鎌倉中期、執権・北条時頼が権力を振るっていた頃 全く異なる境遇で生きてきた四人の男女の人生の物語。
傀儡仲間と共に諸国を渡り歩く傀儡女の叉香(しやか) 執権の時頼に一族を殺された(三浦家村) その家村に夫と子どもを殺された怪力の女(イヌ) 宋から渡ってきて、躍念仏(おどりねんぶつ)を広める沙依拉夢(サイラム) らが 鎌倉で交錯しながらそれぞれの生き様を探す。
最初は、タイトルが傀儡となっているから傀儡女の叉香(しやか)が主人公かと思いきや、家村やイヌや沙依拉夢(サイラム)の登場で話がどのように進んでいくのか分からず、あれっ・・・読みにくいのかななんて思ってしまった。 でも、鎌倉中期の庶民の生き様や思いがいろいろ書かれているし日蓮も登場してだんだん面白くなってきた。
復讐のために、自分の人生をかけている家村とイヌに、いつの間にか二人に関わってしまっている傀儡女・叉香。 自分に降りかかってくる運命をさらりと受け入れながら、人生は遊びと割り切っていく叉香が、なんともユニークな存在で、上手く書いてるなぁと思った。 また、日本に来て、権力と結びつきながら発展を続ける宗教のあり方に違和感を感じる沙依拉夢の思いや、当時の権力構造の仕組みなどに、現在と照らし合わせてこういう政治というか社会の仕組みは今も変わらんなぁと思った。
最後、叉香が誰の子か分からないお腹の子供をイヌに育ててもらおうと考えるあたりもなかなかに良かった。
2014年08月09日(土) |
泥(こひ)ぞつもりて 宮木 あや子 |
〇泥ぞつもりて
貞明親王(後の陽成天皇)と乳母である紀全子、そして乳母子の益の物語。
貞明親王は母の高子より乳母の全子のほうが好きだった、だからなのか乳母と同じ匂いのする益と男色関係へと発展していく(これは作者の考えたストーリーなのか?) だから貞明親王は自分といるよりも女との逢瀬を選んだ益を殺してしまう。
そして貞明親王の素行の悪さとか、高子・貞明親子の感情劇がとても面白く描かれていた。
高子・貞明親子の感情劇が凄かったです。
〇凍れる涙
順番が違うのにも意味があるのだろうが舞台は少し前になり、惟仁親王(清和天皇)の時代の物語。
この時代 藤原良房・基経親子などの公卿によって、清和の後宮には沢山の女がおくりこまれ、清和は数々の女を抱き、疲れ果て政務に支障が出ていたと書かれていることが多い。 女をあてがってわざと政務から遠ざけていたという物語もあったなぁ。
そして何より天皇はお世継ぎを残すことが大事な政務の一つ。 だから権力者は天皇の外戚となるべくこぞって天皇へ女(娘や姪)を送り込み、子を成せば皇子へとさせる。 そんな情勢の中、わずか9歳という年齢で即位し幼帝としてたつことになる清和天皇。 幼いながらも女をおくりこまれ、その一人が藤原多美子(藤原良相の女)であった。
また、良房親子によっておくりこまれた藤原高子。今でいう駆け落ちまでして本当に愛していた業平とは引き離され、清和天皇のもとに入内させられる。
〇東風吹かば
題名から察せられるように菅原道真の登場。 『東風吹かば匂いおこせよ〜…』で有名な菅原道真と源定省(宇多天皇)、藤原基経の物語。 でも… この物語では、基経は伯父の良房のように権力を欲っしていたわけではなかった。
それにしても 天皇、女、権力者、平安時代特有の貴族社会の恋愛が見えてくるように思う。 私たちが思っているより、遥かに、当時は身分に縛られ、自由のきかない環境だったのだと……当事者としては抗えない立場でかなり苦しんでいたのだろうと、思えてならない。
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2014年08月02日(土) |
古事記の恋 清川 妙 |
私の好きな物語風の読み物かと思って期待したのだが内容は、著者の解説〜原文の書き下し文〜訳文となっており、古事記の入門書のよう。 古事記は伊弉那岐や伊邪那美といった名前からして取っつきにくい印象を受けているので、解説書として読めばいいんだ。 各章のページ裏に登場する神々(命みこと)の説明があって初心者にもわかり易い。 神話として子供の頃に学校の図書館でワクワクして読んでいて知っている話もあった。 それにしても著者が古事記に心酔してる事がよく分かる。 神々に仮託されているが、今の世にも理解できる生身の男女の心のありようが著者なりの解説でほんとうに解りやすい。 まるで講義を聴いているような錯覚をするくらい。
第一章 伊邪那岐と伊邪那美 第二章 色許男と須勢理 第三章 海佐知、山佐知 第四章 沙本ひめ 第五章 倭建命 第六章 石之日売と女鳥 第七章 赤猪子
710年に古事記が編纂されて1300年になるとして、奈良では 観光客誘致に『万葉記紀プロジェクト』なるものを立ち上げている。 古事記の概要を伝える観光客用のパンフレットも数多い。
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