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ミュールを摘みながらロクちゃんと毎朝沢山歩いてる。
「疲れた?ママおんぶしてあげようか?」
「Non!」
「そろそろ引き返そうか?」
「Non!」
知らない道をどこまでもどこまでも歩いて行きたがって、ひとりでずんずんと山の奥へ歩いていってしまう。強い子になって欲しい、というわたしの願い通り、心身共に逞しく育ってる。再来週から学校がはじまる。彼はおもちゃを見れば、わたしのことなどあっさり忘れて楽しい時間を過ごすのだろう。迎えに行っても帰らないと突っぱねられそうだな。強い子でもあるけど、とんでもないきかん坊でもある。でもきかん坊で手を焼いた子だけに、その存在感は絶大だ。彼のいない静かな朝を、わたしはどうやって過ごすのか。そんなことを思ったら急に涙がぽろぽろと出てきた。振り返った彼が不思議そうな顔で引き換えしてきてわたしの顔を覗き込む。
「ママ?」
「ママはね、ロクちゃんがずんずん先に歩いて行っちゃって追いつけないから悲しくなっちゃったの。ママとお手々繋いで歩いてくれる?」
小さな手がわたしの手をぎゅっと掴んで、また歩きだす。
町へおりて、カフェでおやつを食べる。わたしはカフェ、ロクちゃんはカップチーノ、ドーナッツを半分ずっこして食べる。
夜は映画祭に出かける。オープニングの日はチャップリンの映画を放映しながらオルガンの生演奏を聞いた。日中はうだるような暑さだったというのに、カセドラルは大勢人が入ってもひんやりとしていてる。ロクちゃんにとって初めてのシネマ。騒いだりしたらすぐに退場できるようにと出口のすぐそばに座ったけど、彼は気に入ったようで、最後までじっと見てて、オルガンの演奏に興奮してた。ひとりで「浅田家!」も観に行った。もちろん震災のシーンは辛くなったけど、なによりも小さな男の子が癌に侵されるとかそういうのがダメだ。2時間ちょっとと長めだけど、難なく見られるストーリーがしっかりと構成された映画だった。終わった後、知り合いが口々に”Très bien!!!"とわたしに親指を挙げて見せて帰っていった。外に出たらロクちゃんがママー!!と走ってきた。パパと3人で夜道をゆっくり歩いて家に帰る。
楽しい思い出が沢山できた夏も終わりの足音が近づいてきてるのを感じる。
9月からわたしは自分の道を模索するのだろう。
2023年08月16日(水) |
おかえりなさい、あなたの帰りを待ってたよ |
初夏に毎日のように雷雨に見舞われた。それが終わってからりと晴れた夏本番がやってきた頃、庭に放置してたバケツの中に新しい世界が広がっているのを見つけた。何度叱ってもロクちゃんが花壇を囲ってる大きな石を取ってバケツに入れてあった。そこに葡萄の木から落ちてきた葉っぱが石と交互に入ってる。そして溜まった雨水。それでちょうど池のようになってて、水の中には小さな生き物が泳いでて、蜂がよく水を飲むために石の上に停まっていた。そして尻尾だけ水に浸かって石の上でじっとしている一匹のトカゲがいた。ふ〜ん、特になんとも思わなかったが、一週間経ってもまだそこにいるのを見て、そこに住んでるのだと気付いた。葉っぱの下に隠れられるし、水に浸かることもできるし、その水の中には食べられる虫がいる。快適だったんだろう。それからコップ一杯の水をバケツに足してあげるのが朝の習慣になった。数週間したら水が大分濁ってきたので、トカゲを捕獲してバケツの水を半分だけきれいな水と変えて、また元に戻した。
すっかり愛着が沸いてたある日、ロクちゃんが突然そのバケツをひっくり返した。急いで庭に走っていったけど、もうバケツの中は空っぽ。誰もいなかった。バケツの中に石と葉っぱと水を入れて、なるべく同じような環境をリプレイスしてトカゲの帰りを待った。たまにバケツの中を覗いては誰もいないことにきゅっと寂しくなった。傍から見たらたかがトカゲ?という感じかもしれないけど、自分がいつも気に留めて世話してるものって愛着湧くものなんだ。カンカン照りの日なんか、出先でふとバケツの水がすっかり乾いてしまってないかとか気にするんだもの。たまに葡萄の葉の間にかさかさっという音を聞いてはあのトカゲが近くにいるのではないかと目を凝らしてみたけど、姿を見ることはなかった。
それから二週間ほどたったある日の夕方、庭でリュカが叫んだ。
「帰ってきたよ!!!!」
行ってみると、バケツの中に尻尾が切れて半分の長さになったトカゲがいた。どこかで猫にでも追いかけられたのか(クロちゃんは頭の良い猫だから家族のトカゲには襲いかかったりすることはない)。でも命からがら帰ってきてくれた。
コップ一杯の水をバケツに足す朝の習慣が戻った。トカゲは種類にもよるけど普通に飼育していたら5年以上生きられるらしい。すっかり新しい家族になったトカゲにそのうち名前をつけようか。
夏。土曜日はイタリアとの国境の町Mentonのビーチで泳いでは美味しいものを食べて過ごしてる。この場所から眺める色とりどりの旧市街が好き。
近所の子供達が夏休みで、シール交換に来る。あちらは10歳で本当にちゃちなシールしか持ってないのに、わたしの和紙のとか立体のとかと交換する羽目になる。まぁ可愛いから許すけどさっ。と夫や母に愚痴る47歳。母が苦笑しながら、じゃぁ、こっちからまた可愛いシール送ってあげるよ、と言ってくれる。でも以前"大人っぽいエレガントなやつがいい"と言ったら、何故かキティちゃんを送ってきたから不安になる。女の子達がシールを持って遊びに来るたびにロクちゃんは自分と遊びに来たのだと勘違いしてバイクに跨り飛び出していく。最近彼は新しい仕事を覚えた。Youtubeの広告Skip係。音楽を聴いてて広告が流れると急いでパソコンへ走っていき、広告スキップを押してきてくれる。せっかちで、広告が終わるまで待てないらしい。母親そっくり。
(写真:オレンジ色の花でキッチンの窓辺がぱっと華やかになった。 時間に囚われない自由な人。 毎日トマト山積み。たっぷり煮た自家製のケチャップで食べるフリット最高!)