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開花予想は大はずれ。日本に来て間もない外国人の同僚達に日本の春を満喫してもらおうと数週間前に計画された夜桜の会はまだ堅く縮こまった蕾の下で決行。まぁ、酒を与えておけばハッピーな連中なのでよかった。わたし自身は高校生の時によく足を運んだその高台にある公園があまりにもなつかしく、倍も生きてしまった今またここに戻ってくるなんて想像もしなかっただろう。
二次会のインディアンレストランで近頃の通勤の友の一人である若い若い中国人の男の子と隣合わせになり、小さな恋に堕ちる。隣で酒を注いで、海老の殻を剥いてわたしのプレートにどうぞと乗せてくれたりする。学生時代を過した町の写真を見せてくれて、猫が大好きだと言う。外国に暮らす気持ちは体験したからわかる。ボロボロになった日本語のテキストには健気な赤線と書き込みがぎっしり。心細い酔っ払いが恋に堕ちるのは簡単だ。しかし相手は中国人。5つ以上も年上の女はご法度に違いない。いつもならちょっと風が吹くとひらりと靡いて飛んでしまう風来坊のわたしだが、今回ばかりはじっとその場にしがみついて、風が収まるのを待つことにしたのである。
2009年03月15日(日) |
またひとつの灯を消して |
キシ君と映画を観る約束で銀座で落ち合った。先週当人に手をひかれてはじめて降りた"平和島"が名実共にあまりにも似合いすぎていて、生まれも育ちも東京といえども銀座なんてところに来られるのか心配したが、案の定あまり土地勘がないらしくぎこちなくよたよたと現れた。
あまりにも天気が良いので暗い映画館に引きこもってはもったいないと予定を変更。皇居の周りを散歩して腕まくりをして久々の太陽を存分浴びた。こんなにして顔のシミは増えていくが、その時々をハッピーに過して自然に老いていくのがいい。
日が傾きかけるまでおしゃべりして、街に戻った。夜が近付くにつれて気が重くなった。ひとりで考えて考えて昨日堅く決意してきたことがキシ君の純朴さに揺らいでいく。何もなかったように楽しく夕飯を食べて帰ろうか。でもやっぱり心優しい彼を後々深く傷つけるかもしれないのが恐い。ゆっくりと夕飯を食べて、おなかが少し落ち着いたところでゆっくり切り出した。大体において男性は自分の用意が整った時に結婚したいと思うもののようだが、キシ君はまさにその時だったのか。わたしはそんな状態にない。そんな夢はマーヴに使い果たしてしまったのかもしれない。
悲しそうだったけれど、納得してくれたようだった。あれこれと話し合って最後は笑ってくれた。わたしのために長時間煙草を我慢していたのが意地らしかった。
「一服したら?」
と灰皿をあげると少し表情が和らいで、わたしと一緒だった禁煙タイムを取り戻すように立て続けに4本も吸った。
もう女は懲り懲りだなんて言わずに、頑張って良い奥さんを見つけると言ってくれた。握手をして別れた。帰り道はほろ苦くて、このほんの数週間忙しく知り合ったことばかりが思い出された。
不幸の渦に完全に足を掬われたように家族に次々と災難がふりかかる。家族の仲が"家族"として機能していることで各自が脆弱になっていく心を壊れないようになんとか保っている。母と妹がいつも先に泣いてしまうからわたしは泣くこともできなくなった。ただでさえ気を病んでいる妹が無表情に目を宙に泳がせたまま大粒の涙をぽろぽろ流す時など、気が沈む。わたしは長女だからいつも頼る人がいない。それを哀しいなんて思わないくらい麻痺した。
それでも、わたしには仕事があって、朝におはようと声をかけるべき人々がいる。1週間前に折り紙で雛人形を作って、女の子達にあげた。各自デスクに置いて、自分の好きな顔を書いて楽しんでいたが、昨日でそれも終わり。
「次はチューリップがいい」
というリクエストをもらった。また折ってみんなにあげよう。
愉快な女友達がいて、優しい男友達がいて、やるべきことをこなして1日が終わる。今は日々をこつこつこなして行くだけで精一杯。嵐が過ぎ去るのをじっとじっと待っているだけだ。それでもいつか地平線の彼方までくっきり道が見えるような日が来るように思えるのだから、わたしはまだへこたれていないのだ。