読書記録

2015年02月14日(土) 花衣ぬぐやまつわる……         田辺 聖子


   わが愛の杉田久女

 師、友、そして夫からさえもうとまれた…。うぬぼれ強く、しっと深い女として誤解され続けてきた昭和初期に活躍した天才女流俳人・杉田久女を、著者が丁寧に資料や文献などから本当の姿を書き出している。

久女伝説では、友人知人の才を嫉妬し、独占欲支配欲が強く、容易に事を構え、いさかいを好み、友人を持てなかったようにいわれるが、仔細に彼女の生きた軌跡を辿ると、友人との交際やこまやかな心の通い合いを大切にして、人の世ではとだえ勝ちなつき合いの糸を、丹念に結んでいったように思われる。

人の思惑にかまわず、やりたいことをやる、という強気が、案外、久女にはないのだ。宇内の叱言や不満を歯牙にもかけない強さ、柳原白蓮が断崖から落っこちるようなことをしてやろうと思う、といった実行力は、久女にはない。
良妻賢母の枠組に軋みながらも嵌められて久女はその中で生きようともがく。


俳句会の最高峰にいるような虚子だが、私はこの本で虚子という人の人間性に本当にがっかりした。
それにつけても虚子にホトトギスを除名されてからも、師を慕いつつ作句しながら狂気のうちに亡くなる久女は哀れとしか言いようがない。



   花衣ぬぐやまつわる紐いろいろ

   争ひやすくなれる夫婦や花曇り

   個性(さが)まげて生くる道わかずホ句の秋

   足袋つぐやノラともならず教師妻

   ぬかづけば我も善女や仏生会

   子有る身のこゝろ強さよ菊の秋

   


   




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