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生活の細かなことを決めるのはいつもわたしだ。休日どこへ行くのか、どこのレストランで食べるのか、どの家電を買うのか。リュカには大した意見がなくてわたしの決定にただ黙って着いてくるだけ。たまには"俺に任せろ"みたいな頼もしさを期待するが、そういうものは見たことがなかった。
ところが、驚いたことに、子供についてのあれこれになると、これが常に明確な意見を持っているのだった。結婚したら今度は"子供は欲しいのか"と周囲に聞かれる。わたしはいつも言葉に詰まった。
「うーん、子供か。どうかな、、、」
ところが彼はクリアだった。
「子供欲しいな。一人っ子は将来寂しいかもしれないから二人いたらいいな」
彼は滅多にこんなクリアな意見を主張することのないおとなしい人間なんで驚いた。そして自分は子供が欲しいのかと再度考えてみたが、やはり大して何のアイデアも浮かばずこんな結論に至った。わたしはこの件に大して意見がないので、意見のある人に従うべき。
「子供いても別にいいよ」
わたしが彼に言えたのはその程度のことだった。
更に妊娠してから胎児のダウン症の確率を調べる検査でひっかかった時(結局これはほぼ心配要らないという結論になったのだが)、不安になって聞いた。
「もしダウン症の確率がすごく高かったらどうするの?」
これまた驚いたことに彼はクリアな意見を口にした。
「その時は中断する。親はどんな子供だって産まれてきて欲しいと思うものだけど、障害を持って生まれて痛みの多い人生を約束された子なんて可哀そうだもん」
わたしはただ狼狽えているばかりだったから、彼の意見に従えばいいという救いを得た。
テレビドラマを見ていた。母体か胎児かどちらかしか救えないという状況で周囲の人間が選択を迫られていた。
「あなたがこういう選択を迫られたらどうする?」
そう聞いてみたらまたもや即答。
「母体を助ける。母が子なしより子が母なしのほうがきついもん。それに僕は子供が欲しくて君と結婚したんじゃなくて、君と一緒に生きていくために結婚したんだから」
人って思い入れの強いものに対してはちゃんとしっかりした意見が形成されるものなんだな。
「イタリアン?それともフレンチ?」
「う〜ん、どっちでもいい」
「麺?米?」
「う〜ん、どっちでもいい」
優柔不断とばかり思っていた夫がただわたしに着いてくる時、それは単にそこにさほど興味がないだけだったのだろう。
ここへ来てはじめて白いちじくを食べた時は衝撃的だった。すっきりした味の蜂蜜を食べてるみたい。いちじくは外見で瑞々しそうな濡れた感じのものを選ぶ。皮が乾燥して見えるものは中もふかふかで美味しくない。ここではいちじくはNoirとBlancの2種類でNoirは日本でもよく見るもの。これも十分美味しいがわたしは断然Blancのほうが好みだ。
2020年07月25日(土) |
自分の未来の日記のようで |
辻仁成さんの日記(記事1 記事2)を読んで泣いてしまった。わたしは近い将来誕生する男の子との甘い生活ばかり想像してるけど、どんないい子でも反抗期というものはあるんだろう。そんな時期がきたら、母親のフランス語が拙いことや発音がおかしいことを鬱陶しくて恥ずかしく感じて、ちょっと意地悪な気持ちになるのかもしれない。辻仁成さんが離婚以来片親で育つ息子さんに苦労させないように母親の役もせっせとこなしてるのをたまにメディアで見かけて、そこに大きな愛情を見てた。だからこういう記事を見ると切なくなってしまうな。時が経てば、息子さんもちゃんと解るだろうから、こういう時はじっと時が過ぎるのを待つ以外に親にできることはないのだろうけどね。自分自身を振り返っても中高生くらいの時は毎日出かける度に母が"事故にあわないように気をつけるんだよ"とかあれこれ注意してきたりするのを鬱陶しく思って、"言われなくてもわかってるよ"と言い返したりしたことがあった。もちろん時と共に両親には感謝して敬意を払うようになっていったけど。そして妊娠してつわりに苦しむようになってからは、毎日毎日母もこんな辛い思いをしてわたしを産んでくれたんだって、日本まで飛んで帰って"ありがとう'"って言いたい衝動に駆られてる。
時が経てば、時が経てば、、、なんだけどね。いいように考えればすくすく育ってる証拠とも言えるけど、アタられるほうはきついものね。早く反抗期終わるといいですね。
(写真:窓辺の猫ちゃんと白い花)
2020年07月24日(金) |
それは優雅な朝のクロワッサンからはじまった |
体調が悪くなってくる夜はさっさと寝床に入ってしまうので、おのずと早起きになる。たまには川辺りのテラス席に座ってカフェとクロワッサンなんてのもいいかな、そう思い立って外へ出た。開店したばかりで静かなパティスリーの前まで行くと、オーナーのマダムが植物に水をやっていた。中へ入りカフェとクロワッサンをオーダーする。
「カフェとクロワッサン、シルヴゥプレ」
「2ユーロね」
このパティスリーは月に1,2回お菓子を買いに行ったりするが、可もなく不可もないサービスで一言たりとも必要以上の言葉を交わしたことはない。決してフレンドリーではないけど、かといってアンフレンドリーとも言えない、要はわたしと彼らの関係は一介の客と店員で、それ以上でもそれ以下でもない。
朝陽の射すテラスに座る。トラベルマガジンなんかを広げ、ゆっくり朝食にする。夏の朝の冷えた川風とマイナスイオンをたっぷり浴びてなんとも気持ちの良い一日のはじまり。
さてと、今日の昼食はリュカが同僚と外食するっていうんで、わたしは家でひとり。リュカが好んで食べないからなかなか作らない料理のフルコースを拵えて、家のテラスで堪能していた。そこへ外食してきたリュカとナタリアが帰ってきた。そして彼らからこんな話を聞く。午前中にナタリアがパティスリーへ行くと、オーナーのマダムから聞かれる。
「あなたの同僚の日本人の奥さんって妊娠してない?」
「あぁ、まぁね」
ナタリアとこのマダムは知り合いでこうやって駄弁る仲らしいのでまぁ気まぐれでそんな会話をしたのかな程度に思ったが、その後があった。午後にリュカが職場へ行くと、セクレタリーからポストイットをそっと渡される。そこには"Félicitations"と書かれていた。
「あっ、ありがとう。そろそろみんなに言おうかと思ってたところなんだけど、どうしてもう知ってるの?」
「さっきパティスリーのマダムから聞いた」
こうしてわたしの妊娠は瞬く間にこのわたしもリュカもよく知らないマダムの口から彼の同僚達に明かされることになった。わたしはマダムのことは何一つ知らないし、興味もない。ところがマダムの側はそうではないらしい。あかの他人の妊娠なんて人に言いふらすほど面白いことなんだろうか。それとも毎日来る日も来る日もこの田舎町のパティスリーで働いてて退屈しきってるのか。ただのお喋りなのか。いずれにぜよ、彼女についてひとつだけわたしが知ったことは、客の個人情報を別の客にぺらぺらと喋るデリカシーの欠陥した人なんだってこと。
別に秘密にしてたわけじゃないし、誰が知ってもいいけど、わたし達夫婦の全く知らないこのパティスリーのお喋りマダムの口からわたし達夫婦のけっこう親しい人々がこのニュースを聞くこととなったのは薄気味の悪いことだった。
早朝血液検査のため病院へ歩く。こんな早くに外を歩く機会はそうなかったが、陽がちょうど山の向こう側から昇り始めてわずかに朝日の射した町の風景の美しいことよ。静かに流れる川の水面はまだ半分暗い空の色を映して、艶かしい青さ。若者を退屈させるこの町でも季節は移ろい毎日毎時間川や空や月は違う顔を見せるからわたしは飽きない。
採血してくれる若い男性のナースがわたしを見るなり、
"Félicitations !"
と声をかけてくれた。夏で薄着というのもあるけど、もうかなりお腹が人目にも目立ってるんだろう。町でちらほら、"もしかして?"と聞かれるようになってきた。こんなに沢山おめでとうという言葉を毎日浴びるようにもらったことは人生ではじめてかもしれない。もうこの時期になると胎児は聴覚が発達していて音が聞こえるそうだ。沢山の祝福の言葉届いてるかな。
2020年07月20日(月) |
誕生日のトゥルトーフロマージュ |
今年の誕生日、リュカの手作りはトゥルトーフロマージュ(tourteau fromagé)だった。フランス中西部のポワトゥー・シャラント地方の郷土菓子でフレッシュな山羊のチーズで焼くタルト。職人の失敗から生まれたお菓子なのだそうだが、フランスってやたらこの"失敗から生まれた"というものが多い。タルトタタン、クイニーアマン、クレープシュゼット・・・。青カビのロックフォールだって失敗からというし(しかしこれを最初に食べた人ってすごい)。そしてそういうのいかにもフランス節だなって感じる。アトリエのマダム達なんてしょっちゅうお喋りに夢中になって色んな物焦がしたり入れ忘れたりしてるもの。そういう失敗を上手に取り繕う能力は買うけどね。
さてトゥルトーフロマージュのお味は・・・。真っ黒焦げの見た目の裏腹にこの部分はそう苦くはなくて食べられる。リュカのはちゃんとした型とか使わなかったせいだろう本来の物のようにぷっくら真ん中が膨らまなかったけど、食感はカステラとカスタードプリンの間の子みたいな感じ。味は少しだけ山羊のチーズ独特の味がする程度。似たようなお菓子にバスクのチーズケーキ(Gâteau au fromage basque)というのがあって、これは牛のチーズを使うものでもう少しカスタードプリン寄りなのだが、わたしはこちらのほうが好きだな。
昨夜、リュカが家族とのビデオコールでやっとわたしの妊娠を伝えた。彼らの反応といったらさすがラテン系と言わずにはいられない。サッカーの試合で優勝でもしたみたいな騒ぎ様だった。リュカの両親にとっては初孫。すごく喜んでくれたのでわたしも嬉しくなった。でも候補にあがってる日本風の名前を教えたら、みんなでやりにくそうに発音してたのでちょっと気の毒になった。Rの入った名前は自分が発音できないからパス。Hの入った名前もフランスではHを発音しないからパスとあれこれ考えてはいるのだけど。でもやっぱり響きが日本風なのがいいな。だってわたしの息子がピエールとかジャン=ジャックとか想像すると違和感すごいんだもの。それにクリスチャンのカレンダーから選んでる人達ってやっぱり名前のバリエーションが少なすぎて個性感じないし。
忙しい週だった。リュカがコロスコピー検査を受けるというんで、全身麻酔を打つためのコンサルテーションを受けに行き、帰りに翌日からはじまる食事制限のための買い物をして、翌日から妊婦食とコロスコピー食を昼夜作り、最悪なことにはリュカがほぼ何も食べられない食事制限最終日にはわたしの検診がいつものクリニックではなく、ちょっと離れた病院で行われるんで一緒に出かけ、昨日やっとリュカのコロスコピー検査が終了。詳しい検査結果は後日出るが、見たところ何の異常もないらしい。腰痛がお腹に響いて痛んでいたのかもしれない。わたしのほうの定期検診も順調。はじめて訪れたニースのレンヴァル病院はアンジェリーナ・ジョリーが双子を出産したとして知られてるようだが、薄暗いトラムの路線に面した正面口とは裏腹に、海側の診療室は明るい光に包まれていた。胎児は160gで16cmまで成長していた。
先週あたりから気持ち悪さが和らぐ時間が大分増えてきたんで、今日やっと胡桃のパンを焼いて、にんじんとりんごの無糖ジャムを煮て、クリスティーヌを訪ねた。人と会うなんて何ヶ月ぶりか。ゆっくりと朝食をとりながら、この数ヶ月の出来事なんかを話す。子育てのことについてもあれこれと聞いてきた。当時農家で無農薬の野菜を食べさせて育てた二人の娘がティーネイジャーになった時、社会勉強にとマクドナルドに連れ出した時の話など面白かった。ずっとつわりで人とお喋りを楽しめるような状態じゃなかったから、久々にこんなゆったりとした時間を持って心が和らいだ。
(写真:リュカの検査を待ってる間病院の中庭にて撮影)
ちょっとばかり余ってたナッツやドライフルーツをかき集めてグラノーラを作ってみた。ほんの少しのカソナードと黒砂糖を加えたグラノーラはこのまま指で摘んで食べても美味い。こんな暑い日のおやつはフロマージュブランにグラノーラをかけてメロンを足してみたり。こういうのがすごく美味い。
自分が妊娠してはじめて知ったのだけど、日本では妊娠から出産までかかる費用は保険適用外でお金のことを心配しきゃならない人もいるようだ。それに引き換えフランスの医療制度の厚いこと厚いこと。先日出生前診断を受けた。お腹の子がダウン症かどうかとかなり高い確率で解るというもの。これはわたしが選ぶのではなく、当たり前のように受けさせられるのだ。エコーをしてから採血する。これででた数値とわたしの年齢を入れて、確率を計算する。結果1/783。かなり低いように思うが、医師から呼び出されて、DNA検査を追加で受けさせられる。ロシア人の医師によれば
「あんまり心配しなくていいよ。5年前まではこの数値ならパスで問題なかったんだけど、何せフランスはあれこれややこしくなってきて、もっと踏み込んでいこうみたいな決まりになったの。アメリカとか他の国ならこういうのやってないしね。まぁ、そもそもあなたの場合は年齢で引っかかってる部分が多いと思うよ」
現時点ではこの確率が1/1000以下ならDNAテストに回されるようだが、確かに5年以上前に書かれた妊婦さんの日記なんかには1/500程度で医師から"これなら心配無用ですね"って言われました!みたいなことが書かれてた。これが1/50とかになるとDNA検査に進み、更に羊水検査(これはこの検査によって胎児が死亡するリスクがあるというのでできれば避けたい検査)へと進むのだそうだ。そしてここまでの費用は全て保険が適用される。わたしの場合は妊娠を機に任意保険にも加入したので、全ての検査の8割程度が国民健康保険で賄われ、あとの2割くらいがこの任意保険で賄われる。日本ではこの出生前診断は希望する人だけが受けるものでしかもかなりの高額で結局全ての人が受けるものではないようだ。更に今日ポストに家族手当の案内の封書が届いた。状況によっては補助金がでるのでシュミレーションで見てくださいという案内だった(まぁ恐らくわたしに収入がなくともひとつの家族としてリュカに十分な収入があるということになってるから(実際は収入が十分あっても大方税金に消えるじゃん(泣)ってな感じだが)こういうのは結局貰えないだろうと踏んでる)。日本と対象的にフランスに子供が増える理由はセックスが盛んというだけじゃないんだろう。それにしても"少子高齢化問題"とかいうけど、高齢者の年金を捻出するのに子供を増やしたとして、この増えた子供達もいずれ高齢者になる。そうしたらもっと更に子供を増やさなければ高齢者を養えないではないか。そうやってただひたすら年々人口を増やしていったら一体どうなるの、この世界は?
2020年07月05日(日) |
お義母さんの魚介のスープ |
昨日数ヶ月ぶりにイタリアへ買い物にでかけて、市場でたっぷり食材を仕入れてきた。今日のランチはリュカがお母さんの定番料理である魚介のスープを作ってくれるという。めちゃくちゃ色んな食材買い込んでたし、こんな贅沢にあれこれ入れて美味しくないワケがないとできる前から楽しみでお腹を空かせて待った。
理由はわからないが、たっぷりのオリーブオイルであれこれ個別に揚げたり炒めたりしてる。まずはメルルーサという白身魚に小麦粉を付けて揚げる。次いでモロッコいんげんとパプリカ。
ガーリック、エビとイカとあさりを炒めて摩り下ろしたトマトを入れる。エビの殻でスープを作る。最後にこれを全部合わせてサフランを入れて煮る。仕上げに極細のパスタを入れて煮る。これまたなぜだかわからないが(魚がスープの中で崩れるのが嫌なのかと想像するが)、魚は取り出して個別にバターをつけて食べるのだそうだ。
正午過ぎても一向に仕上る気配がなく、午後2時をまわろうとする頃やっとテーブルにボンっと置かれたスープ。一口。最高だ!美味い!!もう意識が遠のくくらいの空腹にするすると入ってしまった。魚はバターをつけて食べてみたものの、いまいちそのバターの効果もよくわからなかったんで、結局スープに入れて食べてしまった。クロちゃんも久々に新鮮な魚介類をたっぷり食べた。"たまの男の料理"をしてもらって後片付けとかを憂鬱に思うのは嫌だから、リュカには
「料理というのは買い物から始まって後片付けを終えるまでの肯定をいうのだよ」
と念押ししたから食後にうとうとと居眠りして目覚めたらきれいに片付いてた。そもそもリュカはお母さんがこのスープを作ってるのをビデオに撮ってきて、それを見ながら忠実に真似たおかげで無駄に皿を汚したりせず完成した時には大して洗い物はない状態だったのだが。さすが毎日家族5人の食事を拵えてきた主婦の知恵。
2020年07月03日(金) |
一汁一菜をおなかいっぱい |
夜になると気持ちが悪くなって早く床につくことが多くなったんで、このところ夕飯はなるべく軽めにしてる。ご飯を軽く茶碗に一杯にほんの少しのごはんの共を乗せて野菜をたっぷり入れた味噌汁一杯とかそんなんでおしまい。大抵の日本人がそうなんじゃないかって思うけど、どうしても夕飯に一日のうち一番のご馳走を食べたい。家族が揃う時間でもあるし、時間に追われず一番リラックスして食べられる時間だし。わたしもそうだ。だけど今はもう体調のせいでそれどころじゃない。だから夕飯を軽くする代わりに朝にもう少ししっかり食べるようにして、昼に少し奮発したランチを作ることにしてる。ここで本当に幸運だと思ったのは、夫が日本人ではないということだ。日本の主婦(働いてようが働いてなかろうが)は夕飯には少しでも多くの種類の食べ物を並べることが期待されるのではないかと見受けられる。料理のウェブサイトにはよく"5分でできるもう一品"とかそんなテーマをよく見る。恐らくバランスよく食べたいとか目を喜ばせるために沢山のおかずを食卓に並べるのがいいみたいなことなのかもしれないけど、その5分でできるというおかずといえば、化学調味料(市販の麺つゆとかほんだしとか)をふりかけてみたりマヨネーズとチーズかけてオーブンに入れてみたりで、"プラス健康法(健康のために○○を食べるとかそういうプラスしていくもの)"は不健康と信じてるわたしにはそんなんだったら食べないほうがましなんじゃないの?と思うようなものも少なくない。現代病には"食べ過ぎ"が原因のものが多いし。わたしは自分のためにも家族のためにもそんな品数を増やすことを気にかけたことはない。栄養のバランスは一日のうちで総合して取れてればいいかなと思うし、もっと大切なのは毎日同じものを食べ続けないこと、少しでも安心な食材を手に入れることだと思う。でも日本人と結婚したなら怠けた主婦だと言われてしまうかもしれないね。幸いここはフランス。主婦は夕飯に買ってきたチーズとハムとバゲット、袋から出して洗っただけのリーフミックスを食卓にぽんっと置けばいい。それ以上のことをやれば料理上手な奥さんだと褒められる。20代の頃同棲していたドイツ人などはある日こんなことを言ってわたしを仰け反らせた。
「君と暮らしはじめて3ヶ月、僕は君がせっせと美味しい夕飯を準備してくれるのは嬉しいけど、僕はちょっとシックになった」
え!!!どういうこと?自分も温かくてちょっといい物を夕飯に食べたいし、よかれと思ってやってたのに。
「ドイツの"コールドミール"って知ってる?夕飯は冷蔵庫からソーセージとチーズ、ザワークラウトを出して、ミッシュブロート切ってそれを軽く食べて終わりなの。僕のお母さんは忙しく働いてて夕飯はいつもそんなんで育ったから君の夕飯が重すぎる」
夕飯は家族が揃って温かい湯気と色んな食べ物の香気の湧き上がった食卓で、わいわいと喋りながら食べるものだと思って育ってきたわたしは、冷蔵庫から出した冷たい食品をぼそぼそと食べて終わる夕飯など考えられなくて、目の前が暗くなった。ソーセージやチーズだってどんなものを購入したらいいのかよくわからなかった。落ち込みながら、"重い"と言われた夕飯を軽くすることを念頭に置いて、そのまま自分が普段食べてるような菜食料理で軽めのものを少なめに出すようになった。そうやって数ヶ月が過ぎた頃、今度はこんな感想をもらった。
「刑務所みたい」
確かに。ドキュメンタリー番組で見た日本の刑務所だってもっと品数多かったな。
「あんな小難しい男と一緒に暮らせるのあなた以外にいないわよ」
と女友達が言った通り、わたしと別れてから15年近く経った今も彼はひとりなのだが。
元同僚はよく嘆いてた。
「夕飯のこと考えるのが面倒くさい。うちの旦那は高血圧だから、塩抜きでも美味しく食べられるおかず考えなきゃいけないの。挙げ句に5品くらい用意しないと不満げな顔するんだよ。レトルトにちょっと手を加えて出したりするとすぐに見破られるしさっ」
フルタイムで働いて、やっと仕事が終わったと思ったらおかず5品ね。そりゃ大変だわ。うちの母親もそんなんだったな。
「子供と3人だけなら、うどん食べて終わりとかにできるのに、お父さんがいると酒飲みながらあれこれ食べたがって面倒くさい」
とかよく嘆いてたな。母の嘆きの大半が父が毎晩酒を飲むこと(それだけじゃなくて高血圧に糖尿)に起因してたからわたしは絶対酒を常飲する男とは結婚しないと決めてた。
で、今リュカの夕飯はどうしてるかといえばわたしと同じで文字どおりの一汁一菜だが、彼には倍量をよそってあげてる。彼は猫のような人で気に入れば同じものをおなかいっぱいになるまで食べ続けられて、気に入らなければちょっと食べて"もうおなかいっぱい"になっちゃうだけなんで、大好物の味噌汁を倍量、白いごはんに黒胡麻ふってあげれば喜んで食べてくれるのである。
2020年07月01日(水) |
Parmigiana di Melanzaneの覚え書き |
イタリアの南部のほうが発祥の地というが、すぐそこのリグリア州でも大抵はレストランのメニューにある人気の定番料理、ナスとパルミジャーナ。一口食べればどうやって作るか想像できるようなシンプルな料理なのだが、これが美味い。家で作れるのに、と思いながらも空腹でレストランのメニューを開く時、やっぱりそそられてそれにしちゃう。で、家で作れるのになぜなかなか重い腰をあげないのかといえば、やっぱりスポンジみたいなナスが油をたっぷり吸うのを見たら食べるのが怖くなるかもという懸念から(わたしが"できない料理"は大抵こんな理由だ)。しかし、ナツ本番、ナス本番の季節がやってきたというのに、イタリアにもしばらく行ってないから、頑張って家で作ってみようと思い立った。しかし、もちろんレストランのみたいに潔くたっぷりの油でナスを素揚げするという方法は避けるという方向で。一回目はあれこれ失敗。こんな美味しくないナスとパルミジャーナは食べたことないねという結果。二回目で大成功。素揚げにしないで油を控えつつもレストランのに劣らない美味しいのが出来たのでメモしておこう。
材料(4人分)
●米ナス 600g程
●玉ねぎ 中1個
●ホールトマト 600gを裏ごししたもの
●バジル 1枝
●モッツァレッラ 1個(125g)
●パルミジャーノ 適量
●オリーブオイル 適量
1、ナスは7mm程にスライスする(ここ肝心。厚すぎると歯ごたえが強く残ってしまう)。両面に粗塩を擦り込んで切る前のナスの形になるようにぴったり重ねてボウルに入れて30〜1時間置く。ナスから茶色い灰汁がでてきたらたっぷりの水で洗い流して、手でぎゅっと絞る。
2、鍋にオリーブオイルと玉ねぎのみじん切りを入れて、透き通るまで炒める。裏ごししたトマトピューレと千切ったバジルと塩を加えて、半分蓋をして煮る(15分程度。煮上がった時点でちょっと水っぽい感じでOK)
3、フライパンにオリーブオイルを敷いてナスを入れ、蓋をして(これ肝心、これで素揚げしなくてもしっとりと柔らかく仕上る)中火で焼いていく。両面少々焦げ目がついてくったりしたら火からあげる。
4、耐え熱容器にトマトソースの1/4 → ナス1/3 → トマトソースの1/4 → 刻んだモッツァレッラと摩り下ろしたパルミジャーノ1/3 → ナス1/3 → トマトソースの1/4 → 刻んだモッツァレッラと摩り下ろしたパルミジャーノ1/3 → ナス1/3 → トマトソースの1/4 → 刻んだモッツァレッラと摩り下ろしたパルミジャーノ1/3と重ねて最後にオリーブオイルをふりかけて210度のオーブンの下段で30分程度焼く。
付け合せのパンは今日はバゲットだったけど、柔らかめのパンのほうが合うと思う。