My life as a cat
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2020年11月26日(木) 時は少しずつ動いていく

新しい胡椒挽きを買った。今まで使っていたものには特別な思い入れがあった。過去に大好きだった人の物だった。彼は学生で、今の言葉でいえばミニマリストだった。物と欲に溢れかえった国から来たわたしは、彼の暮らしぶりの清貧さと精神の豊かさに魅了された。彼は日々新しい気持ちを吹き込んでくれる大事な存在となった。所持品は少なかったけど、その一つ一つは彼のこだわりで選ばれた良質なものだった。腕時計、ステンレスの深鍋、胡椒挽き、ベッドと寝具、ステレオ。この5つだけは奮発して良質のものを購入したようだった。ステレオはわたしにプレゼントを買うために売ってしまったので、お宝はやがて4つになった。事情があって、やがてその全てをわたしが引き取ることになった。そのうち腕時計、ステンレスの深鍋、胡椒挽きはフランスまで持ってきた。ステンレスの深鍋はこちらへ来てからインダクションなので使うことができなくなって、カーヴにしまってある。腕時計はリュカの時計が壊れた時に、相当年季入ってるけどもしかしたら使えるかも、と渡したら、ちゃんと動いて、それ以来使い続けている。そしてデンマーク製の胡椒挽き。もうミルの部分が錆び過ぎていて、クリーニングしてもきつかった。不便に思いながらも捨てるのが嫌で使い続けてたけど、先日熱いリゾットに胡椒を挽こうとしてガチャガチャ何度もやってるうちにリゾットが冷めていくのを感じて、やっと買い換える決心をしたのだった。

新しいものはプジョー。漆塗りを思わせるような色が気に入って一目惚れで購入したのだが、使い始めてすぐにこれにして大成功と思う大事な点があった。直接振りかけるタイプのものは蒸気のあがった料理の上で振ったりしてるうちにミルと胡椒が湿気をもってきてしまう。だが、この引き出しに溜まるタイプならその心配はいらない。それに食卓に置いておいても猫に倒されたりしない形。

捨てる前に写真を一枚。最近もう一つ新調したもの。i-phone。バッテリーを一度入れ替えて8年利用した。何度も小さな不調はあったものの、なんとか持ちこたえていたのだが、さすがにi-phone4sは本当に古く、先日電車のチケットを購入するのにアプリをインストールしようと思ったら、OSが古すぎて入らなかった。まだ動いていて使えているものの、そろそろかと重い腰をあげたのだった。

胡椒挽きとi-phone4sにぽんぽんっと手を合わせて、

「今までお疲れ様でした」

と声をかけてお別れした。





2020年11月20日(金) 決めた!

妊娠4ヶ月くらいの時のこと。レストランでトマトソースのパスタを食べていた。ふと気付くと、トマトソースが胸のところに飛んで、白い服を染めていた。その頃、そんなふうにして服を汚したりすることが多くなっていた。つわりで一日中車酔いしてるように気持ちが悪くて、どこか注意散漫になっていた。そしてそういうだらしない感じの自分をひどく嫌悪した。次は気をつけよう、そう心に誓うのにふと気付くと同じことを繰り返していた。

そのうち物を落とすことが多くなったことに気付く。食べてるものもよく落とすので、ランチマットの汚れが酷くなって、その場で洗って拭えばいい素材のものを使うようになった。小さな子どもでもあるまいし。悲しくなった。手に持ってるものもよく落とす。そのたびにリュカが飛んできて拾ってくれる。

そして今。つわりも終わって具合は悪くないのに、妊娠初期にも増して食べこぼしや物を落とすことが多くなってしまった。しかも落とした物を拾うのに屈む時に"ヨイショッ"っなどと声などかけないと頑張って拾えない。もう体が重くて自分の足元が見えない。足の爪はリュカが切ってくれて、靴下も履かせてくれたりする。なんとかすれば自分でできるが、"そのほうが簡単でしょ"とやってくれるので甘えることにしてる。さすがに無駄毛の処理は自分でやろうとするのだが、あちこちが見えず、見えてても手が届かなかったりする(しかし、妊娠してから毛深くなったという人もいるが、わたしは逆に毛があまり生えなくなったので無駄毛の処理はそう頻繁にやらなくてもよくなった)。

夜、具合が悪くなってきたが、夕飯の後片付けだけしてベッドに入ろうとキッチンに立ったところで、ブロカントで手に入れたマグカップを落として割ってしまった。またリュカが飛んできて、

「もういいよ。あとはやっとくからベッドに行ったら?」

と言ってくれたので素直に手を引いた。

すっかり落胆していた。重い体を動かすことに集中していると他のことまで気がまわらない。身なりもなんだか薄汚れてきたように感じる。太ってていいことなんてあるだろうか?と考えた。太っていて清潔な雰囲気の人を見たことがあったか?太ってて健康そうな人を見たことがあったか?太っててなんでもスマートに立ち振る舞う人を見たことがあったか?向かいの家の一家は全メンバーが100kgはゆうに超えているだろうというくらいの巨体。気持ちの良い人達なので道で会えば世間話をする。娘さんは妊娠できず子供を諦めたとか、お母さんは膝の手術を受けたという話を聞く。そして先週お父さんが心臓を悪くして入院した。お母さんは手術して以来頑張って犬の散歩をはじめて少しずつ小さくなってきたが、娘さんとお父さんは車を家の前に横付けしてどこかへでかけていく。家の玄関の数ステップの階段を上がるのも一苦労なのだ。洋服は選択肢が少ない。医療費が嵩む。何よりも自分が痛いとか苦しい思いをする。清潔感を失う。自分の体を動かすことに集中して他のことに気がまわらなくなる。何をやるのにも時間がかかる(移動や一挙一動)。体臭が悪くなる・・・。

太ってることは時間の無駄、お金の無駄だ。わたしは決めた。これからの人生絶対に太らないと。別にスリムと言われる体型を目指すわけじゃない。ぽっちゃりとか言われる愛嬌くらいのものならそれでもいい。でもあらゆることを損失するような体には絶対ならないと。今はどうしても仕方がないが、産後また今までの手持ちの服を着ると誓った。


2020年11月17日(火) 緊迫の24時間

先週の金曜日の定期検診では全てが順調で、このまま行くと年末までには生まれるでしょうと言われて、やっとここまで来た、とすっかり安堵していたところに事件は起こった。

いつもと同じ午後。妊婦にはちょっとキツいかと思われる有酸素運動とヨガ、合計で30分のエクササイズをしたらどっしり腰をおろしてお茶の時間にする。それからリュカの仕事が終わる時間を見計らって職場へ行き、20分ほど脚の浮腫を取り除くマシンにかけてもらって一緒に帰宅する。ところがさて、リュカの職場に出かけようかとトイレで用を足したところ、トイレットペーパーにくっきりと鮮血が付着したのだった。便器の中を見ると生理3日目くらいの出血をしている。焦ってリュカに電話する。彼が帰宅するまでの間にドクターの緊急連絡先に連絡してみるものの通じない。病院に電話して状況を伝えてもあまり賢明とはいえないナースは

「心配ないわよ。痔でしょ。それにしても何で17:30前に電話してこないの?もう時間外よ」

痔じゃないわい。前からか後ろからかくらい確かめるわ。それに時間外に起こってるから時間外に電話してるんだ!

リュカもすぐに帰宅して、あちこちに電話してみたが、どこも通じなかった。今まで何か出産に関する問題を指摘されたこともない。ネットで調べてみると常位胎盤早期剥離というのが一番考えられることだった。程度によっては早急に処置しないと母子共に命に関わる危険なものだった。しかし、出血は結構多かったものの電話などしてる間に止まったし、わたしに症状はなくいつも通りの胎動を感じる。仕方なく朝を待ってまた電話することにした。

わたしは胎動を感じられるだけにどこか落ち着いていたのだが、リュカは気の毒なくらい憔悴してしまい食欲もなくしてわたしと一緒に早く床についた。先日検診のためにニースへ出た日。到着するとトラムが動いていなかった。周囲の人が教えてくれた。

「たった今そこのノートルダム教会でテロが起きて、3人殺害されたらしいわ」

この教会はメイン通りに面していて、ニースへ行けば必ず通る場所だった。通行止めになったこの付近を迂回して別のラインのトラムの駅まで歩いた。リュカはこの日からわたしと別行動するのを嫌がるようになった。子供の誕生を誰よりも楽しみにしてる彼。母子共に失ったらと想像しては不安にかられているのだろう。

意外にもこの夜、よく眠れた。ちょっと眠りが浅くなるたびに胎動を確認してまた眠った。

そして朝が来た。依然いつもと変わらない胎動があった。出血もすっかり止まって、トイレットペーパーに付着する血の色も茶色っぽくなっていた。リュカが病院に電話をかける。いつもの親切なセクレタリーが電話をとった。しかし緊急電話番号については、

「あぁ、この番号はわたしがここにいれば通じるわ」

などと言われる。そういうのは緊急の連絡先とは言わないのではないか。ともあれリュカが状況を説明した。ドクターはまだ来ていないとのことで、来たら連絡してくれるようにお願いして、リュカは仕事に出かけていった。

30分後、セクレタリーから電話があった。

「今日これから診察に来られる?緊急だからなるべく早く」

次の電車で行くと伝えた。リュカに電話をすると、仕事を放ってすぐに帰ってきて、一緒に病院へ行ってくれるという。

彼の心も少し落ち着いたようで、時間がないので電車の中で食べようとわたしが持参したランチを口にした。

「あぁ、なんだかすごく美味しい」

と普段はあまり喜んで食べないチーマ・ディ・ラーパのオレキエッテをしみじみ美味しそうに食べた。お腹が空いていたんだろう。

いつもはエコーの写真などを手に幸せいっぱいにはしゃぎながら通る病院の出入り口の景色が今日は少し違うものに見えた。

現れたドクターの表情もいつもと違ってなんだか険しかった。しかし、まずは一番重要なところ、エコーで胎盤を確認すると、全く何も起きていない。それから別のドクターのところへまわされ、胎児の確認と尿検査などをした。これも全く異常なし。異常が認められればひとまず24時間はこのまま病院に留まらなくてはならなかったが、帰っていいと言われた。結局出血の原因は特定できなかったものの、出産に関する問題には何一つひっかからなかった。

「原因不明。ひとつだけ言えることはまた鮮血をみたら病院に来て。それだけ」

ひとまず安心して病院を後にした。

帰り道原因を自分たちで分析した。このちょっと激しい有酸素運動でただでさえ血液量が増えてるところでどこかの血管から鼻血のように出血しただけだったのではないかということ。それ以外に考えられることはなかった。この運動はもうやめることにした。

夕飯はリュカもいつも通りよく食べてくれた。彼の回復ぶりを見てわたしも大きな食欲が湧いてきた。あと1ヶ月ほどの妊婦生活。彼にも心配をかけないようにちょっとおとなしく過ごそうと反省した。


2020年11月09日(月) 子供を持つことの捉え方

日本のお母さんは子供に手がかかって"自分の時間"がないと嘆く。フランスのママンは子供がいたってヌヌー(ベビーシッター)に預けて"自分の時間"を作って"好きなこと"を続けるべきと主張する。でもみんな子供が好きで自分の選択で持ったのでしょう?子育てだって"自分の時間"だし、それに"好きなこと"のはずじゃないの?わたしは義務で産んだなんて思いたくないし(実際そんな義務感全くなかったし)、子供がいるからあれを諦めたとかこれを諦めたなんて言いたくないな。そんなこと言うのは子供が可哀想だ。もちろんたまには一人になりたい。結婚してもこれは変わらなくて、月に一回くらい"休暇をちょうだい"とリュカに言い残して、家事も全部忘れて一人で出かけたりしてる。でもだからって好きなことを諦めて結婚したわけじゃないし、普段自分の時間がないと感じてるわけでもない。わたしの母はいつも忙しかったけど、一度も"自分の時間がない"と嘆くのを聞いたことはなかった。夕飯の後片付けをしてお風呂に入ってから髪が濡れたまま居間にどっしり腰をおろして、

「あぁやっと一段落した〜」

と言うくらいだったかな。

「たまにはゆっくり本でも読みたいな」

とも言ってたかな。でも母は、

「子供を持ったことが自分の人生で一番幸せなことだった」

としみじみわたしに言ってくれたし、

「ねぇ、お母さんの趣味は?」

と聞いたら、

「家族」

と即答した。料理なんかは好きじゃなかったけど、家族のために何かをするのが好きだから頑張ってやってたんだろうと思う。わたしは母のようなお母さんになりたい。子供を持つことは決して何かを阻まれるものではない。そう感じるなら子供は持たないことを選択したほうがいいんじゃないかと思う。



よく下の子に手がかかって上の子に辛い思いをさせてるというお母さんはいっぱいいる。最近このお母さんの苦悩がよく解る。わたしの場合上の子は猫なのだが。いつでも膝の上に乗せて、背中を撫でながら映画を観たり、本を読んだりしてたのに、最近は膝の上に登られると、すでにお腹が重いせいで、膝にまで4kgが乗るとどうしてもきつくて、ついどけてしまう。爪だっていつもきれいに切ってあげてたのに、最近は自分の足の爪すらうまく切れないせいで、気付くとクロちゃんの爪もすごく尖ってたり(猫的にはこれは苦痛じゃないだろうが・・・)。ベッドでも眠るポジションがうまく見つけられなくて何度も寝返りをうって隣で寝てるクロちゃんをベッドから落としてしまったり。毎朝抱きしめて謝ってから一日がはじまる。

「ごめんね。クロちゃんのこと忘れちゃったわけじゃないの。体がきついだけなの。もう少しで終わるからね」

(写真:近所の人からいただいたなんともかわいい手編みのギフト。彼女の娘さんもわたしと同じ月に男の子を出産予定なんだそうだ。どうしたらこんなきれいに編めるんだろう。いつかわたしもこれくらい作れるようになりたい)


2020年11月08日(日) 男が子供を欲しがる理由

男って使えない。妊娠、出産、育児、こういう問題になるとイラッとしながらそう思う。だいたい子供が欲しいなんて言ったのは誰なんだ。もうちょっと勉強しろ、と言いたくなることばかり。夫の優しい気持ちだけはありがたく受け取るけど、はっきりいって痒いところに手が届いてない。同時期に出産予定のカップル。この人達も子供を欲しがっていたのは彼女よりも彼だった。彼女が妊娠してからホルモンのせいでずっとイライラしてて、目の前を横切っただけでキレられたとかそんな話をよく聞いてた。で、彼のほうがリュカに"妊婦には気をつけろ"なんて忠告したとか。わたしはどちらかといえば具合が悪い脱力妊婦で、イライラしたりするエネルギーはなかったので、むしろ妊娠してからのほうが平穏なくらいだが。だけど、

「あぁ、彼女のイライラもあと1ヶ月の我慢だ〜」

なんてのを聞くと、アホかっ、出産したら今度は産後鬱みたいになっちゃう人も多いのに、とこの男の無知な発言に苛立ったりする。隣人のドミニクは交際をはじめたばかりの女の子を妊娠させて、それが理由で結婚したのに、子供が生まれて5ヶ月で妻に家から追い出された。奥さんのことは知らないが、話を聞いてると、うすうす女目線で、この人にも追い出される理由があったんじゃないかと思わずにいられない。妹も娘の父親のことをたまに愚痴ってる。

「子供寝かしつけてって頼んだら、子供が眠る前に自分が寝ちゃってるんだよ。もうホント使えないの」

男の"子供が欲しい"は単に本能で子孫が残したいと感じるってだけで、面倒をみたいわけじゃないんじゃないか、そう感じずにいられない。「そして父になる」という映画を思い出す。血の繋がりにこだわる男と、感情的な繋がりを大切にする女。

わたしは少し不安だ。子供が欲しい理由がどうであれ、もう少し要領よくサポートしてもらいたいものだ。わたし達は頼れる親も親戚も近くにはいないのだから。

(写真:栗のテリーヌ。茹でた栗とバターを練り合わせただけだけど、愛らしくて気に入ってる。茶色い生地はカカオパウダーを少々入れてる)


Michelina |MAIL