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2009年04月30日(木) |
Água de Beber |
会社の同僚が小さなパブでクラシックギターをプレイするのを一見しようと仕事帰りみんなで出かけた。たまにはこんなのもよかろうとわたしはチャイナドレスを着込んで。嬉々としてチャイニーズボーイに擦り寄って自慢するとこんな話をしてくれた。彼のおばあさんは大層なお金持ちの家に生まれ、その家の女達は毎日妖艶にシルクのチャイナドレスを着て遊び歩いていた。やがて戦争が始まって男手を失って家は失却したものの女達は決して高貴な心を失わなかったということ。
みんなでアジアンダイニングでの夕飯の最中キシ君と同期入社の上司がわたしに向かってにやにやとカマをかける。
「最近、彼は良いシャツを着て、髪型まですっきりしちゃって、恋でもしたのかねぇ?」
「さぁ、どうでしょう?」
とあっさり交わす。こんなのは慣れっこだ。みんなこんな風に探りを入れてくるので煙に巻いて心の中で舌を出す。
ほろ酔いのところをアントニオ・カルロス・ジョビンなどをプレイされ眠気におそわれ、同僚の車の助手席に雪崩れ込み家まで送ってもらった。車中、5年も付き合った人と半年前に別れて、また今新しい恋が始まりそうだという彼女の浮かれ顔にこちらまで胸がざわめく。楽しい夏が来るといいね。
2009年04月24日(金) |
House warming party |
連休も間近になり、通勤から就労時間、昼休みまで共にしたインディアン・ガイが母国に帰っていった。ママへのお土産は何にするのかと尋ねたら、こちらを指差してわたしの体中の血を騒がせたまま去って行った。
先週はご近所さんでもあった彼が少し遠くの町に引っ越した。面食いでないわたしにはただの良き話し相手でも、会社の女の子達はおろか、うちの母までが見惚れるイケメンであることには間違いなく、我が町からイケメンが一人出てったというのは非常にさびしいことだが、ともあれHouse warming partyにかけつけた。Ownerがカレーを振舞うことを前提に持ち寄りで、Aloo Gobi(カリフラワーとポテトのお惣菜)、Paratha(ポテトブレッド)、Mango Liquor、Yogurt Liquor(Lassiのつもり)、生春巻きとテーブルの上はパーフェクトな取り合わせとなった。主役はチキンカレーだったが、わたしのために特別エッグカレーも用意され、思いのほか、こちらのほうが好評だった。大好物を頬張って、アルコール入りLassiにほろ酔いし、部屋を見渡せば見事なまでにガラリと何もないことが、日本に長居するつもりがないことを物語って、心をちくりと刺された。マーヴのこと、自分の病気、妹の病気に父の事故ですっかりよれてしまったわたしの心はほんの小さな変化にも耐えられないような脆さで、損失ばかりカウントしてしまう。
この電気代の支払いも一人では出来ない人騒がせなfellowもしばらくいない。連休はゆっくり休もう。積み上げた本を読んで、ゆっくりと美味しい料理を拵えて、脆くなった心の補強でもしなくっちゃっ。
天気に恵まれた良い一週間だった。ランチタイムはうとうと日光浴、午後に仕事がひと段落するとムッシューとガレットを齧りながら、彼の友人のSaint Maloの別荘の思い出話を聞いてうっとりしてみたり、なんとも夢見心地の時間があった。
ボックス席に陣取って、遠足の子供達のようにリラックスしたいつもの帰り道、何かの弾みで、若くて諦めた中国人とわたしが結婚すればいいんじゃないのかというジョークが出た。わたしは咄嗟に楽しくなって、ニコニコしたが、こんな単純三十路女の束の間のハピネスをぶち壊すように当人が強く否定した。
"No No No No, I'm too old for her"
あまりにも咄嗟の出来事でその時はあまり感じなかったが、家に帰ったらじわじわと具合が悪くなってきた。何度Noを言ったのか。最後は明らかにわたしが年上過ぎるという意味の裏返しだ。年をとるということは素敵なことだと信じてきたが、それは周囲のリスペクトがあってこそそう思えるのかもしれない。気に入った男の子に年齢のことを言われるのは初めてだったから堪えた。独身のまま皺だらけになったみじめな自分の姿があるように思えて毛布を被って横になっていたら涙がぽろぽろとでてきた。
次の日も次の日もばりばりと働いたけれど、心は完全に寝込んでいた。いつも隣で無邪気にお菓子を貪っている若い娘が当人にわたしの落ち込み様を話すと、今度は当人が罪の意識に寝込んでしまった。
「急にそんなこと言われて驚いちゃったんだ。本当はそんなこと思ってないよ。あなたは十分キレイだよ。」
日本語で必死に謝ってくれた。その後も同僚にわたしの様子を訊ねたりして、相当気にかけているらしい。彼のオフィスへ行くと痛い程視線を感じる。
会社帰りに摘んだ桜の葉を2日かけて塩漬けにして桜餅を作った。もう許すといういう意味をこめて、前からこれを楽しみにしていた彼に食べさせてあげよう。
ベジ友のさなちんと日比谷公園へ。桜は八部咲きか。満開するとあとはあっけなく散っていくから、このくらいの奥床しさがいい。土曜出勤する羽目になったお父さんも、天涯孤独な中年女も、Exileに憧れて上京した少年も、色恋沙汰には貝のごとく固く閉ざした主婦も、婚期を逃しつつあるOLも、桜の木の下、日々の暮らしの煩わしさから逃れ、一瞬の極楽浄土に身を浸した。
「これは英語で何て言うの?」
さなちんが虫を指差してが聞く。じゃぁ、これは? 今度は落ちていた桜のつぼみ。健全で貪欲な学習意欲がまたわたしを触発する。近頃、会社のランチタイムをフランス人とフランス語を話すインド人の同僚と過すようになった。二人とも専門は技術系だが、当たり前のように3,4ヶ国語を操る。手に職もなくいまいち日本語も英語もあやしいわたしは焦燥感に駆られ、眠っていた向上心を掻き立てられた。外国人労働者などいつふらりと去っていくのかわからないが、発音を直してくれる彼らがいるうちに日常会話が成り立つ程度にはなりたいと、なんとか一日数分でもフランス語学習に費やす時間を作っている。この良き友も日本語学習に余念がない。Bonjourと言えばコンニチワと返ってくる。彼らが日本語をしゃべるのが先か、わたしのフランス語が先か良い勝負だ。
それぞれの思いがいつかぱっと花開く日まで、こつこつ準備を進めましょう。