俳優ユースケ・サンタマリア氏を個人的趣味で鑑賞...いえもと(改名しました)

こちらでは、ユースケ氏の出演作品の中から、後世に残したいとまで気に入った作品&ここまでこのドラマを食い入るように観てるのって私だけだろうと思ったドラマを、筆者が勝手に必要以上に評価させて頂いています。ネタバレ有です。
ドラマのあらすじを知りたくない方にはお勧めできません。
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目次
 

 

「ほんとにあった怖い話3 憑かれた家」フジテレビ 鏡の中の顔 - 2005年11月30日(水)

「ほんとにあった怖い話3 憑かれた家」フジテレビ 2003年9月放送

事故で息子の伸之が死んでしまって、妻とも別れてから、何の張り合いも生きがいもない、緑川律夫。
ユースケ氏の、虚脱感あふれる情けない表情がぴったりだ。
彼の生活は、とある一軒屋に引っ越してきてから、一変した。
そこにどうやら、子供の幽霊?がいるらしい。顔は見せずに足音と気配だけ。
律夫はそれを我が子だと信じた。信じたかった。
なんとかして、伸之に会いたい。伸之を喜ばせたい。律夫には生きる目的が復活した。子供に会いたい一心で、残業もせずにまっすぐ帰宅。

息子の好きな縫いぐるみが手に入るまで、ひたすらに小銭をつぎ込み続け、ゲーム機に向かって叩いたりどなったりしてる律夫の様子は、何かに取り憑かれてしまったかのような雰囲気だ。

※余談になるけれど、こんな風情のユースケ氏をどこかで観たような気がした。映画「ドッペルゲンガー」で、自分を裏切った早崎(役所浩司)に復讐するシーンだったかもしれない。一心にというか無心に早崎を凶器で殴るところ。そのときユースケ氏が演じた君島って男は、わりと俗物で、馬鹿そうに見えてて、でも執念深くて、なんだかカワイソウなくらい早崎に翻弄された人。
こんなふうに、ちとアブナイほどの粘着な感じを普通っぽい雰囲気の中に混ぜ込んで時折見せるユースケ氏もいい。

でもそんな律夫の異常なまでの必死な愛がこもった縫いぐるみは、その謎の子供に跳ね返されてしまい、空振りに終わる。
子供の心をつかみかねて、焦る律夫。
別れた妻の忠告にも耳を貸さずに、その子供のことに執着するのだった。

ある夜、子供の足音とともに、律夫の寝室の戸が開こうとする。いよいよ伸之に会えるのかどうなのか、期待がピークに達する律夫の表情に、非常に息が詰まる。
しかし幽霊「達」は、我が子ではなかった。その並ならぬ驚愕と失望。
やがて事情を知るにつれ、律夫には冷静さが戻ってくる。
見知らぬ子の霊達のために線香を立てて祈る彼の顔は柔らかい。

※また余談になるが、「ホームドラマ!」で、妻と息子を事故で亡くした悲しみを抱えつつ、擬似家族とのふれあいの中で、いつしか表情が和らいでいった秋庭智彦・ユースケ氏。こういう役が結構似合う。実際まだお子さんはいないユースケ氏だが、きっと情のあるパパになりそうだなあ、と想像するも嬉しい。

ラストでは、なにげないいつもの朝の身支度の、鏡の中の視界の端に映りこんだ見知らぬ子供の姿に、気づいているのに気づいていないような、
静かに何かを思っているような律夫の表情が、印象的だった。
その霊とは、面と向かっては関われないけれど、正視せずにワンクッション置いて見守る関係というか、共感を持って黙認している存在というか、仲間と言ってもいい、縁がある。
そんな子供の霊と並んで映る自分の姿と心に、律夫は向き合っている。
もうそこには、恐怖とか疑いとか焦りとかは、感じられない。かすかな悲哀混じりだけど、落ち着いた感じがある。
なくなった我が子への、もう届かない父親としての思いと、そこに漂う子供達の、永遠に満たされない親への思いとが、音も立てずにひっそり共存しようとしているひととき。
きっとその後も、そうやってその気持ちと折り合いをつけながら、虚しさをいつか乗り越えて、彼らと同居していくんだろうな・・・。

※またまた余談になるが、「鏡に映るユースケ氏」の顔って、なんかカッコイイ、と思うのは私だけだろうか?余談ついでに、私が見たことのある「鏡越しの顔」他の作品中のシーンをピックアップ。
☆「アルジャーノンに花束を」父親の営む床屋で散髪してもらい、自分の正体を言い出せずにじっと父親を見つめている藤島ハル
☆「お見合い結婚」これから節子とデートなので、過大な期待を膨らませつつ、念入りに身だしなみを整える広瀬光太郎
☆「踊る大捜査線」本店がもみ消したい暴行事件を世間に明らかにしようとしている恩田すみれについての事情を、青島とトイレでおしゃべりしたあと、手を洗う真下正義
・・・覚えているのはこれくらい。
普段見ている顔が、左右逆になると、なんとなく新鮮で、ステキなような気がする。それにこの鏡の顔は、ご本人がそれを見ながら容姿をチェックしているであろう顔なわけで、ご本人の自己イメージと合致しているものだろうから、それを垣間見せてもらえるシーンとして、誠に貴重だと思う次第。



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「Don't trust over 30」 ホリプロ・ナイロン100℃ ユースケ氏、初の「舞台」 - 2005年11月25日(金)

「ドント・トラスト・オーバー30」ホリプロ・ナイロン100℃  2003年5月上演 

個人的に、タイムスリップ物が特に好きだ。それも、飛んでいく時代とタイミングを自分ではコントロールできない時間旅行。既に人はもともと生まれてくる時代や場所を選べないし出会いも運命としかいいようがないけれど、そこに更にこの「タイムスリップ」という神様のいたずらが加わったとき、さあ一体どうするの、という設定が大好きだ。
一緒になるはずの二人はすれ違い、本来出会うはずのない男女がなぜか出会う。出会ってはいけない人を好きになって辛い。会えないはずの人を好きになれて嬉しい。そういうプラスマイナスないまぜの運命の贈り物って、(観ているほうとしてはあくまでも他人事だし、自分では絶対実感として味わえないから)すごく魅力的だ。
もしかしたら、私たちも所詮そんな時間の流れの運命いたずらに翻弄されてる存在なので、それを強調デフォルメしてくれてるこのシチュエーションに惹かれてしまうのかもしれない。どうせ短い人生で出会える人間も限られてるなら、その間に何を考えて感じていきるのかなあってことにときめいて過ごしたいという欲なのかも。

でも、特にこのお芝居には、「これってテーマやストーリーと何の関係があるのかなあ」という要素がすごく多い気がする。だから、それがまた楽しい。
結構長丁場の舞台で、最初は4時間半だったんだそうだ。泣く泣く削って3時間半におさめたものらしい。けれどそんなに長さを感じなかった。

テレビドラマは、一話完結物のせよ連続ストーリーにせよ、何かテーマがあったらそれに向かって不必要なものは大体そぎ落として作られているものだけれど、舞台ってこれまた違う。
その日・その夜、劇場に観に来たお客が、音楽や美術などの仕掛けも合わせて、役者の立ち居振る舞いとか雰囲気を、数時間の一回こっきりのうちに、しっかりと味わって楽しめるライブのしくみが求められてる。そうすると、いろーいろ枝葉末節に至って見所てんこ盛りだ。
テレビドラマが、有効成分を抽出したビタミンエッセンスドリンクを綺麗にグラスに注いであるんだとすると、舞台は、皮もまだ剥いていない野菜そのまんまの色とりどりが転がってるって感じがする。
どこから食べていいんだかとまどう。噛んでるうちにわかってくる、雑多な素材の雑多なおいしさ。
それは、リアルな日常生活に、より近い感覚かなと思う。普段関わる家族や友達やその他の人間たちは、人生テーマに一見関係ないこともしゃべるし、やってるし、新聞の経済欄読みながらも歯痛の心配していたりしながら明日のデートの都合を携帯メールしていたりするものだ。
もしそんな日常の一部分をそっくり切り取って舞台にのせてみれば、それこそ交錯しながら同時進行するテーマ達のための、膨大な大道具小道具と、横道にそれたBGMやセリフの数々だろう。
つまりこの舞台は、とりとめのない現実の世界をちょっと大げさにアレンジしてひねって見せてるものなので、別に一心不乱に人生のテーマを感じながら観ている必要なんかないのだ。そこにいるカラフルな仲間の繰り出してくるものを、一緒に生活しているように味わいつくしているだけで楽しめる。

ミュージカルと銘打っているけれど、歌に聴き惚れるための舞台じゃないし。(はっきり言って歌は上手とは言えない)
でもいつまでも耳に残って離れない面白い歌が満載だ。
好きな歌を個人的にランキングすると、
第1位 ゲバルト・ア・ゴーゴー(ピン子、モケ美、ローザ) 「ゴマ団子〜」の歌だ。わけのわからなさが、ダントツ最高だ。
第2位 金魚鉢(五十嵐アゲハ。エンディングでは全員) 歌詞を聴くと意味不明だけれど、物悲しくてやりきれない感じがすばらしい。
第3位 大変で行こう(田中レイコ) 面倒でも、まずは毎日歯を磨くことから始まるという、その趣旨に心から賛同する。秋山奈津子は歌がうまい。
第4位 プラマイゼロ(裕之介、全員) 深い哲学がノリ良く頭にこびりつく。上記の「いやでも毎日歯を磨け」とともに、この言葉も座右の銘にしたい。
第5位 距離のあるダンス(ユーイチ、レイコ) 所要時間のつじつまの合わなさが気に入った。二人のダンスもなんだかお洒落だし、微笑ましい。
第6位 暴力猿(アゲハ) 可笑しいけど、どこか懐かしい感じがする。犬山犬子が可愛い。

もちろんユースケ氏のファンとしての楽しみ方もある。ドラマでは観られない魅力。ほら、そこにユースケさんがいる、やだー何かおかしいこと言ってるよ、という楽しみだ。
きっと普段のユースケ氏と仮にもしもお友達だったら、こんな彼をいつも見られるんだろうな、と想像できる楽しみというか。
息きらして汗かいて歌ったあとの、観客に向かっての呼びかけとか。客席の間を通り抜けるときのにぎやかな様子とか。元気いっぱいに上空を飛んでいるのとか。最後の一本締めとか・・・。
その他、劇場ではワーッと浮かれて観てしまったけれど、後でビデオでシーンを確認してみて、ここは特に中山ユーイチがカッコイイor可笑しいなーと思ったところをピックアップすると。
☆タイムスリップしたばかりのユーイチが明らかに知らない通行人達にヒューヒュー言われていたくないんです、と困惑しながらツッコむ場面
☆不思議な少女メグミとの会話の端々に出る探りあいとかごまかし笑いなど、多彩な表情
☆メグミをいじめる不良少女に立腹して彼女達の足を踏んづけたりビンタを張る暴力的なユーイチ
☆トイレから出てきたレンゲに遭遇したときのあわてぶり
☆結婚式でのレイコのわがままぶりに、どんな顔をしていいかわからないでいるシーン
☆すっかり汚くなって笑顔を忘れたレイコに、笑顔を思い出させる際「ダンドリで笑うなよ」と指導するユーイチ
☆シャークスのヒデに「もしホエールズが勝ったらシャークスは解散、メグミにももう会わないと約束する、ほんとにそれでいいんですね」と、ユーイチが出し抜けに念を押す、ユーイチのハッタリだか本気だかわからない雰囲気
☆楽屋でのメグミと二人きりの会話のしみじみとした様子。未来のことを語ろうとしたユーイチにメグミが「言わないで!」と口をふさいだときのユーイチの表情がちょっと切ない
☆ひざの中に倒れ込んだ、歳とったメグミの髪を撫でながら、泣いている(実際に泣いているように見える)ユーイチ
※ユースケ氏の泣くときの表情として、代表的なパターンは
1、目がじっとりどこかを睨みながら情念を込めて一筋二筋静かに涙を流す(例・「眠れる森」の敬太、「あなたの隣・・・」の欧太郎)というものと、
2、思い切り八の字眉毛で子供のように情けなく泣く(例・「お見合い結婚」の光太郎、「アルジャーノン」のまだ悟りを開いてないハル)というのがある。
このラストの場合、どちらかというと2に分類されるかと思うが、なぜかそんなに終末的な悲しさという感じはしない。どこかに「また会える」という希望がわずかに潜んでいるから?

また、この舞台を見て、思わぬ拾い物をしたなあと思ったのは、ユースケ氏が、若いころのマチャアキに似ていると言われれば、確かに似ているね、と教えられたことであった。なるほどね・・・とても考えさせられた。




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「眠れる森」フジテレビ 足を踏み入れるにつれ思い知る「森」の深さ - 2005年11月11日(金)

「眠れる森」フジテレビ 1998年秋

観てゆくうちに、誰を信じていいんだか、揺さぶられまくるサスペンス。
人間の心は単純じゃないってことを思い知らされる。やっぱり「森」のように深くて迷路だし、善人とか悪人とかもう紙一重だし、
個人的に、この物語は、実はあまり好きじゃない。「ハッピーエンド」じゃないから。
たとえ人が死ぬにしても、なにか救いが欲しい。苦労した分、どこかで報われてから終わって欲しい。
実際そううまくはいかないのが世の常とはいえ、そんな人間世界の暗い部分なんてせめてテレビではあんまり観たくないというのが正直なところ。
(しかし、観たくないものを、あえて観てみたいということだって、たまにはある。)
普段は忘れている(忘れていたい)ような、暗いものを、観てみたいときには、これはいいのかもしれない。

実那子の、輝一郎の、直季の、敬太の、由理の、国府の、・・・彼らのそれぞれの人生の意味は、そう簡単に量れない。
人間は光の当て方でいろいろな面を見せるものだ、と、直季の職業であるライティングデザインにも象徴されるように。

敬太という男もやはり、彼なりの「森」の明暗を内包してる。
せっぱつまった感じを覆い隠す軽さ・明るさ、でもその下にはどこか哀しくて、寒く暗い水の底のようなものも抱えているのに、その更に奥には実はまだ、何か熱情が控えていて・・・という、二重三重、十重二十重、どこまで行きつくのか、そんな複雑さを醸し出せる、
ユースケ氏の得意技が、ここにもあった。
どんなに妙なことになっても、「何か最後にはちゃんと切なくてちょっとアッタカイものが残っていそう・・・」彼はそんな雰囲気を持ってる。だから、たとえ人を殺しても、ただの悪い奴・ただの馬鹿な奴って感じは、しない。
(「川、いつか海へ」の第5話の慎平のせっぱつまった感を思い出す。そういえばそれも野沢尚さんだし)

由理に冷たい直季に「おまえが死んでくれたらなあって思っちゃうよ・・・俺にもこんな残酷な面があったなんて」と、女物のエプロン着て、本気だか冗談だかわからない風に語る敬太だが、そんな彼が、後にあんな大それたことをしてしまうとは、この時点で誰も予測がつかない。
自分も由理のことを好きなのに、懸命に彼女の恋愛相談に乗ってやる敬太。由理が愛している直季との仲をなんとかとりもとうとするが、直季の頭の中には、実那子のことばかり。
おどけた風情で由理を元気付けようと試みた後、彼女の涙をみかねて敬太が、虚しい響きで吐き出すセリフ、
「直季・・・おまえもそろそろ、感じろよ・・・。人に愛されることの、幸せ・・・。」
敬太の心中を思うと非常に胸が痛む場面だった。敬太にとってそれは、いくら求めても手に入らない幸せなのだから。
由理の幸せのためなら自分のことは諦めていた敬太だけれど、
ある夜、由理が直季に「私があなたを救えるから」と訴え、二人が抱き合うのを見た時は、
敬太は黙って静かに涙を流しながら、なんとも言いようのない目をしていたっけ・・・。
上目遣いの、ぞっとするような。
由理のことを本当に直季に託せるのか、心の中に潜む様々な感情がないまぜになっているその表情は、底が見えないほど深すぎて怖いほどだ。

(コメディドラマで見せる感情まるわかりのユースケ氏も良かったけど、何考えてるのかわからないユースケ氏も結構良い。)

友情と恋愛の間で揺れつつ、この第9話あたりを境に敬太は壊れてきたのか。由理の泣き顔は見たくないはずだったのに、いざ彼女が直季のものになっていくと、それも辛すぎる。
敬太にとって由理だけが希望の光だったわけで、そんなふうに彼女のことを語る敬太は実に観ていていじらしい。

直季のためにあえて危険も冒す由理を、自分の手にかけたのは、
この先彼女がこのように直季に関わって誰かにあやめられるよりも、いっそ自分がという思いもあったのではないだろうか。
それともそんな思慮よりも、「直季から由理を奪って」「由理を俺の女にして」道連れにしたかっただけなのか、
どうにでも解釈し得るが、多分どれも正解なのだろう。
ことに及ぶ敬太は正気の沙汰ではない。浮かぶ笑みが、異常きわまりない。悲鳴にも歓声にも聞こえる息遣いがあぶない。
このちょっとカン高い声は理性を捨ててるときの声だ。
普段どうという目立つところのない人物が見せる、こんな狂気が印象に強く残る。

由理の遺体の安置されている部屋のそばで、抜け殻のような敬太。自分がやってしまったことへの達成感や後悔や脱力感など、一言では表せない感覚をにじませながら。
そして彼女の後を追って(借金の清算も兼ねて?)自殺する数秒前の極限状態では、ほとんど無力な幼児のように、なすすべもなく泣いている。
自分は間違って生まれてきたんだと、何の希望も失くして泣くその姿。
すぐ見抜かれるような嘘をついていた時の顔も、すべてをさらけ出した素の顔も、どちらも激しく同情を誘うのだった。
そして直季の差し伸べた手を振り払って死を選ぶ瞬間に、敬太はその一瞬にだけ胸の中に、きっぱりと何かを輝かせたような気がする。
彼はやはり、ここで直季にすがって生き延びるわけには、いかなかったのだろう。

報われることのない人生。どこかでボタンを掛け違ったとはいえ、
でも敬太なりに、多分、彼にしか価値のわからない大切なもののために生きて死んでいった。
それはものすごく、愚かといえば愚かだし、ある意味で美しいといえば美しい。

「貴美子を殺した犯人の気持ちがわかる」と敬太は言ったけれど、
でもその犯人のしたことは、敬太とは比較にならないほど、ずっと罪深い・・・。




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「花村大介」フジテレビ 楽屋裏がみえそうな真剣ショウステージのスリルと可愛らしさ - 2005年11月09日(水)

「花村大介」フジテレビ 2000年秋

いわゆる「利益率の低い」仕事、お金もない、なんのステイタスもない依頼人、彼ら彼女らこそ、弁護士の助けを本当に必要としているのに、
実際世間では、正義の味方であるはずの弁護士ですら、どうしても、やっぱりお金持ちの味方。
しかし。
花村大介は、そんな弱い立場の人間の味方になるようにできている。(最初はそんなつもりじゃなくても、はからずも、そうなってしまう。)
自分も貧乏で学歴も無いわけだが、困った人を見ると、自分の損得もあとまわしにしてしまい、時には依頼人本人も諦めた事例にも、最後までくらいつく「気合」、そして正義感。
というよりも、依頼人の苦しみや悔しさを、いつのまにか自分のものとしてしまっている。裁判で負けそうなときは、チクショーって自分のことみたいに泣き叫ぶ、それは理屈じゃない。
それはある種の江戸っ子気質にも通じる。ルックスとはうらはらに、その性根は爽やかだ。
そして裁判の相手側に対しても、どこか懐の広い目で見るようなところがある。人間の弱さに寛容なのは自分も完璧人間じゃないと実感してるからか。
もちろん、キャピタル法律事務所の美人秘書・弥生の手前とか、依頼人がけなげな女性だとなおさら張り切ってしまったり、そういうのも大いに影響するところが彼らしい。

人生をいつでもそれで乗り切ってきたという「気合」と「ハッタリ」・・・・だけど、
みんなを騙しとおす完璧さはなくて、そのオモテの「ハッタリ」のうしろに隠れた気持ちの動きがなんとなく見えてしまいそうな顔のビミョ〜〜な表情、そして声。
それが花村大介の、そしてユースケ氏の魅力。
特に、彼の声は、変幻自在で、いろいろなニュアンスをのせてくる。
自信も、カラ元気も、情けなさも、強気も弱気も、下心も、軽口も、皮肉も、相手を丸め込む芝居も、素の本音も、必死な叫びも、秘めた人情も、うわずったり響いたりして、色合いを変える。
それってなかなか官能的。そして観客の感情移入を促すクスリになる。

見ているほうは、胸のすくようなハッタリを見せてもらいながらも、それと同時進行で彼の心の中の困った進行状況も味わってしまう。
喩えるなら、てんてこ舞いの楽屋裏を同時に見せてる大芝居、種も仕掛けも見えてしまいそうなハラハラするマジックショウ、
そんなふうだから、こっちは時に安心しちゃったり、時にほっとけない気持ちにさせられたりする。

弥生(水野美紀)は胸に理想を秘めていて、でも案外気さくで、踊る大捜査線のときとはまた違った雰囲気を見せてるけど、やっぱりユースケ氏とは名コンビだし、
新卒の新人・洋一(いしだ壱成)は、エリートなのに嫌味もなく坊ちゃんっぽい素直さが好感持てるし(ドラマ「放課後」の“女の子”役で見せた上品さ・繊細さがここでも出ている)、
そんな仲間と協力して、弱い立場の人々の親身になって体を張る様子。それは見ていて何だか、世の中捨てたもんじゃないよねえ、って気にさせられて嬉しい。

では例によって、私が個人的に選りすぐってお勧めしたい大介のシーンを。

☆第1話 有名写真家・大山が弥生の妹・あすかにセクハラをしている件を聞いて、いてもたってもいられず「僕がやります!」と宣言するところ。
☆第2話 あすかに対する大山のセクハラの証拠が、ごみ収集車に持っていかれ、それを実に必死で追いかける姿。なりふり構わず余裕もない声。
☆第3話 バーで声かけてきた女・頼子と飲んでいて気がついてみたらホテルのベッドで彼女と朝を迎えてた、いかにも「弱ったなあ」といった様子。
☆第3話 暴力夫と無事に離婚して娘をとりもどすことができた頼子を、心から喜んで、温かく見つめる表情。
☆第4話 弥生と電話で話し終わったあと、彼女の写真をうっとりと抱きしめている様子。
☆第4話 証人の訴えが嘘だということを証明するために、マネキンの穿いているガードルに、躊躇もせずに手を入れて見せて説明する絵。
☆第4話 痴漢事件をでっちあげた綾子が商品企画した菓子を食べつつ涙目で「人を不幸にするより、幸せにするほうが、楽しいに決まってんだから」と諭すところ。
☆第5話 死んだ父親の遺産の件を理奈がどの弁護士に依頼するか決めるテストで、わけわからないうちにダンスを踊らされる大介。
☆第5話 弥生への誕生日プレゼントのことを、内緒にしているのに洋一が口を滑らせそうになるときの、大介のキック。
☆第6話 雨の中、傘をさしかけた弥生との、少し照れながらの静かな会話。お互いを仲間と認め合っている雰囲気。
☆第6話 その大介と弥生との会話を聞いていた木下冴子が、証人として協力しようと決心したときの、大介の笑顔。
☆第7話 バンドをやっている被告人のファンの女の子たちを紹介されて、おだてられながら「異議あり!」などやってみせるお調子ものなシーン。
☆第7話 父親をゴルフクラブで殴ってしまった娘の、本当の心の内を涙ながらに訴える洋一の言葉を、やはり目をうるませてじっと聞く大介。
☆第8話 嘘つきで有名な少年・昇が、母親に去られてマンションの屋上で泣いているのを見守るシーン。
☆第8話 昇との別れのシーン。他、この少年とのカラミが全て微笑ましい。
☆第9話 この回のオープニング、弥生を映画に誘おうとしている大介のただならぬ気配。
☆第9話 結婚詐欺に遭って自殺をしようとする男を「説得」する大介のちょっと間の抜けたセリフ。
☆第9話 その疑惑の女・温子とのデート。積極的な温子に対して、少し困ったような嬉しいような表情。 
☆第9話 (温子の弟に会ってから)証人席に座って洋一の質問に答える大介が、いつになく口が重いこと。
☆第10話 恋人の小倉の不実を知った英子の悲しみや気丈なところを垣間見た大介の表情と、彼女を元気付けるための噴水でのふざけっぷり。
☆第11話 合コンに参加し女の子たちをまつ間の、洋一との妙なダンス。 
☆第11話 会社に不当に辞職させられた素子や裕美たちを弁護するために、やむなくキャピタル法律事務所を去っていく、ちょっと切ない様子。
☆第12話 カイゼル物産にもぐりこみ、証拠書類について探る大介の、怪しげな変装。Mr.ムダカッターのルーツかもしれない。
☆第12話 証拠書類を持ち出すため別れた元カレの部屋をたずねて、わざとよりを戻した振りをする裕美を、なんとか救い出そうと懸命な大介。
☆第12話 エンディングの三本締めと万歳六唱。

「ウェディングプランナー」のトオルより更にポジティブで脳天気だけど、他人にすんなり共感できるしなやかさもあり、意外と頼れる弁護士さんでした。


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