2014年03月30日(日) |
静人日記 天童 荒太 |
「この人は誰に愛され、誰を愛していたでしょうか。 どんなことで人に感謝されたでしょうか」
坂築静人はそう訪ねて 死者を悼む旅を続けている。 数年前に読んだ 『悼む人』 の、主人公 ”静人” の日記。
できるだけ一日に一度、就寝前の時間に<静人>となり、空と向き合う。 <静人>として、星を、星を隠す雲を見上げ、心にわきたつものを書きとめる。
とは言うものの・・・側面から見たらこれは死者の記録なのだ。 静人は死の経過ではなくて、亡くなった人が 「この人は誰に愛され、誰を愛していたでしょうか。 どんなことで人に感謝されたでしょうか」という視点で悼んではいるけれど、読み進めるうちには心がふるえて、目頭が熱くなり本を閉じてしまうことが何度かあった。
私が生きていくうえで一番不可解と思っていることは人の気持ちなのだが、何故静人はこうも過酷な旅を続けるのだろうか。
2014年03月16日(日) |
飛鳥燃ゆ 町井 登志夫 |
表紙には 副タイトルとして ”改革者・蘇我入鹿” とあった。
645年、蘇我入鹿が中大兄皇子と中臣鎌足によって暗殺され、さらに入鹿の父・蝦夷をはじめ蘇我一族が註滅された事件は乙巳(いっし)の変として私たちに伝わっている。 蘇我一族の専横に危機感を抱いた中大兄皇子が、鎌足を誘って天皇中心の政治に戻そうとした改革とも伝わっている。 そういう意味合いもあって大化の改新と伝わっているという解釈もあるが、実際たいした改革などなかったのだ。 だが 今に伝わる歴史は勝者の記録であって、正にこの頃のことなど歴史学者の解釈によって微妙に意味合いも違ってくる。
私は 無残にも歴史の表舞台から引き下ろされてしまった人物にとても興味を覚えるので、”改革者・蘇我入鹿”という副題のついたこの物語にかなり期待して読みはじめたが、残念だがこの物語の中では入鹿は何も改革していない。 権力にはあまり興味を覚えないある意味平和主義者のような設定だった。 それにしても入鹿が唐に渡っていたなんて・・・こちらのほうが面白かった。
そして・・・入鹿が聖徳太子の子供である山背大兄王を誅殺したのは皇極天皇の命であるとした設定も面白い。
まぁタイトルに期待したほどの物語ではなかったけれど、それはそれで結構楽しめた。
2014年03月02日(日) |
流転の女 松下 麻理緒 |
読み終えて思うのは何でこのタイトル???
東京女子大学心理学科同期卒の二人による共同執筆ということらしいが、読んでいてしばらくして思ったことは、この物語の主人公は三十二年前に事故?で死んでしまった愛理という女優を目指していたらしい女性なのだということ。 そして ミステリーかと思いきや、ふつうのハッピーエンド的な小説だった。
三十二年前に死んでしまった女によって人生が大きく揺さぶられてしまった二人。一人は結果的に女を見殺しにしてしまったことを後悔しつつ、後に社会的な成功を手に入れた元恋人。 もう一人はその男に一人娘が殺されたと信じ、男を憎み続けた母親。 実際にもあることだけれど、人間の思い込みや誤解がその後の人生を狂わすとまではいわないが、かなり方向性を変えるこということはあるように思う。 結構 テンポが速くて私が思っていたような終わり方ではなかったけれど、それはそれで良かったのだろう。
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