読書記録

2023年06月29日(木) 石を黙らせて / 李龍徳

 
 主人公は高校生の頃、三人の友達と共に女性をレイプした過去があった。
時効を迎えてはいるものの、交際相手との結婚を目前に控え、唐突にその事実を思い出し耐えられなくなっていく。
「なんでおれはそのとき、そんなことしてしまったのか」
全てを告白し恋人に捨てられた主人公は、実名でブログに詳細をアップし、被害者に謝罪したいと考えていると吐露し、共犯者であった幼馴染に突き放され、家族にも見捨てられる。
会社も辞めて 酒浸りになっていく。

ふつう、レイプしたほうが罪の意識にさいなまれることは珍しいように思う。

よしんば 自分の罪を忘れることはなくても、この物語のように表にだしていくというのはやっぱり珍しい。



2023年06月26日(月) じゃむパンの日 / 赤染 晶子

 


 ほとんどが新聞に掲載されたもののエッセイ集。

生まれ育った京都や大学院生の時の北海道での出来事など。
クスッと笑えるような私たちの普通の暮らしにあるちょっとした面白いことの数々。

さそり座の女の歌で知られている美川憲一がおうし座のおっさんだとか、好きな編み物で手袋を編んだら右手が二つできたとか。
そんなショートコントをみているような面白さ。


芥川賞の受賞者だが、残念なことに
2017年9月18日急性肺炎のため京都府宇治市の病院で亡くなられている。
享年42歳。


















2023年06月22日(木) 川のほとりに立つ者は / 寺地 はるな


 カフェの店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木圭太が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。
松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知っていく。


精神科の領域というか、以前は知らなかった障がいを知った。
ADHDは知っていたが、ディスレクシア(発達性読み書き障害)
全体的な発達に遅れはないのに、読み書きだけが困難なひとがいる。
字を字として認識できない。ただの黒い丸のように見える人もいる。
努力不足でもなんでもなく、脳の構造が違うせいだという。

松木は友達(岩井樹)の発達障害を口に出来なくて、清瀬と疎遠になってしまったのだ。



私感
いろんな障がいを子育てしているときに見つけられなくて、育てにくい子供として親が接していたらそれはあまりにも哀しい。
















2023年06月18日(日) 友罪 / 薬丸 岳

 記者になる夢に破れて、町工場で働き始めた青年、益田と、同じ工場で黙々と仕事をこなす鈴木。同い年であったことから会話を交わし、彼らは次第に心を通わせる。だが、やがて益田は、鈴木が17年前の児童連続殺人事件の犯人ではないかと思うようになる…

その町工場にはAV女優の過去を昔の男に脅されている藤沢美代子、そして一人息子が16歳のとき飲酒運転で3人の子どもを死なせてしまった山内もいた。

鈴木(本名は青柳健太郎)を更生させるために、精神科医師の白石弥生は自身の家庭を崩壊させてしまっていた。

確かに自分に助けを求めたはずの友だちを見捨ててしまった負い目を益田はずっと抱えていた。



鈴木が事件を起こした土地と、益田が中学生のとき、友達がいじめにあって自死した場所は近くて、なぜこの地を設定したのかと思った(奈良市)

そう言えば・・・
あの 神戸児童殺傷事件の ”さかきばら”が、この地で暮らしているともっぱらの噂だったことを思い出した。。。


映画化されてたようだ。
今からでも見たいな。

























2023年06月14日(水) 拳眼 / 土門 拳



 カメラのレンズを通して本物を見てきた写真家 土門 拳 の学芸員さながらの言葉の数々。

 ご飯に味噌汁が一番好きだから、日本を撮る。
嫌いなものは、いくら金を積まれても撮らない−。
ひたすら、一途に日本の「美」を求めた土門拳の美学・審美眼。








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2023年06月09日(金) 愛は時間がかかる / 植本 一子



著者の二人の娘さんの父親である石田義則さんが亡くなられる直前から受けた
「EMDR」というトラウマ治療の記録。

カウンセリングに通い始めたきっかけは、末期癌を患っていた夫に対して、どうしても優しくできなくなったからだった。
度重なる夫の入院と退院に加え、子供たちもまだ小さく、育児に仕事に、夫の病気と、一人で生活を回していくことに、日々のストレスは溜まっていった。そのストレスの矛先が夫に向かい始めたことに焦り、どうにかしなければ、とまわりの友人から勧められたからだ。

治療の流れは最初のトラウマ、最悪のトラウマ、一番新しいトラウマと進んでいく。
見つめ直した後は、一番つらかったときを10としたら、いまはどの程度ですか、と尋ねられる。
痛みのレベルを数字に表すようにいわれた私の関節症と同じだ。

治療をすすめていくと、今のパートナーとうまくいかない不安は執着だと気付かされる。






2023年06月05日(月) 生老病死 / 山折 哲雄

 

 朝日新聞土曜版「be」掲載

今年 数だけでいえば 九十になる
この年輪のなかに 自分の生老病死が
 入っている

いつごろからか
 最後は
生き恥をさらすか
晩節を汚すか
どちらかになる外ないだろう
と予感していた

そこへ 突如として
デジタル社会なるものがあらわれてきた
昨年からは
コロナ・ウイルスが姿をみせはじめた
私の生き恥と晩節が この先どうなるのか
その行方がわからなくなり怪しくなってきた

海図も 見取図も
手元には 何もない

生老病死が 土台ごと揺れはじめた
このようなトンネルのなかを
どのようにはいつくばって
しのいでいけば いいのか

あらためて 問い直してみなければなるまいと 思った














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