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B-SIDE DISC7 
杏子



 出ない涙

実の母が亡くなったというのに


深い悲しみの実感が無くて

今日まで 涙の一滴もこぼしていないんだ


それほど親密でもなかったはずの

近所のおばさんがさ ボロボロ泣いてるんだよね

棺の前でさ


それ見てさ、あれー? ってね

俺って薄情なのかなぁ 


そんな人でさえ 泣いてるのに

俺は泣かない。


母親が死んだってのにさ。





私も 大好きだった祖父が逝った時

涙が出なかったことを 思い出す。




隣で 声を殺して泣いている兄を見て

とても複雑な心境になった。


私は大好きなおじいちゃんのために

涙の一滴も 流してあげられない。





ひどく 自分が冷酷な人間のように思えた。










2009年01月16日(金)



 半覚醒の芳香

理事長の 睡眠のリズムは

少なくとも私からすれば ちょっと変わっていて



ほぼ 夜の22時前後に 

第一次の 睡魔の波が押し寄せ

 
独り 寝室のベッドに入った直後に
 
睡魔と闘う様子が手に取るように分かる


そんなメールを 私に向けて送信される。



それは 句読点なんてまるで無視 だったり


時には メールの予測変換機能の弊害か

まったく違う単語が紛れる


そんな メール。



(苦笑)



惚れた弱みと言うべきか

そんな時 私の胸には


たゆまない愛おしさが 溢れます。




眠りについた理事長が 

次に目を覚ますのが 深夜3時か4時を回った頃。


先の睡眠で 一日の必要な睡眠をほぼ取り終えている

そんな状況ですので

気力、体力ともに 十分に回復した状態。


けれども ベッドに横たわった体は

未だ半覚醒のまどろみに包まれています。



そんな中 送られてくるメールは

とても無防備で 






 

理事長の 2泊3日の沖縄出張の間

その、半覚醒の時間帯を


私たちは文字のやり取りの代わりに 

電話での肉声の会話に 切り替えることにしました。



互い 半覚醒のまま

思ったことを声で紡ぎ合い 無防備な心を晒す。



けれども皮肉なことに


互いの半覚醒の頭は
 
あまりに 夢の世界に寄りかかりすぎていたようで



翌朝になってみると 

その時間帯の、会話の雰囲気は思い出せるものの


私が普段 執拗に追求したがる

紡ぎ紡がれた言葉の

ディテールやニュアンスは 


すべて綺麗に削ぎ落とされてしまっているのです。




けれども その感覚は


真綿に染み入る精油のように

目覚めの朝の 芳しい香りの余韻となって


独りの体を やんわりと包むのです。











2009年01月12日(月)



 その身 故に

葬儀に色々な人が来ていたけれど

一番綺麗だったのは 間違いなく君だった。


綺麗だなぁ と思いながら何度も見てた。




葬儀が始まって 


実の母が亡くなった という現実に置かれ

さらには 常に妻をすぐ傍らに置いた 


その理事長の 脳裏を駆け巡っていたもの。




覚えたてのメールが

実母が他界された その日の夜以外

毎夜 私のもとへ着信する。



6日間の忌引きを待たずに

職場復帰なされた 昨日今日。



それぞれの前夜 懇願するように


明日 キスしてください。


被弾されたかのごとく 私の心が疼く。




今日 周りの反対を押し切る形で

理事長は 出張に赴かれました。



これまで、すべて仕事優先で生きてきたから

最後までそれは 貫き通す。




忌中のその身をして 

遠く沖縄で 2夜を過ごされる予定です。




先ほど 


少し眠たくなってキマシタ

愛してるよ




たどたどしく綴られる文章が

慣れぬメールを 印象付け





ふと 

男性から こちらから催促する形でなく


自発的に 

愛してる という言葉を受け取ったのは 


これが初めてだ

ということに 私はドキリとさせられるのです。








このような 理事長の言動を見せ付けられるに

初めこそ、少し

言い知れぬ違和感を感じていたものですが




実母を亡くしたその身 故に


妻を傍らに置き 

その姿を愛人に見られているという状況 故に


喪に服さねばならない その身 故に



このような言動を 彼に

起こさせているのかも しれません。





自身がひどく 罪深い人間のように


思えます。












2009年01月09日(金)



 弱い人間

恥も外聞も世間体も奇麗事も

見栄も現実も立場も正論も



そういうものを全部 取っ払って



今 私が思うことは



ただ ゆっくりと


時間の流れを手に取るように感じる

そんな 速度で


理事長と 二人だけの時間を過ごしたい


ということ だけ。




「だけ」 なんて言うには


あまりに非現実的で 高望み過ぎる欲求です。




通夜の始まる前

受付に立つ 私の目前に無言で歩み寄る、理事長


受付台越しに 真っ直ぐに私を見据える目

視線が肌に 吸い付くような感覚

すぅっと 私の気配に理事長の気配が被さって

微笑とともに 私の周りの空気が絡め取られる。




この場において それは 


いけませんよ、理事長。








この場において そういう空気を醸し出すのは 


いけません  理事長。



私が いち部下として いち事務局員として

ただ、それだけの存在で

その場に居合わせようと 努め励んだ事実と同様に


あなたも ただ

私の上司として この組織の理事長としてだけ

その場に存在していて欲しかった。





でも それでも


その瞬間に そういう情感を醸し出した

理事長の姿に


都合よく 理事長の本心を投影させる私もまた


弱い 弱い人間なのです。













2009年01月07日(水)



 因果

仮に 実際に起こった

事実のみを列挙 するとして。




4日 理事長の実母である方が 死去され

5日 通夜

6日 葬儀



4日 あの部屋で 

私の傍らに座る理事長の携帯が鳴り


電話は その容態の急変を告げるものでした。



万が一のことを考え


その日 私たちの所属長の自宅で行われる予定だった

勤務先の新年会をキャンセルし


とりあえず、詳細の一報を入れるから

それを待つように。



…すまんなぁ



とだけ 理事長は私に告げ

その電話から5分と経たずに 部屋を飛び出す。



10分後



間に合わなかったよ。



最初 電話口

理事長の言う 言葉の意味が分からなくて



誰も 看取れなかった。

独りで逝ったって。




続く言葉に 返す言葉が見つからない。




その日 事務局長は 不在。


関係各所への この訃報の通達は

私がするしかない。


非情にも 私の初めて着手する、その事務手続きの手順を

手違いなく済ますことだけを 


その時の私は 繰り返し頭の中で確認していました。





怖かったのは 



おそらく

通夜 葬儀ともに

受付として その場に居合わせるだろう


そのときの 私の心境。









ひとりの部下として

いち事務局員として


その場に存在することが 今の私に出来るのか。





現実として その空間のなかで私は

理事長の奥様と 幾らかの言葉を交わし


互い頭を下げ

積日の感謝の意を 述べ合いました。



何の因果か その中で 


奥様は、今後入用になるはずの

何枚かの不祝儀袋への浄書を 私に依頼されるのです。





別室で 私より6つばかり年上の

理事長の末の娘さんが淹れてくださったお茶を飲み




東京から 急遽戻られたと言う

ご長男に 深々と頭を下げられ




私と事務局長は 会場を後にしました。











2009年01月06日(火)



 硬直した体

本日より 仕事初め。



では ありますが

本当に 予想だに出来なかった

ある 突発的な出来事で



心が 

私の心が


大きく 揺さぶられています。



昨夜は 理事長のフリースの上着を

自身の体に 絡みつかせるかのように

強く強く両手のひらで握り締め

眠りにつきました。




目覚めたときの 自分の体勢が

眠りにつくときのソレと まったく


まったく同じであったこと。





硬直した体は 夢を見ることも 




許さず。




決して 仕事に行く前に

こういうことをする私では無いはずなのに。










明日まで 長丁場 です。









2009年01月05日(月)
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