2017年06月27日(火) |
嫁をやめる日/柿谷 美雨 |
夫の急逝によって妻はやめられたが、かえって嫁という立場が重くのしかかってきた。 東京へ出張していたはずの夫が地元のホテルで急死して、さらに毎月女性に送金していたことを知った。 あまり仲のいい夫婦ではなかっただけに夫への疑念は膨らんだ。
それにしても夫婦の形も色々あるもんだなぁと。 夫が亡くなって「姻族関係終了届」という書類を役所に出せば、夫の親族から解放されることを知った。 でもこの物語の場合、子供がいなかったからすんなりいったんだと思う。 もし子供がいれば、夫の両親からみたら孫になるわけで、もっとややこしかったことだろう。
でも団信に入っていたから住宅ローンが消滅して、自分の気に入った家で働かなくてはならないけれど、一人で自由に生きていけるなんて何と羨ましい事だろう。
2021.8.11 (追記)
以前、読んだことを忘れてて タイトルに惹かれて 2度読み。 が、半分くらい読んでやっと気付く。
サオリという女性に送金していたのは、中学時代に自転車事故を起こして それをネタに脅されていた。 浮気でも何でもなかったのだ。
それにしても、未亡人か…羨ましいの一言。 私も一人暮らしがしたい!!
2017年06月20日(火) |
土の記 上下/高村 薫 |
主人公が住んでいるような地域社会の、誰かれとなくつながり、連なってゆく声の全部が、終わりも始まりもない、継ぎ目もない水音のざわざわのなかに前後もなく溶け込み、響きわたっているのを、土地の者はほとんど皮膚呼吸するようにして聞き取り、聞き入る。 そして、そのうちに自らその水音になり、水蒸気になり、大地に混じって盆地を駆けめぐり、浮遊するのだ。
かつてこの眼に見えていたものから年月を経て剥がれ落ちた意味の片々を、いま一度拾い集めて記憶の引き出しに収め直すよう、生き残っている者の背中を押しているのは、この山間のそここに息づいている死者たちであり、自分もいよいよ彼らと交感する年回りになったということなのだ。
こんな地味な描写が淡々と続いて、少々とっつきにくい感じがしたけれど、 普通の人間の日常は人生って本当はこんなものなんだと思えてきたあたりから、俄然面白くなってきた。 主人公の伊佐夫は16年前の交通事故で植物状態になった妻を今年の1月に亡くしたばかり。 あれは本当に事故だったのか? それとも自殺だったのか? 妻は浮気をしていたのか? 妻への疑念が晴れない気持ちを自分自身との会話で繰り返しながら、黙々と畑仕事に精を出す。 奈良の小さな集落に東京の国立から婿養子としてやってきて 地域からも、家族からも疎外感を感じていた彼にとって、 土と向き合う時間だけが純粋に自分に向き合える時間だった。 村の人々や妻の親類、早くに家を出ている一人娘とその孫 そんな人々との切れないつながりの毎日は、 現実と夢とが混濁する意識の中で、過去と今を生きていた。
下巻の最後、平成23年の奈良県南部土砂流災害で、奥宇陀漆河原にも行方不明二人の被害があった、とあるが、それは伊佐夫と義妹の久代のことなのか。
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