こちらでは、ユースケ氏の出演作品の中から、後世に残したいとまで気に入った作品&ここまでこのドラマを食い入るように観てるのって私だけだろうと思ったドラマを、筆者が勝手に必要以上に評価させて頂いています。ネタバレ有です。
「世にも奇妙な物語 ’05 春の特別編」より「倦怠期特効薬」フジテレビ これはお得な一品 - 2005年12月31日(土) 「世にも奇妙な物語 春の特別編」より「倦怠期特効薬」 2005年4月 フジテレビ (先日の再放送を、やっと録画で観られた・・・。私が今年最後に観たユースケ氏がこれ。) ユースケ氏が演じるサラリーマン・卓也は、「倦怠期」を乗り切る手段として、不思議な漢方薬にはまっていった。心の中の理想の女の姿が妻に投影される作用。 妻のみゆき(田村たがめ)は知らないが、卓也には彼女の姿が憧れのグラビア美女・井上和香に見えている。 これも一種の浮気に違いない。ばれなければ、妻を傷つけることもなく、むしろ妻を喜ばせながら浮気できるという、かなりおいしい話だ。 でも、すぐによそに女を作ったりせずに、卓也なりに悩んだところが、彼らしい優しさなのだろう。 本当は、昔のように、みゆきをそのまんまで愛せたらと願ってる。それゆえに、最初は夢中になった井上和香バージョン奥さんとのラブラブ生活にも、いつしか違和感や罪悪感を持つようになり、自ら出してる幻覚を自ら避けて過ごすという、矛盾した事態に。 避けられてると察したみゆきの、いじらしく切々とした涙の言葉に(このときの井上和香は泣かせる)、とうとう幻覚が消えて、本来の奥さんへの愛が戻ってくる(田村たがめも結構可愛い)。そして薬ビンの中身を、きっぱりゴミ箱に捨てる卓也。 そこでホロッとして「良い話だなあ」と思わせておいて、実は妻のほうでもその薬を使っていて、夫がイケメンに見えているのだった、というオチがついている。あらあら。奥さん、それじゃあんまりじゃないですか?あの涙はなんだったの? まあ、人って、筋の通らない生き物だから、そういうこともあるかもしれないですね。毎日朝から晩まで一瞬たりともよそ見せず、最初から最後まで何年も、一人の人を一貫して好きでいることのほうが、珍しいのかも。 ときどき我に返って愛して、ときどき勝手な夢を見させてもらう、それでもお互い大事に思ってるんなら、いいのかも。 で、この短いお話の中に、ユースケ氏の可愛げのある表情が、実にバラエティ豊かに収まっていることが判明。 ベッドで奥さんから慌てて逃げるように寝た振りするところとか。それから漢方薬局のおじさんとのやりとりとか。「一ヶ月分、もらおうか。」のあたり、ユーモラス。 雑誌の写真から飛び出したように井上和香が出現したときの、慌て方がリアルで、かっこ悪くて情けなくて良い。 横に寝ている彼女に。思わず「カワイイな・・・」と迫るところとか、適度にヤラシくて、これも良いし。 彼女との夢のような毎日、特効薬を飲み込んでから期待一杯にニンマリするその顔の、子供じみて嬉しそうな。 「もし俺が浮気したら、どうする?」って訊くときの目の表情はピッとして落ち着いてて、一瞬妙にカッコイイ。 思い出のアルバム、恋人時代の、明るく無邪気そのものの写真の数々。 プロポーズしたシーンも然り。怪しげなところが全然ない。さわやかで安心できる、善人っぽさ。 奥さんに申し訳ないような気がしてきたころの、彼女に対する微妙な雰囲気。 彼女のけなげな心を知って思わず「ごめん」と抱きしめるところなんかとても優しい感じだし。 ラストの罪の無い笑顔は、ちょっと間抜けにも見えて、可愛くてカワイソウだし。 と、これほど短時間のうちに様々なユースケ・サンタマリア氏を鑑賞できる一品だったとは、かなり儲かった気分でした。 - 「姫が愛したダニ小僧」 ネルケプランニング 怪しいおかしいと思いつつ巻き込まれる祐一 - 2005年12月25日(日) 「姫が愛したダニ小僧〜Princess and Danny Boy〜」 ネルケプランニング 2005年7〜8月公演 夏に観劇したときに予約していたDVD(サントラCD付き)が、今月になって、やっと届いた。 Piperのメンバーが揃った、旗揚げ公演「Piper」のリメイクというかバージョンアップの作品で、 とにかく、お楽しみ会のように賑やかで楽しく、ストーリーも心温まる舞台だった。 すみれ姫(富田靖子)は老女の役も、若い姫の役も、すごくうまい。声の出し方が素晴らしい。 麗子(大路恵美)のキャラクターが強烈で絶品。 橋本ゆうじ君(山内圭哉)も妙な動きや台詞回しが爆笑もの。 アイアンフット(筋肉善之助)の一人実況描写には、ただただ、唖然、呆然。 後藤ひろひと、佐藤康恵、高杉亘、川下大洋、竹下宏太郎、松村武、松永玲子、みんな個性的で鮮やか。 そんな、一見して不条理な世界を当然の前提として生きている面々に対して、祐一(ユースケ氏)だけは、現実的な視点で「おい、おかしいぞ」という反応だ。 彼一人でこんな人々にいつもツッコミを入れなきゃならない。忙しい。 彼一人、その世界を怪しみ、困惑している。でもなんだか拒みきれないで、巻き込まれる。抑え気味に、内心の静かな苛立ちを、苦笑や皮肉とともに台詞にのせる。それがとてもうまくって、なんとも可笑しい。 7月の日常日記のほうにも書いたんだけど、ホントに、「ボボボーボ・ボーボボ」に出てくるビュティのような重要なツッコミ役。 すみれ姫だと名のるお婆さんの語る世界に、積極的に関わろうとする妻・エリ(佐藤)のそばで、しらけたように座ってる祐一のたたずまい。 姫の物語にすっぽり嵌まるまでは、こっちに留まろうとして往生際が悪かったけど、一たびその世界に嵌まってからは、案外尾を引いてしまった「船長」だった。養護施設に無事に姫を送り届けたあと、気がつけば彼女のことをちゃんと「姫」って呼んでいる。 現実と、姫の世界、どっちが真実だったのだろうか。 豚女(松永)の「ヨーソロー」の声を聞いたときの祐一の「何かなあ?今度は・・・」の、もう笑うしかないって言いたげな反応のところなど。 頭が沸きそうになってる感じで可愛かった。 頭が沸きそうになってるときのユースケ氏の声は結構カンノーテキ。割と高めで。乳児〜幼児のころの本能的な驚きとか悲鳴などに通ずるものがあって、放っておけない感を醸し出す。 一箇所、祐一がすごーく怒ったシーンがあった。悪い侍従長達の極悪非道ぶりに対して、怒りをあらわにするとき。姫の世界の出来事に既に取り込まれているのに、口から出てきた言葉はまだ、あくまでも現実社会的なセリフで面白かった。 その時のテンションの上げ方も、一気にではなくて、徐々に、噛みしめるように、堪えに堪えてから・・・という雰囲気が良かった。 そうそう、飯田(ラサール石井)も、すごく考えさせる存在感だった。これから自殺しようというときに、確かにあの男A(後藤)と話していると、固定観念もガラガラ崩れてしまい、つまらないことで死ぬのも馬鹿馬鹿しくなるだろう。 細かいところまで、演出もすごくいい。 たとえば、大声でしゃべる鯖田(松村)の飛んでくる唾を、大路恵美が手で防いでその自分の手をじっとイヤそうに見る、とか。 姫が若返って皆の名を呼んだとき、「船長!」と言われて祐一が、今までは返事してしまったことをシッパイしたーというリアクションをしてたのに、このときだけは魔法にかかったように素直に返事してたり、 毒タンポポガスからガードするためにアイアンフットが粘液で作ったバリアを、さりげなくエリが人差し指で突っつくしぐさとか、 渡辺(竹下)の歩き方や身のこなしなんか、芸術的とも言えるし。 ゆうじ君(山内)や城一郎(高杉)の太刀回りも、それぞれにかなりステキだし。 芋宮殿MITSURU(川下)とアイアンフットって、まるで鳥山明の漫画に出てきてていそうだ。 笑い所ではすべて笑えた。 そして観客も巻き込んでくれる、ストーリー展開・・・。サービス精神満点だ。 客席から舞台に引っ張り出されて演じさせられた一般人、「弟子家来」さんにも拍手。 ※ただ、ここで「ほおー、」と考えさせられたのは、DVDを観ていると、「弟子家来」さんが客席に戻る際の拍手のとき、他の出演者さんは笑顔で拍手しているんだけど、ユースケ氏はこれをしっかり劇中のできごととして、役になりきっている表情だったようだということだ。あくまでも「祐一」であることを忘れてなかったんだなあ、と感心した。これがいいのかどうなのか、判断しかねるんだけど。※ ラストの自動販売機での演出も、観客が参加できた感が大きい、ほのぼのとしたハッピーエンドで良かった。 全公演がスタンディングオベーションだったらしい。歌い踊るご機嫌絶好調なユースケ氏を観てると、自然と元気がでてきて立ち上がって手を振ってしまうのもわかる。が、それ以前にユースケ氏は「立ちましょうか!」って呼びかけてるし。 観にいったのがたまたまDVD収録日(7月27日・アートスフィア)だったので、改めてよく見ると、立ち上がって拍手してる私も、一瞬、ちょこっとだけ映ってるみたいだ。このとき幸せだったなあ、こんなふうにお芝居を観にいけて良かったなあ、と思い出しながら観返す日々だ。 - 映画「交渉人・真下正義」 よくここまで育ったね真下君 - 2005年12月19日(月) 「交渉人・真下正義」 2005年5月公開 この「踊る」のスピンオフ映画(結局劇場で七回観た。DVDも予約して買った。)では、 それまで露出度の少なかった、脇役の真下にスポットを当てながら、こんどは湾岸署を離れて、地下鉄のプロ達や警視庁交渉課準備室のメンバー達の人間ドラマに舞台が移っている。 青島やすみれ達は直接出てこない。本編とは違うテイストのドラマの中に存在する真下を見るのは面白い。「踊る」とは別の物語でありながら、でもやはり、微妙な人間関係をも味わえるドラマだ。 はじめはTTR(地下鉄)側は警察の人々を相手にしていない。自分たちの仕事に誇りを持つがゆえに、排他的な態度をとっている。 隅でコーヒーでも飲んでろと言われたあたりの、落ち着かなさが真下君らしく微笑ましい。妙な間の取りかたが良い。内心のビビリを隠しながらユーモラスにチラ見せするのがユースケ氏はうまいし、可愛らしさもある。 それでも真下は、謙虚にして大胆、そしてその冷静さと懸命さで、だんだんTTRのみんなの信用を得て気持ちを通わせる。 それから小池君をはじめ交渉課のメンバーの細かくも膨大な分析作業、TTR総合司令室長の片岡の判断力、広報の矢野の協力、線引き屋のおじさんの神業のダイヤ作成、地上を走り回る木島刑事やSATや爆発物処理班の人々、 ともかくみんなの限界以上の力を合わせて事件解決を目指す。 誰か一人だけが謎解きの決め手となったわけじゃない。みんながそれぞれ、互いに信じ合いながら自分の仕事を精一杯やって、ひらめいて、たどりついたことの集積だ。事件はそんな彼らの成長のきっかけであり、そういう意味ではこれも「踊る」のバリエーション。 実は、何度観ても私には(おそらく大多数の観客には)想像力では補いきれない謎が残る。 せっかく本編から独立したストーリーの映画なのだから、何から何まで事件の真相をすっかり明らかにしてもらっても良かったかなあ、とも思う。 この結末では、厳密には「事件解決」というよりもまだ「危機回避に成功」の段階でしかないとも言える。 この映画に「犯人逮捕」「真相究明」を期待した人はたくさんいたと思う。でもそういう視聴者のニーズと、この作品の表現したいことが噛み合わなかった場合、人によってはひどく落胆させられるだろう。そしてリアルさを追求して観たときには、数々の矛盾が気になるだろう。 でも、見方を違えれば、「犯人」は、マニアの一線を越えてあっちの世界に行ってしまった人間の代表に過ぎない・・・主題は、こっち側の人間たちのドラマのほうにある・・・そう思えば、最後まで犯人の顔が見えないのも、(私にはスッキリしないけれど)あり、かも。 ヤッチャンみたいなハイテンションの刑事・木島に対する反応や、やけに明るい笑いを取る広報・矢野とのカラミでは、真下の適度な低温が、それと互いに引き立て合う。温度差をつけたキャスティングの妙だ。 特に、矢野がコーヒークリームを使ってみせて事態の深刻さを説明しようと工夫してるのに、あまりそこに乗ってこないで少々突き放したような真下の受け方が、なかなか魅力。 ユースケ氏は、こういう冷たげなリアクションを示しても、心から冷たいわけじゃないことが観客にわかってるから、それがかえって隠された温かみを際立たせる要素になるわけで、そういうところが良い持ち味だ。 犯人との電話中、せっかく心理戦トークを展開しようとしているのに、横から地下鉄マンが邪魔しようとしたときの、アセアセした雰囲気もユースケ氏に似合う。交渉人の顔と、隅っこに追いやられがちな脇役っぽい顔。それが交互にくるところがいい。 そして、そんな真下を助けてくれた線引き屋さんは、あとで非公式の情報をそっと教えてくれる・・・。その線引き屋さんの気持ちに真下が素直に感謝と敬意を表す様子も好感が持てる。 でも地下鉄の司令室長・片岡は真下になかなか心を開かない。(この片岡のキャラもなかなか魅力的だった。真面目な顔して妙に可笑しいところもあるし) 真下に不信感を示す片岡に対する、真下のセリフの中で、特に好きなのは「僕は彼とは違いますよ。」 自分に向けられた厳しい視線に耐えつつきっぱり言い切る静かな強さを、一見ひ弱そうな表情の奥に感じる。 真下は犯人とだけじゃなく、TTRのメンバーとまで交渉トークをしなければならなくなる。地下鉄の非公開情報を得て作戦を立てるため、慎重に彼らを説得していくその口調が、真下正義のユースケ氏でしか聞けない貴重なものだ。 真下正義の温度の範囲という、制約の多い中で、熱や揺らぎをにじませつつ冷静カラーで統一しなければならない声の演技。 こういうのがうまいと思う。 こういう、トーンを抑えた真下のしゃべりを「棒読み」だと評する向きもあるようだけれど、なるほどそういう皮相的な鑑賞の仕方もあるんだなー、とため息が出る。 永田町駅のシーンでは、真下の読みが外れたりして、その新米ぶりにハラハラさせられるけれど。しかし真下には、SATの人命を守りたいという考えもあったわけで、少しでも危険の疑いがあったあのシーンの場合、あの決断は仕方なかった。 このあたりは、「踊る」の隠しテーマのひとつなのではないだろうか。捜査活動の中で、捜査員の人命をどう尊重していくかという。MOVIE2の沖田管理官が「なにかあったらどうするの」という責任回避ばかり気にして捜査員に拳銃発砲を許さなかったことと対比してみると面白い。 電話で話す雪乃には、心配をかけまいと平常を装い、不安になるようなことは一切言わないでいるのも、好もしい。 犯人のターゲットが雪乃(と真下)だということに気づいて、真下は動揺し、それまで無機質で冷静だった真下の声の調子も、かすかに変わる。その抑えつつ乱れた感じがいい。ぐらついた感じ、そして「泣き落とし」とまで犯人に言われたあとの、その閉塞した感じ、 でもよくそれを乗り越え、持ちこたえる。案外、芯は強いじゃないか真下君、強くなったんだね真下君。と言いたくなる。 後半は片岡も、他の地下鉄マンたちも、彼を心から応援しつつ送り出す。 そして地上の木島との信頼関係の熱さも、ほどよくて良い。 (最後のほうでの木島との会話「あれは、どうして分かったんだ?」と訊く木島に「ただの、勘です。・・・真似してみました。」と真下が答えるシーンがあるけれど、ここを観て本当に真下が勘頼みだったなんて思う人もいるようだ。でも真下は木島を好もしい同志だと思ってフレンドリーな会話をしているだけだと思う。つまり、ある程度ちゃめっ気なのだ。) ここでは真下の「交渉」術は、それほど鮮やかに引き立つような印象ではない。タイトル通り「交渉人」に期待をして観た人には物足りなかったかもしれない。 しかも、本来は真下が気づいたほうがドラマが劇的になるのにな、というあのキーワードまでも、線引き屋さんや他の地下鉄マンが先に早い段階で言ってしまってる。なんでもっと主役に花を持たせないのかとも思えたりするが。 だいたい今までに、「踊る」シリーズの主人公が、いかにもその肩書き通りに、例えば刑事「らしい」人間だったことがあるだろうか。 だからここでも真下は、いかにも交渉人「らしい」人ではない。 でも、やっぱり真下はさりげなく、「交渉人」の役を果たしていたのだ。 彼はマニアとかオタクの世界をよく理解している(というよりも同調できる)、そして冷静と「お人よし」の雰囲気を併せ持っている。だから犯人に「仲間」「ライバル」と認識させることに成功した。それゆえ犯人の頭脳ゲーム心を刺激し、謎賭け合戦を盛り上げておいてヒントを聞きだしておいてから、「僕はお前とは違う、こっちにとどまっているほうがカッコいいからね」と突き放し、そっちの負けだと挑発し、犯人が語るに落ちるのを待つ。 はじめは馴染みやすい風情で安心させながら、ちょっと意外な所でダマす・・・このあたりも、ユースケ氏が得意なキャラと言えるだろう。 彼は犯人にどこかシンパシーを持ってしまってたんだろうなー、という様子が、「三度目の爆発」の炎を黙って見つめているシーンにあらわれている。 一歩間違えば真下も一線を越えてしまってたかも、という。いかにも刑事然とはしていない、真下ならではのスタンス。 この目の潤んだ表情は良い演技、いや、演出か。DVDでの本広監督のコメントを聞くと、これは早朝、とても眠たいときの撮影だったらしい。それが良かったのね。 で、雪乃さんにまたもやプロポーズのシーンで、MOVIE2を思わせる既視感、あのドジな可愛いアワアワした真下君が現れる。 それまでのいろいろは全て、彼のこのギャップを一層味わい楽しむためだった、と言っても過言じゃないだろう。 それからもうひとつ。この映画はとにかく、音楽の使い方が素晴らしい。 ※「逃亡者 木島丈一郎」フジテレビ 2005年12月10日放送 について。 映画「交渉人 真下正義」の2ヶ月前の話、という設定。木島は元・勝どき署のマル暴担当にして、警視庁特別捜査班の係長。そして真下は交渉チーム設立の準備中である。 真下はここでは脇役として、情報収集で静かに木島に協力する。型破りな木島と好対照な雰囲気だ。 真下の直属の部下も登場する。この人は、本編で青島の後輩だったころの真下をほうふつとさせるような、とぼけた感じの人物だ。 ある殺人事件を目撃し、警察内部の不正の証拠に繋がるものを持っている少年。彼を守って、一緒に警察から逃げまわるハメになる木島。 そんな木島も心に少年のような部分を持っているわけで、歳を超えた友情に、しみじみ感動する。 これを観てから改めて映画のほうを観ると、木島がどんな人間で、ここでどんな気持ちでこういうセリフを言ってるのか、どうしてあのジャケットを着てるのか、木島が警視庁の階段を上ってバカヤロウと言いつつ登場するあのシーンの直前には、実は何があったのか、などが分かるしくみ。 爆発物処理班の班長の露出もこのドラマでは大きい。なかなか魅力的な役なのに、役名が「班長」だけとはさびしいけれど。 このドラマもDVD化され、真下正義のプレミアムエディションのセットには付いている。いや、フジテレビってホント商売上手だ。 欲を言えば、このプレミアムセットの仕様の、真下の写真、もう少しカッコイイのを選んでも良かったんじゃないだろうか。あれではちょっとムッツリ何とかみたいだ。もっと良い写真、他にあったんじゃないでしょうか? そして、もうこうなったら、あの「容疑者室井慎次」に出ていた弁護士の田中麗奈を主役にしてドラマ作ったりとか、あるいは湾岸署に戻って魚住係長の名を冠した映画とか、出てくるのでは?いい加減にして欲しいような、でも観てみたいような・・・。 - 「踊る大捜査線」シリーズ フジテレビ 脇役・真下君の適温 - 2005年12月10日(土) 「踊る大捜査線」本編〜番外編、そしてMOVIE1、MOVIE2 フジテレビ 1997年1月〜2003年 真下君はどんな人物として描かれたか。 東大出のキャリア、お父さんも偉い人というエリート坊ちゃん。PC関連など機械に詳しくてマニアックで、ちょい知的。でも腰は低く、ちょっとドジ。室井さんに憧れ、SATが来るとはしゃぎ、そして雪乃さんに恋してる。頼りなげな、コミカルなキャラ・・・・というのが、普通一般に知られていた真下正義像だろう。 エリートだけど、エリートくさくない。鼻につかない。 エリートをちょっとひけらかすような、子供じみたところがあっても、偉ぶるわけじゃない。なんだか可愛らしくて、許せてしまうキャラ。 どんなに出世しても、「先輩」の青島君には頭が上がらないようだ。 オモチャにしやすい人物というか。使いやすいというか。 このドラマには実に個性的なメンバーが揃っていて、あきれるような出来事がしばしば起こる。いつも「本店」の無理解に悩まされる。 「踊る」シリーズの面白味って、「警察っていっても案外、そんなしょうもない雑事とか主従関係とか、なんだかんだで人間ドラマに翻弄されてるんだね。やっぱりサラリーマンなのね」という「カッコ悪さ」と、それに負けずに小さな仕事でも頑張る「所轄の意地」を見せてくれることではないか。 固唾を飲んで手に汗握って事件の解決を見守ることが「踊る」シリーズの主題ではないと私は思う。これは人間関係の妙を小気味よく味わうためのドラマだ。 (スペシャルやMOVIEで何度か同じようなパターンがストーリーに出てくるようになったので、もう続編は要らないかも、とも思うんだけど。本店の手伝いで殺人事件の被疑者をじっと見張ってる途中に、所轄で追ってる被疑者が近くに現れて困りました、とか) いろいろな名フレーズが飛び出した。 「警察はアパッチ砦じゃない。会社。」 「正しいことをしたければ、偉くなれ」 「事件に大きいも小さいもない」 「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ」 等など・・・。 官僚たちはしばしば、自分たちは安全な会議室から出ないままで、所轄をないがしろにしたり、責任の所在ばかり問題にしたり、足の引っ張り合いをしたりする。そんな本店と所轄の軋轢とか階級差別とか、その中で苦悩する室井さんとか、スリーアミーゴスの保身汲々しながらも案外わかってくれてたりとか、いろんな登場人物たちのあれこれ。 そんな「おいおい・・・」ってツッコミたくなるときに、視聴者の代わりに醒めた視点で横からさりげなくツッコんでくれたりするのも、真下の役割のひとつだろう。 エリートキャリア官僚とノンキャリ兵隊の間を行ったり来たりできる、面白いポジションだ。 青島は、信念を持って熱く燃えて挑みかかる役。だとしたら真下はもうちょい涼しく低温層にいる。 鋼鉄のような冷たさじゃなくて、喩えて言えば、なんだろう、冷奴豆腐かな?そこまでもろくもないから、コシもある寒天か? 諦めたような顔をして流れに乗りながらも、「しょーがないなあ」って言いながら、内心は支持している青島やすみれ達のことを結局、応援してしまう。 たたきあげのヒラ刑事、和久さんの、足を使った地道な捜査。彼がアナログの代表なら、真下はデジタルの申し子として、今の若いモンの事情に通じ、事件解決の突破口の役を果たすこともある。 そうしていつのまにか、典型的な官僚出世コースからは微妙に外れていき、すっかり所轄の良き同志に。 ドラマで本編が放送されていたころ〜MOVIE1あたりまでの真下は、まだまだ、そんなナイスな引き立て役としての、脇役だった。 雪乃さんへの恋も、まだまだ薄く淡くしか描かれてなくて、まあ「真下も可愛いところあるじゃん」っていう。色付け程度で。 彼女を好きは好きなんだけど、まだ命がけで守ったりなんてしなかった。 いつぞやの、「歳末特別警戒スペシャル」の篭城事件では、実にヘナチョコの極みだ。自分のうっかりミスで被疑者を暴走させたのに、雪乃さんが危ないってときなのに、彼女を置いて部屋から出てしまったし(確かにSATを呼んだりはしたけど)、彼の腰抜けな場面を探せばいくらでもある。 (このスペシャルでの真下の描かれ方はあんまりだと思う。いくらあんな真下君でも、好きな雪乃さんを置いて自分だけ部屋を出るなんてありえないだろう。真下なら、きっとそんなことはしない。だけど青島の活躍を目立たせるためにはそういう流れにしなきゃいけないのかな。だったら、最初の設定から雪乃さんを部屋の外においといて欲しいところだ。そういうわけでこの歳末特別は納得いかないが、魚住さんとアンジェラの貴重なキスシーンがあるという点では見逃せない。シリーズ全体を見直しても、レギュラーメンバーのキスシーンは唯一ここだけ。) でも本編では、麻薬密売に絡んでいるという疑いをかけられた雪乃の取調べをわざと長引かせて、頑張って時間稼ぎする(第7話)あたり、案外根性あったし、撃たれて重症になる前に、ちょっとはりきって彼女にイイところ見せようとしてた(第10話)んだけど。 持ち前のオタク魂を発揮して、結構活躍することもあったりして、いつのまにかMOVIE1頃までには、雪乃さんと名コンビになっていったらしい。 それにしても、まだオープニングのタイトルに名前も出てこなかった「ユースケ・サンタマリア」氏、もう、ちゃんと「俳優」やってるじゃない。 空気の作り方がすごくいい。 それに本編に出てたころのユースケ氏は若い!可愛いよ結構。20代だし、お肌に張りがある。 (いや勿論30代は30代の良さ渋さがあるんですけどね) 本編〜スペシャルドラマの、なかなかステキと言っても良かった表情ランキング(個人的選抜)。 第1位 第10話 キャリアになんかならなきゃよかったなあ・・・みんなと、「雪乃さんと、一緒にいたいし」のセリフときの、いつになくきっぱりした表情 第2位 第6話 一日署長の篠原ともえと肩や腕を組んで記念写真に納まるときの、気取った様子 第3位 歳末特別警戒スペシャル 殺人事件の遺族の少女が、声を出せなくなっていたとき「和久さん、この子・・・ショックで、言葉が・・・」のセリフのソフトな雰囲気 第4位 秋の犯罪撲滅スペシャル 室井達の話を物陰で立ち聞きしてしまってた真下のちょっとシリアスな顔 第5位 やはり秋のスペシャル エンディング近く 湾岸署のみんなと一緒にすみれを温かく見つめる表情 第6位 第3話 取調室にて、すみれにしっかり手を握られたときの、驚き慌てた様子 第7位 第9話 婦人警官の試験を受けたいという雪乃の理由説明「ここの人たち、素敵でしょ」というセリフを受けての、一連の反応。採用試験の説明をしながら雪乃さんのバディを爪先から頭まで凝視する目つき ちなみに、「踊る」史上もっとも真下が、良く言えばセクシー・悪く言えばスケベなのは、「秋の犯罪撲滅スペシャル」で、大塚寧々の演じる相良純子に抱きつかれたときの「声」だと思う。 被疑者である純子は、脱走のために真下に抱きついて、彼のポケットの中から手錠の鍵を抜き取ろうとする。 このときのユースケ氏の声が、お坊ちゃま育ちの真下らしいウブさを演出しているのを聞き逃すことはできない。とまどいつつ、理性を失くさないように必死に堪えている感じが、色っぽいというか、なんというか。 普段はあまり激しく体温の変動を感じさせない真下の、ここは貴重なシーンだ。 MOVIE1ではネットに関する知識が相当深いことを見せている。それを駆使して犯人特定に一役買っているけれど、殺人犯の日向(小泉今日子)が署内に現れてピストルを構えてたときの真下は、なんかやっぱり腰抜けっぽい。 MOVIE2では、やっと真下の、ややカッコいい感じが味わえる。 ネゴシエーターとしての登場シーンでは、雪乃さんには軽くいなされ、青島やすみれにはからかわれていて、その受け身も可笑しいけど、 犯人との電話のやりとりがはじまって、彼は結構、ただものでもなくなったことが見えてくる。 ネゴシエーターのノウハウを生かした、冷静な分析力、とか。 犯人の心をすっと掴むようなしなやかさ、とか。 でも彼の魅力(雪乃さんが惹かれたであろう魅力)は、実はそこよりも、 「雪乃さんのことになると、そういう冷静さを忘れてしまって、あのアワアワした真下君になってしまう」という点だと思われる。 しかも雪乃が暗にプロポーズを承諾しているのにそこにも気づかないで、振られたと思って落ち込んでいるというドジぶりが、彼らしい。 このギャップの魅力は、「交渉人・真下正義」にも続いている。 このユースケ氏の初主演映画について、と、今夜TV放送の「逃亡者 木島丈一郎」については、また後日、別に記すことにします。 - 「俺は鰯 -IWASHI-」WOWOW ここでも愛と勇気を振り絞っています - 2005年12月08日(木) 「俺は鰯 -IWASHI-」 WOWOW 2003年4月 DVDのパッケージを見るとユースケ氏がいかにも疲れてそうな顔なので、「えーどうしようかな」と観るのをためらう人もいるかと思うけれど、きっと観る価値があります。 鰯。魚偏に弱いと書く。いつも群れていて逃げ回っている、雑魚。 そんなサカナに喩えられる、平凡で意気地なしの男。プライドもなくて、理不尽な仕事のためにあくせくする。 友達を見殺しにしたという、苦い思い出も抱えてる。 そんな高城太郎が、勇気を奮い起こすことができたのは、 慧敏(フイミン)という一人の女のおかげ。 彼女は娼婦という境遇の中でも誇りを忘れない。それは父親の病気を治したい一心だった。 そんな彼女の心に触れて、彼は仕事も捨てて、危険の迫る彼女を追って台湾へ。 そこには親友の五十嵐の友情や、外科医の沙耶の協力もあった。 苦労して父の元に帰った慧敏は、父の死によって、糸が切れたようになってしまった。 でも、わざわざ日本から彼女を探し出してくれた高城に、心を開いて、今一度、前を向いた慧敏。 危険を承知で、父の形見の高価な皿(それは3億円はするだろうという貴重なもの)にまつわる取引に出向く。 彼女が教えてくれた言葉「人生是美好的」(人生は、捨てたもんじゃない)を胸に、生まれて初めて必死になって慧敏を守り抜こうとする高城。 ごく普通の弱々しい男が、暗黒社会を相手に立ち上がる。 ヤクザの右腕となって彼女を追っている王富龍(ワン・フーロン)にも、かつて恋人を自分の手で殺したという、彼なりに忌まわしい過去がある。 彼は凄腕で、冷たい。「人生は、クソみたいに汚い」を身上とする。 しかし、高城と慧敏を追い詰めて銃口を向ける富龍に、何かの変化が起こった。 身を投げ打って彼女を助けようとする高城と、高城のためなら大事な皿さえ要らないという慧敏。 二人の強さの波及効果が、富龍の寒々しい心にも届いたとき、富龍もまた「人生是美好的」の真の意味を悟るのだった。 つまるところ、本当の強さは、誰かを愛するがゆえの人生肯定ってことなんだろう。それこそが、さえない人間に光を与え、奇跡的な火事場の馬鹿力を発揮させてしまうものだ。 (鰯も実は美味しいし、栄養もあったのだ) 彼女と一緒に生きていくことで、高城は「群れない鰯」に生まれ変わった。 こんな高城の役にユースケ氏がぴったりなのは言うまでもないことだ。 いかにもかっこいいアクションはないけれど、かっこ悪さがかっこいい。 弱っちいようでいて、いざとなると、男になる。どこにそんな底力を隠していたのアンタは、と言いたくなる場面の代表として、 私はひとつ選りすぐって、このシーンを挙げたい。 皿を探しに来た富龍が、高城が泊まる部屋に押し入って彼に銃を向けたときに、高城が、慧敏から預かった皿を持った手を窓の外に伸ばして、「これでも、撃つのか?落とすぞ!」 恐怖に耐えながら丸腰のギリギリの状態で富龍に対峙している、その表情と声。良かったです。 -
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