夜になると思い出す。 小さな生き物の気配に、どれだけ救われていたか。 触れないでいるゲージ。 被せてもらったショール。 手を、付けなきゃ。次の休みに、華がいる時に。 落ち込んでいるかと言われれば、それほどでもないと答えられる。 笑って冗談を言っている自分に少し驚く。 あたし、大丈夫かも。 でも、不意に思い出す。 小さな小さな体温。 あたしは必死に華に縋り付いて、それを胸の中に留めようと足掻く。 華。ねぇ、華。 あたしはたぶん大丈夫だよ。 あの子がいなくなって、思い出すだけで、目頭が熱くなるけど。 あなたが長生きしてくれるんだよね。 一緒に覚えててくれるんだよね。 そんな優しい約束に、どれだけ救われているか。 あなたは知ってるのかな。
今日の昼過ぎ、14時頃。 8年間、あたしの生活を見続けてきた相棒が亡くなりました。 小さな小さなシマリスです。 片手で充分に座れてしまう、なつこくて、ちょっと間抜けで、 食い意地の張った可愛い奴でした。 彼女と出会ったのは18歳の9月初旬。 夏生まれという時期外れのシマリスは、父親が連れてきました。 初めて与えられた個人のパソコンと一緒に。 その頃のあたしは情緒不安定で、 原因も分からずに、泣き暮らしていました。 高校に行っても1時限目で帰り、 食事も睡眠もろくにとってなかったのです。 そんな時にあたしが欲したのは、一つでした。 「あたしがいなければ生きていけない存在が欲しい。 あたしのことを唯一だと思ってくれる存在が欲しい。」 父親がシマリスを買って帰ってきたのは、次の日の夜でした。 あれから8年。 寿命だと言われればその通りだけれど、 してあげられることは、もっとたくさんあったんじゃないかと、 あたしがもっと早くに気付いていればと、 痙攣しながらも立ち上がろうとする彼女に触れながら、 泣きながら、そう思いました。 昨夜から様子のおかしかった彼女は、今朝方からぐったりとし、 昼前に激しい痙攣を起こし、 14時頃に、目を離した間に、息を引き取りました。 華がそれに早く気付いてくれたおかげで、 あたしはまだ温かくて柔らかい彼女に触れることが出来ました。 今日で良かった。自分が休みで、一緒にいる時間で良かった。 『れん』は親孝行な子だね。 いちごを独りで悲しませなかったよ。 そう、華が繰り返してくれて。 あたしはただ、声を上げて泣くだけで、どうしようもなくて。 泣き腫らしたあたしと、体調の悪い華とで、 あたしの仕事場近くの川まで行きました。 川沿いの小高い山にある公園。 その中腹にある、大きな紅葉の木の下。 青々とした木々が生い茂り、柔らかな土があり、 秋になれば美しい紅葉を見せてくれる木に見下ろされて。 彼女は静かに眠っています。 享年8歳。 ちょうどこの時期に生まれたので、丸8年。 あたしの人生の波乱を共に生きてくれた子でした。 社会人になっての独り暮らし。 実家での確執。 結婚から離婚までの二年とちょっと。 そして、この街に引っ越してきて、もうすぐ二年。 華と出会って、恋をして、 先の見えない人生に飛び込む時も、いつも一緒でした。 きっとこの先の人生、 あたしは子供を産むこともないだろうし、 別の人生を選んでも、 きっと体質的に産めないだろうから。 『れん』があたしにとって、最初で最後の我が子です。 可愛い可愛い、あたしの親友です。 8年間、ありがとう。 最後に何もしてあげられなくて、ごめんね。 大好きでした。 本当に君がいてくれて、良かった。 最後のお別れを、華のいる今日を選んでくれて。 君は最高のパートナーだったよ。 さよなら。 ばいばい。 また、いつかね。
昨日のお休みはゆっくりしたはずなのに、 翌日の仕事でグデグデ。 いつものことだけどね。 華と一緒のお休みは、次の日に響いて仕方ない。 体力を付けないといけませんね。 夏バテも治まってきたことだし。 あたしと華は相変わらずで、 でも、喧嘩は少なくなってきて、 お互いに気を遣ってる部分が増えてきたように思う。 密接度は変わらないけれど、 親しき仲にも礼儀ありとも言うことですし。 あたしは。 あたしはあんまり変わらないかな。 我が儘と、甘ったれを全開で。 加虐心やら庇護欲やらをそそりつつ。 そんなあたしは、二年前と何ら進歩はない。 思い返せば、いろいろあったなぁ、と思うけど。 これからも多難な日々は続くのでしょう。 そろそろ浮気したい願望が芽生えているけど、我慢。 イイコでいなくちゃねぇ。 少なくとも、あなたの前では可愛い子希望。
暑いせいじゃない。 エアコンで喉が痛くなるせいじゃない。 独りぼっちだからじゃない。 夏の昼間は好きなのに、 夏の夜は嫌い。 目を覚ますと、徐々に視界を閉ざされる。 暗闇が、じわじわと染みこんできて、 何も見えなくなる。 そんな夢を繰り返し、繰り返し。 ずっと昼間だったらいい。 ずっとあなたが自由ならいい。 誰かの呼吸が聞こえる、 そんな時間が続けばいい。
仕事場で右肩を痛めた。 筋が弱いのは昔からで、寝違えると二日は起きあがれないほど。 今回は肩を軽くヤっただけで済んだ。 痛い思いはしてるとは言え、ラッキーだったのかも。 でも、明日はせっかくの休みなのに、無茶が出来ない。 楽しいことを指折りに数えていても、 あたしの身体は言うことを聞いてくれない。 弱いなぁ、と思う。 元気なのに、痛いんだ。 少しだけマシなことと言えば。 物理的な痛みがあるから、考え事をせずに済む。 夏の良く晴れた空が好きです。 じりじりと焦げるように痛いけど。 あの色が好きです。 あなたのことが好きです。 考えが甘くていつも失敗して、プライドが高いけど。 そんなあなたも好きです。
月末締めと、月初の処理と。 いろいろと重なって、負担が一気に降ってきて。 数日オツカレ状態でした。 イライライライラ、と沸点辺りでグツグツ。 今日も今日で、かなり痛かったけど、 我慢、我慢。大人なんだから。子供じゃないんだから。 いいえ、あたしは子供ですけど。 でも、華の前でだけだもの。 仕事中には仕事場の顔。取り繕ったおふざけ顔も。 全部、全部偽物だもの。 本物のあたしなんて、本当は一人しかいない。 恵まれていると思うから、まだまだ甘ったれで。 何一つ、分からないまま。 あたしは華に甘えて生きる。 数年先にはもっと恵まれていると思うから。 今はそれをほんのり夢見て。
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