My life as a cat
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2006年08月25日(金) リサの恋

「どうしてもあのバーテンダーと友達になりたいの」というリサに付き合ってそのパブに通いはじめて、ろくに話すらできず、電話番号も渡せぬままもう一ヵ月経ってしまった。「職探しと同じように考えればいいの。レジュメを渡して、興味を持たれれば電話してくるだろうし、なければそれで終わり。」と諭しても諭しても”I know, I know, but,,,,,”と溜息をついて、いつまであのメッシーな雰囲気の店に付き合わされることやらと憂鬱にさせられていた。彼女のような強気な白人女性に日本人女性のような奥ゆかしさを見せられるのは意外だったけれど、やはりこういうことには根性を見せないのが彼ら。「彼のことばかり考えて何も手につかないのよ。」などと言いながらも、先週末は雨が降ったことを”Oh, shit!”となじりながらパブに行くのを中止した。”アメニモマケズ、カゼニモマケズ”なんて言葉はイタリア人には似合わないわなっ。

今夜で最後にしてね、と念を押し勇みこんで出陣。が、彼の姿が見当たらない。名前も知ってるのだから他の人にいるかどうか聞いてみようという提案は却下され、裏口にある休憩所を除いてみたり、パブの周りをうろついてみたりして、わたしの全身に痒みが走りそうになる頃ようやく諦めてくれていつものナイト・クラブに落ち着いた。リサの友達である昼間は美容師とか弁護士とかいった真っ当な勤め人という人々で編成されたアマチュア・バンドのパフォーマンスを毎週末聞くうちに曲もノリも全部体に焼き付いてしまった。1時間近く大人しくステイしてそろそろわたしは切り上げようと立ち上がるのと同時に彼女の男友達が到着した。ミラネーゼと聞いていたけれど、ライト・ブラウンの髪と目を持ったなかなかの見た目の白人だった。チラリと目配せをしてその場を去り、次の朝彼女に電話をした。「彼はどうなの?」と。「それが!!昨日ちょっとステキってことに気付いたわ。」という答えが返ってきてもう当分あのパブに誘われることはあるまいと胸を撫で下ろした。


2006年08月23日(水) 黒い手

シェアハウスにアフリカ人が越してきた。日曜の朝は必ずチャーチに通う敬虔なクリスチャンだけれど、無類の女好きでジャパニーズ・ガールにトライしたいなどとふれ回っては日本人女子から敬遠されて、背後から突然沸いてきて得体の知れない強烈なアクセントの英語を話すので不気味な上にコミュニケーションが困難だとみんなそう言って彼の小言は軽く聞き流されている。寝る前に沢山食べることはヘルシーと信じて、夜中に大きな大きな食事を採ってはだからオマエはいつも妊娠してるんだ、などとパンパンに張ったお腹をからかわれて、それでもオレはデブじゃないとあっけらかんと言い放つ。この夜中の食事というのも奇妙でパスタとライスをミックスしてほんの少しだけトマト・ソースを絡めたものにボイルした金時豆、それに焼いたソーセージか魚缶を少しだけというもの。テレビを見る傍ら、彼が嬉しそうに食事を口に運ぶ手を見ていたら何故か急に悲しい気持ちになって、そのうちに痛い記憶がじわりじわりと甦ってきた。

一年もステイしていないデザイン業界に失望して、BFともうまくいかず、一番の話し相手だったシェア・メイトも生活がうまくいかないようで、暗闇に身を置いているような気持ちで日々をただやり過ごしていた時にうっかり触ってしまった猫だった。死にそうにうずくまっているのが自分の分身のように思えて、抱きあげて病院に連れて行った。点滴を打つとすぐに回復して家の中を走り回るようになって、もう目を開けて初めて目にしたわたしを親と思っているのか、どこへ行くにも後ろを着いてきて離れようとしなかった。ハチと名づけて、会社も辞めて、それからの半年間はずっと一緒にいた。未来に何も見えてこない苦しい日々の中でハチだけが小さな幸せを与えてくれた。煮え切らないまま付き合っていたBFが結婚などと口に出しはじめた頃、急に目が覚めて、情を押し殺して別れを告げて、全く違う業界に職を得た。自分の中にやっと希望が宿り始めたのと同時にハチは車に跳ねられてあっさりと死んでしまった。新しい職場はパーフェクトで、すぐに新しいBFもできたけれど、夜になるとハチのつけていた鈴の音が頭の中で鳴り響いて気がおかしくなりそうだった。

汚れたように黒くて太くて短い指とピンク色の爪がハチを思い出させるけれど、時間の経過は痛みも吹き飛ばしてしまうもので、もう泣いたりすることもない。


2006年08月02日(水) ひとりでふらふらと

久々に朝から晴天。からからに乾いてしまった森を慰めるように最近は雨が降り続いて、どんよりと腫れぼったい空と裏腹に何かがぐんぐんと息衝いていくようなエネルギーを感じていた。

先週、夜遅くに男友達にどうしても今から来て欲しいと言われ、電話越しに伝わるただならぬ息遣いに彼の家に走った。近所のパブへ入り、端の席でレッド・バックを飲みながら感情的に興奮してしまっている彼の話を我慢強く聞いた。とても普通の感情を持って聞けるような話ではなかった。いつも何の計算も疑いもなく気前よく人に愛情を注いでひたすら信じてあげてしまう彼を踏み潰すように裏切る人々が許し難くて、またそんな人々に遭遇してしまう、または創りあげてしまう彼の宿命が不憫だった。そしてそれでも懲りずに人を信じてあげる精神の強靭さが好きでもう何年もいい友達でいる。彼に平穏が戻りますようにとおまじないをかけるようにやつれてしまった頼りない体にそっとハグをして別れた。

最近はあまりいい話がなくてわたしの周りにいつも灰色の雲がとぐろを巻いているような気持ちでいたから、からりと晴れた今日はそれを吹き飛ばすようにひとつ大きく深呼吸をして近所を散歩した。芝生に寝転んで好きな本を読んで。夕方家に着く頃にはお腹が空いて情緒の安定も取り戻していた。


Michelina |MAIL