2018年03月25日(日) |
光炎の人 上・下 / 木内 昇 |
徳島の貧しい煙草農家の三男坊、郷司音三郎が主人公。
日露戦争の行方に国内の関心が集まっていた時代、徳島の池田にある煙草工場へ幼馴染の大山利平に勧められて職工として働きに出て、電気の可能性に魅せられていく。電気は必ず世を変えるという確信を胸に、好奇心旺盛な少年は大阪へ渡る決心をする…。 大阪の工場ですべてを技術開発に捧げた音三郎は、製品化という大きなチャンスを手にする。 だが、それはただの一技術者ゆえに無惨にも打ち砕かれてしまうのだ。 東京へ移った彼は、無線開発の分野で頭角をあらわすが、ろくに小学校も出ていない音三郎は大阪の工場でもそうだったように人の何倍も努力しないといけないのだった。 大阪工科大学卒と学歴を詐称して、陸軍大佐の娘と結婚し、同じように努力と才覚とで関東軍に身をささげた利平と再会する。
そして 音三郎の無線技術は張作霖や関東軍による盧溝橋事件にも利用されていくのだ。
最後は幼馴染の利平に命を絶たれる場面で終わるのだが、果たして利平も復員できるのだろうか。 もし 復員できたとして 彼の妻は音三郎の妹だから何と報告するのだろう。 音三郎も利平も時代の波に飲み込まれるように、人格も変化していく。
音三郎という人物を通して技術者の性のようなものがうまく表現されていて、読み応えのある面白い物語だった。
俳優の故高倉健さんが、UCカード会員誌に一年半にわたり連載されたエッセイと、書下ろしの遺稿を加えた21のお話。
お父さんは 親戚が経営していた九州の炭鉱で炭鉱夫たちを束ねる仕事をされていた偉丈夫な方。 お母さんはベタベタはしないけれど 静かに愛情を注がれたようだ。
そんな両親のもとで育った少年時代、戦前の小中学校時代の思い出話。 無事に復員された戦争に行った従兄弟やお兄さんとの思い出も。
良かったのは 唐仁原教久(とうじんばら のりひさ)氏の挿絵が入った絵本のような本。
あとがきでは 「辛抱ばい」という母の教えが 58年と言う俳優生活の支えだったと記されている。 「生き方が映る」と、映画俳優とはそういうものではないかとも語られている。
表題作「あひる」 田舎の家の初老の夫婦と医療系の資格をとるために勉強中の30代とおぼしき娘の3人家族、そこに知人から譲られて飼うことになったあひる。その あひる を見に来る近所の子供たち。 その子供たちのために あひるを買い替える夫婦にとって、子供たちの来訪はいつしか生きがいのようなことになっていくのだが、息子夫婦のおめでたで同居することになった。
2編目の 『おばあちゃんの家』 それの続編のような3編目 『森の兄弟』
これは確実に読む人の年齢によって感じ方が違うように思う。 小学生でも読めるような易しい文章なのだが、何気にざわざわ感が残る不思議な物語。
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