに入れ歯は多数の歯を失ったり、ブリッジのために歯を削りたくない人の場合にセットするものですが、それだけの目的ではないことを説明すると、多くの患者さんは意外な表情をされます。

僕が説明する入れ歯の目的とは、残っている歯を守るということです。多数の歯を失い、そのままにしていると残っている数少ない歯を使用しなければなりません。その場合、失った歯が担っていた咀嚼、噛み合わせの機能をも負担せざるをえないのです。これは残っている数少ない歯に対し大変な負担となります。残っている歯は貴重な歯であるのに、残っている歯が本来果たすべき役割以上の働きを求める。これはどうしても無理があるといわざるをえません。
これは、例えるなら、会社でリストラがあり、残された社員がリストラされた社員の仕事分をも持たされるようなものです。残された社員の負担はかなりのものであり、場合によっては体調を崩したり、精神的ストレスは相当なものであることが想像できると思います。結果的に残された社員が倒れ、会社が業績にも響く可能性が出てきます。

残り少ない歯の置かれた状況も全く同じなのです。入れ歯はこうした残り少なくなった歯の負担を受け持つ役割があるのです。残り少なくなった歯を少しでも維持し、残すために使用するものなのです。入れ歯をセットすることは口の中に人工異物を入れることにはなります。確かに入れ歯を入れない時に比べ違和感は生じますが、それ以上に残された数少ない歯を守るために非常に重要ななのです。

僕は入れ歯を初めて使用する患者さんにはこの点を強調し、理解を求めるようにしています。残された歯を守るためには、入れ歯の管理と残された歯を念入りに歯磨きする必要があることは言うまでもありません。その点も説明するのは当然のことです。



2008年10月08日(水) 美容整形と入れ歯の共通点

「あのMって女優、目を整形しているわ。」
「Yって子は顎と鼻は確実に触っているわね。」
「Fの歯は妙に白すぎるわね、絶対に差し歯だよね、そうさん?」

よくぞそこまで女優の顔のことを見ているなあ!と思うくらいの嫁さんのコメント。テレビに出演している女優を見ているとファッションや顔のことによく目がいく嫁さんです。僕などは“そんなことどうでもいいじゃない!”“綺麗であればそれでいいのではない?”と言いたくても言えないくらい雰囲気を醸し出しています。
ただ、確かに嫁さんの指摘どおり、じっくり顔を見ていると、少なくない女優が顔の一部を整形しているのは間違いないようです。僕は歯医者ですのでついつい口元に目がいきます。最近の被せ歯は材質の進歩から本物と見間違うくらい精巧なものもあるのですが、だいたい歯を被せ歯にしていると直ぐにわかってしまいます。時々、この時のことを歯医者さんの一服では有名人口元チェックと称して日記ネタにしています。そういえば、最近有名人口元チェックをしていませんね・・・。

それはともかく、美容整形についてですが、入れ歯と美容整形は共通点があることをご存知でしょうか?何やら似ても似つかぬ入れ歯と美容整形。一体何が共通しているのだろう?と思われるかもしれません。

入れ歯を使用している患者さんの中には、突然、歯科医院に駆け込んでくる患者さんがいます。

「先生、入れ歯が割れてしまいました。何とか使えるように修理して下さい。」

入れ歯は基本的にプラスチックや特殊なカーボン線維を使用した人工物です。一方、口の中の環境は非常に苛酷です。絶えず唾液により濡れていますし、一日に何度も食事を噛む、咀嚼しなければなりません。口の中には300種類以上の雑菌が存在します。このような劣悪とも言える環境の中で、歯の無い人は入れ歯という人工物を四六時中使用しているわけです。自ずと入れ歯には対応年数があることがわかると思います。

ただ、入れ歯が割れる場合、入れ歯の対応年数以外の要因が大きく影響します。それは体の変化です。入れ歯は入れ歯を新しく作った際には体にフィットしています。ところが、時間が経過するにつれ、体はいろいろと変化します。

想像して欲しいのですが、数年前に撮影した自分の顔と現在、鏡に写った自分の顔は同じでしょうか?おそらく違うはずです。誰でも時間経過とともに、自分の気がつかないうちに体は変化するものなのです。口の中も一緒です。いつも同じように食べている口の中も時間の経過とともに微妙に変化しています。ところが、入れ歯はどうでしょう?残念ながら入れ歯は作った当時のままの形を維持しています。使っているうちの人工歯が磨り減ったり、材質が変色したりすることはありますが、外形は変化がありません。

変化する体、口と変化しない入れ歯。相反する口の中と入れ歯の状態。入れ歯を定期的にチェックし、調整しないといけない理由がここにあります。入れ歯は変形しませんから、現在の体、口の中に合わせる必要があるのです。そうしないと、入れ歯を使用して歯肉が痛くなったり、入れ歯が割れたりするのです。

実は美容整形も全く入れ歯と同じなのです。美容整形は手術を受けた時点の体に合わせて処置を行います。ところが、体は経年的に変化をするものですが、美容整形を施した部分は基本的に手術をした時点のまま。そうするとどういったことが起こるか?時間の経過とともに、美容整形した部分は体の変化についていけず、元々の体の部分と歪が生じてくるのです。そのため、美容整形をした部分は体の変化に合わして再度処置、手術を必要とする場合が生じるのです。豊胸手術の場合などはその典型例です。何年に一度かは体の変化に合わせて胸の中に入れたシリコンパッド等を交換し直す必要があるものなのです。

入れ歯であれば簡単に調整をしたり、作り直したりすることが可能ですが、美容整形の場合は、再度体にメスを入れなければなりません。現在、安易に美容整形を行う風潮がありますが、美容整形を一度行えばそれで終わりというものではない。入れ歯と同様、定期的な体の管理、検診、場合によっては再度手術が必要であり、経費もかかるということを知っておいて欲しいと思います。



2008年10月07日(火) 敏感と鈍感

何年も患者さんの治療をしているといろいろと感じることがあります。その中の一つが患者さんの感覚の違いです。口の中が非常に敏感で過敏すぐるくらいの感覚の人がいると思えば、もう少し口の中に関心を持ってもいいのではないか?と思いたくなるくらいの鈍感な人もいます。どちらが良くてどちらが悪いというわけではないのですが、同じ治療、処置を行っても患者さんによって感じ方が違うのは非常に興味深いところです。

入れ歯が合わないということで来院された患者さんがいました。僕が診たところ、歯肉との適合状態は特に問題なく、噛み合わせも申し分なかったのですが、本人曰く

「噛んでいるうちに入れ歯が痛くなってきて噛めなくなってしまう。」

更に入念に入れ歯の状態をチェックすると、歯肉の一部がほんの少し赤くなっているところがありました。通常、この程度の赤みなら問題が無いというくらいのレベルなのですが、この部分を調整してみたところ

「痛くなくなりました!」

入れ歯には問題ないけども、家族が歯医者に行けとうるさく言うので来院したという患者さんがいました。この患者さんの入れ歯を診てみると、僕は正直驚きました。上顎、下顎とも総入れ歯を使っていた患者さんでしたが、上の入れ歯は口を開ける度に落ちてきます。下顎には入れ歯がうまく適合していない時に生じる傷ができていたのです。このような場合、ほとんどの患者さんは痛いことを訴えられるのですが、この患者さんは

「入れ歯は全く不自由なく使える。気にならない。」

上顎、下顎の総入れ歯とも全く合っていないことは明白でしたので、両方の入れ歯を調整しました。上顎の総義歯は落ちないようになり、下顎の入れ歯は傷に触れないように調整し、なおかつ動かないように安定性を増しました。さあ、これだけやれば喜んでもらえるだろう。そう思い、感想を尋ねたところ

「あまり前と変わりませんなあ。一度使ってみます。」

何だか口の中に関心がないかのような口ぶりでした。入れ歯の変化は劇的なもののはずなのにそのことに気がつこうともしないような鈍感さ。

敏感と鈍感。どちらが良い、悪いとは一概に言えないのかもしれません。患者さんの感覚の違いから、人それぞれの感受性が違うことを肌で感じ、勉強させてもらっているような気がする、歯医者そうさんした。



2008年10月06日(月) 治療費不払い患者宅押しかけ抜歯事件について

先週末、インターネットでニュースを見ていると、下のような記事が掲載されていました。

朝日新聞10月4日より
ドイツで治療費を支払おうとしない患者(35)の家に押しかけ、治療した歯を抜いたとして歯科医(53)が強盗傷害の疑いで警察の調べを受け、話題になっている。歯科医はアリバイを主張しているが、警察は複数の目撃者がいるとして近く逮捕する方針だ。
 独南部ノイウルムの警察によると、歯科医は先月22日、女性患者の家を訪問。応対に出た患者のほおを押さえて口を開かせた上で、奥歯を抜いて立ち去った。歯科医は終始無言で、女性は「怖かった」と漏らしているという。
 患者は数週間前に義歯を入れた際に、保険で賄われない自己負担分約400ユーロ(約6万円)を支払っていなかった。警察は「こんな事件は初めて。ちゃんと督促して、それでも支払わなければ裁判とか方法は他にもあるのに」(広報担当)と、あきれている。



治療費を支払わずに来院しない患者は確かに存在します。うちの歯科医院にも数は少ないながら治療費を支払わないまま来院しなくなった患者さんがいます。

“今持ち合わせがないので次回来院した時に支払う”と言ったまま来院しなくなった患者さん、ある被せ歯を仮にセットした状態で被せ歯代を支払わずに音信不通になった患者さん、日本語がわかっているはずなのに言葉がわからないと言い張って治療費を支払わなかった外国の患者さん等々。
おそらくどの歯科医院、診療所、病院でも治療費を支払わないまま来院しなくなった患者さんはいることでしょう。支払わずに来院しなくなった患者さんに治療費の催促をする電話をしたり、医療機関によって取り立てにいくような医療機関もあるようですが、個人開業の歯科医院においてはなかなかそこまではできず、結局のところ泣き寝入りしてしまうケースが多いものです。

それ故、上記のドイツの歯医者の場合、かなり強引な手段に出たものだなあと思うのです。この歯医者の行ったことは犯罪です。いくら患者さんが治療費を支払わなかったとはいっても患者宅へ押しかけて問答無用で奥歯を抜歯してしまうということは許されることではありません。
ただ、心情的にはわからないわけではありません。医療関係者は赤ひげではありません。特に、日本のように国民皆保険制度がある場合、医療関係者はルールに則って治療を行い、治療行為に対する報酬を受け取ることができるのです。患者さんはかかる医療費の一部を医療機関の窓口で支払う義務があるのです。何らかの医療保険組合に所属していない患者さんの場合は、医療費の全額を支払わなければいけないのは当たり前のことです。

この大前提を無視して、医療費を支払わないまま来院しなくなるのは、どんな事情があるにせよ患者さん側に責任があるのは明白です。治療費を支払わずに来院しなくなった場合、医療関係者はどうしても感情的にならざるをえないものです。患者さんのために一生懸命治療を行ったことを仇で返されるようなものですから。そういった意味で僕は心情的にドイツの歯医者の気持ちはわからないではないところがあります。

とは言ってもいきなり不払い患者さん宅へ行って問答無用で抜歯をするというのは如何なものかとは思います。余程腹に据えかねていたとは思いますが、警察のコメントのようにもっと冷静に、ルールに則って不払い患者へ対処すべきだったでしょうね。

また、一人のドイツの歯医者が起こした事件とはいえ、これが歯医者全体のイメージを損なうことを僕は心配します。どんな業界でも大多数の方は真面目に働き、社会に貢献しているにも関わらずたった一人の不始末が業界全体の心証を悪くするものです。とかく良い評判は伝わるのに時間がかかりますが、悪い評判が伝わるのは早いもの。

歯医者は治療費を支払わないと家に押しかけ、抜歯をする。

ほとんどの歯医者は、今回の特殊な事件のように強引で犯罪のようなことを起こすことはないはずですが、ドイツの事件とはいえ歯医者に対する心証が損なわれることがないよう、摂に願います。



2008年10月03日(金) 蓄膿の原因はむし歯だった?

「上の奥歯が噛んだら痛くて頬も痛くてたまりません。」

先日、うちの歯科医院に駆け込んできた患者さんが発した言葉です。口の中を見てみると、右上の第一大臼歯と呼ばれる歯に大きなむし歯がありました。本人に尋ねてみると、この歯には元々金属の詰め物があったとのこと。半年前、詰め物がはずれ大きな穴が開いてしまった。自分では気になっていたが痛くなかったのでそのまま放置していたというのです。ところが、1週間前から急に痛みが出てきたそうで、当初は市販の痛み止めを飲んで痛みを抑えていたそうですが、そのうちに頬の方まで痛くなり、我慢できなくなったようです。レントゲン写真を撮った僕は、この患者さんに言いました。

「紹介状を書くから、直ぐに○○病院の歯科口腔外科を受診して下さい。」

通常のむし歯であれば、僕は直ちに処置を行うのですが、この患者さんの場合、僕はあることを疑ったのです。それは上顎洞炎。上顎洞炎というのは一種の蓄膿のことです。
解剖学の話になりますが、人間には鼻の側に4つの骨に囲まれた空洞があります。これは鼻から吸い込んだ息を一時的に溜め込む空洞なのですが、この空洞を副鼻腔といいます。通常、蓄膿というと風邪や鼻炎などから副鼻腔に感染し、炎症が起きた状態を指します。蓄膿の中でも特に多いのが4つの副鼻腔の1つ、上顎洞に生じる上顎洞炎です。その理由は鼻と最も近いのが上顎洞であるからです。

さて、上の奥歯にむし歯があってどうして上顎洞炎になるかということになりますが、これは奥歯の位置に関係があります。奥歯、特に上の第一大臼歯は根っこが上顎洞と接しているのです。そのため、むし歯や歯周病の症状が進み、根っこにまで及ぶと上顎洞に炎症が波及、上顎洞炎、蓄膿になってしまうのです。
このように歯が原因による蓄膿、上顎洞炎を歯性上顎洞炎といいます。一度歯性上顎洞炎になると、かなり厄介です。抗生物質を点滴で大量に投与しながら、場合によっては上顎洞の粘膜を掻爬してしまわないといけないケースもあるのです。こうなると入院して手術を受けないといけないのです。たかがむし歯だと軽く考え、放置していると大変なことになってしまうわけです。

今回の患者さんの場合、僕はこの歯性上顎洞炎だと診断しました。こうなるとうちのような町歯医者では対応が難しく、施設が整い、いざとなれば手術も可能な病院の歯科口腔外科へ紹介し、処置を受けてもらうことしか方法がありませんでした。

後日、この患者さんはうちの歯科医院にやってきました。

「入院せずに、外来で何とか処置を受けて症状がましになりました。ただ、治療前に撮影したレントゲンCTの画像を見て、びっくりしました。問題の歯がある上顎洞が真っ白になっていましたから。頬の痛みの原因がこれだと言われた時にはショックでした。ここまでひどくなっているとは思いませんでしたから。」

現在、この患者は上の第一大臼歯の根っこの治療を受けていますが、今は神妙に治療を受けています。むし歯を放置すると歯だけではなく、体の他の組織、臓器へ影響が出ることを身を持って体験したからです。できることなら、咽喉もと過ぎれば熱さ忘れるということがないようにして欲しいものです。



2008年10月02日(木) 講義をするのは難しい

これまで何回か書いていることですが、僕は歯医者をしながら週1回某専門学校で非常勤講師として学生に講義をしています。一年のうち半年は講義を担当しているのですが、夏休みの中断を終え、9月半ばから後半の講義が始まっています。

一回の講義は90分の講義ではあるのですが、毎度準備には休みの日が一日潰れます。しかも、最近週末は他用で家を留守にすることが多く、そのため、休みの日を講義準備に当てることができません。まあ、このことは何ヶ月も前からわかってはいたことなので、前もって準備はしてきたつもりですが、それでもいざ講義に臨もうとすると、いろいろと悩みます。

某専門学校で講義を担当して3年。既に何を講義すればいいかは充分に把握しているつもりです。ところが、僕の担当科目は細部に微妙な変化がある科目です。教科書をみていると、昨年までの内容と変更になっているところが何箇所もあり、その都度、自分が得てきた知識を修正しないといけません。そのため、前年まで作成していた資料が使えなくなることが頻繁にあります。学生には最新の知識を教えなければならない義務があります。過去の古くなったことを教えているようでは講師として失格です。

また、講義を続けていると少しでもわかりやすくしたいという欲求が強くなってきます。自分なりに担当科目を勉強していると、いろいろな発見があるもの。かつてわからなかったことが理解できるようになったり、以前無視していた内容が実は非常に大切なことであるようなことがあるのです。今更ながら学生時代にもっと勉強しておくべきだったと後悔しますが、学生には僕の過ちをして欲しくないという思いから、参考文献を読んだり、資料を作り直していると、正直言っていくら時間があっても足りません。

実際に講義をしていると、講義の時間配分にはいつも悩まされます。ここは是非強調しておきたい、この部分は熱く語りたい、学生には是非とも知ってもらいたい。講義にはそんな場面がいくつもあるのですが、そこで時間を費やしていると、その日の講義予定で説明できずに終わってしまう場所が出てきます。結局、軽く流すだけになってしまい、学生に迷惑をかけてしまう。そのようなことがしばしばです。

講義が終わった後は、いつも自問自答です。反省しきりです。自分なりに一日の講義を振り返りながら何が良くて、何が悪かったのかを振り返りますが、大きな声では言えませんが、今まで一度として満足のいく講義をしたことがありません。
このようなことを書くと僕の講義を聞いている学生に非常に申し訳なく思います。最低限、学生に知っておいてもらいたい場所はきちんと講義をしているつもりではいるのですが、果たしてそれが学生に充分伝わっているのか?少しでも伝わって欲しいと願いつつ、もっと講義について工夫をし、試行錯誤をしないといけないなあと感じます。学校の先生というのは毎日大変だろうなあ。そのようなことを思う今日この頃の歯医者そうさんでした。



2008年10月01日(水) 歯科治療は土木工事?!

「歯の治療って土木工事みたいなところがありますね。」

歯の治療を終えて診療室を出て行こうとしていた患者さんがふと漏らした言葉です。

体の臓器の一つである歯。この歯の治療と土木工事と一体どんな関係があるのだろうか?と思われる方がいるかもしれませんが、僕はこの患者さんの指摘に“そうかもしれない”と感じました。

一例を挙げましょう。歯の治療を受けられた方は想像できると思いますが、歯を削る際、口の中にはタービンと呼ばれる高速回転する切削器具を使用します。一分間に30万回転から50万回転するくらい高速に回転するタービンに切削用バーを取り付け、歯に接触させながら歯を削ります。

歯は表面がエナメル質と呼ばれる硬い層で被われています。エナメル質の硬さはどれくらいか?概ねダイヤモンド並みです。歯の表面が非常に硬いことが想像できるのではないでしょうか。
このエナメル質を削る際、タービンに取り付けた切削用バーは非常な高温となります。硬い物を削る際の宿命みたいなものですが、治療の際、この高温は患者さんにとって大変迷惑なものとなります。火傷、痛みが起こりうるのです。これを防ぐには切削部に水を噴きかけながら削る必要があります。高温を冷却する目的で水を放出しながら削る必要があるのです。
そこで困るのが放出された水の後始末です。歯を削っていくうちにタービンから出た水はどんどんと口の中を満たしていきます。あっという間に口の中全体を満たすくらいの量の水がでるのです。歯科治療では、これら水を吸い出すために診療台には必ずバキュームと呼ばれる吸引装置が付属しています。歯を削るために放出された水を吸い取りながら歯を削っていく。これが一種の歯科治療なのです。

この状況、何か工事現場でも似ています。例えば、ビルの解体現場。ビルを解体するのに大きなドリル状の切削器具を用いることがありますが、その際、水を放出しながら削ることが多いものです。この水は冷却の意味と舞い上がるほこりを発散させない意味合いがあります。

歯の治療というと何か特殊なことを行っているようなイメージがありますが、実際のところは実に土木工事的なことを行っているとも言えるもの。冒頭の患者さんの指摘はなかなかに歯科治療の本質を言い当てている、言いえて妙な感じがしました。


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