読書記録

2023年07月27日(木) ブラックボックス / 砂川 文次


 ブラックボックスとは、利用者が内部構造や動作原理を知らなくても支障がない設計の装置やソフトウェア、システムなどのこと。また、対象の内部構造などが分からないことを前提として、入力と出力のみに着目する考え方。

                    IT 用語辞典 より


第166回芥川賞受賞作。

ずっと遠くに行きたかった。
今も行きたいと思っている。

自分の中の怒りの暴発を、なぜ止められないのだろう。
自衛隊を辞め、いまは自転車メッセンジャーの仕事に就いているサクマは、都内を今日もひた走る。

昼間走る街並みやそこかしこにあるであろう倉庫やオフィス、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようで見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。(本書より)


沸いてくる自分の怒りを抑えることが出来ず、脱税するとかの意志もないまま突然訪ねてきた税務署員に酷い暴行をしてしまって、刑務所に入った。

















2023年07月23日(日) グレイスレス / 鈴木 涼美

 グレイスレスを辞書で調べたら
危険、差し迫った危機に気がつかないまたは、直面していることに対して静かで毅然とした、とある。



主人公は、アダルトビデオ業界で化粧師(メイク係)として働く聖月(みづき)彼女が祖母と共に暮らしているのは、たぶん・・・鎌倉と思える森の中に佇む、意匠を凝らした西洋建築の家である。
 静謐なイメージ「聖」の住まい、メイク師という「俗」と思える対極の世界が面白かった。




2023年07月19日(水) 博士の長靴 / 瀧羽 麻子


 気象学を専門とする藤巻博士の4世代の連作物語。


博士の息子の和也
その娘のなるみ(成美)は、シングルマザーになっていた

和也の家庭教師の光野昇、カルチャー教室に通うご近所さん、市役所の防災課の榎本など、藤巻家を取り巻く人々の日常など。



 藤巻博士と家政婦のスミさんが結婚した過程が知りたいし、もっとそのへんを深堀りしてほしかった。

藤巻博士がスミさんにあげた水色の長靴、そしてスミさんにとっておいた青い長靴は成美の小2の息子のものになった。



著者の姓は 『たきわ』とお読みする。





2023年07月13日(木) 老人ホテル / 原田 ひ香

 
 埼玉県の大家族で育った日村天使(名前はエンジェルと読む)は、生活保護を受け自堕落な生活を送ってきた。大家族ファミリーとしてテレビで放送もされていたが、16歳で家を出て、大宮のキャバクラ「マヤカシ」に勤める。そこでビルのオーナー綾小路光子を知った。
数年後、清掃員として働き出した天使は訳あり老人が長逗留するビジネスホテルにひっそりと暮らす光子と再会する。天使は、投資家だという光子の指南で、極貧人生から抜け出そうと、生きるノウハウを学ぶ。
ラストがよかったな。


この著者はアパートを買い取って家賃収入を得る物語が好きみたい。

まぁ、そこそこお金があれば掃除やベッドメーキングをしなくていいホテル暮らしもいいかもしれない。



2023年07月09日(日) 仏教ゆかりの植物図鑑 / 松下 俊英



 仏教説話には釈尊の生涯の節目に登場したり、教えを象徴したりするものとして様々な植物の存在がある。本書はゆかりの植物の名前の由来やそれにまつわる物語を紹介しながら仏教の教えを伝える試み。真宗大谷派教学研究所研究員の著者が同派の月刊誌『同朋』に連載した原稿を中心に加筆・修正したもの


知っている花もあり、初めて知った花もあり。


大島加奈子さんの絵がいい。



2023年07月07日(金) 私の盲端 / 朝比奈 秋



 盲端という言葉を知らなかった。内臓器官で一方の端が閉じている管(盲管)において、その閉じた端のこと。
虫垂などは端が閉じているので盲端を持つ。
また、鎖肛で直腸が閉じている場合、直腸盲端とも表現できる。


中華料理店でバイトしていた大学生の涼子は、生理の出血だと思っていたのに、病院で気がついたときには人工肛門になっていた。
オストメイト用のトイレで、同じく人工肛門の男性と知り合いになった。
ある程度 日にちが過ぎたら人工肛門を塞げると期待していたのに、遺された直腸が短いため手術不可能と診断された。

  


もう一つ、短編。

塩の道

関東の救急病院で馬車馬のように働いた。
二度の離婚の後、博多のお看取り病院で3年働いた。
自室で寝転がりながら人が亡くなるのを待って死亡診断書を書くだけの病院なのに、体に溜まった疲れがとれなくなっていた。
そんな病院の延長線上にあるはずの、青森の診療所にやってきた。





2023年07月04日(火) ソ連兵へ差し出された娘たち / 平井 美帆

 
1945年夏――。日本の敗戦は満州開拓団にとって、地獄の日々の始まりだった。
崩壊した「満州国」に取り残された黒川開拓団(岐阜県送出)は、日本への引揚船が出るまで入植地の陶頼昭に留まることを決断し、集団難民生活に入った。
しかし、暴徒化した現地民による襲撃は日ごとに激しさを増していく。
団幹部らは駅に進駐していたソ連軍司令部に助けを求めたが、今度は下っ端のソ連兵が入れ替わるようにやってきては“女漁り”や略奪を繰り返すようになる。
頭を悩ました団長たちが取った手段は……、未婚の娘を接待という名目で差し出すことだった。

実際にその接待に差し出された人たちの真実の語り。

もし「接待」がなければ 、移民した大集団の人々の自決という自死をしていたかもしれない。
だが、その犠牲になったのは未婚の娘たち。

無事に帰国しても「接待」に出されたという差別にも苦しめられる。
そして「接待」を決めたのも、その後にも口を噤んでいた男たち。





別記
私の母も満州引き上げ者で、自宅に帰りついたとき、叔母は乞食が物乞いにきたと思ったらしい。
やはり ロシア兵からの暴行を防ぐため頭は丸刈りだったそうだ。
母は26歳だった。







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