職場周辺を、華とデート。 久し振りの休日。 相変わらず観光地の様相を変えない土地を、慣れた歩調で歩く。 華よりも、慣れている。 手を繋いでいるけれど、あたしが道案内をする。 人波に埋もれて。 枯れ始めた紅葉に彩られて。 観光地の片隅、誰も来ないような山の上の景観地で、キスをした。 オンナノコの日が近いから、酷く敏感なあたしの身体を、文字通り、食べ尽くすのが華のやり方で、あたしはそれに溺れないように呼吸を繰り返す。 そんな営みすら、この現実では、何の意味ももたらさないことを分かっている。 何も産まない、不毛さ加減。 それでも、あなたが喜んでくれるから、あたしはこの上もなく幸せなのだと思っていることを、どうしたら全て伝えられるだろうか。あたしは酷く苦しげに喘ぎながら、そんなことを考えている。 「許して」と藻掻きながら。 「助けて」と喘ぎながら。 あたしは、あなたのくれる全てを受け止めようと、皮膚を粟立たせて、触覚を際立たせる。 こんな風に泣いて喚くのは、あなたにだけだよ。
日々の暮らしの中で追われながら、遠い世界を夢見ている。 ねぇ、華、お願いがあるよ。 昨日読んだ本の影響でもあるけれど。 あなたが見た、綺麗な景色を、あたしも見たい。
かつてのあたしはいじめられっ子だった。 転校生だった小学校。 生意気だった中学校。(←激しく自覚有り…) まあ、苛められる要素としては、自信過剰な目立ちたがり屋だったということ。 充分に腹立つ子供だった。 数年で、天真爛漫で生意気なガキから、対人恐怖症に変わった。 高校では深い人付き合いをしなかった。 男とは寝るだけで終わった。 短大では単独行動を選んだ。 クールで大人だと言われ続けた。 社会人になってから、同期と打ち解けることが出なかった。 仕事場では仕事に熱中した。 挙げ句、異動先で馴染めず、仕事量も半端じゃなく。 精神的にぶっ壊れて、肺炎を起こした。 そして、辞めた。(今更ながら惜しい大企業でした…) 結婚したのは正社員をやっている頃だった。 あたしがいなければ生きていけない人のように見えた。 周りから見れば強い人だったけれど、あたしにとっては庇護すべき男に見えた。 それでも。 対人恐怖症のような症状は消えなかった。 初対面を相手にすると、声も出なかった。 バイトや契約社員の面接では、直前まで、泣いて行くのを嫌がった。 外に出れば、足が震えてたまらなかった。 でも、ね、華。 今、あたしは平気だよ。 あたしには、何があってもあたしを裏切らないあなたがいる。 ううん、いつか離れるかもしれない。 裏切られるかもしれない。 あたしが裏切ってしまうかもしれない。 でも、ね、華。 あたしには、何があってもあたしの味方をしてくれる、あなたがいる。 どんなことがあっても、あたしの一番の味方がいる。 信じられる。 それだけは。
京都の観光地にある店に異動した時点で覚悟していたけれど。 もうとんでもない忙しさ。 店員が少ないのが最大の理由。 仕方ないと言えば、仕方ないことだけどね。 そのせいで、最近、華と会話をしていない。 毎朝、寄ってくれるから顔は見ている。 あたしは毎朝、寝惚けている。 会話にならない。 話したいことが沢山あるよ、華。 伝えたいことが沢山あるよ、華。 抱きしめて欲しいよ。 抱きしめたいよ。 温もりが足りないんだよ、華。 明日はようやくおやすみ。 予定では大阪まで行くつもりだったけれど、それもキャンセルになったから、一日のんびりする。 夕食は一緒に出来るから、いつもよりも長め。 華、ねぇ、華。 あなたが足りないよ。 そしたら、また一週間。 がんばれるね。
そんな夢を見て、目が覚めた朝方。 カーテンの向こうに、まだ朝日はない。 息苦しくて堪らない。 言い訳をするあなたが、あたしの後を追ってくる。 その感覚がありありと残っている。 あたしは死に物狂いで逃げながら、早く掴まってしまうことを望んでいた。 あの夢の続きは、謝罪なの? それとも、別れの言葉なの? 怖いんだ。 あなたは笑って、「夢だよ」と言ったけど。 怖いんだよ、華。
あたしと華が並んで歩く。 手を繋いで、寄り添って、笑いながら。 それはどんな風に見えてるんだろう。 今朝は、華の到着で目が覚めた。 そのまま、寝惚け眼を起こされて、さっそくネコ耳装着強制……。 朝から元気だよね、華サン!! お付き合いしましたケドね……。 情けないやら、恥ずかしいやら、いろいろと考えるものがあったんだけど。 満足してくれるんなら、いいです、ケド。 なんか人間として、どんどん駄目になっていく気がする。 その後は少し、朝寝をする。 再び目が覚めたら、下着だけ身につけて、お昼の支度。 細めのパスタを湯がいて。 昨日のうちに仕込んでおいた、パスタソースを温める。 いちご特製「ぶつきりトマトのパスタソース」 材料・・トマトの缶詰(角切りもの) 挽肉(合い挽き) タマネギ 一個 以上っ!! でも、その分だけ味付けには四苦八苦。 醤油、日本酒、砂糖、塩胡椒、インスタントコーヒー。 不思議な調味料で、適当に味を調整して、水分がなくなるまで煮詰めると完成。 思った以上に好評でした(笑) あたしがトマト嫌いだから、なるべくトマトの味を抑えるように作るけど、それでも持ち味を消したら意味もないので。 モーニングとランチ系の料理は好きなのです。 ディナーは無理よ。華に任せる! それから、あたしはLIZLISAの黒スカートとブラウス、ジャケットで。 華は新しいコート、黒いワイシャツ、ピースナウのスーツスラックスで。 腕を組んでお出掛け。 途中、コーヒーショップで休憩したり、本屋とか、雑貨屋を覗き見しつつ、最後は華の職場でケーキセットをつつく。 休日を堪能してきた。 帰りは電車。 その中であたしが思い付いたことと言えば、華に負けずにお馬鹿さん。 これが、華のお気に入りになってしまって……。 マンションに着いてから、着衣のまま、お嬢様風なあたしの格好を「可愛い可愛い」と連呼しながら、いつもの流れ。 けれど、完全には脱がして貰えず、更に「手錠したら盛り上がる?」なんて、自ら差し出してしまう馬鹿ないちごさん。 ツボったらしい(笑) 当分、これが続くかなー。 そんな感じで、今日は仲良し。
あたしなんて、死ねばいいと思う。 あなたを悲しませるために。 あなたを苦しませないために。 あたしなんて、死ねばいいと思った。 疲れた身体を引き摺って。 草臥れた心を抱えて。 泣いてるあなたを置き去りにして。 ただ会いたかっただけなのに。 あなたが会いたいと言ったからなのに。 仕事帰り、疲れたあたしは、残酷だ。 優しくなれない。 そんなあたしなんて、死ねばいいんだ。
最近の日課。 朝方、5時半にやってくる華。 あたしの顔を見ること。 あたしに顔を見せること。 そのためだけに。 寝惚け眼で出迎えて、その勢い。 あたしの感覚って、男と変わらない、かも。 朝って、とりわけヤバイんだよねぇ……。
昨日の日記から続いてるけれど。 やっぱり華がおかしい……。 今日は本当なら、仕事が終わった後に会う予定だったけど、同居人の帰宅が早くて(半休だったらしい)結局駄目になってしまった。 なので、定期連絡だけで済ます。 華が電話口で、やる気のない声で嘆いている。 「来週まで我慢する」 「あたしはどっちでもいいけど」 「来週の休みには、あるいちごで、明日は、ないいちごとエッチする」 「結局するんだ……ってか、その言い方、嫌」 「付けてくれるんなら、何でもする。土下座でもする。本気だよ!」 「土下座、してもらおーか」 「するするっ」 「……やっぱり、止めて。怖い。キモイ」 「お願いだから!! あと、来週の休みは、大きめのワイシャツでね。パンツぐらいは履いてていいから」 「何ソレ!?」 「いやぁ……プラスアルファ?」 「怖い、華! 痛いこと言わないでぇっ」 誰か、あいつの暴走を止めて……orz そもそも、アレがあたしに生えていたと認識に変わってきてるンですけど。 本気で怖いンですけど。 来週の休み……あたしは何をされるんだろう。 アイタタタタタ!! ええ、もうね。別に嫌じゃないけど、お付き合いしても構わないけど、それぐらい。今更だから、ドンと構えていてもいいんだけどさ。 ごめん、そのマジな目が怖い……。
お休みの日は一日デート。 目が覚めた瞬間、華は玄関にいる。 それからいつものように目覚めのための儀式。 昼寝。 起きてから、遅いお昼。今日は特製ネギ焼き。 今日は、その後、自転車の二人乗りでおでかけ。 LIZLISAのスカート買ってしもた……。 それと、華に変な手袋を買ってもらった。怖い顔をした羊の手袋。アジアン雑貨のお店の店頭にあって、つい目を留めてしまったもの。 どうせ通勤にしか使わないもん。 華が笑ってくれるなら、いいや。 帰ってから、下着姿のままで、タンスの整理。 あたしの服の趣味は毎年変わるから、着れなくなったものがたくさんある。正社員をしていた頃に揃えた服なんて、堅すぎて着ない。黒いワイシャツ、地味目のチノパン。一つ一つ広げて、華が好きそうなものは横流し。 ワイシャツとか、シックなブラウスとか、迷彩柄のジャケットとか。 華は喜んで持って帰る。 あたしのお古なのに……どうやらそれが嬉しいみたい。わかんない。 この間も、マフラーを買うと言うから、あたしの持っているたくさんの中から、一つをあげた。コムサのグレー。ブラウンとお揃いでもらったものだから。 最初はブラウンを持っていったけど、華にはグレーの方が似合う。 あたしがしていたのを外して交換したら、何だかいたく感動していた。 よくわかんないけど、この子は、あたしのことが好きで好きで仕方ないのだけは理解できる。 華がよく言う。 「いちごが好き」って、いつものトーンで。 その後で、「分かってる?」って聞いてくる。 分かってるよ。そんなこと。 あなたを置いて死ねないと、このあたしが思ってる。 惜しいものなんて何一つ無くて。 大事なものを作ることもなくて。 いつ死んでも後悔のないように生きてきたあたしが。このあたしが。 生まれて初めて、責任を感じてる。 華。 あたしの大好きなあなた。 あたしが息絶える時には、あなたを殺してから逝くよ。 約束するね。 じんましんが出たー。 ムービー撮られたー。ひーん。 更に帰り際に、あたしの悪戯。 ……って、華の息が荒いンですけど。 怖い怖い怖いいいぃっっ!! 両手首掴んで、ハァハァしないでぇっ。 「来週、ソレでお願いします!」 「やだっ、華が怖い!」 「いや、ほんとお願いします。土下座するっ!」 「しなくていいーーー!」 帰り際の玄関での遣り取り。 …………あほか……
仕事が終わって、急いで華の家へ。 あたしの晩ご飯は、途中で買ったコロッケ二つ。 仕事場の残りの和菓子を二つ。これは華とはんぶんこ。 食べ終わったら、そのまま抱き竦められた。 じわじわと込み上げる何かが、腰骨の辺りから、内臓まで伝わってくる。 ああ、華がいる。 あたしの中に、華がいる。 物理的に「交わる」ということができない生き物同士だけれど、こうしてあたしは、自分の中にあなたを感じることができる。 頭の中を真っ白にして、あなたの腕の中で鳴く。 今日は、全て、華の思う通り。 お邪魔をする、悪戯な手もない。 ただ、華に踊らされる。 涙が出そう。 ううん、もう泣いてる。 身体中に散らされた、真っ赤な痕跡。 華が残した自己主張が、あたしの皮膚を染め上げている。 綺麗な綺麗な、赤い花。 ちょっと情けない場所なんだよねぇ。 抗生物質でも塗って、大人しくしておこうっと。
欲しい。と思う。 ここ数日。 この間のお遊びが、本当にお遊び程度の触れ合いで。 あたしとしては、その方が好みなんだけれど。 何でか、身体の奥が疼く。 心臓の裏側、腰骨の内側、内臓の重なり合う隙間。 そんなところを、ちくちくと刺されるように、痛い程。 疼く。 どうすればいいのかわからなくて、叫びたくなる程。 どうしたんだろう。 お遊び程度の触れ合いでは、あたしは満足できなかったのか。 でも、あの時は心底、幸せだったはずなのに。 明日、会いに行こう。 そうしよう。
けんかをする。 いつもあたしが怒ってる。 華はあたしの言うことを聞いてない。 聞いてる振りして、理解している振りをして、何一つ飲み込めない。 分からないならそう言えばいいのに。 あたしが伝えようとしていた数々のことを、あなたは容易く流してしまう。 あたしが我が儘なんだって、分かってる。 求めすぎている。 理想が高すぎる。 欲しいものが多すぎる。 けれど、それを諦めたら、華と生きていくことを選べないの。 諦めたなら、今度こそ、一人きりで生きていくことを選ぶよ。 それだけは華も理解していて、あたしが怒るたびに、今にも死にそうな顔をする。捨てられてしまうことに怯えている。 でも、華。ねぇ。 そんなことを繰り返していたら、あたしは何も言わなくなるよ。 何が欲しいのか。 何を望むのか。 何が心地良いのか。 どうしたら、あなたの望むように笑っていられるか。 全てを言葉にして説明することを、諦めてしまうよ。 あたしのことを愛しているなら、身を削って、あたしを知って。 我が儘だって分かってる。 あたしは一方的すぎる。 華にばかり理想を求める。 でも、その代償に、あたしは、あたしの時間をあなたに捧げるから。 あたしの全てをあげるから。 泣いたりしないで。 あたしを見ていて。
日差しが降り注ぐベッドで、肌が触れ合う。 知らずにこぼれる笑い。 何度も何度も抱き合って。 何度も何度も、確かめ合う。 どれだけあなたが愛しいか。 どれだけ今が幸福か。 予定を入れない休日は、二人とも穏やかでいられる。 慌ただしさに追われて出かけるのもいいんだけど、のんびり過ごす日もいい。それが晴れの日なら、すごい贅沢。 ぴったりとくっついて、まるでウサギみたい。 ささいなことなのに。 天の邪鬼なあたしは、素直になれない。 幸せな時間があった分だけ、その後の孤独が苦しい。 残されるという感覚が、嫌だ。 こんなに愛してるのにね。
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