歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年12月31日(月) 良いお年をお迎え下さい

早いもので今日は平成19(2007)年12月31日、大晦日です。
毎年同じことを書いて恐縮ですが、一年が経過するのは早いものです。しかも、年齢を重ねるとともに一年の経過が早くなっているように思うのは気のせいでしょうか?

今年一年、読者の皆さんにおかれましては、“歯医者さんの一服日記”を読んで頂き、有難うございました。日記を書き始めて5年5ヶ月が経過しましたが、何とか細々と日記を書き続けることができるのも、僕の駄文を読んで頂いている読者の皆さんのおかげだと感謝しております。この場を借りまして改めて御礼申し上げます。

さて、皆さんの年末年始は如何お過ごしでしょうか?お休みの方がいらっしゃれば、お仕事だという方もいらっしゃることでしょう。
お休みの方はゆっくりと精神的、肉体的に英気を養って頂きたいと思います。
お仕事の方、ご苦労様です。普段、以上に忙しいことでしょうが、何とか体調を崩さず年末年始を乗り切って頂きたいと願っております。

皆さん、どうか良いお年をお迎え下さい。



2007年12月29日(土) 我が歯科医院の大掃除

昨日、多くの歯科医院では仕事納めだったはずです。診療が終わった後、大掃除をするような歯科医院が多いはずですが、うちの歯科医院では特にそのようなことはしませんでした。なぜなら、大掃除の前に少しずつ場所を決めて掃除をする段取りにしていたからです。事前に大掃除する場所と担当する人を決めておき、診療開始前やちょっとした空き時間を利用し、こまめに掃除をしていました。ですから、昨日の仕事納めの時は通常の診療終了後の後片付けぐらいで済んだわけです。

これには理由がありまして、うちの周囲が田舎という事情があります。うちの歯科医院に来られている歯科衛生士や歯科助手の方は皆年末、年始は家の方で大変忙しくされます。毎年、年末年始には外部から親戚が帰省するような家ばかり。そのため、仕事納めが終われば、直ちに家の方の新年準備にかからなくてはいけないのです。歯科医院の中には仕事納めが終わった12月29日を大掃除の日と決めているような歯科医院もあるようですが、うちの歯科医院でそのようなことをすると、スタッフからは大ブーイングが起きてしまいます。そのため、毎年の大掃除は小出しに掃除をすることによって行っているのがうちの歯科医院流です。

さて、うちの歯科医院の掃除を行う場所には僕が担当する所もあります。それは、僕の診療用チェアと院長用机とその周囲。
診療用チェアは僕が毎度の診療に使う必要不可欠な診療道具ですから、自らメンテナンスに励むのは当たり前のことです。
院長用机に関しては、正直言って、普段は放置したままです。そのため、いつの間に書類や物で溢れかえっていることもしばしば。普段の診療の合間に整理をすればいいのですが、元来ズボラな性格の僕は机の周囲をそのままにしてしまいがちです。どうしても、年末に整理をしてしまう羽目になってしまうのですが、今年は久々に捨てるべきものは完全に捨てるという態度で整理をしました。すると、大量の書類を処分してしまわないといけない羽目になってしまいました。中には10年以上前に作られた、現状とは掛け離れたことを書いた書類もあり、苦笑しながら処分する始末。
書類は個人情報が書かれた物が多数あるので、常にシュレッターをかけてから処分するのですが、昨日はシュレッターがフル回転。“どうしてこんな書類を残していたのか?”と思いたくなるような書類も多々あり、我ながら呆れながら何とか大量の書類を処分し終えました。
おかげで僕の院長机は、少しはすっきりしたかもしれません。

さあ、今日は家の方の自分に関係する場所の整理といきますか?こんなことをしているとあっという間に年末年始過ぎていきそうですね。



2007年12月28日(金) 年末年始価値観の変化

今日は12月28日。官公庁を中心に多くの会社、企業、組織では今日で仕事納めという所が多いのではないでしょうか?医療機関も今日で仕事納めという所が多いようで、うちの歯科医院でも今日が仕事納めです。

これまで年末というといつもの月以上に患者さんが多い傾向にありました。一年を終えるにあたり、歯の悪い所を全て治療し、健康な歯で年を越したい。このように思われる患者さんが多かったように思います。

“もう少し早く来院して治療して欲しい”
と思いながらも、何とか時間をやりくりして年内に治療を終えるような患者さんが何人もいたものです。これが果たして良いことなのかどうかはわかりませんが、少なくとも歯の治療において一年の区切りということを非常に意識していた患者さんが以前にたくさんいたことは事実です。

ところが、ここ数年の傾向として年の瀬だからといった治療を急がない、急ぐ必要がないと考える患者さんの割合が確実に増えてきたように思います。治療が越年になってしまうことを伝えても、さほど気にならない患者さんが以前よりは多いのです。

理由はいくつかあることでしょう。前回の日記でも書いたことですが、かつては年末年始というと開院している歯科医院が少なかったため、年末年始に歯が悪くならないように年内に何とかしてもらおうと考える患者さんが多かったものです。ところが、最近は年末年始に応急歯科診療所が開かれていることが徐々に世の中に認知されてきました。インターネットの普及により年末年始に開院している医療機関が簡単に調べられるようにもなっています。別に年内に治療を急がなくても、年末年始、歯が悪くなってもあせる必要はない、何とかなると考えている人が多くなっているように思います。

それよりも、僕が思うのは、一年の終わりに対する考え方の変化です。かつて年末というと一年の区切りということで何か厳粛な気分になっていたものです。年末年始には一時的に社会の活動が休止し、静かに新たな年を迎える。そんな社会だったように思うのですが、今ではそのような雰囲気は薄まっているように思えてなりません。大きなスーパー、百貨店、コンビニなどは年末年始休まず営業している所が大半です。また、家に門松やしめ縄を飾って正月を迎えるような家も少なくなってきています。年末年始を特別視しない風潮が年々強まっているように思えてなりません。

この風潮を年末に来院する患者さんの傾向と関連すると考えるのは強引なことかもしれませんが、身ぎれいにして年を越すことにこだわりを持つ患者さんが少なくなってきていることは確かなように思います。



2007年12月26日(水) 年末年始の応急診療について

毎年、取り上げているネタではあるのですが、何度ネタにしてもしすぎることはないと思い、今年も書いていこうとおもいます。
何も歯や口の中だけに限りませんが、年末年始を迎えるにあたり思いも寄らぬ体の不調を訴え、医療機関にかからざるをえなくなることはあるものです。しかも、年末年始の期間は休日と同じ。ほとんどの医療機関は休診なのです。このことを前提に、万が一医療機関にかからざるを得なくなったときの心の準備、日頃からの備えを思いつくまま書いてみます。

・かかりつけ医の診療体制を確認しよう
普段、自分や家族が世話になったり、かかりつけになっている医者、歯医者が年末年始、どのような状態であるかをあらかじめ問い合わせてみることです。
年末はいつまで診療をしているか?年始はいつから診療を開始するか?同じように休診しているようで細かいところは医療機関によって異なっているもの。わずかな違いが大きな違いになるものです。
また、確かに多くの医療機関は休診ではあるのですが、医療機関の中には休診であっても緊急時の連絡先を公表しているところがあるものです。
年末年始の休みに入る前にあらかじめ確認しておきましょう。

・地元の年末年始応急診療所の位置を知ろう
年末年始だと里帰りしている方や旅行をされている方が多いもの。普段と異なった土地に滞在している際、体の不調を訴え医療機関にかからざるをえない場合、どうすればよいか?
日本国内であれば、最近では全国各地に年末年始応急診療所が開設されています。年末年始応急診療所が無い場合でも、地元の開業医同士が輪番制で開院して対処しているはずです。そこにかかるべきです。この診療所の位置や診療時間などは、新聞の地方欄、地元行政広報誌、地元行政のホームページ、地元歯科医師会のホームページなどで知ることができます。
充分に注意しておかないといけないことは、治療にはかなり時間がかかるということです。ただでさえ医療機関が休診の中、ほんの一握りの医療機関である年末年始応急診療所が開設されているわけです。患者さんが集中するのは仕方がありません。しかも、どの患者さんも基本的には救急扱い。救急の患者さんは予約の患者さんとは異なり、診察、診療、その他手続きに時間を要するものです。直ぐに年末年始応急診療所に出向いても治療をしてくれないのが普通であることを頭に入れておいて欲しいと思います。
海外の場合は、言葉の問題がありますから、出かける前に日本語が通用する医療機関を前もって調べておく必要があると思います。医療情報に関しては海外にある在外公館(大使館や領事館)に問い合わせるというのも一つの手かもしれません。

・119を頼ろう!
119番というと消防車や救急車の出動を要請する専門ダイヤルのように思われているかもしれませんが、年末年始には診療をしている医療機関の情報が消防局に集められているものなのです。上記に書いた方法で年末年始応急診療をしている医療機関を見つけられなかった場合、躊躇わずに119番に連絡しましょう。事情を言えば、丁寧に情報を提供してくれます。

・常備薬、既往歴、薬の副作用などのメモを携行しよう
人間の記憶というのは確かなようで曖昧なことがあるものです。特に体の不調を訴え頭が呆然としている時は思い出そうとすることさえ嫌になるものです。そのため、普段から自分が日頃飲んでいる薬の情報、薬の飲用暦、既往歴、アレルギーの有無などを書いたメモを携帯しておくことをお勧めします。

・保険証、もしくはそのコピーを手元において置こう
特に帰省や旅先の場合、保険証がないと窓口での支払いは全額負担となります。きちんと保険証を持っている場合は諸手続きにより後日本来の窓口負担分以外の医療費が戻ってきますが、諸手続きはややこしく時間がかかります。
また、最近の保険証は家族単位のものから個別にカード式になっているものもあります。高齢者の場合、通常の保険証以外に高齢者用の保険証もあります。これら保険証を持っていくか、そのコピーを携帯しておくことは、いざ年末年始応急診療所を受診するにあたり治療費負担で大きな違いとなります。



2007年12月25日(火) 40歳以上の歯医者との見合いを相談されて

今日の日記の内容は僕の独断がかなり入っていることを最初に断っておきます。

先日、僕はある知人から相談を受けました。その相談とはお見合いの相談。
知人は歯医者ではない方なのですが、自分の従妹が見合いをすることになったというのです。従妹の方とは年齢が30歳台前半のOLなのだそうですが、お見合いの相手が30歳代後半、40歳に手が届こうとしている歯医者だというのです。知人の話によれば、その歯医者は既に自分の歯科医院を開業しているそうなのですが、開業のために結婚が遅くなったとのこと。“従妹にこの縁談は合っているのだろうか?”という内容の相談でした。

“う〜ん”
と思わず考えこんでしまった歯医者そうさん。

男女の仲というもの、相手がどんな人であろうとも相性があります。側から見ていて“どうかな?”と思っていても、本人同士が気に入れば、それはそれでいいとは思うのです。ただ、僕が考え込んだのは、僕自身歯医者であり、歯医者の実態というものを他の業界の人よりは詳しく知っているためです。

僕自身の知り合いの歯医者、某歯科大学時代の同級生、先輩、後輩、他大学歯学部や他歯科大学の知人の歯医者を見る限り、男女関係無く8割〜9割方の歯医者は結婚をしています。結婚をしていない歯医者はごく少数派であることがいえると思います。
それでは、どうして40歳近くになって一度も結婚できない、結婚しない歯医者がいるのか?ということになりますが、知人のケースのように、歯科医院開業のために婚期が遅くなった歯医者がいるのは事実だろうとは思います。しかしながら、正直に書きますと、40歳近くになって結婚しない歯医者というのは、相当な事情があるはずなのです。
その事情とはいろいろあります。家庭的な事情もあれば、どうしても異性を愛せない人もいることでしょう。中でも最も多いと考えられるのは、結婚しない歯医者自身のパーソナリティ、性格に起因するものではないかと思うのです。もっとはっきりと書きますと、どこか個性的といいましょうか、変わっている所がある歯医者ではないかと。

個性的な歯医者だからといって患者さんの治療に問題があるかというとこれは別問題だと思いますが、この場合の“個性的”という意味は、少なくとも結婚をし家庭生活を営むことに問題がある、避ける、嫌がっていることを指しています。僕の周囲を見てみて、40歳以上を過ぎても結婚していない歯医者を思い浮かべると、非常に個性的な歯医者ばかりです。もし、僕がそんな人たちを誰かの結婚相手に紹介しようとできるかといいますと、僕は無理だと答えるでしょう。

歯医者というとハイソなイメージを持たれる方がいるかもしれませんが、少なくとも40歳以上を過ぎて独身の歯医者というのは、独身であるだけの理由があるもの。もし、40歳以上の歯医者と結婚を前提に付き合う場合、このことを前提にお付き合いする必要があると思います。



2007年12月24日(月) 飲用水医薬品残留問題

今日はクリスマスイブですが、先週の土曜日が休みであれば三連休の最終日でもあります。皆さん如何お過ごしでしょうか?

せっかくのクリスマスイブにも関わらずやわらかく無い話題で申し訳ないのですが、昨日の某新聞の大一面にこのような記事が載っていました。

大都市圏の浄水場の自ら少なくとも25種類の医薬品が検出され、一部は飲用水にも残留していることが厚生労働省の調査でわかったとのこと。環境省の研究班でも利根川、淀川で医薬品50〜60種類を確認したそうで、研究者らは、飲用水への流入はごく微量で直ちに人体に悪影響を与える量ではないものの、生態系への影響を懸念しているとのこと。今後、厚生労働省ではさらに3年をかけて詳しく調査するということらしいのです。

この問題、大都市圏の飲用水供給の難しさを改めて感じます。元来、上水道の源となる水源はきれいなはずなのですが、大都市圏では非常に多くの人が住んでいます。この多くの人たちに飲用水を提供しようとすると、その水源はどうしても大都市圏を流れる川を利用せざるをえないのが現状なのです。

そこで問題となるのが、取水地の問題です。川の上流に住んでいる人は水源地とほぼ同質の水を元に浄水した飲用水を飲むことができるのですが、下流の人は上流の人の下水を含んだ川の水を浄水した飲用水を飲まざるをえないのです。極端な話、大都市圏の下流の人は上流の人の排泄したおしっこやウンチを含んだ水を浄水して飲用水としているのです。
それでは、下流の人が飲用する水が飲めないかということになりますが、大都市圏の浄水場では様々な浄水処理をして飲用水として飲めるようになっています。

以前、漫画家の西原理恵子が大阪の水道水はまずいということを主張していたのですが、目隠しテストで出された水で西原理恵子が最も美味しいと判定したのは、何と大阪市水道局が浄水した浄水だったのです。大阪市水道局のシステムはこのようなもののようです。
日本の浄水システムはかなり高度なレベルに達していると言えるのです。

ただ、科学技術の進歩は今までわからなかった分野に明かりを照らす側面があります。かつて問題になった環境ホルモンの問題も、測定技術の進歩によって検出されるようになった微量物質の存在によってクローズアップされた問題です。今回の医薬品残留問題も同様で、測定技術の進歩と水道水研究の蓄積によって明らかにされてきた問題なのです。

既に環境省では、これら医薬品残留物質を処理できる技術を開発し、実用化に向けて検証中とのこと。科学技術の進歩によるイタチゴッコのような状態でもあるわけですが、大都市圏にお住まいの方は不安のない水道水を飲みたいと切に願っているはずです。今回の問題、新しい浄水処理システムが少しでも早く実用化され、現場に導入されることを願うのみです。



2007年12月22日(土) 年の瀬の歯の大掃除

年の瀬も迫り、クリスマス、そして、もういくつ寝るとお正月という頃になってきました。
毎年、歯医者では一年の区切りに何とか治療を終えてしまいたいという患者さんが多く、年の瀬の診療は何かと気ぜわしいものがあります。

昨日、ある患者さんの治療が終わりました。その患者さんの最後の治療は、歯石除去とPMTCと呼ばれるものでした。
歯石除去は読んで字の如く、歯石を取り除くことです。PMTCとは英語のProfessional Mechanical Teeth Cleaningの略で、専門家による歯の清掃のことを言います。普段の歯の清掃は言わずと知れた歯磨きですが、一生懸命磨いているつもりでもどうしても取れない汚れ、取り残している汚れ、歯石などがある場合が多いものです。これを歯医者では専門家としてきれいに歯の清掃をし、歯の健康維持につなげる。これがまさしくPMTCなのです。まさしく、歯の大掃除です。
最近、僕は患者さんにこのPMTCを勧めています。歯の大掃除をすることによるメリットが大きいからですが、それ以上に大切なことはこのPMTC、受けていて気持ちが良い治療なのです。歯の治療というと“痛い”というイメージが付きまとうものですが、PMTCに関しては非常に気持ちが良いのです。歯の大掃除ではあるものの、きれいに磨いて終わるわけですから、治療の最後の方は非常に気持ちよく感じるものなのです。

「この掃除ってやみつきになりそうですわ」
と言ってくださる患者さんもいるくらいです。昨日の患者さんもこのPMTCにはまっている患者さんの一人で、

「先生、年末恒例の歯の大掃除をして下さいよ」
と笑いながら治療をされていたのが印象的でした。

歯医者は歯の悪い所を治療する場所ではありますが、歯の大掃除をする場所でもあります。今からだとどこの歯医者さんも予約で詰まっているかもしれませんが、皆さんも一度年の瀬の歯の大掃除を受けられたら如何でしょうか?



2007年12月21日(金) 自動車会社が二足歩行ロボットを作る理由

先週末、僕は地元歯科医師会の有志の先生が参加した忘年会に参加してきました。忘年会に参加した先生たちは皆僕と同世代の先生が多かったせいか、普段話ができないような話をすることができ、非常に楽しい一時を過ごすことができたと思います。

中でも面白かったのは、僕と同い年のK先生の話でした。K先生は、元は某自動車メーカーの研究部門で研究員をしていた変り種。そこから突然歯医者になることを決意し、某歯科大学に入学、歯科医師免許を取り、歯科医院を開院したのです。以前からK先生の経歴は非常にユニークなものだと感じていたのですが、なかなかK先生に話をする機会がなかったのです。今回、肩のこらない忘年会だったこともあり、僕はK先生に尋ねてみました。

「僕が某自動車メーカーを辞めた理由は、某自動車メーカーの方向性が僕が感じているものとは異なってきたためなのです。」
「それって一体どうこと?」
「僕は幼い頃から自動車が大好きでして、それが高じて挙句の果てに某自動車メーカーの研究所に就職することができたのですよ。自分の好きなことを仕事にできる幸せを感じながら仕事をしていたのです。自動車屋として自動車を追究したい気持ちが強かったのです。ところが、実際に仕事をしていると、某自動車メーカーの研究面への力の入れ方がどうも自動車そのものに向いていないことがわかってきたのです。」
「自動車メーカーだから自動車の研究をするのは当然じゃないの?」
「誰もがそう感じるでしょ。僕もそうだったのですが、僕が勤務していた某自動車メーカーは将来、自動車を作っていくことに重きを置いていないことが徐々にわかってきたのです。」
「自動車メーカーが自動車以外のことで生き残りを図っているということ?」
「そのとおりなのです。そうさん先生は最近、某自動車メーカーが二足歩行ロボットを作っているということをご存知ですね。あれを見て何か奇妙なものを感じませんか?どうして自動車を作る会社が二足歩行ロボットを作っているのか?と。いくら将来に向けてといっても自動車とロボットではどのように結びついているかわかりませんよね。」

「僕が勤務していた某自動車メーカーは、将来、この二足歩行ロボットに社運をかけているんです。自動車を作ることで生き残っていこうとは考えていないのです。」
「それは、将来自動車産業が頭打ちになるからということなの?」
「それはあると思いますが、実はこの二足歩行ロボットの究極の目的は軍事用なのです。いろいろと二足歩行ロボットでパフォーマンスをしていて楽しそうなロボット、夢のあるロボットだという印象が強いですが、本当は軍事用に作っているんですよ。僕はこのことを知った時、某自動車会社で自動車を作る夢が無くなりました。僕は軍事産業に勤めたわけではない、車が好きで車を作るために某自動車メーカーに入ったんだ。いろいろと考えましたが、思い切って某自動車メーカーを退職することにしたんです。」
「上司や仲間からは突然の僕の離職にびっくりしていたようです。どうして止めるのか?僕の考えに理解できなかったようですが、最近、某自動車メーカーの研究仲間と話をしていると、『お前の突拍子もない行動は理解できるよ。俺も辞めようかなあと考えている』と言っていました。」

彼が言うには自動車作りは歯医者が口の中の治療をすることと共通していることが多いのだとか。自動車作りを成就できなかった夢を歯医者で追い求めているということでした。



2007年12月20日(木) 歯を磨かないのにむし歯にならない理由

患者さんの口の中を見ているといろいろと感じるのですが、その中の一つにつば、唾液があります。むし歯の多い患者さんの口の中を見ていると、往々にして唾液が粘っこいのです。
ところで、唾液が口の中に果たす役割というのはいくつもあるわけです。思いつくままに書いてみると、

酵素としての作用
唾液に含まれるアミラーゼが澱粉を麦芽糖に分解する。
咀嚼の補助作用
唾液は食べ物を湿らせ、歯で粉砕し飲み込みやすくする。
円滑作用
唾液は口腔粘膜を湿らせる咀嚼、発音、発声をスムーズにできる。
洗浄作用
唾液は食べかすが歯や口腔粘膜に貯留することを防止する。
殺菌・抗菌作用
唾液に含まれる酵素の中に殺菌・抗菌作用があるものがある。
水素イオン濃度緩衝作用と希釈作用
唾液は口の中に侵入した酸やアルカリを中和する。

などでしょうか。

唾液は通常一日に1〜1.5リットル分泌されます。誰も意識はしていませんが、かなりの量の唾液が一日に分泌されているのではないでしょうか。唾液成分の99%は水分です。

唾液というのは主に唾液腺と呼ばれる組織で作られ、口の中に分泌されます。唾液腺には小唾液腺と大唾液腺があります。小唾液腺は粘膜に細かくある唾液腺のことで別名、口腔腺とも言われています。一方、大唾液腺は顎下腺、舌下腺、耳下腺があります。顎下腺、舌下腺は下顎の内部、舌の下に位置しています。耳下腺は耳のやや前方に位置しています。大唾液腺は“大“というくらいですから、口の中で作られる唾液の大部分が作られる場所であることが言えるでしょう。
興味深いことに、これら大唾液腺で作られる唾液の質が微妙に異なります。
そもそも、唾液腺の細胞はサラサラした唾液を作る漿液細胞とネバネバした唾液を作る粘液細胞の二種類があります。この二種類の唾液腺細胞ですが、

顎下腺では漿液細胞と粘液細胞の混合性だが、漿液細胞が優勢
舌下腺では漿液細胞と粘液細胞の混合性だが、粘液細胞が優勢
耳下腺では漿液細胞がほぼ全て
となっています。

上記の大唾液腺のことを考えると、耳下腺や顎下腺から出される唾液量が多い人は唾液の質がサラサラしやすいことがいえるかもしれません。
実際に患者さんの口の中を見ている経験からいいますと、唾液がサラサラしているということは、唾液の量が多い場合が多いようです。唾液の量が多いと口の中が常に湿っている状況です。その一方、唾液量が少ない人の場合、口の中はネバっぽい傾向にあると思います。

むし歯予防から考えると、唾液はサラサラした質の方が好ましいものです。理由は簡単で、サラサラした唾液だと食べかすやむし歯菌などの口の中のばい菌が歯に留まりにくく、流されやすいからです。すなわち、唾液がサラサラしているとむし歯になり難いのです。反対に唾液がネバネバしていると、食べかすやむし歯菌などを含んだばい菌が歯に付着しやすく、結果としてむし歯になりやすい環境になってしまうのです。

皆さんの周囲にもいるかもしれませんが、大して歯を磨いてもいないのにむし歯になった経験が無い人がいるものです。このような人たちがどうしてむし歯にならないかという理由の一つには、彼ら、彼女らの口の中の唾液の質が影響している可能性が高いのではないかと思います。



2007年12月19日(水) お中元という名のお歳暮

昨日も書いたことですが、うちの歯科医院には歯科材料店の担当者が週に2回出入りしています。昨日は担当者のY君がうちの歯科医院を訪問する日だったのですが、いつも来院する時間帯よりもかなり遅い時間帯にやって来ました。Y君の姿を見た僕は思わず尋ねてしまいました。

「Y君、大丈夫か?」

いつも元気ハツラツなY君なのですが、昨日のY君は顔色が悪く、口元にはマスクをしていたのです。立っているのもつらそうな状態のY君。

「年末の忙しい時期なのに情けないことに風邪をひいてしまいました。どこで風邪をもらったのかわかりませんが、かなり体に来ています。」

本当なら代わりの人間がいれば休みたかったのでしょうが、Y君の勤務先である歯科材料店では小規模の歯科材料店。Y君と代わってくれるスタッフもいないようで、体調が良くなくても休みことができないとのこと。僕は直ぐに注文の歯科器具や歯科材料を伝えました。Y君も注文したものをメモ書きした後、直ちにうちの歯科医院を出ようとしたのですが、

「先生、肝心な物を渡すのを忘れていました。」

肝心な物とはお歳暮でした。
歯科材料店では、年の瀬には付き合いのある歯科医院に歳暮をするのが普通です。いつも歯科医院から注文を取ることが仕事の歯科材料店です。歯科医院なくては商売が成り立たないため、年の瀬には各歯科医院に歳暮を渡すのが習慣となっているのです。
歳暮といってもさほど高価なものではありません。極めて実用的なものを歳暮として届けてくれます。うちに出入りしている歯科材料店ではカレンダーとタオルを歳暮として頂きます。
昨日もY君はいつもと同じような歳暮を持ってきてくれたのですが、Y君が帰ってから包みを開けてみると、僕は思わず開いた口が塞がりませんでした。その理由は、お歳暮のかけ紙に書いてある文字にありました。

お中元   ○○歯科商会

これまで僕は何度かお歳暮を頂いてきました。お歳暮を頂くことは大変有難いことだとは思うのですが、中には誰かから貰った貰い物をそのままお歳暮として流用したのではないかと思いたくなるような代物もあります。お歳暮を貰う側としてお歳暮にケチをつけることは如何なものかと思い、どんなお歳暮でも有難く頂戴するようにはしています。けれども、今回のようにお中元として用意しておいた品物をかけ紙を変えることなくそのままお歳暮して持ってきたことはあまり経験がありません。
おそらく、風邪をひいていたY君は頭が呆然としていたため、いつもならかけ紙を変えてお歳暮として持ってくるべきものを、”お中元”と書かれた表紙を変えることなくそのまま持ってきたのでしょう。
本来なら、このような行為は、いくらお歳暮とはいってもお歳暮を贈る相手に非常に失礼なことではあるのですが、いつも世話になっており、風邪をひいて体調を崩していたY君の立場を考え、そのまま何もなかったかのように振舞うことにしました。

それにしても、あまりにもはっきりしたお中元の余り物からのお歳暮への流用。呆れて物が言えなかった、歯医者そうさんでした。



2007年12月18日(火) 原油価格の高騰に戦々恐々

歯科医院は患者さんの口や歯を治療する医療機関ではありますが、患者さん以外にも出入りしている人たちがいるものです。歯科医院に材料や器具の注文を受け、届けてくれる歯科材料店の担当者も歯科医院に出入りする人たちの一人です。
うちの歯科医院にも歯科材料店の担当者が週に2回出入りしています。あらかじめリストアップしておいた歯科材材料や器具の注文を出したり、器具のメンテナンス、新製品の情報、PRなどをしてくれるわけですが、僕も時間の許す限りそんな担当者と出会い、話をするようにしています。せっかく出向いてくれているわけですから、全く顔を会わせずに帰って貰うのは失礼ではないかと思うからです。診療の合間に来てくれますので、長時間話をするわけにはいけないのですが、短時間でも担当者と話をしているといろいろと興味深いことを話しすることができます。

先日、歯科材料店の担当者Y君と話をしていると、原油価格の高騰について話がでました。Y君曰く

「原油価格の高騰で最も影響を受けているのは、ガソリン代ですね。僕らの仕事は先生方から注文を請けた歯科材料や製品を届けることですが、毎日多くの歯科医院を多くの歯科材料、製品などを持っていくわけですから、どうしても車が欠かせません。車の移動をせざるをえないのですが、ガソリン代が急速に上がると経費がバカにならないのです。なるべく安いガソリンスタンド、割引を実施している曜日や時間帯を見は駆りながら燃費を稼ぐようにしているつもりですが、これほど急速にガソリン代があがると、節約も限界に近づいているように思います。」

自動車で外回り、営業の仕事をしている方なら誰もがY君と同じような悩みを抱えていることでしょう。また、運輸、運送関係の仕事をされている方などは原油価格の高騰はもはや死活問題と言っても差し支えないくらい切実な問題になっています。コストダウンの努力をしても追いつかない原油価格の高騰に悲鳴をあげている企業、会社は多々あるはずです。

この原油価格の高騰、歯科業界全体ではどうかといいますと、歯科医院のレベルでは直接的な影響はまだ出ていないのですが、歯科関係の製造メーカーレベルではかなりの影響が出ているようです。中でも石油価格の高騰に伴う原材料のコスト高により、道具類や石膏などの製造コスト上昇が大きく、どうも販売価格の上昇につながってくるようです。
このことに先行してというわけでもありませんが、歯科医院レベルで大きな影響を受けているのが歯科金属です。特に、金やパラジウムといった歯科用貴金属はほとんど全てが海外からの輸入、海外依存度が大変高いのですが、価格が高騰しています。ところが、実際に歯科用金属を用いた差し歯、被せ歯の価格はといいますと、保険診療では価格が1年以上据え置きとなっています。原材料が高騰しているにも関わらず価格が据え置かれている。これは歯科医院の経営にとって非常につらい状態です。
ほとんどの歯科医院は保険診療を行っていますが、基本的に保険診療による報酬は2年に1度決められと、以降2年間はそのままです。物価の変動に対応した診療報酬設定ができなくなっています。これが果たして良いことなのかどうかわかりませんが、少なくとも昨今の原油価格の高騰に伴う物価の上昇にうまく対処できない医療機関が多いのは事実です。
原油価格の高騰によりメーカーの値上げが提示されているにも関わらず販売価格の値上げができない、現在の小売販売店と同じジレンマを抱えているのです。

昨今、医師不足による医療機関の廃止がいろいろと報道されていますが、原油高騰による医療機関への影響は医療機関の経営体力を疲弊させ、いくつかの医療機関が倒産、廃止されることにつながります。そうなれば、現在の医療制度そのものが崩壊の危機に瀕することになりかねません。
原油価格の高騰を何とか乗り越える手立てはないものか?間も無く歯科医院の経営にも大きな影響が出てくることは確実な原油価格の高騰は、僕のような零細歯医者にとっても大きな悩みの種の一つです。



2007年12月17日(月) 引継ぎが出来ていない!

こちらの日記に何度も書いたことですが、僕は歯医者として患者さんの治療をしている合間に某専門学校で非常勤講師として講義を担当しています。この非常勤講師、前任者は親父でした。親父が高齢のため自分の後任として僕に声をかけたのです。僕は熟考の末、非常勤講師の職を受け継ぐことにしたのですが、しばらくして僕は親父と一緒に某専門学校に挨拶に行きました。親父は某専門学校の担当者に後任である僕を紹介し、名刺交換をさせてもらいました。その後、親父からは担当科目の資料をもらい、講義や某専門学校の概要、学生のこと、授業や試験のことについて教えてもらいました。今から思えば親父からの非常勤講師の引継ぎは比較的上手くいったように思います。

まず、親父から講義内容と某専門学校についての詳細な情報提供がなされたことは僕にとって大きなプラスでした。何の前知識も無い状態であった僕に対し、自らの経験と知識を分かり易く教えてもらったことは、非常勤講師に対するイメージをもつことに役立ったと思います。
それよりも大きかったことは、人と人との関係です。非常勤講師を担当するには単に講義を行うだけでなく、某専門学校の担当者との意思疎通が欠かせないわけですが、前任者である親父と某専門学校との担当者との意思疎通は良好だったようです。非常勤講師の中には付き合いにくい講師や意思疎通が取りにくい講師もいるそうですが、親父はそういうタイプの講師ではなかったようです。

「○○先生(親父のこと)には何かにつけてお世話になり感謝しております。」

某専門学校の担当者がしばしば僕に言っていることを考えると、親父と某専門学校との担当者との間には信頼関係があったのは間違いありません。それ故、息子である僕を自分の後釜として紹介しても、某専門学校の担当者は何の不信も抱かず、異論を唱えず僕を後任として受け入れてくれたように思います。

どんな仕事でもそうだと思いますが、特定の仕事を引き継ぐ際、前任者が仕事を充分に把握し、周囲との人間関係も良好で、言葉に伝えにくい細かいニュアンス、暗黙の了解事項などを伝えてくれると、後任はストレスなく仕事を引き継ぐことができるものです。ところが、世の中常に引継ぎが上手くいくとは限りません。僕自身、何度か引継ぎ上手くいかず、苦労をした経験があります。

その一つが現在仕事をしている、地元歯科医師会のある事業に関する仕事です。地元歯科医師会の会長からある事業のことを担当することを依頼された僕は、前任者に教えを請うべく、連絡を取ろうとしたのですが、前任者は

「引継ぎ事項についてはきちんと書いておきますから。」
の一言のみ。
実際に渡された引継ぎ事項に関する紙はボールペンで走り書きをしたメモのファックス一枚でした。僕は何度か前任者にお伺いを立てたのですが、

「そんなにまじめに仕事をしたらしんどいだけだよ。」

引き継いだ事業に関して、僕はいい加減なことはしたくありませんでした。少しでも前任者の情報を聞き出し、スムーズに事業を継承したかったのですが、前任者にやる気がなく、逃げ出すように、半ば放り出すように僕に下駄を預けるような引継ぎだったのです。そのため、僕は引き継いだ事業の全体像を理解し、仕事をしだすのにかなりの労力を要しました。中でも苦労したのは、その事業に関係している関係者との関係でした。

僕が関係者の何人かと挨拶をしたのですが、その際、前任者は全く姿を現しませんでした。僕が事前にお願いをしていたにも関わらず、まったくなしのつぶてだったのです。挨拶の際、関係者が僕に浴びせる視線に非常に厳しいものを感じました。右も左もわからない後任の僕に対して失礼な態度だなあと内心思っていたのですが、今から思えば、前任者の仕事ぶりがいい加減だったこと、そして、常に上から目線というのでしょうか、相手のことをバカにしたような態度を取り続けていたことが相手に対し非常に心証を悪くしていたのです。そのため、関係者とすれば、前任者の後任に対しあまり良い印象を思っていなかったようです。
僕が後始末をし、その関係者との関係を修復するために、こと細かく意思疎通を図っていったことは言うまでもありません。最近では、何とか僕のことを信頼してくれるようになってきたと思うのですが、前任者がもっとしっかりしていれば、このような不要な努力はいらなかったはずなのにと思わざるをえません。

最近のニュースを見ていると、過去に行われた事件、事故について被害者に多大な迷惑をかけている事例を目にしますが、このような事例の中にはいい加減な引継ぎ、情報伝達の不具合が原因になっていることが多いのではないかと思います。仕事というもの、いつまでも自分一人で行えるものではありません。誰かに引き継がないといけない時が来るものですが、少なくとも僕は自分の行ってきたことを後任者にはいい加減に引き継ぎたくない、責任をもって自分が持っているものを全て伝えられるようにしたいと考えています。



2007年12月15日(土) 四文字熟語の深層心理

昨夜、突然嫁さんが僕に尋ねてきました。

「そうさん、真っ先に思い浮かぶ四文字熟語は何?深く考えずに直ぐに答えてね。」
不意を付かれたような質問でしたが、僕が真っ先に思い浮かんだ四文字熟語は

一心不乱
でした。

更に嫁さんは
「次に思い浮かぶ四文字熟語も教えてよ。」

僕が答えたのは

優柔不断

でした。嫁さんの質問の意図を全く考えず、間髪入れず思い浮かんだ四文字熟語を言ったつもりです。
同じ質問をお袋にもしたところ、お袋の答えは

一生懸命喜怒哀楽

でした。

嫁さん曰く
「今日ね、ラジオを聞いていると四文字熟語の深層心理みたいなことを言っていたのよ。何も考えず、何の先入観も無く直ちに思い浮かぶ四文字熟語からその人の深層心理がわかるっていうらしいの。」
「それで、最初に思い浮かんだ四文字熟語は何を表すの?」
「最初の四文字熟語では、回答者の人生観を表しているらしいのよ。」
「僕の場合は一心不乱で、お袋は一生懸命。なるほど、当たらずとも遠からずってところかな。それじゃ二番目の四文字熟語は何を表しているの?」
「二番目では、回答者の恋愛感らしいの。そうさんの答えでは『優柔不断』だったわよね?」
「過去の自分の恋愛経験を思い浮かべると、かなり当たっているなあ。お袋の場合は『喜怒哀楽』だったけど、これはそのもののような気がするなあ。それでは、あなたの場合は?」

嫁さんの回答は

言語道断四面楚歌

でした。

何という人間だ!でも、かなり当たっているような気がする・・・。



2007年12月14日(金) 制服が便利だと思うこと

歯医者の仕事着と言えば白衣であることは誰もがよく知っていることだと思います。最近では、白衣といっても真っ白の白衣ばかりではなく緑色や青色のものやカラフルな色使いのものを着ている歯医者も多くなってきています。また、形も長い袖のタイプのものからベンケーシー型の白衣などありますが、いずれによせ、仕事着としての白衣は一種の制服であると言っていいでしょう。

うちの歯科医院は自宅の隣ですので、僕は通勤着も仕事着も白衣です。普段の仕事でスーツを着たり、ネクタイを締めるようなことはありません。かつて、このことを会社務めの友人に話すと

「歯医者はいいよな。普段の仕事着が白衣だから。」

彼は常に上下スーツ姿で仕事をしているのですが、毎日同じ形、色のスーツで過ごすわけにもいかず何種類かのスーツを持っているのだとのこと。ただし、毎日着るということでしょっちゅう汚れてくるし、傷みも出てくる。高級ブランドのスーツではなく、量販店で売られている安価なスーツを重宝するそうですが、それでも、決して安い物ではないことに頭を悩ませているとのこと。

「スーツって一種の制服みたいなものなんだけどね、それなりに値段がするんだよ。それに比べて、白衣はスーツほど高くないのがうらやましいよ。」

白衣は一種の制服みたいなものだと書きましたが、制服に関して嫁さんと話をしていると、嫁さんのママ友達の話をしてくれました。

「小学校に入ってから制服ではなくなったので毎日の服の用意が意外と大変になったよ。」

少し解説をしておくと、僕のチビたちが通学している幼稚園や小学校には制服があります。夏服と冬服の二種類があるのですが、チビたちは基本的には同じスタイルで幼稚園や小学校へ通学しています。嫁さんのママ友達の一人は、上のチビの幼稚園時代の友達のお母さんです。上のチビの幼稚園時代の友達は上のチビとは違う小学校へ入学したのですが、その小学校では制服がありません。そのため、毎日小学校へ行かせる時の服に気を遣うようになったというのです。制服のない小学校に子供を通わせている親御さんからすれば当たり前のことのように思われるかもしれませんが、一度制服に慣れてしまうと制服のない生活スタイルに順応するにはそれなりの時間がかかるのだとか。

「子供って直ぐに大きくなるでしょ。高価な子供服を買っていても直ぐに着ることができなくなるからね。かと言って、同じ服ばかり着させるのもどうかと思うし。だから、某スーパーの服や某量販店の物が重宝するのよ。最近は安くてもそれなりの質のものがそろっているからね。」

嫁さんのママ友達の話を聞いて、僕も大学に入学した時のことを思い出しました。中学、高校と制服だった僕ですが、大学に対する憧れの一つが制服を着なくてもよいということでした。制服を着ていると何かに縛られているような感覚がする。自由が制限されているように思った時があったのですが、いざ制服を着ない生活に入ると、毎日の服装を自分で選ばなければいけないことに気が付きました。
ファッションに気を遣うきっかけにはなったと思うのですが、もともと何かとずぼらな僕は、毎日制服を着ていれば問題なかった中学、高校時代が意外と居心地良かったのかもしれないと感じたものです。人間って勝手なものです。



2007年12月13日(木) 喪中葉書を出す寸前だったこと 後編

前編はこちらです。

内科医である弟が疑ったのは大腸に通過障害があるのは何か原因があるということでした。大腸に溜まっている便が下剤や浣腸をしても出ない。大腸の蠕動運動が見られないという事実。ということは、大腸の中で何かが便を出すことを邪魔していると見るべきではないか?
弟の脳裏に最初に浮かんだのは癌でした。癌を疑った弟は、内視鏡検査を行ったのですが、結果は、良性のポリープが見つかったものの癌ではないことが判明。 念のためにと思い、腹部のCTを撮影したところ、予想もしなかったものが見つかったのです。それは、大動脈瘤。

動脈瘤とは、動脈の壁が薄くなり一部が風船のように膨らんでしまった病態のことをいいます。動脈硬化が進み、高血圧な人に起こる確率が高いと言われているものです。動脈の中でも大動脈と呼ばれるところにできた動脈瘤が大動脈瘤です。心臓から体中に血液が送られていますが、その大元ともいえる大動脈。親父の腹部にある大動脈に大動脈瘤が見つかったのです。大動脈瘤は破裂すれば即、死を意味するもの。いつの間にかとんでもない病魔が親父をむしばんでいたのです。

弟はどうすべきか何人かの院内の先生に相談をした。元々弟は手術しなくても血圧を管理することで手術を回避できるのではないかと考えていたようですが、念のために周囲の先生にも意見を仰いだようです。その中の一人の先生曰く

「お父さんの大動脈瘤は形が悪い。これは放置していたら近いうちに破裂してしまう。今すぐにでも手術した方が良い。」

今回幸運だったことは、弟が意見を仰いだ先生の一人が某国立大学胸部外科の専門医だったことです。この専門医は腹部大動脈の治療の専門家で、しかも、開腹手術をせず、カテーテルを使用して大動脈瘤にステント入れることで破裂を防ぐという手術のスペシャリストだったのです。この専門医は週に1回弟の勤務先の病院を訪れていたとのこと。弟が意見を仰いだところ、その専門医も直ちに手術をすべきだという意見。しかも、もし手術をするなら自分が担当するということまで言ってくれたそうです。
弟から説明を受けた親父は直ちに手術ができる某国立大学附属病院へ転院と運びとなりました。

親父の入院はほとんど緊急入院に近いものでした。そのため、転院先の病院の胸部外科のベッドに空きが無く、何とか救急治療部のベットが確保され、入院先となりました。入院するや否や、担当医から手術の説明と同意書の筆記を求められたとのこと。そして、息つく暇も無く、直ちに手術。手術についてはこちらのような手術だったようです。

某国立大学附属病院へはお袋が付き添っていました。僕はといえば診療所で患者さんの歯の診療をしていました。診療が終わり次第、直ちに某国立大学附属病院へ駆けつけるつもりではいたのですが、この時ばかりは親父のことが気になって仕方がありませんでした。弟や主治医からは大動脈瘤が直ちに破裂するようなことはほとんど考えられないが、ゼロではないという話を聞いていました。この“ゼロではない”ということが僕の頭の中から離れなかったのです。もし、手術までに大動脈瘤が破裂すれば親父はあの世へいってしまう危険性がありました。この時の診療していた患者さんには失礼だったとは思いますが、診療中も、親父のことが心配でなりませんでした。

“何とか手術が終わるまで大動脈瘤は破裂しないでくれ!“

診療が終わり、直ちに某国立大学附属病院に駆けつけようとした時、自宅に一本の電話がかかっていました。付き添っていたお袋からの電話でした。

「お父さんの手術は無事終わったよ。成功したよ。」
お袋の声は安堵感と涙ぐんでいるような感じに聞こえました。

僕が病院に到着した頃には親父は既に病室に戻っていました。手術直後のため意識は朦朧としていたが、受け答えはしっかりとしていた。
いつもは親父のことをあまり意識しないような親不孝者の僕ではありますが、さすがにこの時ばかりは親父が生きながらえてくれたことにひたすら感謝のみでした。

驚くべきは術後でした。親父の手術は開腹手術ではないカテーテル手術。両足の鼠蹊部(股の付け根)近くにちょっとした切開の痕があるだけの状態でしたので翌日から早速歩行ができるような状態でした。歩行が出来るというよりも歩行をさせられたというのが正しいようでしたが、親父はわずか数日で某国立大学附属病院を退院、その後1ヶ月余りを弟の勤務先の病院で入院管理されました。回復は思ったよりも早く、手術後、10日ぐらい経過した時点では、入院先の病院の階段を上り下りできましたし、お袋に学会関係の書類を持ってこさせ、病室の机で書きものをしていたくらいでした。
手術前に一向に下がらなかったCRPも無事正常値であるゼロに戻り、主治医である弟から退院の許可が出ました。

今から思うに、風邪を引いたのがきっかけになったにせよ、その後の高熱、CRPの上昇、便秘などは、大動脈瘤に原因があったように思わざるをえません。僕のような素人はもちろん、専門家であるはずの弟もこの大動脈瘤までは予想していなかったのが正直なところです。偶然調べたCTの画像にたまたま大動脈瘤が写っていたのです。腹部大動脈が見つかる時は、他の病気を疑い撮影したCT検査で見つかることが多いそうですが、親父もそんなケースの一例でした。
もし、あの時CTを撮っていなければどうだったであろう?ある日突然、大動脈瘤が破裂し、親父はこの世の人ではなかったことでしょう。何事もなかった親族が突然亡くなるということを考えれば、僕や家族のショックは相当のものだったに違いありません。

今度の親父のことでつくづく感じることは、我々は自分の力で生きているのではなく、目に見えない何かで生かされているのではないかということです。僕は特定の宗教を信じているわけではありませんが、今回の親父のようなケースを目にすると、親父はまだこの世の中で生きているというよりも生かされているというように思わざるをえません。もし、人の命が何かに生かされているのであれば、普段からの心がけをしっかりとしておかないといけない。そのようなことさえ感じます。

1月下旬から3月中旬にかけ僕は一人で患者さんの治療をしてきました。いつかは自分一人で治療しなければいけないとは思っていたものの、思わぬことから一人で治療することになりました。その時感じたのは、いつも当たり前のように思っていた親父の存在感です。いつも親父が側で働いているという環境だったが、それが実に有難いことであったかを改めて実感しました。

4月下旬、親父は歯科治療に復帰できるぐらいまで回復しました。

「仕事をしようという気になってきた。」

現場に復帰した親父は、早速自分を心配してくれた診療所のスタッフの一人一人に快気祝いを渡していたのですが、そんな親父の姿を見て、ほっとした歯医者そうさん。

現在、親父は以前よりもゆっくりとしたペースで休みを多く取りながら体に無理の無いペースで診療をしています。術後半年後のCT検査では大動脈瘤のこぶが完全に消えて無くなっていたことが確認されました。親父にとってこの一年は今までに経験したことのない一年でしたが、結果として現代医学の発展のおかげで命が救われました。誰かが言っていましたが、人間というもの、生きているだけで儲けもの。年末、僕は親父の喪中葉書ではなく、年賀状を印刷できる幸せをかみしめています。



2007年12月12日(水) 喪中葉書を出す寸前だったこと 前編

今週に入ってから僕はあることの準備を始めています。それは、年賀状の印刷。
我が家では年賀状の印刷は僕の仕事です。自分の分はもちろんのこと、嫁さんや親父、お袋の分まで印刷を担当します。四人分の年賀状の印刷となるとかなりの量にはなるのですが、年賀状作成ソフトとプリンターのおかげでストレスを感じることなく印刷することができるのは有難いことです。
年賀状を印刷する前に必ずすることは、喪中葉書のチェックです。年賀状作成ソフトでは喪中葉書の送り主を省いた人たちを選び出すことができ、該当者の年賀状を印刷するわけです。最近の年賀状作成ソフトの便利さには驚くばかりです。

さて、今年我が家に届いた喪中葉書を点検しているとあることに気がつきました。それは、喪中葉書に送り主のお父様が亡くなられたことを記載したものが多くを占めたからです。毎年、喪中葉書を受け取りますが、それにしても今年ほどお父様が亡くなったことを記した喪中葉書を受け取る年は珍しいくらいです。
いつもの年であれば簡単に流せるところですが、今年の僕はお父様が亡くなった喪中葉書に非常に感じるものがありました。その理由は、僕も一歩間違えれば、今年は喪中葉書を出さなければいけないところだったからです。親父の喪中葉書をです。


あれは2007年(平成19年)が明けて間もない1月10日過ぎだったでしょうか。親父が突然風邪をひきました。

“新年早々、風邪をひくなんて親父もついていないなあ”
と思いながらも、最初のうちは単なる風邪だろうと高をくくっていました。ところが、親父の風邪は一向によくなる気配がありませんでした。一週間以上37度台の微熱が続いたのです。微熱とはいっても一週間以上続くと体力的にはこたえるもの。まして、今年76歳の親父にとってはかなり体力的にきついところがあったのですが、それでも、親父はまだ診療を続けているくらいの元気がありました。

“たかが風邪くらいで仕事を休んでなんかいられない。”
親父はそのように考えていたようです。 今となって思えば、これがよくなかったかもしれません。

微熱が続いていた親父の体調が急変したのは1月下旬でした。午前中の診療を終えた親父は、昼食を取ろうとした時、突然体調不良を訴え、寝込んでしまったのです。

”親父は大丈夫だろうか?“と思っているうちに、親父は突然身震いを起こし始めたのです。当初、僕は冗談かと思っていましたが、そうではなく本当の身震いでした。よく寒い外気に触れると体が震えることがありますが、親父の震えはそのような震えよりも更に深刻な状態。尋常な震えではなかったのです。専門的にシバリングと呼ばれる震えでした。

直ちに近くの病院に勤務している内科医の弟に親父のシバリングについて相談したところ、シバリングは風邪が長引いた際、ちょくちょく出る症状であるが、直ぐに入院しなくてはいけないものではない。念のためにリンゲル液を点滴しておいて欲しいとアドバイスしてくれました。
僕は弟の指示に従い、僕は親父にリンゲル液の点滴をしました。実は、この点滴が一苦労でした。シバリングにより親父の血管は収縮してしまっていたからです。いつもなら難なく点滴の針を入れることができる親父の血管でしたが、収縮することにより、点滴用の針を血管に入れることがなかなかできませんでした。僕は点滴の針刺しある程度自信を持っていたのですが、何度も点滴の針を刺しても血管の中に入らず、気ばかりあせりました。それでも、何とか針を入れることができたのですが、この時ばかりは自分の点滴針刺し能力の力の無さを嘆いてしまいました。
リンゲル液を点滴することにより、親父のシバリングは落ち着いてきたのですが、風邪の経過が芳しくないのは明白。心配して家に駆けつけた弟が直ぐに親父を診てくれました。親父を診た弟曰く、

「入院して治療した方がよさそうだ。」

親父は弟が勤務する病院で緊急入院する運びとなったのです。

入院してからは、親父には毎日抗生物質の点滴投与が続きました。いつまでも微熱が続いているため、集中的に抗生物質を点滴投与することで徹底的に風邪を治そうという弟の意図でした。おかげで親父の高熱は下がり、日々回復してきているように思えたのですが、親父の顔色は一向にさえません。

「どうも力が入らないんだ。」

この言葉を裏付けるようなことが検査データの中でありました。それはCRPという炎症反応を示す値がなかなか下がらなかったのです。通常、CRPはゼロまたは限りなくゼロに近い値なのですが、親父は入院当初は9を越えていました。抗生物質の点滴投与でCRP値は3まで下がったものの、それ以上、下がず、下がり止まりの状態が続いていたのです。
主治医である弟はどうすべきか悩んでいましたが、一時的に自宅へ帰り療養しても差し支えないではないかという判断に至り、一時的に退院となった。2月初旬でした。

以降、親父は弟の病院は通院治療をしていたが、CRPは一向に下がりません。

“一体何が原因なのだろう?”
弟に何度も尋ねましたが、弟もはっきりとした理由がわからず悩んでいたようでした。
そのような中、親父があることを訴えました。それはお通じがよくないこと、便秘でした。病院に入院して以来、まともに便が出ないというのです。最初のうちは、抗生物質を大量投与したことによる副作用ではないかということで、下剤を処方され服用しながら、浣腸も何度か行いました。ところが、便秘は全く改善の兆しすら見えなかったのです。2週間以上便秘が続いていました。

“これは何かおかしい!”

親父自身、長く続く便秘に不安なものを感じたらしく、

「もう一度入院して詳しく診てもらった方がいいな。」

親父は弟に頼み、再度入院した。これが2月中旬。

弟は消化器官を中心に精査することを決断しました。便秘が単に抗生物質による副作用によるものか、それとも他の理由があるのかを見極めるために。

親父は大腸を内視鏡検査してもらったり、レントゲン写真を撮ったりしたところ、大腸そのものが蠕動運動していないことがわかりました。単なる抗生物質の副作用だけでは考えられない何かがある可能性があったのです。
そこで、弟は急遽いくつかの血液検査とCT検査をしたのですが、CT検査で写し出された画像の中に、思いもよらぬ病魔が写っていました。その病魔とは・・・。

明日に続く。



2007年12月11日(火) 見た目が悪くても・・・

11月初旬、近所のおばさんがある物を持ってきました。

「今は渋くて食べられないけど一ヶ月くらいつるしておけば甘くなるからね。」

今は渋い物とは渋柿のことでした。皆さんもご存知だと思いますが、渋柿をつるして天日に一ヶ月くらい干すと甘い干し柿ができます。
うちの辺りは田畑に囲まれた田園地帯なのですが、いたるところに柿の木があります。中には家の庭に柿の木がある家もあるのですが、近所のおぼさんのお宅もそうで、いつもお世話になっているからということで柿を持って来てくれたのです。

早速我が家では、柿の皮をむき、天日が当たる窓際の柵に柿を吊るしておきました。

吊るしてから1週間後




吊るして3週間経過すると




そして、ほぼ一ヶ月の昨日の時点では




ぼちぼち食べられる頃です。さて、どんな干し柿になっているのか?今日、賞味してみたいと思います。

日が経過するとともに見た目は悪くなってきますが、味は中の糖分が凝縮され甘味を増してきます。これが真夏であれば直ぐに腐ってしまいますが、気温が上昇しない今日この頃、中でうまく熟成してくる干し柿。

こうやって日に日に干し柿が出来てくる過程を見ていると、人間と同じようなところがあるように思います。時間が経過すればするほど、見た目は悪くなってきます。肌のつや、張りは若い人にはどうしても勝つことができません。
けれども、中身はどうか?誰もが時間の経過とともに様々な人生経験を積んでいるはず。できることなら、干し柿の変化のように日に日に中身の豊かな人間になることができれば。
食べごろの干し柿を見て、そのようなことを感じた、歯医者そうさんでした。



2007年12月10日(月) 歯の悪化スパイラル地獄

先日、ある患者さんが久しぶりに来院しました。この患者さん、上の前歯の被せ歯をセットしようとして歯型を取り、被せ歯を作ってセットする直前になって来院が途絶えました。うちの歯科医院では何度か連絡を取ったのですが、連絡が全くつかず、そのままにせざるをえませんでした。

それから数ヵ月後、その患者さんが来院したのです。来院した理由は仮歯が取れたということ。仮歯を装着していた歯は上の前歯で、まさしく被せ歯をセットしようとしていた歯そのものでした。
患者さんに確認してみると、しばらくの間家庭の事情で来院することができなかったとのこと。これが本当の理由かは定かではありません。おそらく、仮歯が割れたことで見た目や触感が悪くなり、溜まらず来院したというのが本当のところではないかとは思ったのですが、そのようなことは口に出さず、作っていた被せ歯をセットしようとしました。ところが、セットはうまくできませんでした。その理由は、被せ歯をする歯と隣の歯の間に隙間ができていたからです。

仮歯を被せていた歯と隣の天然の歯との間には多くの食べかすが溜まっていました。このように食べかすが溜まったまま放置していると、歯と歯との間には徐々に隙間が生じてくることがあるのです。
そんなことがあるのだろうか?と思われる方もいるかもしれませんが、これはしばしば見られることです。歯と歯の間に物が詰まったまま放置していると、両方の歯を広げるような力がかかるのです。その結果、接している歯と歯が微妙に傾斜したり、移動するのです。一種の食べかすによる歯の矯正治療のようなことが起こってしまうのです。

この患者さんの場合もまさにそうで、せっかく作っておいた被せ歯をセットしようとしても隣の歯との間に隙間ができてしまったため、セットすることができませんでした。結果として再度歯型を取り直すことになりました。
これは歯医者にとっても患者さんにとっても非常に無駄なことです。勝手な患者さんの治療中断によりせっかく作っていた被せ歯が合わなくなり、結果的に再度歯型を取り直し、作り直さざるをえなくなった。二度手間としかいいようがありません。

上記のように、患者さんの中には治療途中にも関わらず来院しなくなる中断患者さんがいるものです。患者さんなら誰でも一日も早く自分の治療が終わることを望むものですし、治療を行う歯医者も治療が少しでも早く終わることができるようにしたいと考えてはいますが、一本や二本の歯が悪いだけならまだいいのですが、多数の歯にわたり問題があるような場合、どうしても長期間の治療が必要となります。長期間の治療というのは患者さんにとって忍耐がいることであり辛抱強く歯医者に通わなくてはならないことは歯医者もよくわかっています。

ところが、患者さんの中には治療期間中にもかかわらず、何らかの理由で治療が中断し、そのまま放置してしまうケースがあるのです。このような患者さんの場合、どうなるか?
悪い状態の歯が更に悪くなっていくことは言うまでもありません。悪い状態の歯が更に悪くなっていくということは治療の手間、時間が更にかかるということを意味します。すなわち、治療費用が更にかさんでしまうのです。治療費用がかかるから歯医者に行かないとなると、当座は治療費を節約しているようでも結果的に治療をしなければならない歯が更に増え、治療費が更に増える。悪い歯を放置してしまうということは、自らの体の健康状態を悪化させるだけでなく、自らの懐も寂しくなってしまう、経済的に追い込まれてしまうことにもつながりかねないのです。

歯が悪いのを放置しているといつの間にか歯を治療したくても治療できなくなるような状況に追い込まれる。歯の悪化スパイラル地獄に追い込まれる患者さんが確実に存在するのは悲しいことです。



2007年12月08日(土) 入れ歯飲み込み事故

昨日、ニュースを見ているとこのようなニュースが流れていました。

飲み込んだ入れ歯を見過ごしたため患者が肺炎を発症、死亡させたとして、京都府警は6日、業務上過失致死の疑いで、京都市下京区の「武田病院」に勤務する男性医師(44)を書類送検したとのこと。京都府警の調べでは、男性医師は今年1月27日、自宅で食事中に下あごの入れ歯を飲み込んで同病院に搬送された同区の無職女性=当時(60)=を診察、「入れ歯の飲み込みはない」と判断して帰宅させたそうですが、5日後、食道に膿などがたまることによって肺炎を発症させ死亡させた疑い。
これまでの調べでは、飲み込んだ入れ歯は縦約4センチ、横約6センチの馬蹄(ばてい)形。医師はレントゲン撮影をしたが、アクリル樹脂製だったため、画像に映らなかったとのこと。
京都府警は女性の夫(66)からの告訴を受けて捜査を開始。女性側は診察時、「入れ歯がのどに詰まっている」と訴えており、府警はCT検査などで詳しく検査すれば食道に詰まった入れ歯を発見できたと判断したそうです。

この女性は上顎、下顎とも総入れ歯を装着していたようです。総入れ歯の場合、下顎の総入れ歯の方が維持、安定が悪い場合が多いのが実情です。その理由は舌にあります。
下顎の場合、舌があるわけですが、舌は食事や会話によって絶えず動きます。そのため、総入れ歯の場合、余程維持がよくないと動きやすいのです。
しかも、上の総入れ歯に比べ、下顎の総入れ歯は舌がある分接触面積が少ないのです。入れ歯の維持、安定は接触する面積が大きければ大きいほどいいわけですから、下顎の総入れ歯は上顎の総入れ歯に比べて歯肉への維持、安定性が劣っていることがわかると思います。歯医者にとって、維持、安定の良い下顎の総入れ歯を作ることは、かなり難易度の高い治療の一つなのです。特に、歯周病が進行し、全ての歯を失った人の場合、顎の骨も痩せている傾向が強いもの。顎の骨が痩せていれば痩せているほど総入れ歯の維持、安定は悪くなります。

おそらく、亡くなられた女性は下顎の総入れ歯の維持、安定性があまり良好ではなかったのではないかと思います。そのため、何気なく飲んだ飲み物で入れ歯を誤って飲み込んでしまったのではないかと思います。

記事にも書いていますが、総入れ歯の場合、保険診療で作った総入れ歯はアクリル製です。このアクリル、X線に対する透過性が良いのです。ということは、レントゲン撮影を行っても総入れ歯は写らない、写ったとしても明確に写らないのです。この記事の医師が診断を誤った背景には、総入れ歯の材質の問題が大きく影響していたことは間違いようです。

それでは、飲み込んだ総入れ歯をどうやって取り除くかということになりますが、基本的には内視鏡によって取り除くことになると思います。口から内視鏡を入れ、入れ歯をはさんで取り除くことで取り除くことができるのですが、一つ問題があります。それは、内視鏡を使いこなすことができる医者しかこの作業を行うことができないということです。救急の医者であれば誰でもできることではないのです。実際の臨床の場では、耳鼻咽喉科の専門医が行うことになると思います。

入れ歯のような大きなものを飲み込めることができるのかと思われる方がいるかもしれませんが、総入れ歯で口の中で維持、安定がうまくいかず動き回っているような入れ歯の場合、飲み込んでしまうリスクが高いのです。
皆さんの周囲で、入れ歯、特に総入れ歯を使用している人で、総入れ歯の調子が悪いと訴えているような人がいれば、是非、近くの歯医者を受診することを勧めて欲しいと思います。歯医者で入れ歯の調整をすることで、総入れ歯の維持、安定性は改善されることが多いもの。このことが入れ歯の飲み込み事故を防ぐことにもつながりますから。



2007年12月07日(金) 口の中は宝の山 乳歯バンク設立

昨日、僕はある小学生の抜歯をしました。その歯とは乳歯。乳歯が抜け落ちていない状態にも関わらず永久歯が生えてきていたのです。このような場合、乳歯を放置しておくと後続永久歯の歯並び、かみ合わせの乱れの原因となります。そのため、永久歯の一部が生えてきたにも関わらず乳歯が抜けていない場合、抜歯の対象となります。昨日の小学生も抜歯を行なったわけです。抜歯した乳歯は小学生と親御さんに見せ、家に持って帰ってもらったのですが・・・。

診療が終わり自宅でニュースを見ていると、このようなニュースが流れていました。

名古屋大学医学部の上田教授らのグループが、乳歯から骨や神経など様々な細胞に分化する能力を持つ「幹細胞」を取り出し、再生医療に役立てる研究をするため、学内に「乳歯幹細胞研究バンク」を設立したと発表したとのこと。
乳歯は同大付属病院など6病院から提供を受け、数年で1万個程度の幹細胞を収集、研究データを集めて臨床応用を目指すそうです。同大によると、大学などの公的機関に乳歯の幹細胞バンクを設置するのは世界初。
 幹細胞を使った再生医療では、骨髄や臍帯血(さいたいけつ)がありますが、乳歯の幹細胞はこれらに比べて、細胞の増殖能力が高く、採取が簡単なことから、実用化に期待が集まる可能性が高いとのこと。
 上田教授らは子犬の歯から取り出した幹細胞で親犬のあごの骨を再生できることをすでに確認しており、近親者の再生医療に使える可能性もあるとのこと。上田教授らは犬の実験例を重ねて研究成果を発表したうえで、厚生労働省や学内の倫理委員会の審査を経て、人の臨床実験を実施したいとしているそうです。
 上田教授は「これまで捨てられていた歯が有効活用できるうえ、受精卵からつくられる胚(はい)性幹細胞(ES細胞)に比べ、倫理的な問題も少ない。将来的には、孫の乳歯で祖父母の骨粗しょう症による骨折や傷跡などを治療できる可能性がある」と話しているようです。

先に京都大学の研究グループもES細胞がらみで成果と出していましたが、彼らが利用していたのも口の中の粘膜の細胞でした。今回の名古屋大学のグループは脱落する乳歯や親知らずを研究対象としています。
上のニュースでも書いていますが、これまで再生医療では骨髄や臍帯血、受精卵などを研究対象とすることが多かったのですが、いずれの場合も簡単に利用できる代物ではありませんでした。特に人間から骨髄や臍帯血、受精卵を取り出すには体の負担が大変だったわけですが、口の粘膜や脱落し、捨てられるような乳歯や親知らずとなると、さほど体に負担をかけることなく容易に取り出すことができるのが大きな利点となります。

現在、世界中で再生医療の研究が行われていますが、今後ますます口の中を対象とした再生医療の研究は進むことでしょう。ある意味、口の中は再生医療にとって宝の山ともいえる、そんな時代に突入した感さえあります。



2007年12月06日(木) ”誰のおかげで飯を食っているんだ!”考

先日、嫁さんと話をしていると、ママ友達の一人が旦那さんとケンカをしたという話を聞かされたというのです。きっかけはほんの些細なことだったようですが、言い合っているうちにエスカレートし、旦那さんの口から

「一体誰のおかげで飯を食っているんだ!」
と啖呵を切られたようなのです。

おそらく、“誰のおかげで飯を食っているんだ!”と言う背景には、自分が稼いでいることを前面に主張したい、自分が稼いでいるんだから、偉そうなことを言うな、自分の言うとおりにすればいいんだというようなことを言い含めたいことでしょう。

僕は考えてみました。我が家では“誰のおかげで飯を食っているのだろう?”かと。

僕は歯医者として患者さんの治療に当たっていますが、治療に対してそれなりの治療報酬を患者さんから頂いています。うちの歯科医院では保険診療がメインですから、様々な治療に対しては点数が決められ、その点数の10倍を治療費として患者さんと患者さんが所属する保険組合から頂いているわけです。保険組合は患者さんが毎月掛け金を支払っているわけですから、僕が稼いでいる治療報酬は患者さんがあってこそ初めて稼ぐことができるものです。
“一体誰のおかげで飯を食っているんだ!”と言われれば、僕の場合は、まずは“患者さんです”と答えざるをえないでしょう。

飯を食うために稼ぐ場所としては歯科医院ですが、歯科医院では歯医者一人では切り盛りすることはできません。僕の周囲にいるスタッフの力無くしては歯科医院は機能しないのです。歯医者は患者さんの治療をすることはできますが、治療の補助、受付業務、歯科衛生士であれば歯磨き指導など患者さんに対して適切な医療サービスを提供するには歯医者だけでは無理な話なのです。
そういった意味では、“一体だれのおかげで飯を食っているんだ”!“と言われれば、僕は”スタッフのおかげです“とも言わなければいけないでしょう。

僕は歯医者として仕事をしていますが、歯医者として仕事をしている間、家を切り盛りしてくれるのは嫁さんです。嫁さんは僕が起きる前に朝食の準備をしてくれます。昼休憩の際、自宅に戻ると昼食ができています。そして、一日の診療が終わり帰宅すれば、晩御飯を作って待っていてくれます。仕事が終わり、自宅に戻った時に食事が出来ている。これは非常に有難いことです。どんなに仕事で疲れていたとしても食事がすぐに出来ている状態というのは精神的に安心できるもの。これを毎日やってくれているわけですから、僕は嫁さんには頭が上がりません。
この意味において、“一体誰のおかげで飯を食っているんだ!”と言われれば、僕は“嫁さんのおかげです”と答えることになるでしょう。

僕は独り身ではありません。嫁さんだけではなく、両親と二人の子供がいます。家族は社会の最小単位ですが、僕は家族の存在なくして僕は生きていくことができません。歯医者として仕事に精を出すことができるのは、まさしく心の拠り所としての家族があるからこそです。

僕にはこれまで僕を育ててくれた数々の恩師、先生、先輩がいます。また、僕とともに同じ時間を過ごしてくれた友人、知人、後輩たち。彼ら、彼女らのサポートが無ければ、今僕は歯医者として何とか生活をしていくことができるといっても過言ではありません。
“誰のおかげで飯を食っているんだ!”と言われえれば、僕は彼ら、彼女らの存在を無視することは到底出来ません。

これらのことを考えれば、少なくとも僕は、平気で“誰のおかげで飯を食っているんだ!ということは言えません。いくら感情的になったとしても、僕は口が裂けても、腹が裂けても言えない言葉です。



2007年12月05日(水) 甘いお菓子が嫌いな女の子

僕が世話になった恩師K先生にはお嬢さんが一人いました。Hちゃんというお嬢さんでした。身長が高く、スリムな体型。目鼻立ちのはっきりとした顔からは美人と呼ぶにふさわしい彼女。
Hちゃんはご両親に厳しく躾けられた影響で、非常に礼儀正しく、物腰の柔らかいお嬢さんなのですが、変わった点が一つありました。それは甘いお菓子が嫌いだということです。

女性といえば甘いものに目が無い人が多いのではないでしょうか?昨今のスイーツブームでも各地のスイーツを販売しているお店に出入りする人の多くは女性。女性とスイーツは切っても切れない関係にあると言うことは決して言い過ぎではないと思います。
甘いものが好きな人が多い女性の中で、Hちゃんは心から甘いお菓子が嫌いなのです。どうしてHちゃんは甘いお菓子を嫌うようになったのか?それはHちゃんのお父さん、K先生に理由がありました。

K先生の専門はむし歯の予防に関する研究でした。むし歯はむし歯菌が口の中にある砂糖を取り込み、代謝して出す乳酸によって歯が溶かされる病気です。むし歯を予防するには、いくつかポイントがあるのですが、その一つがむし歯を作り出すむし歯菌の活動、代謝を抑制することです。具体的にどうすればいいかというと、口の中に入れる砂糖の量を制限するということです。むし歯菌が好物としている砂糖を口の中に入れなければむし歯菌は生きていくことができず、結果として乳酸を出すことがなく、むし歯にならないというわけです。

かつてK先生は、動物実験でこの事実を何度も確かめていたのですが、実際の人間でも言えるのかどうか確かめたく、自分の子供で確かめようとしたのです。それがHちゃんだったわけです。K先生はHちゃんには生まれてから15歳になるまで甘いお菓子を一切食べさせなかったのです。三度の食事はきちんと取らせていました。また、三度の食事の間の間食も食べさせていたのですが、砂糖が含まれていない食べ物のみ食べさせていたといった徹底ぶり。

かつて、日本マクドナルドの創始者である藤田田は幼少期の食事の嗜好が一生の食事の嗜好に影響すると語っていました。マクドナルドが子供向けメニューの開発に熱心に取り組んでいる理由の一つは、少しでも多くの子供にマクドナルドの製品を食べてもらい、美味しいことを実感してもらうことにより、将来にわたりマクドナルドの顧客として足を運んでもらうことを狙ってのことです。

K先生も幼少期の食事の嗜好がその後の大人になってからの嗜好に影響することを知っていました。K先生はHちゃんに甘いお菓子を一切食べさせないようにした。その結果、Hちゃんは見事に甘いお菓子を好まないようになってしまったというわけです。

実際のHちゃんの口の中はどうなったでしょう?これも見事なのですが、Hちゃんは乳歯、そして、生え変わった永久歯に至るまで一本のむし歯になることはありませんでした。K先生のもくろみは大成功といっていいでしょう。甘いお菓子を食べることがむし歯発生に大きく関与していることを実証したのです。

甘いお菓子を好まなくなったHちゃんでしたが、困ったこともあったようです。それは友達付き合いがうまくいかなかった時があったことです。
女の子同士、集まって話しに華を咲かせる際、甘い物を食べたり飲んだりしながら話をすることが多いものですが、甘いものを好まなかったHちゃんは、出された甘いお菓子に手をつけることがなかったため、時には奇異な目で見られたとのこと。付き合いのため、仕方なくお菓子を食べたそうですが、心底甘いお菓子を美味しいと感じながら食べたことはないのだとか。どちらかといえば苦痛に近い感じでお菓子を食べながら話をしていたそうです。



2007年12月04日(火) 年末交通取締り 裏話

いつの間にか気が付いてみれば暦は師走ですね。今年一年も後30日を切ってしまいました。何だか毎日があわただしく感じているうちに一年が通り過ぎていく。そのように思わざるをえない今日この頃です。

先週末、地元歯科医師会の有志の先生が集まっての忘年会がありました。いつものようにいろいろとわいわい騒ぎながら忘年会に参加していたのですが、忘年会に遅れて参加していた先生の中に警察歯科医のY先生がいました。

「遅くなってすまん。」
「先生、今日は急用で遅くなるということでしたけど一体何だったんですか?」
「詳しくは言えないんだけど、警察歯科医の仕事で地元警察から呼び出しがあったんだよ。それほど時間がかからなかったので、今日の忘年会をドタキャンせずに済んだね。」
「突然の呼び出しってどれくらいあるものですか?」
「時によりにけりだけども、一ヶ月に一回はコンスタントにあるかな。不審死体の検死がなんだけど、続く時は一週間に二、三度なんてこともあったな。」

「ここだけの話にして欲しいのだけど、今日警察に行ったら、交通課の連中が話をしていたよ。年末に交通取締りが多くあるだろう。今年の年末も各地でいろんな交通取締りがあるはずだ。今日話し合っていたのは、速度制限での取り締まりだったよ。」
「速度制限の取締りってどんな感じですか?」
「毎年、重点的に行われる場所がある。今年は速度制限が50キロからいきなり40キロになる場所が市内に数ヶ所あるんだけど、そこがターゲットになるらしい。○○や△△のあたりがそうなんだよ。そこを狙い目にしたいけど、取り締まった車を誘導できる場所が確保できるのかどうか・・・なんてことを話しあっていたな。」
「面白いのはね、警察の中だよ。俺がいつも付き合っている鑑識課の連中は交通課の連中をバカにしているんだよ。警察はお互いの課同士は干渉しない暗黙の了解みたいなものがある。例え、警察の車を走らせていても鑑識課の連中が乗っていたら、スピード出しすぎの車両は捕まえないんだよ。鑑識課の仕事は交通課の仕事ではないから見て見ぬフリをするものなんだ。ところが、実際はお互いのプライドが高くてね。特に鑑識課の刑事は交通課の連中を鼻にもかけていないんだよな。今回も交通課の連中が年末取締りの話をしていたら、鑑識課の刑事の一人が言ったよ。『そろそろ連中、ボーナスの査定時期やからな』って。警察ってそんなもんだよ。」

「この話、あくまでもここだけの話にしておいてくれよな。口外しないように!」

Y先生、すみません。口外してしまいました!



2007年12月03日(月) 休日応急診療は何かと大変

昨日は久しぶりの休日応急診療。僕が所属する地元歯科医師会では輪番で日曜日や祝祭日、に応急歯科診療所を開院しています。これは地元市と地元歯科医師会とが協力して開設している診療所で、地元歯科医師会のある会館の一部を診療室に改装し、診療を行っているものです。ウィークデーは開院せず、日曜日や祝祭日といった開業歯科医院が休診している時に開院し、歯科応急処置を行っているのです。担当医は地元歯科医師会の先生が輪番で当たっているのですが、昨日の日曜日は僕が当番で出務してきました。

当たり前のことではあるのですが、応急歯科診療所には老若男女問わずいろいろな職種、性格の方が来院されるわけですが、これが結構大変です。普段の診療であれば、なじみの患者さんの合間に初診の患者さんが来院するような形で診療しているのですが、応急歯科診療所ではほとんど全ての患者さんが初診です。初診時には患者さんの訴えを聞きながら、必要事項をカルテに記入しなければなりません。そして、治療となります。
治療は様々で単に薬だけを出して様子をみる場合もあれば、歯痛を治すために歯の神経の処置をしたり、歯肉の切開、入れ歯の調整、歯の破折、脱臼、脱落した差し歯、被せ歯をくっつけなおしたりなどなど、様々です。歯科の治療は内科や小児科のように検査や薬を出すだけでなく、ほとんどの場合治療が伴っているもの。その分、一人一人の患者さんにかける治療時間がかかります。しかも、治療が終われば、治療内容をカルテに記入し、薬の処方をします。後処置が必要な患者さんの場合は紹介状を書いたりもします。単に治療をするだけでなく様々な事前処理、事後処理を行わなければならないのです。そのため、応急歯科診療所での仕事は、患者さん一人当たりにかける手間、時間がかかり、面倒なところがあります。かといって手を抜くわけにもいかず、来院した患者さんには最低限、主訴が軽減するようにして帰宅してもらうようにすることが担当医の責務です。

昨日も多くの患者さんが来院しましたが、診療が終わる時間帯にはヘトヘトになりました。
とは言っても、この応急歯科診療、僕にはある種の刺激を与えてもらっていると思います。応急歯科診療所に来院される患者さんは我慢できない歯痛や歯肉の腫れで早急に処置をしないといけない場合が多いのですが、中には“どうしてここまで我慢していたんだ?”と思わず言いたくなるような患者さんや何も応急歯科診療所に来院する必要性が疑わしい患者さん、一方的に自分の意見をいいまくる患者さん、堅気ではない怖さをもった患者さん、日本語が通じない患者さん、保険証を持たずに来院する患者さんなどいるのです。たかが日曜日、祝祭日に開院している歯科応急診療所ではあるのですが、来院する患者さんを診ていると世の中の縮図を見ているような感さえします。社会勉強ができる貴重な場として、世間知らずの歯医者そうさんは勉強させてもらっております。



2007年12月01日(土) 生が一番

昨夜、地元歯科医師会である勉強会があり出席してきました。若手の先生を中心に集まった勉強会ではあったのですが、勉強会の途中、ほとんどの先生がうとうとし、中には眠気に負けて寝てしまった先生もいました。僕自身、非常に眠たく、次々と襲ってくる眠気に耐えるのが非常につらかったのです。
どうしてこんなに眠たかったのか?昨日は週末の金曜日であり一週間の疲れが溜まっている時間帯ではありました。いくら若手の先生とはいえ、歯医者の仕事は体力勝負。暖房の効いていた室内と夜間の時間帯が眠気に拍車をかけていたことは否定できません。けれども、興味深い、内容のある講演会であればそのような眠気は吹き飛んでしまうものなのですが、昨日の勉強会はそうではありませんでした。

実は昨夜の勉強会はDVDを視聴する形式の勉強会だったのです。日本歯科医師会では全国各地で自らが主催する学術講演会を行っています。本来なら、全ての都道府県単位で行わないといけないのですが、経費がかさむということで、講演会は一部の地域のみ行い、講演会を行わない地域は講演会を収録したDVDを視聴することを勧めているのです。DVDであれば時間、場所を問わずいつでもどこでも講演会を受講することができる。そういった触れ込みで僕が所属する地元歯科医師会にも講演の模様が収められたDVDが送られてきたのです。このDVDによる講演会が昨夜行われたというわけです。

昨夜のDVD講演会は、講師は著名な方で、講演内容も歯科臨床に役立つものではあったのですが、一番の問題は講演会のような臨場感がなかったことです。通常の講演会であれば、講師自らが会場に集まった聴衆に自らの声で語っています。講師の息使い、講師が発する熱気、オーラまでもが感じられるものです。また、講師も会場の雰囲気を察し、単に自分の話を語るだけでなく、咄嗟の判断で微妙に表現を変えたり、一部内容を変更したりしながら講演会場に即した講演ができるものです。言葉では表せない講師と聴衆とのコミュニケーションがあるものです。
また、講演会には質疑応答がつきものです。講演が終了してから講師に対し、当日の講演内容や講演に関連した質問を直にして、回答を得ることができます。なかなか論文や業界雑誌では知ることができない微妙な内容や裏話などを聞くことができる貴重な場でもあるのです。
昨夜のようなDVD講演会では講師は常に画面の中。当然のことながら、臨場感はありませんし、講演終了後の質疑応答は不可能です。せっかく講演内容が面白くてもDVDを見ていると緊張感がなくなり、気持ちがたるんでしまう。そのために講演DVDを見ているうちに眠気に襲われてしまったのではないかと愚考します。

本来はどんな形式の講演会であっても真剣に聴講しないといけないとはわかっているのですが、どうしても襲ってくる眠気を抑えられなかった歯医者そうさん。講演会は生が一番です、ハイ。


 < 前日  表紙  翌日 >







そうさん メールはこちらから 掲示板

My追加