2017年11月30日(木) |
土の中の子供 / 中村 文則 |
芥川賞を受けた表題と短編一つ。
物語は、タクシー運転手をしている27歳の青年の一人称(私)による語りで、最後まで名前は明かされなかった。 幼いころ両親に捨てられた彼は、預けられた先で激しい暴力を伴う虐待を受け続けた挙げ句に山中に埋められたが、 自力生還して後、施設で育った。 だが産みの親たちからどんな暴力を受けていたかは語られていないため、想像するしかない。。
その後生き延びるも、ある種の自虐的なトラウマで彼は暴力にその身を晒し続ける。 そして暴力を受けることによって生じた恐怖を意識の中で捉え続けようとする。
物語はバイクに跨った連中にタバコの吸い殻を投げつけて半殺しの目に合う。 終盤ではタクシー強盗に遭い首を絞められ死を覚悟する。 彼は決して死にたいというか、消えてしまいたい訳ではない。無気力で無抵抗なようだが、彼にははっきりとした意思がある。 幼い日に山中の土に埋められたとき、そしてタクシー強盗の男に首を絞められたとき、彼は抵抗し命が続くように肉体を動かす。 自分に根づいていた恐怖を克服するために、彼なりの、抵抗だったのではないだろうか。 タクシー強盗の太ももにボールペンを突き刺して抵抗し、 暴力を乗り越えた彼は、タクシーを凄まじい速度で走らせ、 急カーブの先にある白いガードレールに突っ込んでいく中で暖かな光を感じ、恐怖を克服する。
そして最後にかつて施設で世話になった恩師が父親に会うことを勧めるが、 「僕は、土の中から生まれたんですよ」と言い、 だから両親はいないのだと言い、会うことを断って街の中へと歩いて行く。
蜘蛛の声
2017年11月16日(木) |
私家本 椿説弓張月/平岩 弓枝 |
もともとは江戸時代のすごいベストセラーで 滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』と並ぶ名作だそうだ。 歌舞伎の題材にもなっているらしく 流浪の豪傑・弓の名手源為朝の生涯を書いている 。
江戸最強のベストセラーが、ホームドラマばかり書いていると思っていた平岩弓枝の作で読みやすい物語に再現された。
時の権力者信西の怒りをかって都を追われた源為朝は、肥後国で最愛の妻と巡り合うも、運命は為朝をさらなる旅と闘いへと駆り立て、あの保元の乱で崇徳上皇とも絡む。 (私・・・、大河ドラマで井浦新が演じた崇徳上皇が大好き!!)
読みやすく淡々と物語が進んで行くが、内容が急展開、超展開で、その落差があり得ないというかようわからん世界になってる。
まあ、なんというか、ともかく源為朝が行くところ行くところで敵を倒し子供を作るけど、人徳ゆえか問題が起こっても後腐れなく上手く解決して、伊豆大島に流されるも、最後は琉球にまで行くんだもの。すごいとしか言いようがない。
2017年11月03日(金) |
ある奴隷少女に起こった出来事 |
ハリエット・アン・ジェイコブズ (リンダ・ブレント 筆名) 堀越ゆき=訳
1820年代のアメリカ、ノースカロライナ州出身の元奴隷。 幼くして両親と死に別れ、12歳で好色な医師の家の奴隷となり、性的虐待を受ける。それでも奴隷という運命に懸命に立ち向かった。
奴隷制は、黒人だけではなく、白人にとっても災いなのだ。それは白人の父親を残酷で好色にし、その息子を乱暴でみだらにし、それは娘を汚染し、妻をみじめにする。黒人に関しては、彼らの極度の苦しみ、人格破壊の深さについて表現するには、わたしの筆の力は弱すぎる。 しかし、この邪な制度に起因し、蔓延する道徳の破壊に気づいている奴隷所有者は、ほとんどいない。葉枯れ病にかかった綿花の話はするが━我が子の心を枯らすものについては話すことはない。
少し想像力を高めて見て、私が奴隷所有者の妻としたなら、夫が若い奴隷に好色であれば嫉妬にかられ泣きわめくのか、夫に無視を決め込むのか、それとも若い奴隷に怒りをぶつけてしまうのだろうか。 そして私が当の奴隷の立場なら、奸計や罠で奴隷をいたぶる所有者に立ち向かえるだろうか、7年間も屋根裏に潜み自由になれる日の来ることを耐えれるだろうか。
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